3 / 16
上
(3)
しおりを挟む
自分の転落した人生を咲き誇らせる事が出来る機会を与えてもらった。その事実が、僕の心を大きく震わせる。急いで宿に戻り、翌日の準備をして就寝した。
何か変な感じがして目を開ける。気づくと、知らない場所に立っていた。周りは何も無く、辺り一面真っ白だ。何が起こっているのか分からず立ち尽くしていた。すると、目の前から光り輝く丸い物体が近づいてくる。怖くなって後ずさりしたが、物体は顔の目の前で止まると「その選択に後悔はありませんか?」と聞いてきた。
辺りを見て物体しかいない事を確認する。訓練は厳しいかもしれない。だからと言って、死んでしまうような訓練ではないはず。自分が変わってしまう事を恐れて幻を見ているのだろう。僕は「死ぬようなことにはならない」と言った。物体は高らかに笑うと「死ぬ準備はしといたほうがいいよ、君の選択は険しい道なのだから」と僕の周りを回りながら言った。僕が首を傾げていると視界が揺らいだ。意味が分からない。遠のく世界を眺めていると「諦めたら、変わるのかな?」と聞こえた気がした。
飛び起きて周囲を確認する。ただ、いつもの宿屋に違い無かった。よほど浮かれていたのか、夢まで見てしまったのか。あの夢は一体何だ、何を示唆しているのか。ただただ、分からない事が増えただけだ。あんな夢は忘れて準備をする。初めての訓練の日、そわそわしながらギルドへ向かった。
ギルドは何故かいつもより賑わいを見せている。人の波をかき分けて進んでいくと、そこにはアイルの姿があった。アイルは僕を見るとはにかんで「来たね」と言った。人気者が話し掛ければ、視線は嫌でもこちらに向いてしまう。アイルに手を引っ張られながら後ろを向くと、全員が疑問の表情を浮かべていた。
訓練場に入ると、僕らしか居なかった。石造りの内部に、鎧が掛けられているラックや無造作に置かれた剣が見える。何個かに仕切られたステージがあり、かなり広く感じる。アイルの指示を待っている間、呆けていると、アイルが木の剣を投げて来て「これを持って」と言った。慌てて受け取り、木の剣をじっと見つめているとアイルは謎の装置を取り出して起動してから「必要なのは戦略かな」と言った。
地面から音もなく魔物のようなものが出てくる。あ、死ぬかもしれない、と直感する。逃げ場のない場所で魔物と遭遇する恐怖で足が竦む。アイルが僕の様子を見て「大丈夫、これは僕の命令に従うから」と声を掛けてくる。魔物を使役する話なんて聞いたこと無い。これを持っているだけで打ち首になりそうな代物じゃないか。アイルは容赦なく魔物に指示を出す。僕は剣を構えて戦い方を考えて見る。
人型の影のような魔物を退ける事に集中する。敵は三体で、武器は未所持。魔法を使えるかどうか分からない。まずは様子見で、炎を自身の周りに展開する。魔物に狙いを定めて切りかかると、魔物は目の前から姿を消していた。何故だ、どういう原理で消えた。僕が考えていると後ろから強い衝撃が僕を襲い意識が飛んでいた。
目を開けて飛び起きる。死んだかと思った、自分の体を触って確認するが外傷は見当たらなくて一安心する。アイルが手を合わせて「ごめん、対策も教えずにやるのは酷だった」と謝っていた。僕は悔しさから天井を見つめ続けた。アイルは顎に手を置いて考えて「君は知識からだね」と言った。
訓練場を出て、ギルドの二階にある応接室に向かう。部屋に入って椅子に座ると、アイルは書物を取り出して「これを見て」と言った。
書いてあるのは、魔物の属性と魔物の予備動作についてだった。魔物の属性は火、水、風、光、闇の五種類。火と水の魔物はその属性の魔法を使ったり、分身したりする。風の魔物だけ、自分の身体能力を強化する力を使う。光はフラッシュや聖魔法を展開して、闇は陰に隠れたり、知恵を使ったりする。光と闇以外の魔物には全て予備動作が存在する。何かをするために、前段階で行う仕草を観察して戦う、と言う物だった。
