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第3章

第2話

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皆の先頭を歩いていた綺羽が、重そうなドアを体当たりで全身を使うようにして開けると、むっとした、この季節に全く相応しくない風が水樹の頬を撫でた。
説明を受ける前から、目の前に広がる色とりどりの花々、花を擽る芳香が、其処が広大で、素晴らしい植物園であることが分かった。
「ようこそ、四季の植物園へ」
 綺羽がまた、胸に手を当てて、流暢な説明を始める。
「この植物園は、四季折々の美しい花々と緑に囲まれた癒しの空間です。年間を通じて異なる季節の花が同時に咲き誇っております。訪れるたびに新しい発見と感動をお届けできることでしょう。春のエリア には、桜やチューリップ、アネモネなどの花々が咲き誇り、色とりどりの景色が広がります。特に桜のトンネルは、訪れる人々にとって忘れられない思い出となるでしょう。夏のエリアには、ヒマワリやラベンダー、マリーゴールドが鮮やかに咲きます。香り豊かなラベンダー畑では、リラックスしたひとときをお過ごしください。秋のエリアには、紅葉した木々やダリア、コスモスが見事な景観を作り出します。特に紅葉のトンネルは、秋の訪れを感じさせる絶景スポットです。冬のエリアには、クリスマスローズやシクラメン、スイセンが咲き、静かな美しさを楽しむことができます。雪が降ると、植物園全体が幻想的な雰囲気に包まれます」
綺羽が胸から手を離し、彼女の隣に立っている看板を指し示した。
「全ての花の一覧は、こちらにございます。参考になさってください」
アネモネ (Anemone)
アザレア (Azalea)
アマリリス (Amaryllis)
アスター (Aster)
アルストロメリア (Alstroemeria)
イベリス (Iberis)
イチゴ (Strawberry)
イングリッシュブルーベル (English Bluebell)
ウメ (Plum)
エーデルワイス (Edelweiss)
エキナセア (Echinacea)
オオイヌノフグリ (Veronica persica)
オオバコ (Plantain)
オダマキ (Columbine)
オニユリ (Tiger Lily)
カーネーション (Carnation)
カサブランカ (Casa Blanca)
カタクリ (Dogtooth Violet)
カトレア (Cattleya)
カランコエ (Kalanchoe)
キキョウ (Balloon Flower)
キク (Chrysanthemum)
クレマチス (Clematis)
クロッカス (Crocus)
グロリオサ(Fire Lily)
コスモス (Cosmos)
サクラ (Cherry Blossom)
サルビア (Sage)
シクラメン (Cyclamen)
シャクナゲ (Rhododendron)
ジャスミン (Jasmine)
スイセン (Daffodil)
スイレン (Water Lily)
スズラン (Lily of the Valley)
セイヨウタンポポ (Dandelion)
ゼラニウム (Geranium)
ソメイヨシノ (Somei Yoshino)
ダリア (Dahlia)
チューリップ (Tulip)
ツツジ (Azalea)
ツバキ (Camellia)
デイジー (Daisy)
トリカブト (Monkshood)
ドクダミ (Houttuynia cordata)
ナデシコ (Dianthus)
ニチニチソウ (Periwinkle)
ネモフィラ (Baby Blue Eyes)
ハイビスカス (Hibiscus)
バラ (Rose)
ヒマワリ (Sunflower)
フリージア (Freesia)
ベゴニア (Begonia)
ミヤコワスレ (Myosotis sylvatica)
ラベンダー (Lavandula)
レンギョウ (Forsythia suspensa)
「……それでは、皆さん、御自由に捜査をなさってください。これから二時間後に此方に集まっていただき、植物園を閉鎖し、部屋に戻っておやすみいただきます。あのような事件がありました以上、ある程度の管理は必要かと思いますので」
綺羽が恐縮したように言うと、皆が曖昧ながらも頷いて、わらわらと各々に動き出した。
水樹たちが何の気なしに足を向けたのは、春の花のエリアだ。
***
春を模した柔らかな月光が降り注ぐ中、水樹たちはソメイヨシノのアーチの下を歩いた。淡いピンク色の花びらが風に揺れ、まるで天から降り注ぐシャワーのように舞い落ちてくる。枝々が絡み合い、自然が作り出したトンネルのように私を包み込む。
足元には、花びらが絨毯のように敷き詰められ、歩くたびにふわりと舞い上がった。空を見上げると、夜空と桜の花が織りなすコントラストが美しく、心が洗われるような気持ちになる。甘くてほのかにフルーティーな香りが鼻をくすぐる。その香りは、まるで春の訪れを告げるメッセージのように、心を幸福感で満たしてくれた。
「花が育ちやすいように、気温まで完璧に管理されているなんて、凄い情熱を感じます」
水樹が言うと、理人と陽希も頷いた。
するとその時、どこからか軽快なメロディが聴こえて、辺りを見回す。しかし、何も音源らしいものが見当たらなかったので、水樹は足早に、音を頼りに歩き出した。
ソメイヨシノのトンネルを抜けた先に、高さ三メートルほどの、時計が鎮座していた。白い煉瓦で作られた、その中央に文字盤と、すぐ上に穴があって、そこから一羽の鳥の模型が出入りしている。瑠璃色の羽根に白い腹の鳥だ。この鳥の出入りに合わせて軽快なメロディが流れている。
「鳩、でしょうか? 鳩時計?」
水樹がその鳥の模型を覗き込んでいると、理人が横にやって来て、「それにしては随分と青いですね」と首を捻る。確かにその通りだ。
更に反対側から、水樹を覗き込んで来た陽希が、「オオルリだよ」と言う。
「オオルリで間違いないんじゃないかな。綺麗な声で鳴くんだよ。青い鳥の代表格の一種でもあるし、日本三鳴鳥の一種とも言われているね」
その後、他の季節のエリアも見て回った。全ての花が生き生きと咲き誇っていたが、推理の目ぼしい材料はなかった。
予定の時間通りに皆が所定の地点に集まり、無事を確認したところで、この日は寝室に戻ることとなった。
危険性を少しでも減らすため、水樹と理人と陽希の三人は、この日は同室で休むことにした。
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