探偵たちに未来はない

探偵とホットケーキ

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探偵に趣味はない

探偵に趣味はない 第六話

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陽希の解説の声が途切れてからも、水樹は暫く、口を開かなかった。陽希も唇をかみしめたまま、じっと黙っていた。コーヒーが冷めきるまで――二人でそう、静かな時を流れさせる。その後、水樹は静かに告げた。
「陽希は何故、それを知っているのです?」
陽希は、はっとしたような顔を上げる。
「俺は……」
それから、睫毛を伏せて、頬に影を作った。水樹はまた待った。
ゆっくりと、陽希の唇が動く。
「俺は、結構前から此処にいるからさ。理人ちゃんに信頼してもらってる……なんて思いあがってないけど。ただの推理小説が好きな不良だったんだよねぇ。でも、つるんでた仲間が殺されちゃって、普段の素行が悪かったからかなぁ、警察も仲間内の抗争だろー、くらいのノリで。仲間も金がねぇから泣き寝入り。ただ、そいつのお母さんが泣いてたのを見て……俺だけは諦めないって思った。探偵に頼む金はないから、此処にバイトで入って、空き時間でコツコツ調べた。勿論、最初は俺のことなんて誰も信じてなかったし、仕事も全然できなかったけど……理人ちゃんが助けてくれたんだ。理人ちゃんは、こう言ってくれた」
 
「仲間のために人生を懸けられるなんて、貴方は優しい人ですね」
 
 陽希は大きく伸びをして、それからふにゃふにゃと笑った。
「俺、それまでずっと、本当、どうしようもない生き方してきたからさぁ。親にも産まなきゃ良かったってずっと言われてたし。理人ちゃんにそう言われてからは、理人ちゃんのこと好きになった。えへへ、ちょっとチョロいかな」
「そんなことは。人は、なんてことない一言で救われるものですから。追いつめられていれば、猶更ね」
「まぁでも、結局さ、犯人は自殺してたんだ。俺が恨むべき相手はもういなくて、俺、一瞬『どうしようかな、探偵やめようかな』って考えたけど。理人がいる間は、この探偵事務所で働こうって決めた」
「理人からは、いつ、その……過去を聞いたのですか?」
「嗚呼……急に過呼吸を起こして、倒れたんだ。さっきみたいに」
 陽希は肩を竦め、溜息を吐く。
「似たような状況でも、毎回毎回、倒れちゃうわけじゃあないみたい。あの時は、二人で事件を追ってたんだけど、その最中で、犯人の罠に嵌まって、殺されかけたんだよ。その時の理人、いい男じゃん? 狭い倉庫内で、犯人は女でさ、理人ちゃんがキスされそうになって、逃げようとしたら首絞められて、記憶がフラッシュバックしたらしい。いや、ぶっちゃけその女、力も無茶苦茶弱かったし、俺が引きはがして、その犯人を拘束したんだけど、理人は犯人が離れてからも動けなくなっちゃって。吐いて大変だった。俺は、なんにも分からずに、ただ、あいつが苦しんでるところを見てることしか出来なかった。少し落ち着いてから、壁にこう、理人ちゃんを寄り掛からせて」
陽希は、事務所の壁に、今はこの場にいない理人を寄り掛からせるような動きを見せ、力なく笑った。
「そこで、さっきの話を聞いたんだ。だから俺は、今度は理人を守らなきゃー、って思ったんだよねぇ……」
「なるほど。熱意の理由が分かりました」
「できなかったけど。今回もまた」
「いや、貴方は充分にやっていましたよ。理人も、今回の事件は陽希、お前のために解決したいと言っていました」
 この言葉を聞くなり、陽希がぱっと顔を上げ、久々に、水樹も見慣れたふにゃふにゃの笑みを見せた。
「そっか、理人ちゃんは本気で俺のこと心配してくれてたんだね」
「ただ……」
そうなると、と水樹はため息を吐く。今度の仕事に、理人を積極的に関わらせることは、危険かもしれない。
「陽希、明朝、ルイ・ナカムラの件について、ルイ・ナカムラの自宅の傍に聞き込みに行きましょう。二人でね。その足で、理人のお見舞いと、迎えに行くことにして……きっと、退院はすぐでしょうから」
「そうだね。じゃあ、今日はおやすみ」
随分と遅くなったので、二人は事務所のソファで眠ることにした。
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