僕はため息を吐くと「よく、生きて来られたな」と呟いた。基本知識が無いだけで魔物を倒す事は難しくなるし、魔物に倒される確率が上がる。更に、魔法を力任せに使えば、後々戦闘に支障が出る。地形が変形して魔物の予備動作が見えなくなってしまうからだ。アイルは僕を見つめて「君は逃げ癖のおかげで助かっているのだろうね」と言った。
冒険者の大半が命を落とす理由は依頼を無理に遂行しようとして魔物の習性を侮る事が原因らしい。僕は狼型の魔物で止まっていて良かった、と胸を撫でおろした。そういえば、アイルが訓練場で僕に向かわせた魔物はきっと闇属性。何故、僕に闇属性の魔物を出したのか。僕はアイルに「何故、僕に闇の魔物を倒させようとしたの?」と聞く。光と闇は予備動作が無いし、訓練には向かないはず。アイルは頭を掻くと「パーティに入ってもらうからね」と答えた。
何か変な感じがして目を開ける。気づくと、知らない場所に立っていた。周りは何も無く、辺り一面真っ白だ。何が起こっているのか分からず立ち尽くしていた。すると、目の前から光り輝く丸い物体が近づいてくる。怖くなって後ずさりしたが、物体は顔の目の前で止まると「その選択に後悔はありませんか?」と聞いてきた。
辺りを見て物体しかいない事を確認する。訓練は厳しいかもしれない。だからと言って、死んでしまうような訓練ではないはず。自分が変わってしまう事を恐れて幻を見ているのだろう。僕は「死ぬようなことにはならない」と言った。物体は高らかに笑うと「死ぬ準備はしといたほうがいいよ、君の選択は険しい道なのだから」と僕の周りを回りながら言った。僕が首を傾げていると視界が揺らいだ。意味が分からない。遠のく世界を眺めていると「諦めたら、変わるのかな?」と聞こえた気がした。
飛び起きて周囲を確認する。ただ、いつもの宿屋に違い無かった。よほど浮かれていたのか、夢まで見てしまったのか。あの夢は一体何だ、何を示唆しているのか。ただただ、分からない事が増えただけだ。あんな夢は忘れて準備をする。初めての訓練の日、そわそわしながらギルドへ向かった。
ギルドは何故かいつもより賑わいを見せている。人の波をかき分けて進んでいくと、そこにはアイルの姿があった。アイルは僕を見るとはにかんで「来たね」と言った。人気者が話し掛ければ、視線は嫌でもこちらに向いてしまう。アイルに手を引っ張られながら後ろを向くと、全員が疑問の表情を浮かべていた。
訓練場に入ると、僕らしか居なかった。石造りの内部に、鎧が掛けられているラックや無造作に置かれた剣が見える。何個かに仕切られたステージがあり、かなり広く感じる。アイルの指示を待っている間、呆けていると、アイルが木の剣を投げて来て「これを持って」と言った。慌てて受け取り、木の剣をじっと見つめているとアイルは謎の装置を取り出して起動してから「必要なのは戦略かな」と言った。
地面から音もなく魔物のようなものが出てくる。あ、死ぬかもしれない、と直感する。逃げ場のない場所で魔物と遭遇する恐怖で足が竦む。アイルが僕の様子を見て「大丈夫、これは僕の命令に従うから」と声を掛けてくる。魔物を使役する話なんて聞いたこと無い。これを持っているだけで打ち首になりそうな代物じゃないか。アイルは容赦なく魔物に指示を出す。僕は剣を構えて戦い方を考えて見る。
人型の影のような魔物を退ける事に集中する。敵は三体で、武器は未所持。魔法を使えるかどうか分からない。まずは様子見で、炎を自身の周りに展開する。魔物に狙いを定めて切りかかると、魔物は目の前から姿を消していた。何故だ、どういう原理で消えた。僕が考えていると後ろから強い衝撃が僕を襲い意識が飛んでいた。
目を開けて飛び起きる。死んだかと思った、自分の体を触って確認するが外傷は見当たらなくて一安心する。アイルが手を合わせて「ごめん、対策も教えずにやるのは酷だった」と謝っていた。僕は悔しさから天井を見つめ続けた。アイルは顎に手を置いて考えて「君は知識からだね」と言った。
訓練場を出て、ギルドの二階にある応接室に向かう。部屋に入って椅子に座ると、アイルは書物を取り出して「これを見て」と言った。
