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Side 1ーOne way loveー
6(今泉翠)
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瀬戸口は、ふっと笑って私にいつもの『砂糖なし・ミルク多め』のコーヒーを差し出した。
いつもの味に、これが夢ではないことを再確認する。
机の上には、先程いい香りをさせていたトーストとサラダとウインナーと目玉焼きがワンプレートにのせられていた。
「うわーおしゃれ。美味しそう」
とうっとりしてしまったがそれどころではない。
瀬戸口はメガネをかけず、いつものボサボサ髪の毛は、ところどころ寝癖があるもののいつもの酷さはなく、よくある男のおしゃれなカットだった。
白いTシャツにゆるっとしたスウェットパンツを履いている。Tシャツの上からもわかるような程よく筋肉のついた体は、普段着ているジャケットに隠されていて知らなかった。むしろもっとお腹が出ていると思っていたぐらいだ。
Tシャツにパンツのみが恥ずかしくなった私は、彼に同じようなスウェットパンツを借りて履き、同じ朝ごはんを食べている。まるで同棲中のカップルのようだ。
「メガネかけてよ。なんか知らない人みたいで落ち着かないから」
「えーー。実はカミングアウトするとあれ伊達眼鏡なんだよね。俺視力悪くないし、なんか独特の感性を持っている男に見えるからかけてるだけ。あとは、女に言い寄られるのが面倒だから」
さらっと言いながらコーヒーを口に含む。彼はコーヒーはブラックと決まっている。メガネをいつも曇らせて飲んでいるのが少しだけ面白くてみていたのだが今日はメガネをかけていないので、コーヒーを快適そうに飲んでいる。
メガネが彼の整った顔立ちをかき消していたことに今更気が付かされた。
というよりも、今まで瀬戸口はメガネをしていることが当たり前だったが、実は似合っていなかったんじゃないかという考えも浮かぶ。そしてさらっと自分がモテる発言もしている。確かに、こんな人がデザイナーだったら夫婦で家を建てにくる場合、奥さんはメロメロで夫婦関係に亀裂が入るかもしれない。
あのゆるい雰囲気のメガネ青年というところも売りだったし。
(こいつ、何者?)
こんな風に会話をしていればいつもの勤務中と変わらない。
でも、ふと顔を見れば別人のようだ。よく少女漫画にあるようなメガネ外したら美人だったの逆バージョンを目の当たりにしているような気分だった。
「とりあえず、昨日の状況を説明して」
私は、完全に自分が悪いのにも関わらず喧嘩腰で問いかけた。
あのあと、居酒屋に入った私は「酔って忘れたい」といったため瀬戸口が知っている限りの強いお酒をかたっぱしから飲んだという。何があったかは頑なに話さなかったらしい。それから私はその居酒屋で寝初めておんぶをしてこの家までたどり着き、酔っている中行為に至ったという。
私は、完全に否定する。でも、服は脱いでいて下着の上にTシャツを着なおしているところを思い出しまた不安になる。
「いや・・・でも、血出てないし」
私の動揺しながらの独り言に対して、「血?」と瀬戸口は問いかける。
「え・・・私ちゃんとできたの?・・・」
「どういうこと?」と目を丸くした瀬戸口。
彼とはこの会社に入社してからかれこれ6年以上の中になる。
プライベートな相談は一切したことなどなかった。でも、仕事の相談に関しては数え切れないほどしてきたわけで、私がどんなに愚痴を言おうが、反論するわけでもなく黙って聞いてくれていたし、とても口の硬い男だった。
どんなことを私が言おうが、杉原さんのような反応はしないはず。
「だから・・・・私・・・・その・・・初めてだったの」
その言葉に瀬戸口は真っ青になっていった。
「まじか・・・ごめん。軽率だった。冗談だから・・・・安心して本当に何もしてない。
Tシャツは自分で着替えてた。着替えるときは俺外に出てたし、昨日の夜は俺はそこのソファで寝てたし。」
瀬戸口が、慌てふためきながら両手を合わせながら真面目な顔をして謝った。
私は、思わず間抜けな声が出る。冗談にもほどがある。
「28で処女って引くでしょ。私の見た目こんなんだし。経験豊富な女に見えるんだって大学の時によく言われた。ちょっといい感じになった人に初めてだっていったら「嘘つくな」って言われて嫌われた。笑えるでしょ。」
むしろ笑い話にしてもらった方が気が楽だ。この話はもう自虐ネタ確定。
「その男バカだな。」
そういって瀬戸口は私を抱き寄せて、優しくキスをした。
私は驚き思わず反射的に突き放した。
こんな男を私は知らない。あんなボサボサ頭でメガネでちょっとダサかった瀬戸口がどうして?
