御曹司と地下アイドル〜一線を越えた夜〜

これからもアイドル

拓也視点

５年後

時刻は１６時半。
車を３０分ほど走らせて保育園に向かう。
小走りで玄関に向かうと、「パパ～～～」と足にしがみつく息子。

「おかえり」と抱き上げると、日に日に増していく重みを実感する。

「今日、涼也りょうやくんは大好きなりのちゃんといっぱい遊んでいたね」と担任の先生が言う。

「今日ね、りのちゃんと大きくなったらけっこんしようねって約束したの」

「お前、なかなかチャラいな。しつこい男は嫌われるから気をつけろよ。」

「パパいつも、ママに抱きついててしつこいって言われてるじゃん。」


俺は、結婚して父親になった。息子は現在３歳。
喋れるようになってからというものの自分に似ている部分が少しムカつくけれど可愛い。
変わらずに今の仕事を続けているが、奥さんが仕事の時だけ、仕事を早く切り上げて迎えにいく。
今日は、夕方から予定があるので実家に寄り親父を車に乗せる。

「じいじだよ～～元気だったか？」
デレデレの親父は気持ち悪いが、奥さんと息子のおかげで険悪だった親父との関係は随分良好になった。
母親も同じく。

二人を乗せて、目的地の駐車場に向かう。

通路を歩き、部屋にたどり着くと息子の涼也は一目散にその場にいる母親の元へ走り出す。

優しく抱き上げて彼女は俺をみて微笑んだ。

「ごめんな。どうしても行くって聞かなくて」

「ううん、私も会いたかったし・・・義父さん、義母さんもありがとうございます。」

「がんばってね！！！」
と、妻を励ました。

スタッフが、「スタンバイお願いします」と楽屋に告げに来た。

「いつものお願い」と笑顔でいう妻の唇にキスをする。

「いってらっしゃい」
と頭を撫でた。

すぐに俺も、着替えをして関係者席に座る。
歓声と、軽快な音楽のボリュームが上がり、ステージの上にあの頃と変わらない奏が立ち。

俺の大好きな笑顔で歌を歌う。

ここまでの経緯をまとめると、俺たちの結婚の報道が出た後、『fairy powder』の動画が注目される。
理由は、奏の育ての親である「masa」という作曲家の作った新曲が大ヒットしたドラマの主題歌に起用されるとあらゆるランキングの一位を独占。

過去に投稿していた楽曲も注目を浴びるのだが、その中に『fairy powder』へ楽曲を提供をした曲が含まれ、奏の結婚報道が重なり、それと同時に「この子は誰？」と奏も世間から注目を浴びることとなったのだ。

それもそのはず俺が惚れ込んだアイドルなのだから。
複雑な気持ちではあるが・・・

出産を機に、会社は退職して息子が１歳になった頃に、奏は突然「歌いたい」と言い出して俺も応援することにしたのだ。
運よくすぐに事務所も決まり、現在は母親でありながらライブハウスを中心にソロで歌手活動をしている。

アイドルの頃に比べると男性ファンが減り、２０代前後の女性や中高生を中心に人気があるため俺も安心して彼女を応援している。
曲調も、ポップな典型的なアイドルのサウンドではなく、『masaさん』が前面プロデュースをしているため少しロックなアップテンポの曲を歌っている。

一度、ステージに立てば、キラキラと輝いてあの頃の「かのん」が居続けている。
ステージを降りれば、俺の妻であり、息子の涼也の母である「奏」に戻るのだ。


（それって超、贅沢じゃない？）

奏がいつまで歌い続けるかは分からないけれど、俺はずっと変わらずに一番のファンだと思う。

あの日、一線を越えたことで始まった俺たちの恋愛はこれからも続いていく。

二人の命が尽きるその日まで、俺は奏のファンであり続けるだろう・・・・