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交際に至るまで
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あの日以降、あやめの脳内は8割型「刑事」が埋め尽くしていた。
しかし、彼との再会はないままクリスマスイブがやってきた。
友人たちは、皆恋人と過ごすためあやめのイブに予定はない。
毎年、イベントに参加をしていたため今年だけ実家に行くのも気が引けた。
当日は、休日のため一人で家に引きこもる予定だったが大好きな漫画の発売日で、アニメショップの店頭で受け取ると特典がもらえるということで外出しないわけには行かなかった。
街は、至る所にクリスマスツリーが置かれ、イルミネーションが煌めく。
恋人たちは手を繋ぎながら歩いて行く。
あやめは、白いファーのついた手触りの良いコートに、淡いピンク色のニットのワンピースを着て、黒いシアタイツを履き、底のあるブーツを履いた。
「恋人とこれからデートです」コーディネートをして一直線にアニメショップへと向かう。
「おね~~さん。一人?一緒に遊ぼうよ」
あやめの腕を掴んだ金髪の男を無視しながら、猛スピードでアニメショップの中に入っていった。
「ちぇっオタクかよ」
とその男は吐き捨てた。
目的のものを手に取ると、店内を見て回る。
そこで、あやめの目にとまったのは新作の恋愛シチュエーションCDの中の「警察彼氏」というCDだった。
18禁のため買うのを躊躇う。
一度、その売り場を離れたが、彼女はもう一度戻ってきた。
普段この手のものは、店頭で買うのが恥ずかしいためインターネットで注文をしていたが、どうしても今日手に入れたいと思ったあやめは購入予定の漫画と、他の商品の間に挟んでレジへ持って行く。
(うわ、これ買うの恥ずかしい・・・でも、早く聴きたい。)
あの日以降、無意識のうちに街であの刑事を探す。
パトカーが近くを通れば、彼がいないかを覗き込んでみたり、黒いスーツを着た同じくらいの身長の男に異常に反応してしまったり。
ある時は、警察官の制服(コスプレも含み)を見ただけで恥ずかしくなっていた。
もちろん、刑事もののアニメも全般に目を通し、刑事の仕事についても調べた。
この異常なほどの探究心も彼女がオタクである故だった。
(好きな人のことはとことん知りたい・・・)
カバンの中に大切にしまいこみ、自宅へと戻る。
本日の予定はこれにて全て終了。
急いで、帰宅しアパートの階段を駆け上がる。
普段、何気なく上り下りする階段はヒールを履いているとバランスが取りにくいため慎重に行く。
何度もバランスを崩したことがあったため本日も気を緩めることはなかったのだが、
もう少しで部屋に着くという時に、前方から来た人をよけようとしてバランスを崩した。
その拍子に、バッグから中身が飛び出した。
ポーチの中身も、先ほど購入した漫画もCDも散乱している。
あやめが拾い集めていると、前方からやってきた男が「大丈夫ですか?」と言って一緒に拾い集めた。
「ありがとうございます。」と言いながらその男の顔を見るとあやめは思わず言葉を失った。
(あの時の刑事さん・・・)
刑事も、あやめに気がついたようだった。
しかし、そうと分かればすぐにしまわなければならないものがある。
警察官の制服を着たイケメンのイラストが描かれており、『警察彼氏』と大きな文字で刻まれているあのCDを・・・
男性でいうとアダルトビデオを持っているのを、女性に見られてしまう恥ずかしさに匹敵する。
これを平気で、堂々としていられる人もいるのだろうが、あやめの性格上このようなCDを見られて堂々としていられるような余裕はない。
ましてや、自分が好意を持つ人に・・・
せっかく再会できたのに・・・
顔も真っ赤にして、手が震えている。
幸い、一番初めにカバンへしまい込んだために見られた可能性は低いが、あの目立つCDのジャケットは散乱した荷物の中で一番に目立つであろう。
あやめは肩を落としながら、購入した漫画やグッズもしまいこむ。
「君はもしかしてこの前の・・・?」
あやめはこくりと頷いた。
「先日はありがとうございました。」
床に散らばったもの拾い終えると
「これで全部かな?」
と刑事は、また爽やかな笑顔と優しい声で言う。
「はい・・・ありがとうございました。」
CDのジャケットを見られた恥ずかしさに耐えられず、動揺したあやめは刑事と目を合わせずにお礼を言うと自分の部屋に入った。
(最悪、最低、最悪・・・)
部屋に入るなりベッドの上に倒れこんだ。
(私、何か悪いことした?こんなクリスマスイブってある??もう、確実にオタクだって引かれた・・・嫌われた・・・)
出会った場所は、アパートの2階の廊下で近くにパトカーなども止まっておらず、刑事はスーツではなくて私服だった。
事件や、捜査の可能性が低いとしたら同じ階に住んでいる可能性が高い。
今まで、遭遇した記憶もないため、最近引っ越してきたのだろう。
少女漫画のような、恋愛シチュエーションゲームのような偶然の展開にあやめの心拍数は上がって行く。
部屋に入りと、一度大きく深呼吸した。
声が耳から離れない。
顔が、笑顔が・・・脳裏に焼き付いて離れない。
二次元の中のカナトとは違う・・・
