上 下
20 / 61
四階 能天使

(2)

しおりを挟む
 翌日の朝、もう既に影響が出始めていた。食べるものが…ない。それだけで笑夢の存在が有難いものだったと実感した。食パンを加えて登校する。お弁当も作ってくれていたから…ない。
 もしかして…俺ってダメ人間だったんじゃないだろうか。生活力皆無で…というか、笑夢が来る前ってどんな生活してたっけ?あ、洗濯したっけ?もう…駄目だ…。
 教室に入り着席する。智一がこっちに来て心配そうな顔をしている。
 「おい?!どうした?!」
 「全然大丈夫…だよ?」
 「見えないって!いつもの姿はどこにやったんだ?!」
 「はは…家に置いてきた」
 「宝物みたいに言うなよ?」
 「あれは…今思えば宝物だったんだ。」
 「こ、壊れた?!」
 智一…ありがとう。心配してくれる友人が居るだけで大分気分が違うな。智一はあたりを見回して首を傾げる。
 「ん?笑夢はどうした?」
 「今日から数日…休みだよ?」
 「そ、そうか。あいつは優等生だから大丈夫だろうけど…何かあったのか?」
 何かあったんだろうね。俺にも何も言わずに行ったよ?ちょっと用事があったって言ってただけだったよ?
 「用事があるんだって」
 「へぇ…なんだろうな?」
 「さぁ…?何も聞いてないから」
 「え?仲いい肇にも…か?」
 「うん?なんで?」
 「普通いうんじゃないか?」
 普通言うのか…?聞いちゃいけないと思ってたし、聞かなかったけど。まぁ、普通って人間にしか適応されなくない?天使に普通はないのでは…なんなら天使の普通とか、心の読みあい、超能力の応酬…すごい事になりそう。
 「それで肇は朝から元気がないんだな?」
 「う~ん…栄養の偏りじゃない?」
 「???何を言ってる?」
 「ああ、こっちの事だから気にしないで…」
 本当に、今日からどうやって生活しようかな。とりあえず…買い物に行って…行って…どうする?出来合いの物を買おう。
 昼休みになり、購買に向かう。激戦区…という言葉が正しいのか?とんでもない人の数で埋め尽くされている。正直、前が見えないし、帰りたい。とりあえずかき分けて行き、パンを数個買って教室に帰る。
 「ふぅ…」
 「弁当どうした?」
 「あれは…古に伝わりし幻術だよ?」
 「なん…だと?!」
 クラスの数人が俺らのやり取りを聞いてクスクス笑っている。いやね、俺にとっても死活問題なんだよ?本当に幻術だよ…。パンを開けて食べる。もさもさしていて食べづらい。
 「何?肇…お前パン食べた事ないの?」
 「な、なんで?」
 「草食動物みたいに食べるじゃん?もさもさしてるとか思ってる?」
 「え?!なんで…さては心が読めるのか?」
 「んなわけないだろ?顔が物語ってるぞ」
 しょうがないよ、笑夢が来てからパンなんてほぼ食べてないし。食べる時は、クルトンになってるか、スープとかシチューとかにつけて食べるかしかしてなかった。
 「うん、もさもさしてて食べづらい」
 「そういうもんだろ?」
 「え?シチューとか、スープとか、クルトンとかあるじゃん?用途が」
 「お前…貴族か何か?」
 わぁ…贅沢してたんだ。感謝は募るけど、伝えられないや。でも、今日帰ってくると思うんだ?多分だけど…。帰ってくるよね?そのままさよならなんて事は…。
 放課後になって部活に足を運ぶ。何か落ち着かなくてそわそわする。笑夢が居ないだけでこんなに影響が出るなんて。
 「どうしたの?うちが相談に乗ろうか?」
 ルトが話しかけてきてくれる。相談に乗れる人は一人しかいないんだ…。ごめんね。
 「ありがとう、大丈夫だよ」
 「今日な、肇の様子がおかしいんだよ」
 「ね?なんかそわそわしているように見えるよ?」
 「そうかな?」
 何でこんなに的確に心情を読んでくる?!もしかして…本当に俺って、顔に出やすいのか?首を傾げていると、智一は頷いた。
 「そうなのか…。」
 「なんか、最近肇の事可愛く思えてきた」
 「ごめん…俺は女性が好き」
 「違う!!そう意味じゃないだろ?!」
 「え、うちは応援するよ?」
 「ちょっ?!ルトさん?!」
 智一の狼狽えている姿はちょっと面白かった。二人のおかげで少しだけ気分が和らいだ。
 「そういえば、合宿の話したらいいってよ!」
 「うちも!良いって言われたよ!」
 「早くない?俺まだ確認取ってすらいないや…。」
 「いやな、楽しみでしょうがないんだ…」
 「水着の女性が?」
 「最低…うち、怖くなってきた」
 「なんで俺の株が勝手に下がっていくんだよ?!俺何も言ってないじゃん!!」
 ははは、確かに。何も言ってない。顔も別に…スケベな顔をしているわけでもなかった。海の楽しみって何だろう?皆で行ける事の楽しさとかかな?
 「なんか修学旅行みたいで良くない?」
 「俺さ…行ったことないよ…」
 「うちも…」
 「……え?なんで?」
 「俺…顔が怖がられてたから諦めた」
 「うちは…友達が居なかった」
 急に皆、黙り込む。智一の表情は少しだけ暗くなる。「なんかごめん」という声が聞こえた。
 「なら、今回は楽しめるじゃん?」
 「まぁ、そうだね?」
 「結果オーライだ!俺が楽しみを教えてあげよう!」
 「枕投げ?」
 「なんで…そのことを…。」
 智一はがっくりと肩を落とす。定番なんだよね…。全然楽しそうだからいいんだけどね。どういう感じで投げるんだろうな。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

