上 下
6 / 8
プロローグ

逢坂蘭6

しおりを挟む
 
その日は、卒業式の前日でした。私は彼から参考書や高校で使う道具のお下がりが欲しいという口実で彼の家に行きました。
 お母さんと昴と3人でお茶をしたのち、お母さんは夕飯の買い出しに出かけました。おじいちゃんとおばあちゃんは二人で旅行に言っており、お父さんが仕事でいません。家の中は二人っきりです。
 お母さんは、昴に「蘭ちゃんに変なことしないでね」と何度も念を押し、出かけて行きました。お母さんは私たちが二人きりになる時に大体そう言って行きます。
 私はつい最近まで「変なこと」の意味がわかっていませんでした。それは子供ながらの喧嘩や意地悪の類だと考えていたのですが、大人に近づくに連れて、アダルトビデオの中で繰り広げられるような行為であることを知りました。
 約束通り、私は昴の部屋に入り綺麗に整頓された本棚から欲しいものを取り出しました。その横で入らなくなった教科書を昴は段ボールにつめて行きます。時折、「これいる?」と確認をしてくれました。好きな人のものはなんでも欲しくなり、ノートに並んだ綺麗な字も愛おしくなります。気怠そうにあくびをしながら作業をする様子も、今日と明日しか見られない制服姿も…
 この学校では、第二ボタンをもらうのではなく好きな人にネクタイをもらうという風習があり、自然な流れで、そんな要求をしてみたらどんな反応をするのでしょうか。二人だけの空間で、昴のお母さんに言われた「変なこと」と部室から発見されたDVDのパッケージが紐付けされてしまのです。いつから私はこんなことを考えるようになったのでしょう。昴の大きな手も、綺麗な横顔も、もう私の知っている昴ではなく、大人の男になっているのです。

 「よし、こんなもんか。かーちゃんに疑われるからもう帰れよ。俺はゲームの続きで忙しいから。」
 昴は私を追い出そうとします。

 「私は、昴に変なこと・・・されてもいいと思ってるよ。それにまだ振られる理由も聞いてない。」

  胸に抱えた参考書や、ノートをぎゅうと抱え込みながら言った私に、昴は呆れながら返答しました。 
 
「ばかなこと言ってんじゃねーよ。かーちゃんに殺されるわ。かーちゃんどころかお前のかーちゃんととーちゃんにも殺されるわ。おまけに兄貴にも・・・」

 私は、今まで生きてきた中で、自分のことを積極的だなどと思ったことはありません。基本的に男子に自分から話かけるようなことはしないし、自分から告白をしたのは昴に対してが初めてです。でも、今日のきっかけを逃してしまったなら、昴は大学生になって新しい人たちと出会って、恋をするのでしょう。その相手は、私の大好きな昴とキスをして、抱きしめられて私が言われたかった『大好き』『愛してる』などの言葉をかけてもらえるのです。それらを耐えられるほど、私は強くありません。

 私は、抱えていた参考書等を床に置いて昴の大きな手に触れます。キスの仕方は分かりません。だけれど勢いに身を任せて、父や母が幼い頃に私にしてくれた頬へのキスのように軽く昴の唇に触れました。目を閉じていた私は昴の表情を見ることができませんでした。これで、本当に嫌なら私を思いっきり振り払うでしょう。それでも、昴は振り払うことはありませんでした。
 「最後のお願いでいいから・・・恋愛感情もなくていい・・・初めては昴がいいの・・・」

 昴は何も言わずに、私をベッドに突き飛ばしてネクタイをゆるめました。目を閉じて体を震わすことしかできません。どうすればいいかなんて一切わからないのです。
しかし、彼は私の唇を奪うと見せかけて鼻で笑いました。
 「お前となんてできるわけないじゃん。アホか・・・」冷たい声でそう吐き捨てて私の体を起こしました。

 その後、恥ずかしがる様子もなく、私の目の前で制服から部屋着に着替えます。部活の途中でTシャツを着替えることがあるので上半身は見慣れていますが、いつも以上に色っぽく見えてしまうのです。私は欲求不満なんでしょうか。