書いてあるのは、魔物の属性と魔物の予備動作についてだった。魔物の属性は火、水、風、光、闇の五種類。火と水の魔物はその属性の魔法を使ったり、分身したりする。風の魔物だけ、自分の身体能力を強化する力を使う。光はフラッシュや聖魔法を展開して、闇は陰に隠れたり、知恵を使ったりする。光と闇以外の魔物には全て予備動作が存在する。何かをするために、前段階で行う仕草を観察して戦う、と言う物だった。
僕はため息を吐くと「よく、生きて来られたな」と呟いた。基本知識が無いだけで魔物を倒す事は難しくなるし、魔物に倒される確率が上がる。更に、魔法を力任せに使えば、後々戦闘に支障が出る。地形が変形して魔物の予備動作が見えなくなってしまうからだ。アイルは僕を見つめて「君は逃げ癖のおかげで助かっているのだろうね」と言った。
冒険者の大半が命を落とす理由は依頼を無理に遂行しようとして魔物の習性を侮る事が原因らしい。僕は狼型の魔物で止まっていて良かった、と胸を撫でおろした。そういえば、アイルが訓練場で僕に向かわせた魔物はきっと闇属性。何故、僕に闇属性の魔物を出したのか。僕はアイルに「何故、僕に闇の魔物を倒させようとしたの?」と聞く。光と闇は予備動作が無いし、訓練には向かないはず。アイルは頭を掻くと「パーティに入ってもらうからね」と答えた。
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ズボラ通販生活
ice
ファンタジー
西野桃(にしのもも)35歳の独身、オタクが神様のミスで異世界へ!貪欲に通販スキル、時間停止アイテムボックス容量無限、結界魔法…さらには、お金まで貰う。商人無双や!とか言いつつ、楽に、ゆるーく、商売をしていく。淋しい独身者、旦那という名の奴隷まで?!ズボラなオバサンが異世界に転移して好き勝手生活する!
クリエイトオンライン
ウララ
ファンタジー
『クリエイトオンライン』
それは2044年に発売が開始されたフルダイブ型のVRMMOゲームである。
このゲームでは全てがスキルによって決まり、戦闘面や生活面、生産面など、どの場面でもスキルが鍵を握る。
更にスキルを『クリエイト』する事が可能でその可能性は無限大だ。中には姿を変えるスキルで獣人やエルフといった人外に化けている人もいるくらいだし。
このゲームを始めて1年、俺はプレイヤーの中でもその実力を噂される程強くなった。だが俺はまだ知らなかった。このゲームに隠された秘密を・・・。
*******
カクヨムでも更新しています。
スケートリンクでバイトしてたら大惨事を目撃した件
フルーツパフェ
大衆娯楽
比較的気温の高い今年もようやく冬らしい気候になりました。
寒くなって本格的になるのがスケートリンク場。
プロもアマチュアも関係なしに氷上を滑る女の子達ですが、なぜかスカートを履いた女の子が多い?
そんな格好していたら転んだ時に大変・・・・・・ほら、言わんこっちゃない!
スケートリンクでアルバイトをする男性の些細な日常コメディです。
女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。
矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。
女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。
取って付けたようなバレンタインネタあり。
カクヨムでも同内容で公開しています。
お題小説
ルカ(聖夜月ルカ)
ファンタジー
ある時、瀕死の状態で助けられた青年は、自分にまつわる記憶の一切を失っていた…
やがて、青年は自分を助けてくれたどこか理由ありの女性と旅に出る事に…
行く先々で出会う様々な人々や奇妙な出来事… 波瀾に満ちた長編ファンタジーです。
※表紙画は水無月秋穂様に描いていただきました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる