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第一章
姉の幸せ(宇月鈴音)
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子供の頃から私の姉の琴音(通称ことねぇ)のことが大好きだった。
だからこそ心配だった。
3つ年上のことねぇは、私と性格が真反対で優しくておっとりしていて真面目で勉強もできた。
ことねぇは気づいてなかったけれど、よくモテた。
何度、私が妹だからとことねぇへのアタックに協力をさせられたことか。
でも、嫌いなところがあった・・・
私がどんなにわがままを言おうが笑って許すし、「これがほしい」と言えばどんなに大切にしているものでも簡単に私に渡してしまう。
そう言えばちゃんと喧嘩したことなかったな・・・
母親に怒られても、すぐに謝るし口答えもしない。私はずっとそれが「優しくて素直な性格」だと思い込んでいたのだが子供ながら何かいつも引っかかっていた。
それから大人になって、キャバの仕事をするようになっていろんな人と関わるうちにその引っかかりが分かったのだ。
ある男は建設関係の仕事をしていて、よく私を指名してきてくれるお客さんだった。
来店頻度が多くなり、私が奥さんの心配をすると、「優しいし、俺に一切文句を言わないから大丈夫」と何の悪びれもなく言った。
キャバクラに行く夫を笑顔で送り出すような妻なんているのだろうか。
私は、これでお金をもらっているわけだから文句も言えないけれど、本当は嫌なはず。
もし、私の旦那がそういう男なら殴っていたと思う。
本当は嫌だと思いながら、その気持ちをぐっと押し殺して笑っているのかな?
その時に私は、母親に怒られようが、私がどんなわがままを言おうが「嫌」という気持ちを押し殺して作り笑顔をすることねぇが浮かんだ。
私、きっとあんな笑顔を見たくなかったんだと思う。
「DV」「ヒモ」「モラハラ」そんな類の男たちは、従順で素直で優しくて流されやすい女を求めて好む。
大好きな姉だからこそ、傷つくところをみたくないし、幸せになって欲しかった。
それなのに・・・
あんな男との子を妊娠したって・・・
別に悪い人じゃなかった。イケメンだし、背も高いし高学歴で、ことねぇが苦労して入った大手企業の上司だし
優しそうだし・・・ことねぇも心から愛してた。
でも、どうしてことねぇから別れを告げて「一人で育てる」なんて言ったのだろうか。
「鈴音・・・ありがとう・・・」
ことねぇは、穏やかな笑みを浮かべながらそう言った。
もし彼を好きで、本気で結婚したいと思っていたならあんな風に強く言って追い返してしまった妹を攻めてもいいはずなのに感謝されている。
「なんか・・・わかんないんだよね。ずっと付き合ってた彼氏に目の前で浮気されるし、ずっと好きだった先輩に裏切られたし、大好きだと思ってた人とはなんかうまくいかないし・・・
私は、ただ本当に普通に結婚して普通に子供産んで幸せに暮らせればいいだけなのに・・・なんでかな?
なんかずっと振り回されてる気がする・・・だからねさっき鈴音がはっきり言ってくれたのすごく嬉しかった。」
ことねぇはそう言って、お腹をさすった。
私も、ことねぇのお腹を優しく触る。つわりで入院をしていてぐったりしていた頃よりもことねぇは顔色も良くなったし、表情も優しくなっていた。そしてお腹も大きくなり、触れれば動くのがわかる。
ずっと一緒に過ごしてきた姉が母親になるのだから不思議な気分だ。
「私はただ、ことねぇには幸せになってほしいだけだよ。」
「ありがとう。私もあのくらい強く言い返せばよかった。」
「いや、無理じゃない?ことねぇが言い返すところなんて想像できない。」
「そんなことないよ。私、変わりたかったんだよね・・・もう流されたくないって・・・だから仕事も辞めたし、課長からも離れた。
まあ、まさか妊娠してるとは思わなかったけれど・・・不安な気持ち反面、すごく嬉しかったんだよね。でも、やっぱりまだ課長のこと好きだけど・・・まだどこかで信用できないんだよね・・・なんか、課長ってアメリカに住んでたし、タワーマンション(親が支払い済み)に住んでてマジでおぼっちゃまだし、あの若さでどんどん出世していくし、庶民派の私と全然価値観が合わないっていうか・・・騙されてるんじゃないかってさ・・・」
後日、私が店に出勤すると私を指名する客がいるという。
先ほどから店内のスタッフがその客を見て騒ついている。どうやら相当なイケメンが来たらしい。
私がいつも通りの挨拶をこなし席に着こうとすると、その男がことねぇを悩ます男だと言うことに気がつく。
先日、私が暴言を吐いたので少し気まずい。
「どういうつもりですか?」私が喧嘩腰に問う。
なんで東京の人がわざわざ田舎の飲み屋街に来ているのかということと、私が働いている店を知っているのかということ。疑問ばかりが頭に浮かぶ。
「いや、まず君から口説こうかと思って・・・ていうのは冗談。とりあえずウィスキーロックで」
その男は、高級なスーツやブランド物の時計やネクタイ・・・
キャバ歴も長くなってきた私はスーツや服装、身につけているアイテムで客のランクをすぐに見分けることができるようになってきた。
セットされた清潔感のある髪型に、整った顔立ち、漂ういい匂い。
目の前の完璧な男にいつものペースを乱されそうになる。
ことねぇが惚れ込むだけある。
それでいて、容姿端麗なことねぇとお似合いだ。
にしても、この男・・・さっきからヘルプの子たちと楽しそうに話してるし、キャバクラ慣れてね?
