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結婚生活(神崎あやめ)

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「よろしくお願いします。」

笑みを浮かべたその男に私は思わず睨みつける。

期待に胸を踊らされて足を踏み入れた「J.アニメーション」の本社。

至る所に飾られたポスターなどが余計に私のテンションを上げていく。

応接室へ誘導されてその顔を見るまでは・・・

「どうして?わざとでしょ?」
打ち合わせが終わると彼に怒りをぶつける。

「桐山さん・・・名前が変わっていたから気づかなかったよ。これからよろしくね!」

と嫌味ったらしく私の苗字を呼んで爽やかな笑顔で去っていった。

その一連のやりとりに念のためのフォローということでついてきた西谷が不思議がる。

「知り合い?」
「幼稚園一緒だっただけ」

不機嫌になった私をなだめた。
そう、その男は奏くんだったのだ。

「そうだ。せっかくなんで今日この後飲みに行きませんか?お隣の方も是非」
その後すぐに私の耳元で囁く。

「来なかったらこの話なしにしようかな~~」
私は苦笑いをしながら「喜んで」と答えた。

4人がけのテーブルに、奏くんと西谷と私という異様な組み合わせで乾杯をする。

(二人ともいじめっ子じゃん)
二人は通じるものがあるのかすぐに意気投合していた。

奏くんは、紙タバコに火をつける。

その煙から甘いバニラのような匂いがした。

この匂いは苦手で私は奏くんに向かって「クサっ」というと、嫌味ったらしく私の顔に煙をかけた。
煙を吸い込んだ私は思わずむせてしまう。

「珍しいの吸ってますね」と西谷が反応する。

「そう、これ好きなんだよね。一本どう?」

「いいですか?ありがとうございます。」
西谷もそのタバコに火をつけた。

西谷が喫煙者だということを知らなかった私は問いかける。
「タバコ吸ってたけ?」

「ずっとやめてたんだけどね。最近またね・・・」
といって私の顔を見る。

「彼女と別れたとか?」
と奏くんが問いかけると「そんなところかな」ともう一度私を見た。


飲み会は意外にも、仕事の話ばかりして二軒目に行くこともなく解散した。



帰宅していた颯が、はっとした表情で私の前で立ち止まり、髪の匂いを嗅ぐ。

「タバコ・・・さっき誰といたの?」
「そのアニメ会社の広報の人だよ。」

「本当にそう・・・?あやめにキスしてきた男じゃない?」

隠すつもりはなかったのだけれど、言い出すきっかけがなかっただけ。

それでも的確に当ててきた颯が怖い。


「私のことあんまり信用してないんだね。GPSとか盗聴器でもつけてるの?」

「ムキになるってことはそうなんだね。悪い子だね・・・人妻なのに・・・」

そう言って私のスカートを捲り上げてストッキングを破く。

パンツをずらして割れ目に触れる。

「あいつと飲んで欲情した?それとも抱かれてきた?なんで濡れてんの?」

「やめてよ・・・」



颯はベルトを外してズボンを下げた。
乱暴に私を四つん這いにさせて後ろから強引に挿れようとする。

「何するの?」

「何って子作り・・・だって今更断れないでしょ?もうすでに妊娠してたってことにして辞退すればいいじゃん。」

(何それ・・・怖い・・・嫌だ・・・)

いつも何度キスをして、私の髪を撫でて優しく抱いてくれるのに・・・

「あいつがいるってわかってたら許可しなかった。過去に自分がされたことわかってるの?」

「私だって、今日知ったの・・・」

「それでどうするわけ?」

「私は、最後までやり遂げたい」

「あ、そう・・・勝手にしろよ。」
颯は、ウィンドブレーカーを羽織り、帽子をかぶった。

「どこいくの?」

「走ってくる」
そう言って玄関を乱暴に閉めて出て行った。

いつもは必ず玄関の前でキスをして、『ちゃんと戸締りしろよ』という。
私が鍵をかけたあと、外からドアを開けて鍵がしっかりかかっているかをチェックする。

颯は冷静ではなかった。
いつもなら、私の目を見てしっかり話を聞いてくれる。

奏くんへの恋愛感情が一切ないことは颯だってわかってくれているはず。

仕事で何か嫌なことがあったのだろうか。


ランニングをしているお風呂に入っていた私は、自分の髪の匂いに吐きそうになる。
奏くんの甘ったるい匂いのタバコに、居酒屋の煙や他の人が吸っていたタバコも混ざっている。
着ていた服はすぐに洗濯をした。

(この仕事は断ろう・・・)