「え、キスも初めてだった?」
「そんなわけないじゃん・・・」
瀬戸口は私がいることを御構い無しに服を着替え始めた。鍛え抜かれた体にはしっかり筋肉が付いており私が思わず見とれていると、瀬戸口は「エッチ」とからかいながら言う。
鏡の前に立ち、髪を軽く濡らしてドライヤーで無造作にぐしゃぐしゃにしてスプレーで固めて、いつものダサいメガネをかけるといつもの姿に戻った。
「あ、俺まだしばらくはこのキャラで行こうと思っているから黙っておいて」
とニヤッと笑い私の頭を優しく撫でた。
瀬戸口は、本日出勤で私は休みだったためそれぞれの方向に歩き出した。
もしこの場会社の人に目撃されたいたとしたら大問題だ。
いい大人同士、何もなかったなんて言い訳にできない。よく覚えていないけれど私たちは何もなかったのだ。
昨日のショックをかき消すように、瀬戸口が「男」であることへの衝撃が隠せない。
そして、なぜあえて自分を偽って仕事に行くのだろうか。私には理解できない。
帰宅して、スマホの充電がなくなり充電器に挿しても立ち上がるまでに時間がかかっていた。
起動すると10件以上も杉原さんから着信があった。何件か謝罪のメッセージも入っている。
このまま連絡を返して、また会って仕切り直せばきっとうまく行くと思う。
でも、杉原さんの昨日の冷たい顔が目に焼きついて離れない。
それに、今朝なんとも思っていなかった同期の瀬戸口にあんなキスをされた後、どんな顔をして会ったらいいかが分からない。付き合ってもいないのだから浮気をしたわけではない。だけど、それに近いような罪悪感なのだ。
いつもの味に、これが夢ではないことを再確認する。
机の上には、先程いい香りをさせていたトーストとサラダとウインナーと目玉焼きがワンプレートにのせられていた。
「うわーおしゃれ。美味しそう」
とうっとりしてしまったがそれどころではない。
瀬戸口はメガネをかけず、いつものボサボサ髪の毛は、ところどころ寝癖があるもののいつもの酷さはなく、よくある男のおしゃれなカットだった。
白いTシャツにゆるっとしたスウェットパンツを履いている。Tシャツの上からもわかるような程よく筋肉のついた体は、普段着ているジャケットに隠されていて知らなかった。むしろもっとお腹が出ていると思っていたぐらいだ。
Tシャツにパンツのみが恥ずかしくなった私は、彼に同じようなスウェットパンツを借りて履き、同じ朝ごはんを食べている。まるで同棲中のカップルのようだ。
「メガネかけてよ。なんか知らない人みたいで落ち着かないから」
「えーー。実はカミングアウトするとあれ伊達眼鏡なんだよね。俺視力悪くないし、なんか独特の感性を持っている男に見えるからかけてるだけ。あとは、女に言い寄られるのが面倒だから」
さらっと言いながらコーヒーを口に含む。彼はコーヒーはブラックと決まっている。メガネをいつも曇らせて飲んでいるのが少しだけ面白くてみていたのだが今日はメガネをかけていないので、コーヒーを快適そうに飲んでいる。
メガネが彼の整った顔立ちをかき消していたことに今更気が付かされた。
というよりも、今まで瀬戸口はメガネをしていることが当たり前だったが、実は似合っていなかったんじゃないかという考えも浮かぶ。そしてさらっと自分がモテる発言もしている。確かに、こんな人がデザイナーだったら夫婦で家を建てにくる場合、奥さんはメロメロで夫婦関係に亀裂が入るかもしれない。
あのゆるい雰囲気のメガネ青年というところも売りだったし。
(こいつ、何者?)