アメリカで培ったチャラさですか???
「いや、キャバクラ慣れすぎですよね・・・働いてる私がいうのもなんですが減点です。」
「ちょっと待って・・・俺営業マンだし付き合いでくることよくあるし、それは琴音も理解してくれてると思うんだけど。」
「仕事を言い訳に楽しんじゃってるところが気に食わないんですけど~~~。そういうところが信頼できないんですよね~~~~てか呼び捨てすんな。」
私が喧嘩腰に話をする姿に、ヘルプについた子たちは呆然としている。
「ごめん、ごめん・・・」
「もう、超遊んでそうなんですよね。今そんな風にスーツキャラかもしれませんけど私にはわかりますからね。キャバ嬢舐めんな。」
「まあ、確かに学生時代はヤンチャしてましたよ。でも仕事始めてからは一人としか付き合ってないし、長かったし一途だったし」
「いや、その女への未練がことねぇのこと苦しめたんでしょうが。」
「まあ、そうかもしれないけどそこは完全に終わってるし、琴音・・・さんだって長いこと付き合ってた元カレいたでしょう?それに、高校の先輩に会いにいっちゃうし・・・そこはフェアじゃない?その時は流石の俺も妬きましたよ。」
ああ言えばこういう・・・めんどくさ・・・・
「じゃあ聞きますけど、ことねぇのどこが好きなんですか・・・?」
「好きって・・・・いや全部・・・」
そういった彼は、クールだった表情が一変突然顔を赤らめて恥ずかしがりだした。
え・・・?なにそういうキャラなの?
「ことねぇのこと幸せにできるんですか?」
「それはもちろん。」
私は一連の流れに疲れてタバコをふかした。
「俺も一本ちょうだい」
「は?父親になるんだから禁煙しろよ。」
「俺もね、琴音と付き合ってる時は一切吸わなかったんだけど、琴音と離れてから寂しくてまた吸い始めちゃったんだよね~~~。この一本で最後にするよ。」
そう言って口にタバコをくわえた。私は条件反射で彼のタバコにライターで火をつける。
「うわ、まず・・・よくこれ吸えるね。」
「文句言うなら吸わなきゃいいじゃないですか」
「いや・・・まずいから逆にやめられそう・・・」
そのタバコを吸う目元と口元に思わず惹かれそうになる。
そう言えば、私が好きだった人って決まってことねぇのことを好きだったっけ?
「なんかさ・・・琴音と性格似てないね」
「嫌味ですか・・・?」
「いや・・・そのぐらいギャンギャン言ってくれた方がいいのにって思って。」
「私のせいですよ・・・ママが私と年子の弟のかかりっきりだったから、ことねぇはいつも我慢してた。
わがまま全然言わないし、私が喧嘩ふっかけても全然怒らないし、お菓子もすぐ私にあげちゃうし・・・その他にも・・・」
彼は、その話をタバコを味わいながら笑って聞いていた。
「いいね・・・俺一人っ子だから。そう言うの羨ましいわ。だから、俺も琴音とぶつかりながら家族になりたい。」
そう言うと、吸い終わったタバコを灰皿に置いた。
次の日、彼は私の両親に何度も頭を下げた。
あの超絶優しい父親が、あんな風に怒って断固拒否をするとは思いもよらなかった。
その一部始終を、弟の淳とことねぇの後輩の慎也くんがカメラをこっそり設置し録画をして、3人で爆笑しながらみていたことは彼には口が裂けても言えない。
私はことねぇが幸せならそれでいいんだけどね。
なんか、中途半端な男と結婚して悲しむことねぇなんて見たくないんだよ。
でも、この男チャラくて若干クズなところあるけど・・・
ことねぇのこと本気で好きだと思うよ。だから大丈夫だと思う。
幸せにしなかったら私がぶっ殺すから!
