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Side 1ーOne way loveー
9(今泉翠)
しおりを挟む高校生の頃、私はバス通学で、同じバスに乗るギャルの友人(髪の毛長さは実際セミロングだが、エクステをつけておへそぐらいのロングヘアに、ばっちりつけまつげとカラコンを装着して、喋る声が高かった。今はショップの店員をしているらしい)のミナが乗ってくるまでの間だけ自由な時間があった。
その時間を勉強時間に費やしていた。
この時間くらいしか勉強をする時間がない。休み時間は昨日見たテレビの話や恋の話、メイク直しで忙しい。
放課後も、プリクラに買い物、カラオケ三昧。ギャルでいるのも大変だ。
限られた時間の中でもやらなければならないミッションが必ずある。
それは「学ランのイケメン」が乗っているかどうかのチェックをすること。
学ランのイケメンの顔はしっかり見たことがなかった。あまりジロジロ見てはいけない気がしていたのと、ミナが好きである以上私が好意を持ってはいけないと言うこと。
ありえないけれど、もし私のことを好きになってしまったらまた面倒になるからだ。
バスに乗るタイミングでさっと確認をして、必ずメッセージを送っていた。
学ランのボタンを乱暴に開けて、耳にはピアスをしている。髪は染めていないものの軽くパーマがかかっているのかセットしてあるのかで今時のおしゃれなちょっとチャラそうな男の子でありながら、ミステリアスな雰囲気を持っていた。
いつも耳にヘッドフォンを当ててスマホでゲームをしているか窓の外をぼけっと見ていた。
しかし、そんな姿になぜか引き込まれてしまう自分がいた。
「友達の好きな人は好きになってはいけないし、好きにさせてもいけない」
まるで教訓のように私に染み付いている。
だからこそ、興味の無いそぶりを続け、これ以上彼に興味を持つことも辞めた。
高校を卒業してからは一切彼の姿は見かけなかった。
手繰り寄せた記憶と今隣で手を繋ぐ瀬戸口を重ねる。
「学ランのイケメンって瀬戸口のことだったの?」
「なにそれ?」
「うわ~~無理・・・ここまででいいよ。じゃあまた明日。」
そういって私は、その手を離し家に向かって早歩きした。
状況の理解できていない瀬戸口が追いかけてくる。
「ダメなんだよ。」
「え・・・なんで・・・意味わかんない」
私は瀬戸口を振り切った。
それでも負けじと手を掴んで離さない瀬戸口に『友達の好きな人が自分を好きで、友達に嫌われた』と言う思い出したくない苦い話をする。
普通に考えて人に好意を持ってもらえることは嬉しいことだ。
だけれど、自分に好意がないのに相手が勝手に私を好きで大切な友達を失うと言うのはあまりに理不尽すぎる話。
大人になった今ならば、きっともう少しこの状況をお互いにうまく切り抜けられたのかもしれないがあの時は子供だったのだ。
しかし、子供の頃の記憶というのは強烈で大人になった今でも何かの拍子で突然やってくる。
こうして「恋愛がうまくいかない」言い訳の出来上がり。
私は、今誠心誠意ぶつかってきてくれた瀬戸口にきっと意味のわからないことを言っていると思う。
だけれど、そうやって面倒なことと関わらないことが一番だと思ってしまう自分がいる。
「もうその子と連絡とってないんでしょ。きっと俺のことなんて忘れてるよ。
それにそんなこと言い出したらキリないよ。
俺だってこんなに翠のこと好きだったのに他の男に取られてるんですけど・・・
三角関係なんてよくあることだよ。」
そっか、瀬戸口だって今までのパッとしない様子だと、会社の若い女の子たちに見向きもされなかったが今の姿は全くと言っていいほど別人で、まるでファッション雑誌やドラマから飛び出してきたようだ。
今まで言い寄ってきた女の子はたくさんいて、それに伴ってのイザコザもあったはず。
友達が好きな人を好きになってはいけないルールなんてない。
恋愛は自由でいいんだ。
「確かに・・・そうじゃん。じゃあ付き合う?」
「ちょっと、翠ちゃん。なんか軽くない?雑じゃない?」
私の、ジェットコースターのように急上昇・急降下する思考に瀬戸口は戸惑っていた。
突然呼び捨てしだしたくせに、子供扱いするようにちゃん付けをされると少し調子が狂う。
いざ、付き合うことを了承されると、瀬戸口も動揺するようで何回も「いいの?」「ねぇいいの?」聞き返す。
自信たっぷりだと見せかけて本当は不安で仕方がなかったのだと思うと瀬戸口がとても愛おしくなる。
「え・・・もうどっちなの?」
恥ずかしそうに、両手で顔を抑えた瀬戸口が可愛い。
「いやその・・・・嬉しすぎて・・・・このまま持ち帰ってもいい?」
「それはダメ・・・ここまで守ってきたんだからもっとロマンチックな感じでお願いします。」
「了解」
その日は、しっかり瀬戸口が家まで送り届けた。
きっと私が一人暮らしならばそのまま今日が卒業式になっていたかもしれない。
実家暮らしなのでセーフ。こんなに急に心の準備はできない。
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