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許されない二人

(拓也視点)2

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俺は、甘く考えていた。
俺の父親なのだから、俺がこんなに好きなのだから、きっと親父も気に入ってくれるだろうと…

こんなにかわいいのだから、絶対にかわいがってくれるだろうと…

しかし、親父は一筋縄には行かなかった。

二人で実家へ行くと、テーブルの上に奏に関する調査報告書を置かれていた。

「父親は、刑事でも上の方だったけど、その父親とは別居していて女で一つで育てられたと・・・閑散とした商店街の古びた元定食屋をスナックにして働いている母親か・・・12歳からアイドルをやらされてたって・・・かわいそうだね。自分の稼ぎがないからって子供に働かせて…」

親父は顔をしかめながら奏に言う。

「アイドル活動は自分の意思です。」

「その割には結局売れない底辺みたいなアイドルだったんでしょ。やる気あったの?」

「良い加減にしろよ」と言い返した俺の手を奏は強く握った。
言い返しても無駄だと察したのだろう。


奏はその後も言われたい放題言われ続けた。その手は微動だにせず真っ直ぐに親父の目を見つめていた。


奏のお父さんって刑事だったことに少し驚きだけどね。
だから、真面目で心の強い子なのかなと思ってしまう俺。

嫌味を言い続けた親父に相槌を打ちながら、最終的に、「ですよね・・・認めてもらえないってわかってました。諦めます。お忙しい中すみませんでした。」
ときっぱりと言い、奏はいつものアイドルスマイルを親父に見せた。

「拍子抜けだな。無駄な時間を使わせやがって…やっぱり短大しか出てないようなバカな女だな。」
とため息をついた親父は、続けて

「今、一緒に暮らしているそうだな。
名義を変えてお前のものではあることは確かだが、もう先週の縁談の話が両家で進んでいるんだ。
出て行ってもらいなさい。
お金なさそうだから住む部屋は紹介してやっても良い。
1週間以内に出て行かないなら法的措置をとる。」

と最後に言い放って俺たちは追い出された。

車に乗り込んで走り出した瞬間に、奏の涙がポロリとこぼれ出す。

きっと、ずっと堪え続けていたのだろう。

「ごめん・・・私歩いて帰るから・・・」

「ここから距離あるから・・・今後のこと話し合おう・・・」

「無理・・・一緒にいたくない・・・」

「今降りたら危ないから、家に帰ってゆっくり話そう。」

俺は奏の頭を優しく撫でて、二人で暮らすマンションへと車を走らせる。

涙で視界が滲んで、前の車のライトが歪んで見える。

どんなに家賃が高くても、最新の設備が充実していても、一人で暮らすのは寂しかったこの家も奏と過ごすようになってから、楽しくて、快適で安心できる場所へと変わっていった。

それはこれからもずっと続くと思っていたけれど、一度決めたことは曲げない頑固な親父のことだからそう簡単にはこの恋を認めてくれないと思うし、奏が出ていかなければそれなりのことをしてくると思う。

すすり泣く奏の姿を横目に見ながら、どんな言葉をかければいいか、親父にどう言えば認めてもらえるかを考える。


「親父のことは本当にごめん・・・昔からああ言う人だから・・・」

「違うよ・・・別にあのぐらいは言われると思ってたから覚悟してた。だけど…縁談なんて聞いてない・・・」

奏の泣いていた理由にはっとする。

「あれは親父が強引に話を決めてきただけだよ。俺はその人と結婚する気はない。」


奏の小さくて、滑らかな手を握る。

何度も握手をしてもらった遠い存在だったのに、今は俺だけが独り占めできるという優越感を感じていたのに、このまま手を離したら遠くへ行ってしまいそうな気がした。

奏がいてくれれば俺はそれでいい。

タワーマンションじゃなくても、1Kの小さなボロアパートでも、お金がなくても奏がいてくれれば俺は幸せだ。
それに、今の仕事は親父への反抗とかのんへ貢ぐためにやっている副業のようなものだし、この給料だけでも奏を養って行くことはできる。

どんなに反対されても二人で生きていけばいい。




部屋に到着すると、奏はすぐに冷蔵庫を見ながら

「あと1週間、なに食べたい?好きなものなんでも作るよ・・・あと、調味料とか一応置いておくけれど使わないものは捨てていいからね・・・」

無理に作った笑顔を浮かながら、奏は1週間で出ていくことを前提で俺に問う。

「まだ、決まったわけじゃない。親父には俺から説得するから」

「私は無理だよ。相応しくない・・・親が決めた人と結婚した方がいいに決まってる。
だから、もうやめよう・・・拓也と私は住む世界が違うの・・・」

「なんだよそれ・・・俺が何年片想いしてきたと思ってんの?」

「それはアイドルとしてでしょ?そのうち私のことなんて飽きるから。」

その言葉に、苛立った俺は冷蔵庫の前に立つ奏の手を強く引っ張ってベッドに押し倒す。

「やめて・・・なにするの?」

「どうすれば、わかってくれる?俺が奏をどんなに愛してるか・・・」

キスをして体に触れて行く、いつもなら顔を赤らめて可愛い声で喘ぐのに奏はただ涙を流し続ける。

嫌がっているとわかっているのに、止められない俺と優しいから仕方なく受け入れる奏。

奏は、感じることもなく抵抗もしない。
まるで人形のように。

こんなことをしても、嫌われてしまうと分かっているのに、離れることが怖くてせめて体だけでもと繋がりを求めてしまう。

その肌の感触も、匂いも、声も、表情も自分の体に刻み付ける。

俺だけを見て欲しい。

他の男を知らないまま俺と一生一緒にいて欲しい。



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