後は、ことねぇ次第だよ。
だからこそ心配だった。
3つ年上のことねぇは、私と性格が真反対で優しくておっとりしていて真面目で勉強もできた。
ことねぇは気づいてなかったけれど、よくモテた。
何度、私が妹だからとことねぇへのアタックに協力をさせられたことか。
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そう言えばちゃんと喧嘩したことなかったな・・・
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それから大人になって、キャバの仕事をするようになっていろんな人と関わるうちにその引っかかりが分かったのだ。
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来店頻度が多くなり、私が奥さんの心配をすると、「優しいし、俺に一切文句を言わないから大丈夫」と何の悪びれもなく言った。
キャバクラに行く夫を笑顔で送り出すような妻なんているのだろうか。
私は、これでお金をもらっているわけだから文句も言えないけれど、本当は嫌なはず。
もし、私の旦那がそういう男なら殴っていたと思う。
本当は嫌だと思いながら、その気持ちをぐっと押し殺して笑っているのかな?
その時に私は、母親に怒られようが、私がどんなわがままを言おうが「嫌」という気持ちを押し殺して作り笑顔をすることねぇが浮かんだ。
私、きっとあんな笑顔を見たくなかったんだと思う。
「DV」「ヒモ」「モラハラ」そんな類の男たちは、従順で素直で優しくて流されやすい女を求めて好む。
大好きな姉だからこそ、傷つくところをみたくないし、幸せになって欲しかった。
それなのに・・・
あんな男との子を妊娠したって・・・
別に悪い人じゃなかった。イケメンだし、背も高いし高学歴で、ことねぇが苦労して入った大手企業の上司だし
優しそうだし・・・ことねぇも心から愛してた。
でも、どうしてことねぇから別れを告げて「一人で育てる」なんて言ったのだろうか。
「鈴音・・・ありがとう・・・」
ことねぇは、穏やかな笑みを浮かべながらそう言った。
もし彼を好きで、本気で結婚したいと思っていたならあんな風に強く言って追い返してしまった妹を攻めてもいいはずなのに感謝されている。
「なんか・・・わかんないんだよね。ずっと付き合ってた彼氏に目の前で浮気されるし、ずっと好きだった先輩に裏切られたし、大好きだと思ってた人とはなんかうまくいかないし・・・
私は、ただ本当に普通に結婚して普通に子供産んで幸せに暮らせればいいだけなのに・・・なんでかな?
なんかずっと振り回されてる気がする・・・だからねさっき鈴音がはっきり言ってくれたのすごく嬉しかった。」
ことねぇはそう言って、お腹をさすった。
私も、ことねぇのお腹を優しく触る。つわりで入院をしていてぐったりしていた頃よりもことねぇは顔色も良くなったし、表情も優しくなっていた。そしてお腹も大きくなり、触れれば動くのがわかる。
ずっと一緒に過ごしてきた姉が母親になるのだから不思議な気分だ。
「私はただ、ことねぇには幸せになってほしいだけだよ。」
「ありがとう。私もあのくらい強く言い返せばよかった。」
「いや、無理じゃない?ことねぇが言い返すところなんて想像できない。」
「そんなことないよ。私、変わりたかったんだよね・・・もう流されたくないって・・・だから仕事も辞めたし、課長からも離れた。
まあ、まさか妊娠してるとは思わなかったけれど・・・不安な気持ち反面、すごく嬉しかったんだよね。でも、やっぱりまだ課長のこと好きだけど・・・まだどこかで信用できないんだよね・・・なんか、課長ってアメリカに住んでたし、タワーマンション(親が支払い済み)に住んでてマジでおぼっちゃまだし、あの若さでどんどん出世していくし、庶民派の私と全然価値観が合わないっていうか・・・騙されてるんじゃないかってさ・・・」
後日、私が店に出勤すると私を指名する客がいるという。
先ほどから店内のスタッフがその客を見て騒ついている。どうやら相当なイケメンが来たらしい。
私がいつも通りの挨拶をこなし席に着こうとすると、その男がことねぇを悩ます男だと言うことに気がつく。
先日、私が暴言を吐いたので少し気まずい。
「どういうつもりですか?」私が喧嘩腰に問う。
なんで東京の人がわざわざ田舎の飲み屋街に来ているのかということと、私が働いている店を知っているのかということ。疑問ばかりが頭に浮かぶ。
「いや、まず君から口説こうかと思って・・・ていうのは冗談。とりあえずウィスキーロックで」
その男は、高級なスーツやブランド物の時計やネクタイ・・・
キャバ歴も長くなってきた私はスーツや服装、身につけているアイテムで客のランクをすぐに見分けることができるようになってきた。
セットされた清潔感のある髪型に、整った顔立ち、漂ういい匂い。
目の前の完璧な男にいつものペースを乱されそうになる。
ことねぇが惚れ込むだけある。
それでいて、容姿端麗なことねぇとお似合いだ。
にしても、この男・・・さっきからヘルプの子たちと楽しそうに話してるし、キャバクラ慣れてね?