これから先、奏くんと会うたびに颯と関係がこじれてしまうのは耐えられない。

ヤキモチを焼いてくれるのは個人的に嬉しいけれど、ヤキモチのレベルではなく颯は本気で怒っていた。

それに、奏くんと会うたびに、連絡をとるたびにいちいち報告するのも面倒だ。

あくまでビジネスで会うだけなのに。



湯船に浸かっていると勢いよく浴室のドアが開いた。

颯は、額に汗を浮かべて顔を真っ赤にして息を切らしている。
ジョギングというよりも、全力ダッシュをしてきたらしい。

「ごめん・・・あやめ・・・頭冷やしてきた・・・」

汗で張り付いたシャツを脱ぐと、鍛えられた腹筋に思わず目がいってしまう。

颯は、シャワーで汗を流して、湯船に浸かる。

「あの匂いがすごく苦手なんだ・・・出てった母親と一緒にいた男の吸ってたタバコの匂いと同じで思い出すんだ・・・」

濡れた肌と肌が触れる。

「あやめが遠くに行っちゃう気がした・・・だから不安になった・・・」

私の体を強く抱きしめる。
こんなにたくましい体をしているくせに、柔道も空手も黒帯を持っているくせに
今は、子供みたい・・・

「不安にさせてごめんなさい。嫌なこと思い出させちゃってごめんなさい・・・」

私も颯を強く抱き締め返す。

「どうしたら颯の不安は取り除ける・・・?」

その問いかけに颯は即答ができない様子だった。
私は、颯を浴槽の淵に座らせた。

「なにすんだよ・・・・」
恥ずかしがる颯の足の間に膝を立てて座り、颯のあそこにおそるおそる触れる。

颯は気の抜けたような声を出す。

深呼吸して口に咥えると、颯は「痛て」と一言。

「下手くそ」

「ごめんね・・・だってどうやったらいいかわかんないんだもん・・・
颯としかしたことないんだもん・・・
颯は、私に寄ってくる人たちに嫉妬してるけど、私は颯の歴代の彼女に嫉妬してるんだよ。
元カノと私を比較してたらどうしようとか・・・
本当は、私だって颯のことを気持ちよくしたいし、赤ちゃんだって欲しい・・・」

顔を赤くした颯は「わかったわかったから」と私の顔を自分の下半身から遠ざける。

「俺が、大人げなかった。あんなクソガキ気にしてねーよ。」

ニッコリと笑った私を颯は抱きしめる。
「もう、かわいすぎ。」

頬にキスをして私の胸に触れる。
颯は大きくなったアソコを私のアソコに擦りよせながら言う。

「これに関してはじっくり教えてあげるから覚悟して・・・それと、俺が孕ませたいと思った女はあやめが初めてだよ。」
とボソッと呟いた。



顎痛い・・・
朝食のウインナーを奥歯で噛むと、痛みが走った。
颯は、何を教えるにもスパルタで容赦がない。
昨日も何度も私を弄びけろっとした顔で朝食を食べる。

「昨日のこと思い出しちゃう?」
いたずらな笑みを浮かべながら食べ終えた颯は新聞に目を通す。

すると颯は思い出したかのように普段使っている黒い革のシステム手帳を開く。

これは、亡くなったお父さんの形見で10年以上中のリフィルだけを差し替えて使っている。
綺麗にボールペンで書かれた字が並ぶ今月のカレンダーのページを開き。

「あいつと会う日にマルして」と言った。

彼の不安が紛れるならと言われるがままにマルをした。
早速今日も打ち合わせがあったためマルをつけると。

「今日も会うの?」
私がうなずくなり、颯はソファに押し倒す。

「ちょっと・・・・」
その言葉も、颯には聞こえない。
エプロン以外の服全てを剥ぎ取った。

「いいね裸エプロン」


強引に挿入する。
昨日の余韻に浸る私のナカはすぐに颯を受け入れた。

「マルした日の朝は絶対する。朝が無理なら前夜は必ず・・・何時でも襲うから」

情事が終了すると、息を切らす私を見てニヤリと笑うと、鼻歌まじりに電子タバコを口にくわえて換気扇の下へ行く。

こんなことが朝あると、打ち合わせには集中できるはずない。
それが颯の狙いだとわかった時、恥ずかしくて奏くんの顔が見られなかった。

こんな生活が続くことになる。

颯は時間構わず私を抱く。

深夜だろうが、早朝だろうが・・・
嫌なのに、それに応じてしまう自分がいる。
そうやって颯は私を束縛する。


「お前の顔見てるとムカつく。」
奏くんは私に当てつけのようにいう。

「わかる?旦那に愛されてるからさ。」

「そうやって調子に乗ってると浮気されるよ」
と奏くんは言った。

「そんなわけないじゃん。」


依頼を受けた仕事もおかげさまで順調だった。
受けた依頼の期間が終了し、ひと段落つくと私たちは結婚式の準備に追われることになる。
結婚式を終えると私たちにもう一つの試練が待っている。


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