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 夢見心地だ。宿屋への道をこんなにいい気分で帰れるなんて。努力を出来る才能があった事に喜びを感じた。宿屋に着いてベッドの上に転がると、疲れと酔いからか直ぐに眠ることが出来た。
 何かに吸い寄せられる感覚で目を開ける。僕はまた真っ白い空間に居た。あいつも目の前に居た。物体はぶつくさ呟いていて「まずいな」と言う声だけ聞き取れる。まずい、だって?今までにないぐらい成功に近づいているだろう。僕は物体に向かって「何がしたい?」と語気を強めて聞く。物体は急にピタリと喋らなくなったかと思うと「このままではまずい」と僕の顔の前に来て、そう言った。
 こいつのいう事を聞く気はない。だけど、死と言う単語を連想してしまう。これは僕の弱さなのだろうか。最良の選択と思っていても、実際は違う選択肢があったのかもしれない。物体は「うーん…うーん…」と悩ましい声を上げていたかと思うと「正しい決断って何だろうな?」と聞いてきた。でも、答えは決まっている。僕は迷わずに「自分が正しいと思ったら」と答えた。
 物体は大きな声で笑うと「生きる事は選択肢の連続だ、ずっと最良の選択をすることが出来ると思っているのか?」と聞いてくる。出来るかどうかじゃない、やるしかない。僕は頷いて「出来る」と答えた。物体はたゆたう事を止めて「死んだとしても?」と問いかけてきた。僕は少しだけ悩んでしまう。上位パーティに付いて行っている以上、死と言う言葉を避けられない。もし、死んでしまったとして、僕の選択に後悔が無いかどうか。その時になってみないと分からない。僕は首を横に振って「死んだときにしか分からない」と言った。
 物体は高笑いすると「死んだらお終いだ、何も残りはしない」と言って、僕の周りを回る。こいつは何を知っている、僕の全てを見てきたかのような言動をいつもして、僕を惑わせる。僕は「僕の何を知っている?」と聞く。物体は言葉を詰まらせると「何でも知っているし、何も知らない」と呟いた。
もどかしい。何か情報を吐かせることは出来ないだろうか。僕が俯いて考えていると物体は姿を隠して「無理だろうな」と呟いた。心を読んでいたのか、それとも何かの魔法なのか。物体はそのまま「後悔が無いように。忠告はした、それでも進みたければ進め」と言った、直後に視界が歪む。この世界からはじき出されてしまったようだった。
 飛び起きて外を見ると、まだ暗かった。あいつは僕の不安を煽って何がしたい。この選択を止めさせたいのか。だとすると、誰かの魔法か。でも、そんな大がかりな魔法を僕に使う意味は無い。考えても何も分からずじまいだった。
 怖気づきながらギルドに向かう。誰の所為にも出来ないこの状況を僕は怖く思う。確かに上手く行きすぎている。だけど、僕が選んだ道だ。気づくと皆の前に居て、合流していた。アイルだけがギルドに入って行く。僕は残ったメンバーに「連携って何を確認するの?」と聞いた。酒場で話した仲良くなる事を目指すのだろうか。コクが僕を見て「主に認識のすり合わせだな」と答えた。
 闇属性魔法も危険だが、僕の魔法も危険と言えば危険だ。味方を巻き込まないようにするための訓練と言う事か。僕も事前に知らせる事を徹底しよう。
 僕の肩を誰かが叩く。横を見るとラフレが心配そうに「根を詰めている様ですが、無理はなさらずに」と声を掛けてくれた。いつもの訓練ぐらいしかしていないし、体は大丈夫だ。僕は肩を回しながら「全然、疲れも残ってないよ」と言い、元気なアピールをして見せた。
 アイルがギルドから出て来て僕らに依頼を見せてから「平原から少し離れた森に居る魔物の討伐をしよう」と言った。前回に引き続いてダンジョン探索だと思っていたが、外れたみたいだ。僕らは頷いて城門に向けて歩き出した。
城門を出て左手の森に入る。町とこんなに近い所に強力な魔物が出るなんて、町も安全ではないのかもしれない。そもそも、連携確認で強力な魔物を討伐ってかなり危険だと思う。アイルが依頼を確認しつつ目の前の魔物を指さして「ホーンブルだ、標的だね」と言った。
 目の前の魔物を見て、何を食べてこんなに大きくなるのか疑問に思った。それほど大きくて立派な角を生やしている。そこらへんに居る猪を三頭まとめると丁度こんな大きさだろうか。魔物は僕らに気づいて足で地面を掻いた、突進の合図だ。僕も回避の態勢を取る。ただ、皆はワンテンポ早く回避していた。
判断が遅れた僕の目の前に魔物が居た。目と鼻の先だ。こんなにも大きい猪がこの速度で突っ込んでくる筈はない、と思っていた。僕は思わず「はっや」と言いながら、横に回避する。どうにか間に合って体制を立てなおす。見ると魔物は、次の突進体制に入っていた。このままでは間に合わない、咄嗟に宙に浮く魔法「ウィンドリフト」を唱える。どうにか空中に回避して一安心した。
 魔物は僕を探しているのか、辺りを見回している。アイルが魔物に石を投げつけて「こっちだ」と大きな声で呼ぶ。魔物は突進体制に入った。魔物の判断の遅さが隙を生む。コクは矢を射って魔物の目を狙っている。見事にヒットして魔物は断末魔を上げた。目の見えていない魔物は出鱈目に突進を繰り返していた。アイルはそんな魔物の無茶な動きさえ読み切っていて、綺麗に回避すると横から切りつけていた。
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