11 / 16
下
(3)
しおりを挟む
夢見心地だ。宿屋への道をこんなにいい気分で帰れるなんて。努力を出来る才能があった事に喜びを感じた。宿屋に着いてベッドの上に転がると、疲れと酔いからか直ぐに眠ることが出来た。
何かに吸い寄せられる感覚で目を開ける。僕はまた真っ白い空間に居た。あいつも目の前に居た。物体はぶつくさ呟いていて「まずいな」と言う声だけ聞き取れる。まずい、だって?今までにないぐらい成功に近づいているだろう。僕は物体に向かって「何がしたい?」と語気を強めて聞く。物体は急にピタリと喋らなくなったかと思うと「このままではまずい」と僕の顔の前に来て、そう言った。
こいつのいう事を聞く気はない。だけど、死と言う単語を連想してしまう。これは僕の弱さなのだろうか。最良の選択と思っていても、実際は違う選択肢があったのかもしれない。物体は「うーん…うーん…」と悩ましい声を上げていたかと思うと「正しい決断って何だろうな?」と聞いてきた。でも、答えは決まっている。僕は迷わずに「自分が正しいと思ったら」と答えた。
物体は大きな声で笑うと「生きる事は選択肢の連続だ、ずっと最良の選択をすることが出来ると思っているのか?」と聞いてくる。出来るかどうかじゃない、やるしかない。僕は頷いて「出来る」と答えた。物体はたゆたう事を止めて「死んだとしても?」と問いかけてきた。僕は少しだけ悩んでしまう。上位パーティに付いて行っている以上、死と言う言葉を避けられない。もし、死んでしまったとして、僕の選択に後悔が無いかどうか。その時になってみないと分からない。僕は首を横に振って「死んだときにしか分からない」と言った。
物体は高笑いすると「死んだらお終いだ、何も残りはしない」と言って、僕の周りを回る。こいつは何を知っている、僕の全てを見てきたかのような言動をいつもして、僕を惑わせる。僕は「僕の何を知っている?」と聞く。物体は言葉を詰まらせると「何でも知っているし、何も知らない」と呟いた。
もどかしい。何か情報を吐かせることは出来ないだろうか。僕が俯いて考えていると物体は姿を隠して「無理だろうな」と呟いた。心を読んでいたのか、それとも何かの魔法なのか。物体はそのまま「後悔が無いように。忠告はした、それでも進みたければ進め」と言った、直後に視界が歪む。この世界からはじき出されてしまったようだった。
飛び起きて外を見ると、まだ暗かった。あいつは僕の不安を煽って何がしたい。この選択を止めさせたいのか。だとすると、誰かの魔法か。でも、そんな大がかりな魔法を僕に使う意味は無い。考えても何も分からずじまいだった。
怖気づきながらギルドに向かう。誰の所為にも出来ないこの状況を僕は怖く思う。確かに上手く行きすぎている。だけど、僕が選んだ道だ。気づくと皆の前に居て、合流していた。アイルだけがギルドに入って行く。僕は残ったメンバーに「連携って何を確認するの?」と聞いた。酒場で話した仲良くなる事を目指すのだろうか。コクが僕を見て「主に認識のすり合わせだな」と答えた。
闇属性魔法も危険だが、僕の魔法も危険と言えば危険だ。味方を巻き込まないようにするための訓練と言う事か。僕も事前に知らせる事を徹底しよう。
僕の肩を誰かが叩く。横を見るとラフレが心配そうに「根を詰めている様ですが、無理はなさらずに」と声を掛けてくれた。いつもの訓練ぐらいしかしていないし、体は大丈夫だ。僕は肩を回しながら「全然、疲れも残ってないよ」と言い、元気なアピールをして見せた。
アイルがギルドから出て来て僕らに依頼を見せてから「平原から少し離れた森に居る魔物の討伐をしよう」と言った。前回に引き続いてダンジョン探索だと思っていたが、外れたみたいだ。僕らは頷いて城門に向けて歩き出した。
城門を出て左手の森に入る。町とこんなに近い所に強力な魔物が出るなんて、町も安全ではないのかもしれない。そもそも、連携確認で強力な魔物を討伐ってかなり危険だと思う。アイルが依頼を確認しつつ目の前の魔物を指さして「ホーンブルだ、標的だね」と言った。
目の前の魔物を見て、何を食べてこんなに大きくなるのか疑問に思った。それほど大きくて立派な角を生やしている。そこらへんに居る猪を三頭まとめると丁度こんな大きさだろうか。魔物は僕らに気づいて足で地面を掻いた、突進の合図だ。僕も回避の態勢を取る。ただ、皆はワンテンポ早く回避していた。