こんな風に会話をしていればいつもの勤務中と変わらない。
でも、ふと顔を見れば別人のようだ。よく少女漫画にあるようなメガネ外したら美人だったの逆バージョンを目の当たりにしているような気分だった。
「とりあえず、昨日の状況を説明して」
私は、完全に自分が悪いのにも関わらず喧嘩腰で問いかけた。
あのあと、居酒屋に入った私は「酔って忘れたい」といったため瀬戸口が知っている限りの強いお酒をかたっぱしから飲んだという。何があったかは頑なに話さなかったらしい。それから私はその居酒屋で寝初めておんぶをしてこの家までたどり着き、酔っている中行為に至ったという。
私は、完全に否定する。でも、服は脱いでいて下着の上にTシャツを着なおしているところを思い出しまた不安になる。
「いや・・・でも、血出てないし」
私の動揺しながらの独り言に対して、「血?」と瀬戸口は問いかける。
「え・・・私ちゃんとできたの?・・・」
「どういうこと?」と目を丸くした瀬戸口。
彼とはこの会社に入社してからかれこれ6年以上の中になる。
プライベートな相談は一切したことなどなかった。でも、仕事の相談に関しては数え切れないほどしてきたわけで、私がどんなに愚痴を言おうが、反論するわけでもなく黙って聞いてくれていたし、とても口の硬い男だった。
どんなことを私が言おうが、杉原さんのような反応はしないはず。
「だから・・・・私・・・・その・・・初めてだったの」
その言葉に瀬戸口は真っ青になっていった。
「まじか・・・ごめん。軽率だった。冗談だから・・・・安心して本当に何もしてない。
Tシャツは自分で着替えてた。着替えるときは俺外に出てたし、昨日の夜は俺はそこのソファで寝てたし。」
瀬戸口が、慌てふためきながら両手を合わせながら真面目な顔をして謝った。
私は、思わず間抜けな声が出る。冗談にもほどがある。
「28で処女って引くでしょ。私の見た目こんなんだし。経験豊富な女に見えるんだって大学の時によく言われた。ちょっといい感じになった人に初めてだっていったら「嘘つくな」って言われて嫌われた。笑えるでしょ。」
むしろ笑い話にしてもらった方が気が楽だ。この話はもう自虐ネタ確定。
「その男バカだな。」
そういって瀬戸口は私を抱き寄せて、優しくキスをした。
私は驚き思わず反射的に突き放した。
こんな男を私は知らない。あんなボサボサ頭でメガネでちょっとダサかった瀬戸口がどうして?
「え、キスも初めてだった?」
「そんなわけないじゃん・・・」
瀬戸口は私がいることを御構い無しに服を着替え始めた。鍛え抜かれた体にはしっかり筋肉が付いており私が思わず見とれていると、瀬戸口は「エッチ」とからかいながら言う。
鏡の前に立ち、髪を軽く濡らしてドライヤーで無造作にぐしゃぐしゃにしてスプレーで固めて、いつものダサいメガネをかけるといつもの姿に戻った。
「あ、俺まだしばらくはこのキャラで行こうと思っているから黙っておいて」
とニヤッと笑い私の頭を優しく撫でた。
瀬戸口は、本日出勤で私は休みだったためそれぞれの方向に歩き出した。
もしこの場会社の人に目撃されたいたとしたら大問題だ。
いい大人同士、何もなかったなんて言い訳にできない。よく覚えていないけれど私たちは何もなかったのだ。
昨日のショックをかき消すように、瀬戸口が「男」であることへの衝撃が隠せない。
そして、なぜあえて自分を偽って仕事に行くのだろうか。私には理解できない。
帰宅して、スマホの充電がなくなり充電器に挿しても立ち上がるまでに時間がかかっていた。
起動すると10件以上も杉原さんから着信があった。何件か謝罪のメッセージも入っている。
このまま連絡を返して、また会って仕切り直せばきっとうまく行くと思う。
でも、杉原さんの昨日の冷たい顔が目に焼きついて離れない。
それに、今朝なんとも思っていなかった同期の瀬戸口にあんなキスをされた後、どんな顔をして会ったらいいかが分からない。付き合ってもいないのだから浮気をしたわけではない。だけど、それに近いような罪悪感なのだ。
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