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Side 1ーOne way loveー

2(瀬戸口泰生)

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入社して2週間は部署問わず合同で社員研修を受けるため翠と同じ空間に居られることが嬉しかった。翠も同じ女子社員たちと楽しそうに話しをしていたのが微笑ましかった。

しかし、数日で女子たちの関係が悪化している。翠を1人にしているようだ。

原因は、営業課でエースのイケメン26歳三好さんで女子社員から最も人気が高いとされている。
高校時代は有名なサッカーの強豪校でレギュラーをしていたため体格も良く男の俺でも惚れ惚れしていたのだが、翠に猛烈アタックをしかけたらしく、それが気に食わなかったことが関係悪化となったみたいだ。
女とはつくづく面倒だ。

昼休みや休憩時間もポツンと1人でいることが増えた。
さぁついに俺の見せ場だ。お昼を食べ終わり社内を探すと屋上に翠の姿を見つけた。
声をかけようとすると翠は一人でなく男の影が見える。

「どうして、俺じゃダメなの?」
翠の手を掴むが、翠は嫌そうに振りほどこうとする。しかし、その男はその手を振りほどこうとしない。

「ごめんない」
泣きそうな顔で謝る翠にいたたまれなくなり、俺はバカみたいな声のトーンで「お疲れまでーす。あ、邪魔してすみませーん」とその場に入り込んだ。


「なんだよ。新人」
三好先輩は舌打ちしながら俺を睨む。


「いや、困ってたんで・・・」
俺も、御構い無しに睨みつけた。この先三好さん嫌われようが構わない。今この場で翠を守れるなら。
俺の睨みに怯んだのか、三好さんは大人だからなのか「今泉・・・・また連絡するから」と言い残し場を去っていった。

翠は、深呼吸をしながらその場に座り込んだ。

「ありがとう~~~助かったよ~~~~」
安堵に包まれた顔で俺を見つめた。

「ううん。可愛い子は大変だね」
俺は、これが入社して初めて交わした言葉。

翠は返答に困っていた。

「私、いつも友達関係うまくいかないんだよね。男の人が絡んで。友達の好きな人が私のことを好きだったり
私は一切その人のこと興味がないのに、そういうと逆効果だし、単純に喜んだら嫌われるでしょう。三好さんのこともそう。みんながかっこいいっていっていて私も話を合わせていて、突然私だけ呼び出されて強引に連絡先交換させられて、告白されてさっきも・・・せっかく入りたかった会社に入れたのにこんなので辞めたくなっちゃうとか・・・」

大きな目を潤ませて言葉を詰まらせながらそういった。

「あともう少しで合同研修も終わり、そうしたらそれぞれの部署に行くわけだし。それまで俺が話し相手になってあげるよ。俺イケメンじゃないから安心でしょ。」

「心強いよ。ありがとう。でも、私髪型とメガネ変えればいいと思うんだけど・・・」

そういって俺の目を覗き込んだ。
お互いに目があって、バレるかもしれないと思った。もし仮に翠が俺の声を覚えていたら・・・・

「ん・・・なんか見たことあるような・・・でも気のせいかな・・・」と翠は言った。

「俺は、今泉さんと初対面だけど・・・」

バカみたいな嘘をつく。
今まで、何度翠を見てきただろう。こんな近くにいて本当の自分ではなく、偽りの自分で近づこうとする。
でも、本当にこの子はこの前あった俺への態度と、今の俺への態度が全然違う。
あの日は、これっぽっちも目を合わせてくれなかった。でも、今はちゃんと目を見て話をしてくれる。
どれだけイケメンを毛嫌いしているのだろう。

それから残りの合同研修の期間は、二人で休憩時間を消化した。
主に研修内容のことばかりの薄っぺらい会話。今でもどんなことをしゃべっていたか細かく思い出せない。
でも、本当に楽しかった。
何年も待ち続けていた瞬間だったから。

それから、翠は同期ともうまくいかず、女性社員ともうまくいかず仕事の愚痴や相談は基本的に俺にしてきた。
俺に話すとスッキリするらしい。俺は会話ができるだけで十分だった。
お互いに無我夢中で仕事をして気がついたら大きな仕事任されるようになっていた。
翠を悪く言っていた女子社員たちはほとんど退職や寿退社していった。
翠は努力家で、顧客からも絶大な信頼を受けよく表彰されていた。
「仕事一筋」で「恋愛」のれの字も出てこないことに安心した。

一方の俺は、翠との距離を埋められないまま一定の都合のいい距離を保つことしかできなかった。
そんな苛立ちの矛先を誰にも向けることもできず、他の女に翠を重ねて「適当」な恋愛をした。
「誰にも本気にならない」というレッテルも貼られるくらい最低で、常に脳内は翠でいっぱいだった。

でも、翠がどの男のモノにもならないことだけが唯一の救いだった。

しかし、それが突然崩れ始める。

「ねえ、証券会社の人ってどう思う?」

「いいんじゃない。まあ株暴落すると大変らしいけどね。安泰じゃない・・・って?なに男?」
何気なく翠が俺に恋バナをふっかけてきたのだ。

「うん。最近連絡とってる人なんだけどね・・・すごくいい人なんだよね。」

この時、全身に寒気がした。俺は今までのんびり何をやっていたのだろうか。
この程よくて生ぬるい関係の居心地が良すぎて結局何もアタックしていない。

ここから俺の悪あがきが始まった。

まず、会う約束をしていた日は見事に西木がやらかしてくれたおかげで阻止したが、次の時には俺は思わずいつもの姿(イケイケ)で二人を尾行した。
二人のやりとりの中で、おそらくホテルに行くことが決まりそろそろ止めにかかろうとしたが、翠は泣き出して走ったものだから俺はすぐに後を追った。

泣きじゃくる翠は、次から次へと浴びるように酒を飲み爆睡しだしたため仕方なく自分の家に連れて行くことにした。
自分の部屋に大好きな翠がいるのが不思議でたまらなかった。
抱きかかえると彼女の甘い香りと、アイツのタバコの匂いがすることに苛立ち俺は強引に服を脱がす。
それでも目を覚まさない翠の白い体はアルコールのせいで火照っていて、ピンク色の可愛らしい下着から綺麗な谷間がのぞく。細い割にこんなエロい身体してるのか・・・思わず見入ってしまったが流石にこれはダメな気がした。
俺のTシャツを着させると、寝ぼけながらもスカートとストッキングを脱ぎ俺のベッドに倒れ込んだ。
可愛い寝顔を独り占めする瞬間。
俺は強引に唇も奪えず、抱くこともできずただただその綺麗な髪を撫でた。
このまま朝が来なければいいのに・・・

俺だけのモノになればいいのに・・・




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