判断が遅れた僕の目の前に魔物が居た。目と鼻の先だ。こんなにも大きい猪がこの速度で突っ込んでくる筈はない、と思っていた。僕は思わず「はっや」と言いながら、横に回避する。どうにか間に合って体制を立てなおす。見ると魔物は、次の突進体制に入っていた。このままでは間に合わない、咄嗟に宙に浮く魔法「ウィンドリフト」を唱える。どうにか空中に回避して一安心した。
魔物は僕を探しているのか、辺りを見回している。アイルが魔物に石を投げつけて「こっちだ」と大きな声で呼ぶ。魔物は突進体制に入った。魔物の判断の遅さが隙を生む。コクは矢を射って魔物の目を狙っている。見事にヒットして魔物は断末魔を上げた。目の見えていない魔物は出鱈目に突進を繰り返していた。アイルはそんな魔物の無茶な動きさえ読み切っていて、綺麗に回避すると横から切りつけていた。
何かに吸い寄せられる感覚で目を開ける。僕はまた真っ白い空間に居た。あいつも目の前に居た。物体はぶつくさ呟いていて「まずいな」と言う声だけ聞き取れる。まずい、だって?今までにないぐらい成功に近づいているだろう。僕は物体に向かって「何がしたい?」と語気を強めて聞く。物体は急にピタリと喋らなくなったかと思うと「このままではまずい」と僕の顔の前に来て、そう言った。
こいつのいう事を聞く気はない。だけど、死と言う単語を連想してしまう。これは僕の弱さなのだろうか。最良の選択と思っていても、実際は違う選択肢があったのかもしれない。物体は「うーん…うーん…」と悩ましい声を上げていたかと思うと「正しい決断って何だろうな?」と聞いてきた。でも、答えは決まっている。僕は迷わずに「自分が正しいと思ったら」と答えた。
物体は大きな声で笑うと「生きる事は選択肢の連続だ、ずっと最良の選択をすることが出来ると思っているのか?」と聞いてくる。出来るかどうかじゃない、やるしかない。僕は頷いて「出来る」と答えた。物体はたゆたう事を止めて「死んだとしても?」と問いかけてきた。僕は少しだけ悩んでしまう。上位パーティに付いて行っている以上、死と言う言葉を避けられない。もし、死んでしまったとして、僕の選択に後悔が無いかどうか。その時になってみないと分からない。僕は首を横に振って「死んだときにしか分からない」と言った。
物体は高笑いすると「死んだらお終いだ、何も残りはしない」と言って、僕の周りを回る。こいつは何を知っている、僕の全てを見てきたかのような言動をいつもして、僕を惑わせる。僕は「僕の何を知っている?」と聞く。物体は言葉を詰まらせると「何でも知っているし、何も知らない」と呟いた。
もどかしい。何か情報を吐かせることは出来ないだろうか。僕が俯いて考えていると物体は姿を隠して「無理だろうな」と呟いた。心を読んでいたのか、それとも何かの魔法なのか。物体はそのまま「後悔が無いように。忠告はした、それでも進みたければ進め」と言った、直後に視界が歪む。この世界からはじき出されてしまったようだった。
飛び起きて外を見ると、まだ暗かった。あいつは僕の不安を煽って何がしたい。この選択を止めさせたいのか。だとすると、誰かの魔法か。でも、そんな大がかりな魔法を僕に使う意味は無い。考えても何も分からずじまいだった。
怖気づきながらギルドに向かう。誰の所為にも出来ないこの状況を僕は怖く思う。確かに上手く行きすぎている。だけど、僕が選んだ道だ。気づくと皆の前に居て、合流していた。アイルだけがギルドに入って行く。僕は残ったメンバーに「連携って何を確認するの?」と聞いた。酒場で話した仲良くなる事を目指すのだろうか。コクが僕を見て「主に認識のすり合わせだな」と答えた。
闇属性魔法も危険だが、僕の魔法も危険と言えば危険だ。味方を巻き込まないようにするための訓練と言う事か。僕も事前に知らせる事を徹底しよう。
僕の肩を誰かが叩く。横を見るとラフレが心配そうに「根を詰めている様ですが、無理はなさらずに」と声を掛けてくれた。いつもの訓練ぐらいしかしていないし、体は大丈夫だ。僕は肩を回しながら「全然、疲れも残ってないよ」と言い、元気なアピールをして見せた。
アイルがギルドから出て来て僕らに依頼を見せてから「平原から少し離れた森に居る魔物の討伐をしよう」と言った。前回に引き続いてダンジョン探索だと思っていたが、外れたみたいだ。僕らは頷いて城門に向けて歩き出した。
城門を出て左手の森に入る。町とこんなに近い所に強力な魔物が出るなんて、町も安全ではないのかもしれない。そもそも、連携確認で強力な魔物を討伐ってかなり危険だと思う。アイルが依頼を確認しつつ目の前の魔物を指さして「ホーンブルだ、標的だね」と言った。
