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プロローグ
逢坂蘭6
しおりを挟むその日は、卒業式の前日でした。私は彼から参考書や高校で使う道具のお下がりが欲しいという口実で彼の家に行きました。
お母さんと昴と3人でお茶をしたのち、お母さんは夕飯の買い出しに出かけました。おじいちゃんとおばあちゃんは二人で旅行に言っており、お父さんが仕事でいません。家の中は二人っきりです。
お母さんは、昴に「蘭ちゃんに変なことしないでね」と何度も念を押し、出かけて行きました。お母さんは私たちが二人きりになる時に大体そう言って行きます。
私はつい最近まで「変なこと」の意味がわかっていませんでした。それは子供ながらの喧嘩や意地悪の類だと考えていたのですが、大人に近づくに連れて、アダルトビデオの中で繰り広げられるような行為であることを知りました。
約束通り、私は昴の部屋に入り綺麗に整頓された本棚から欲しいものを取り出しました。その横で入らなくなった教科書を昴は段ボールにつめて行きます。時折、「これいる?」と確認をしてくれました。好きな人のものはなんでも欲しくなり、ノートに並んだ綺麗な字も愛おしくなります。気怠そうにあくびをしながら作業をする様子も、今日と明日しか見られない制服姿も…
この学校では、第二ボタンをもらうのではなく好きな人にネクタイをもらうという風習があり、自然な流れで、そんな要求をしてみたらどんな反応をするのでしょうか。二人だけの空間で、昴のお母さんに言われた「変なこと」と部室から発見されたDVDのパッケージが紐付けされてしまのです。いつから私はこんなことを考えるようになったのでしょう。昴の大きな手も、綺麗な横顔も、もう私の知っている昴ではなく、大人の男になっているのです。
「よし、こんなもんか。かーちゃんに疑われるからもう帰れよ。俺はゲームの続きで忙しいから。」
昴は私を追い出そうとします。
「私は、昴に変なこと・・・されてもいいと思ってるよ。それにまだ振られる理由も聞いてない。」
胸に抱えた参考書や、ノートをぎゅうと抱え込みながら言った私に、昴は呆れながら返答しました。
「ばかなこと言ってんじゃねーよ。かーちゃんに殺されるわ。かーちゃんどころかお前のかーちゃんととーちゃんにも殺されるわ。おまけに兄貴にも・・・」
私は、今まで生きてきた中で、自分のことを積極的だなどと思ったことはありません。基本的に男子に自分から話かけるようなことはしないし、自分から告白をしたのは昴に対してが初めてです。でも、今日のきっかけを逃してしまったなら、昴は大学生になって新しい人たちと出会って、恋をするのでしょう。その相手は、私の大好きな昴とキスをして、抱きしめられて私が言われたかった『大好き』『愛してる』などの言葉をかけてもらえるのです。それらを耐えられるほど、私は強くありません。
私は、抱えていた参考書等を床に置いて昴の大きな手に触れます。キスの仕方は分かりません。だけれど勢いに身を任せて、父や母が幼い頃に私にしてくれた頬へのキスのように軽く昴の唇に触れました。目を閉じていた私は昴の表情を見ることができませんでした。これで、本当に嫌なら私を思いっきり振り払うでしょう。それでも、昴は振り払うことはありませんでした。
「最後のお願いでいいから・・・恋愛感情もなくていい・・・初めては昴がいいの・・・」
昴は何も言わずに、私をベッドに突き飛ばしてネクタイをゆるめました。目を閉じて体を震わすことしかできません。どうすればいいかなんて一切わからないのです。
しかし、彼は私の唇を奪うと見せかけて鼻で笑いました。
「お前となんてできるわけないじゃん。アホか・・・」冷たい声でそう吐き捨てて私の体を起こしました。
その後、恥ずかしがる様子もなく、私の目の前で制服から部屋着に着替えます。部活の途中でTシャツを着替えることがあるので上半身は見慣れていますが、いつも以上に色っぽく見えてしまうのです。私は欲求不満なんでしょうか。
「胸が小さいから?」
思い当たる自分のコンプレックスを呟いてみますが、それに対して昴は怒り気味に返答します。
「ちげーよ。もう、いいから帰れって・・・」
私が一体昴に何をしたというのでしょう。一切女としてみてくれず、恋愛感情も持ってくれないのです。
ずるいと分かっていても、私の瞳からが涙がこぼれ落ちました。その涙に昴は動揺して私の頭を撫でました。
「分かった分かった。ごめんって・・・。でも、前にもいった通り俺たちは家族だ。恋愛感情は持てない。」
冷たい声で言った昴の目を見つめましたが、昴はすぐに目を逸らしました。『何かを隠している・・・』これは女の勘というものだと思います。私は、詮索することも体の関係を求めることもやめて、荷物を持って昴の部屋を出ました。
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