 「胸が小さいから?」
  思い当たる自分のコンプレックスを呟いてみますが、それに対して昴は怒り気味に返答します。

 「ちげーよ。もう、いいから帰れって・・・」

 私が一体昴に何をしたというのでしょう。一切女としてみてくれず、恋愛感情も持ってくれないのです。
 ずるいと分かっていても、私の瞳からが涙がこぼれ落ちました。その涙に昴は動揺して私の頭を撫でました。
 「分かった分かった。ごめんって・・・。でも、前にもいった通り俺たちは家族だ。恋愛感情は持てない。」
冷たい声で言った昴の目を見つめましたが、昴はすぐに目を逸らしました。『何かを隠している・・・』これは女の勘というものだと思います。私は、詮索することも体の関係を求めることもやめて、荷物を持って昴の部屋を出ました。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

最後の恋って、なに?~Happy wedding?~

氷萌
恋愛
彼との未来を本気で考えていた――― ブライダルプランナーとして日々仕事に追われていた“棗 瑠歌”は、2年という年月を共に過ごしてきた相手“鷹松 凪”から、ある日突然フラれてしまう。 それは同棲の話が出ていた矢先だった。 凪が傍にいて当たり前の生活になっていた結果、結婚の機を完全に逃してしまい更に彼は、同じ職場の年下と付き合った事を知りショックと動揺が大きくなった。 ヤケ酒に1人酔い潰れていたところ、偶然居合わせた上司で支配人“桐葉李月”に介抱されるのだが。 実は彼、厄介な事に大の女嫌いで―― 元彼を忘れたいアラサー女と、女嫌いを克服したい35歳の拗らせ男が織りなす、恋か戦いの物語―――――――

ドSな彼からの溺愛は蜜の味

鳴宮鶉子
恋愛
ドSな彼からの溺愛は蜜の味

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

お知らせ有り※※束縛上司!~溺愛体質の上司の深すぎる愛情~

ひなの琴莉
恋愛
イケメンで完璧な上司は自分にだけなぜかとても過保護でしつこい。そんな店長に秘密を握られた。秘密をすることに交換条件として色々求められてしまう。 溺愛体質のヒーロー☓地味子。ドタバタラブコメディ。 2021/3/10 しおりを挟んでくださっている皆様へ。 こちらの作品はすごく昔に書いたのをリメイクして連載していたものです。 しかし、古い作品なので……時代背景と言うか……いろいろ突っ込みどころ満載で、修正しながら書いていたのですが、やはり難しかったです(汗) 楽しい作品に仕上げるのが厳しいと判断し、連載を中止させていただくことにしました。 申しわけありません。 新作を書いて更新していきたいと思っていますので、よろしくお願いします。 お詫びに過去に書いた原文のママ載せておきます。 修正していないのと、若かりし頃の作品のため、 甘めに見てくださいm(__)m

教え子に手を出した塾講師の話

神谷 愛
恋愛
バイトしている塾に通い始めた女生徒の担任になった私は授業をし、その中で一線を越えてしまう話

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

ウブな政略妻は、ケダモノ御曹司の執愛に堕とされる

Adria
恋愛
旧題:紳士だと思っていた初恋の人は私への恋心を拗らせた執着系ドSなケダモノでした ある日、父から持ちかけられた政略結婚の相手は、学生時代からずっと好きだった初恋の人だった。 でも彼は来る縁談の全てを断っている。初恋を実らせたい私は副社長である彼の秘書として働くことを決めた。けれど、何の進展もない日々が過ぎていく。だが、ある日会社に忘れ物をして、それを取りに会社に戻ったことから私たちの関係は急速に変わっていった。 彼を知れば知るほどに、彼が私への恋心を拗らせていることを知って戸惑う反面嬉しさもあり、私への執着を隠さない彼のペースに翻弄されていく……。

練習なのに、とろけてしまいました

あさぎ
恋愛
ちょっとオタクな吉住瞳子(よしずみとうこ)は漫画やゲームが大好き。ある日、漫画動画を創作している友人から意外なお願いをされ引き受けると、なぜか会社のイケメン上司・小野田主任が現れびっくり。友人のお願いにうまく応えることができない瞳子を主任が手ずから教えこんでいく。 「だんだんいやらしくなってきたな」「お前の声、すごくそそられる……」主任の手が止まらない。まさかこんな練習になるなんて。瞳子はどこまでも甘く淫らにとかされていく ※※※〈本編12話+番外編1話〉※※※

処理中です...