大きな手と、優しい笑顔・・・
洗剤の匂いと、タバコの香り・・・
同じ世界で生きている。
しかし、彼との再会はないままクリスマスイブがやってきた。
友人たちは、皆恋人と過ごすためあやめのイブに予定はない。
毎年、イベントに参加をしていたため今年だけ実家に行くのも気が引けた。
当日は、休日のため一人で家に引きこもる予定だったが大好きな漫画の発売日で、アニメショップの店頭で受け取ると特典がもらえるということで外出しないわけには行かなかった。
街は、至る所にクリスマスツリーが置かれ、イルミネーションが煌めく。
恋人たちは手を繋ぎながら歩いて行く。
あやめは、白いファーのついた手触りの良いコートに、淡いピンク色のニットのワンピースを着て、黒いシアタイツを履き、底のあるブーツを履いた。
「恋人とこれからデートです」コーディネートをして一直線にアニメショップへと向かう。
「おね~~さん。一人?一緒に遊ぼうよ」
あやめの腕を掴んだ金髪の男を無視しながら、猛スピードでアニメショップの中に入っていった。
「ちぇっオタクかよ」
とその男は吐き捨てた。
目的のものを手に取ると、店内を見て回る。
そこで、あやめの目にとまったのは新作の恋愛シチュエーションCDの中の「警察彼氏」というCDだった。
18禁のため買うのを躊躇う。
一度、その売り場を離れたが、彼女はもう一度戻ってきた。
普段この手のものは、店頭で買うのが恥ずかしいためインターネットで注文をしていたが、どうしても今日手に入れたいと思ったあやめは購入予定の漫画と、他の商品の間に挟んでレジへ持って行く。
(うわ、これ買うの恥ずかしい・・・でも、早く聴きたい。)
あの日以降、無意識のうちに街であの刑事を探す。
パトカーが近くを通れば、彼がいないかを覗き込んでみたり、黒いスーツを着た同じくらいの身長の男に異常に反応してしまったり。
ある時は、警察官の制服(コスプレも含み)を見ただけで恥ずかしくなっていた。
もちろん、刑事もののアニメも全般に目を通し、刑事の仕事についても調べた。
この異常なほどの探究心も彼女がオタクである故だった。
(好きな人のことはとことん知りたい・・・)
カバンの中に大切にしまいこみ、自宅へと戻る。
本日の予定はこれにて全て終了。
急いで、帰宅しアパートの階段を駆け上がる。
普段、何気なく上り下りする階段はヒールを履いているとバランスが取りにくいため慎重に行く。
何度もバランスを崩したことがあったため本日も気を緩めることはなかったのだが、
もう少しで部屋に着くという時に、前方から来た人をよけようとしてバランスを崩した。
その拍子に、バッグから中身が飛び出した。
ポーチの中身も、先ほど購入した漫画もCDも散乱している。
あやめが拾い集めていると、前方からやってきた男が「大丈夫ですか?」と言って一緒に拾い集めた。
「ありがとうございます。」と言いながらその男の顔を見るとあやめは思わず言葉を失った。
(あの時の刑事さん・・・)
刑事も、あやめに気がついたようだった。
しかし、そうと分かればすぐにしまわなければならないものがある。
警察官の制服を着たイケメンのイラストが描かれており、『警察彼氏』と大きな文字で刻まれているあのCDを・・・
男性でいうとアダルトビデオを持っているのを、女性に見られてしまう恥ずかしさに匹敵する。
これを平気で、堂々としていられる人もいるのだろうが、あやめの性格上このようなCDを見られて堂々としていられるような余裕はない。
ましてや、自分が好意を持つ人に・・・
せっかく再会できたのに・・・
顔も真っ赤にして、手が震えている。
幸い、一番初めにカバンへしまい込んだために見られた可能性は低いが、あの目立つCDのジャケットは散乱した荷物の中で一番に目立つであろう。
あやめは肩を落としながら、購入した漫画やグッズもしまいこむ。
「君はもしかしてこの前の・・・?」
あやめはこくりと頷いた。
「先日はありがとうございました。」
床に散らばったもの拾い終えると
「これで全部かな?」
と刑事は、また爽やかな笑顔と優しい声で言う。
「はい・・・ありがとうございました。」
CDのジャケットを見られた恥ずかしさに耐えられず、動揺したあやめは刑事と目を合わせずにお礼を言うと自分の部屋に入った。
(最悪、最低、最悪・・・)
部屋に入るなりベッドの上に倒れこんだ。
(私、何か悪いことした?こんなクリスマスイブってある??もう、確実にオタクだって引かれた・・・嫌われた・・・)
出会った場所は、アパートの2階の廊下で近くにパトカーなども止まっておらず、刑事はスーツではなくて私服だった。
事件や、捜査の可能性が低いとしたら同じ階に住んでいる可能性が高い。
今まで、遭遇した記憶もないため、最近引っ越してきたのだろう。
少女漫画のような、恋愛シチュエーションゲームのような偶然の展開にあやめの心拍数は上がって行く。
部屋に入りと、一度大きく深呼吸した。
声が耳から離れない。
顔が、笑顔が・・・脳裏に焼き付いて離れない。
二次元の中のカナトとは違う・・・
大きな手と、優しい笑顔・・・
洗剤の匂いと、タバコの香り・・・
同じ世界で生きている。
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