彼氏の前でどんどんスカートがめくれていく

ヘロディア
恋愛
初めて彼氏をデートに誘った主人公。衣装もバッチリ、メイクもバッチリとしたところだったが、彼女を屈辱的な出来事が襲うー

壁の薄いアパートで、隣の部屋から喘ぎ声がする

サドラ
恋愛
最近付き合い始めた彼女とアパートにいる主人公。しかし、隣の部屋からの喘ぎ声が壁が薄いせいで聞こえてくる。そのせいで欲情が刺激された両者はー

夜の公園、誰かが喘いでる

ヘロディア
恋愛
塾の居残りに引っかかった主人公。 しかし、帰り道に近道をしたところ、夜の公園から喘ぎ声が聞こえてきて…

戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに

千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」 「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」 許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。 許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。 上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。 言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。 絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、 「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」 何故か求婚されることに。 困りながらも巻き込まれる騒動を通じて ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。 こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。

私が美女??美醜逆転世界に転移した私

恋愛
私の名前は如月美夕。 27才入浴剤のメーカーの商品開発室に勤める会社員。 私は都内で独り暮らし。 風邪を拗らせ自宅で寝ていたら異世界転移したらしい。 転移した世界は美醜逆転?? こんな地味な丸顔が絶世の美女。 私の好みど真ん中のイケメンが、醜男らしい。 このお話は転生した女性が優秀な宰相補佐官(醜男/イケメン)に囲い込まれるお話です。 ※ゆるゆるな設定です ※ご都合主義 ※感想欄はほとんど公開してます。

あなたと恋に落ちるまで~御曹司は、一途に私に恋をする~

けいこ
恋愛
カフェも併設されたオシャレなパン屋で働く私は、大好きなパンに囲まれて幸せな日々を送っていた。 ただ… トラウマを抱え、恋愛が上手く出来ない私。 誰かを好きになりたいのに傷つくのが怖いって言う恋愛こじらせ女子。 いや…もう女子と言える年齢ではない。 キラキラドキドキした恋愛はしたい… 結婚もしなきゃいけないと…思ってはいる25歳。 最近、パン屋に来てくれるようになったスーツ姿のイケメン過ぎる男性。 彼が百貨店などを幅広く経営する榊グループの社長で御曹司とわかり、店のみんなが騒ぎ出して… そんな人が、 『「杏」のパンを、時々会社に配達してもらいたい』 だなんて、私を指名してくれて… そして… スーパーで買ったイチゴを落としてしまったバカな私を、必死に走って追いかけ、届けてくれた20歳の可愛い系イケメン君には、 『今度、一緒にテーマパーク行って下さい。この…メロンパンと塩パンとカフェオレのお礼したいから』 って、誘われた… いったい私に何が起こっているの? パン屋に出入りする同年齢の爽やかイケメン、パン屋の明るい美人店長、バイトの可愛い女の子… たくさんの個性溢れる人々に関わる中で、私の平凡過ぎる毎日が変わっていくのがわかる。 誰かを思いっきり好きになって… 甘えてみても…いいですか? ※after story別作品で公開中(同じタイトル)

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

美醜逆転異世界で、非モテなのに前向きな騎士様が素敵です

花野はる
恋愛
先祖返りで醜い容貌に生まれてしまったセドリック・ローランド、18歳は非モテの騎士副団長。 けれども曽祖父が同じ醜さでありながら、愛する人と幸せな一生を送ったと祖父から聞いて育ったセドリックは、顔を隠すことなく前向きに希望を持って生きている。けれどやはりこの世界の女性からは忌み嫌われ、中身を見ようとしてくれる人はいない。 そんな中、セドリックの元に異世界の稀人がやって来た!外見はこんなでも、中身で勝負し、専属護衛になりたいと頑張るセドリックだが……。 醜いイケメン騎士とぽっちゃり喪女のラブストーリーです。 多分短い話になると思われます。 サクサク読めるように、一話ずつを短めにしてみました。

処理中です...