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許されない二人

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いつも通り、出勤をしてパソコンとにらめっこをする。

「桐山さん」と私を呼ぶ拓也は、もうあの頃のような笑顔を私に向けてくれなくなってしまった。

「これ注文しておいてもらって良い?」

そう言って渡されたメモを受け取るときに、手が触れ合った。
その温度と感覚・・・それだけでも、胸が苦しい。
何度も握手を交わして元気をもらったこと。
何度も抱きしめられて、頭を撫でてくれたこと。
そんな思い出ばかりが蘇る。

もうすぐ婚約するのだろうか・・・相手はどんな人なのだろう。
またいつか触れ合える時は来るのだろうか。

(無理だよね・・・もう・・・諦めよう。私も社長令嬢に生まれたかった。)

信雪くんからの連絡は無視するも彼は一方的に、メッセージを送りつけてくるという強いメンタルの持ち主だった。
金曜日業務終了後には返信催促の電話が来た。


「もう、行かないってば・・・」

「お願い。美味しい料理作るから・・・」

「うるさい!しつこい!」

一向に電話を切らせてくれない信雪くんからの通話がようやく終了してため息をつくと背後に気配を感じて振り返る。
寂しそうな目をした拓也が、私の腰に手を回す。

「彼氏できたの?」

「違います・・・幼なじみです。」

「幼なじみでそんな親しそうな男なんていたっけ?奏がそんなふうに話してるの初めて聞いた。」

拓也は、怒っている。冷たい声でそう言って私の手を引く。
その瞬間に、一緒に過ごしたことを、彼に愛されたことを思い出す。
何も言わずに、ついていくとラブホテルの前にたどり着く。

「何?」
私は、問いかける。

「ただ、二人で話したいだけ」

「別にホテルじゃなくてもいいじゃん」

「そうだね。嫌なら帰ればいいんだよ」
と言いながらも私の手を離そうとせずに指を絡めて恋人つなぎをする。
周りから見ればただのバカップル。

私も離せばいいのに、ムキになってついていく。
ラブホテルの中もどうなっているのか気になるし、
久しぶりに間近でみた横顔に不覚にもうっとりとしている。

(結局、拓也のこと大好きじゃん・・・)





部屋について、扉がしまった瞬間に拓也は涙を流しながら私を抱きしめる。

「ずっとこうしたかった・・・」

クールな拓也が感情的になれば、私も抑えていた感情が溢れてしまう。
あんな冷たい態度をとったくせに簡単に流されてしまう。


「私も・・・」

不倫や浮気は、汚らわしいものだと思ってはいたけれど、今私たちがしていることも同等だ。

『好き・・・』『愛している』とそんな言葉をぶつける拓也と抱き合えばまた離れられなくなってしまう。

本能のままに重ね合わせた体。
拓也の体温。
気絶しそうなくらいに息が上がる。

「このまま帰したくない・・・ずっと一緒にいたい・・・」

(ずるい・・・ずるすぎる・・・忘れようとしてるのに、忘れられないようにしてくる。)

このまま拓也と一緒にいられる方法はあるのだろうか。
絶えず抱こうとする拓也は、コンドームを開封する。

このまま私たちの子供ができたら、結婚を認めてもらえるかもしれない。
もし仮に、拓也と結婚ができなかったとしても拓也の子供を産みたい。
これは、私の本能だ。

拓也の手をとって、首を振る。

「もう、付けなくていい・・・拓也との子供がほしい・・・私一人で育てる・・・」

そう言った私の肩を掴んだ拓也は、

「だめに決まってるでしょ。俺だって一番にそれを考えたよ。
3人で仲良く暮らしていければいいって思った。
だけど、もし親父が降ろせって言ったらとか、産んでも子供だけ取り上げられてしまうかもしれない。
俺はさ、みんなに祝福されて奏と結婚したいんだ。家族にも、職場にも、ファンの人たちにも・・・順序はしっかり守りたい。
それに、かのんちゃんがデキ婚なんて嫌だし・・・」

頭を優しくなでて頬にキスをする。

「今は、一緒にいられないけど、あくまで結婚を反対されただけ・・・恋愛は自由。
親父だっていろんな女と遊んでるわけだし・・・だから、今まで通り俺を彼氏にして欲しい・・・
他の男と付き合わないで欲しい・・・」

頷いた私の左手に、リングをはめた。

「これ覚えてる?」

恐る恐る問いかける拓也に、私は微笑む。
デートの時に二人で注文した結婚指輪。
仕事の時以外は、これからつけることにしようと心に決める。

一緒にいられる時間はごくわずかだけれど、私は幸せだった。
こそこそと、待ち合わせをして食事をしてホテルへ行く。
毎日ではなくて、週末やノー残業デイの水曜日に。


この幸せがいつまで続くのか分からない。

分からないけれど拓也のことを信じて待つことにした。
信雪くんからのお誘いは、きっぱりと断って週末は以前のように拓也と過ごした。

結局、私は拓也なのだ。

それを一途と捉えるのか、わがままだと言われてしまうのか・・・

拓也の手を振り払って、他の男を忘れられるほど私は潔い女ではなかったらしい。

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