アメリカで培ったチャラさですか???
「いや、キャバクラ慣れすぎですよね・・・働いてる私がいうのもなんですが減点です。」
「ちょっと待って・・・俺営業マンだし付き合いでくることよくあるし、それは琴音も理解してくれてると思うんだけど。」
「仕事を言い訳に楽しんじゃってるところが気に食わないんですけど~~~。そういうところが信頼できないんですよね~~~~てか呼び捨てすんな。」
私が喧嘩腰に話をする姿に、ヘルプについた子たちは呆然としている。
「ごめん、ごめん・・・」
「もう、超遊んでそうなんですよね。今そんな風にスーツキャラかもしれませんけど私にはわかりますからね。キャバ嬢舐めんな。」
「まあ、確かに学生時代はヤンチャしてましたよ。でも仕事始めてからは一人としか付き合ってないし、長かったし一途だったし」
「いや、その女への未練がことねぇのこと苦しめたんでしょうが。」
「まあ、そうかもしれないけどそこは完全に終わってるし、琴音・・・さんだって長いこと付き合ってた元カレいたでしょう?それに、高校の先輩に会いにいっちゃうし・・・そこはフェアじゃない?その時は流石の俺も妬きましたよ。」
ああ言えばこういう・・・めんどくさ・・・・
「じゃあ聞きますけど、ことねぇのどこが好きなんですか・・・?」
「好きって・・・・いや全部・・・」
そういった彼は、クールだった表情が一変突然顔を赤らめて恥ずかしがりだした。
え・・・?なにそういうキャラなの?
「ことねぇのこと幸せにできるんですか?」
「それはもちろん。」
私は一連の流れに疲れてタバコをふかした。
「俺も一本ちょうだい」
「は?父親になるんだから禁煙しろよ。」
「俺もね、琴音と付き合ってる時は一切吸わなかったんだけど、琴音と離れてから寂しくてまた吸い始めちゃったんだよね~~~。この一本で最後にするよ。」
そう言って口にタバコをくわえた。私は条件反射で彼のタバコにライターで火をつける。
「うわ、まず・・・よくこれ吸えるね。」
「文句言うなら吸わなきゃいいじゃないですか」
「いや・・・まずいから逆にやめられそう・・・」
そのタバコを吸う目元と口元に思わず惹かれそうになる。
そう言えば、私が好きだった人って決まってことねぇのことを好きだったっけ?
「なんかさ・・・琴音と性格似てないね」
「嫌味ですか・・・?」
「いや・・・そのぐらいギャンギャン言ってくれた方がいいのにって思って。」
「私のせいですよ・・・ママが私と年子の弟のかかりっきりだったから、ことねぇはいつも我慢してた。
わがまま全然言わないし、私が喧嘩ふっかけても全然怒らないし、お菓子もすぐ私にあげちゃうし・・・その他にも・・・」
彼は、その話をタバコを味わいながら笑って聞いていた。
「いいね・・・俺一人っ子だから。そう言うの羨ましいわ。だから、俺も琴音とぶつかりながら家族になりたい。」
そう言うと、吸い終わったタバコを灰皿に置いた。
次の日、彼は私の両親に何度も頭を下げた。
あの超絶優しい父親が、あんな風に怒って断固拒否をするとは思いもよらなかった。
その一部始終を、弟の淳とことねぇの後輩の慎也くんがカメラをこっそり設置し録画をして、3人で爆笑しながらみていたことは彼には口が裂けても言えない。
私はことねぇが幸せならそれでいいんだけどね。
なんか、中途半端な男と結婚して悲しむことねぇなんて見たくないんだよ。
でも、この男チャラくて若干クズなところあるけど・・・
ことねぇのこと本気で好きだと思うよ。だから大丈夫だと思う。
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後は、ことねぇ次第だよ。
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