探偵たちに未来はない

探偵とホットケーキ

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探偵に趣味はない

探偵に趣味はない 第三話

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此処からしばらくの文章は、あくまで、ネットニュースで、陽希が読んだ限りの情報だ。ルイ・ナカムラは、自宅の寝室で殺害されていた――らしい。猟銃で一発、胸をズドン。凶器は持ち去られていたとか。
小説は予約投稿で書かれており、先ず、その被害者=ネット小説で有名なルイ・ナカムラであるということが分かるまでに、時間を要した。つまりは、ネットニュースになった時には、とっくに、ルイ・ナカムラは亡くなっていたわけだ。
陽希の落ち込みようは、ひどいものだった。思っていたよりもずっと。ソファにぐったりと横たわり、何もしなくなってしまった。いや、元々依頼がなく、そうでなくても遅刻魔であり、ほとんど何もしなかったのだが。
だから実質的に、水樹はと言えば何も困らなかった――ルイ・ナカムラが亡くなって、水樹の小説の順位が上がるということはなかったけれど。同時に困ることもなかった。めぼしい依頼が舞い込むということもなかったし。何も変わらなかった、との表現の方が、近いかもしれないが。
しかし、理人がとても、落ち込んでいたのが気になった。ネット小説など、書いたことも読んだこともないのに。額を押さえて動かなくなる時間が増えた。
「どうしたのです、体調でも悪いのですか」
流石の水樹も不安になって、問いかける。
「陽希の元気のなさが心配で元気がなくなってしまいました」
「そんなバカな」
「水樹。私から一つ依頼をしてもよろしいですか」
唾を飲んで理人の顔を見ると、理人は真剣な顔で胸に手を当てて言った。
「ルイ・ナカムラを殺害した犯人を、見つけてください。陽希のために」
「それは……」
「勿論、報酬は私からきっちりとお支払いを致します。依頼着手料の平均、百万円を先ずは、振り込ませていただきますね」
「いえいえいえいえ流石に、其処までは結構」
水樹は激しく首を左右に振り、それから穏やかな笑みを作った。
「ほんの、平均成功報酬の二百万円だけで構いませんよ」

***

ルイ・ナカムラが亡くなったという現場。つまり、ルイ・ナカムラの自宅の住所を調べるのに、さほど時間はかからなかった。ネットの住人たちが、熱心に調査し、アップしていたからだ。あとは、其処に向かうだけだった。
電車で二駅。ルイ・ナカムラの住んでいたというマンションは、どこにでもありそうな見た目の、七階建ての普通の建物だった。エントランスに入り、郵便受けを確認する。驚いたことに、ルイ・ナカムラは本名だったというのだ。
改めて空虚な思いが浮かぶ。水樹は、大嫌いだったルイ・ナカムラの素性なんて、何も知らないのに、大嫌いだったわけだ。
「五〇一号室ですね」
エレベーターに乗り込んで、五階のボタンを押す。
理人が最初に五階で降り、次に陽希、水樹は少しだけ足を引き摺りながら後に続いた。
「ここですね」
理人はインターホンを押した。ピンポーンと、ありふれた音が響く。誰かが出て来るはずはない。ルイ・ナカムラは一人暮らしで、この部屋で殺されたのだから。さあどうするのかと思ったら、理人はドアノブに手をかけた。
「鍵はかかっていないのですね」
「無用心な奴だなぁ」
陽希が言う。理人は苦笑いをして、扉を開いた。
「お邪魔いたします」
「失礼いたしまーす」
「……失礼いたします」
理人、陽希、水樹が順に入ると、理人が振り返った。
「水樹。私は貴方を信頼しておりますが、万が一、危険を感じた場合は、決して無理をせずに逃げるように。いいですね?」
「承知しました。理人こそ、気をつけてください。お前が怪我をしたりしたら、それこそ、陽希が悲しみますから」
理人は、一瞬きょとんとした顔をしてから、「えぇ」と微笑んだ。水樹も心配してはいただ、お高く留まっている理人に、言ってやるのも癪だったのだ。
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