目の前の魔物を見て、何を食べてこんなに大きくなるのか疑問に思った。それほど大きくて立派な角を生やしている。そこらへんに居る猪を三頭まとめると丁度こんな大きさだろうか。魔物は僕らに気づいて足で地面を掻いた、突進の合図だ。僕も回避の態勢を取る。ただ、皆はワンテンポ早く回避していた。
判断が遅れた僕の目の前に魔物が居た。目と鼻の先だ。こんなにも大きい猪がこの速度で突っ込んでくる筈はない、と思っていた。僕は思わず「はっや」と言いながら、横に回避する。どうにか間に合って体制を立てなおす。見ると魔物は、次の突進体制に入っていた。このままでは間に合わない、咄嗟に宙に浮く魔法「ウィンドリフト」を唱える。どうにか空中に回避して一安心した。
魔物は僕を探しているのか、辺りを見回している。アイルが魔物に石を投げつけて「こっちだ」と大きな声で呼ぶ。魔物は突進体制に入った。魔物の判断の遅さが隙を生む。コクは矢を射って魔物の目を狙っている。見事にヒットして魔物は断末魔を上げた。目の見えていない魔物は出鱈目に突進を繰り返していた。アイルはそんな魔物の無茶な動きさえ読み切っていて、綺麗に回避すると横から切りつけていた。
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ズボラ通販生活
ice
ファンタジー
西野桃(にしのもも)35歳の独身、オタクが神様のミスで異世界へ!貪欲に通販スキル、時間停止アイテムボックス容量無限、結界魔法…さらには、お金まで貰う。商人無双や!とか言いつつ、楽に、ゆるーく、商売をしていく。淋しい独身者、旦那という名の奴隷まで?!ズボラなオバサンが異世界に転移して好き勝手生活する!
異世界でも男装標準装備~性別迷子とか普通だけど~
結城 朱煉
ファンタジー
日常から男装している木原祐樹(25歳)は
気が付くと真っ白い空間にいた
自称神という男性によると
部下によるミスが原因だった
元の世界に戻れないので
異世界に行って生きる事を決めました!
異世界に行って、自由気ままに、生きていきます
~☆~☆~☆~☆~☆
誤字脱字など、気を付けていますが、ありましたら教えて頂けると助かります!
また、感想を頂けると大喜びします
気が向いたら書き込んでやって下さい
~☆~☆~☆~☆~☆
カクヨム・小説家になろうでも公開しています
もしもシリーズ作りました<異世界でも男装標準装備~もしもシリーズ~>
もし、よろしければ読んであげて下さい
スケートリンクでバイトしてたら大惨事を目撃した件
フルーツパフェ
大衆娯楽
比較的気温の高い今年もようやく冬らしい気候になりました。
寒くなって本格的になるのがスケートリンク場。
プロもアマチュアも関係なしに氷上を滑る女の子達ですが、なぜかスカートを履いた女の子が多い?
そんな格好していたら転んだ時に大変・・・・・・ほら、言わんこっちゃない!
スケートリンクでアルバイトをする男性の些細な日常コメディです。
鑑定能力で恩を返す
KBT
ファンタジー
どこにでもいる普通のサラリーマンの蔵田悟。
彼ははある日、上司の悪態を吐きながら深酒をし、目が覚めると見知らぬ世界にいた。
そこは剣と魔法、人間、獣人、亜人、魔物が跋扈する異世界フォートルードだった。
この世界には稀に異世界から《迷い人》が転移しており、悟もその1人だった。
帰る方法もなく、途方に暮れていた悟だったが、通りすがりの商人ロンメルに命を救われる。
そして稀少な能力である鑑定能力が自身にある事がわかり、ブロディア王国の公都ハメルンの裏通りにあるロンメルの店で働かせてもらう事になった。
そして、ロンメルから店の番頭を任された悟は《サト》と名前を変え、命の恩人であるロンメルへの恩返しのため、商店を大きくしようと鑑定能力を駆使して、海千山千の商人達や荒くれ者の冒険者達を相手に日夜奮闘するのだった。
大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います
騙道みりあ
ファンタジー
魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。
その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。
仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。
なので、全員殺すことにした。
1話完結ですが、続編も考えています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる