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第12話 いざ死の国へ(2)
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ユハ帝国の皇帝の怒りは、これまでにないほど燃えたぎっていた。
「議長! 次々と防衛ラインが突破されているではないか!」ウスマン皇帝がどなる。「もう我慢の限界だ!」
サハエル議長は怒る皇帝にびくつきながらも、どうにか言い訳を考えた。「皇帝閣下、我々はですね、敵国の様子を見ておりまして――」
「ふざけたことを言うな! あの『デイブレイク』という杖士たちを追放したのが間違いだったのだ!」
「まさか! そんなことはございません」議長は必死に否定して認めようとはしない。「デイブレイクやらデストロイヤーやら、杖士どもにはもううんざりですよ。一流の剣士たちを雇いますので――」
「このスペイゴール大陸で最も戦闘能力に長けている戦士は、杖士しかいない!」
「しかし皇帝閣下――」
議長はもう何も言えない。
確かにこの大陸では明らかに杖士の戦闘能力が抜きん出ているのである。彼らは戦闘のスペシャリストだ。
議長もデイブレイクが無能ではなかったことに気づき始めていた。
「議長!」
ここで伝達係が戻ってきた。
「なんだ?」議長は少し安心した。皇帝とこのまま二人きりだと殺されていたかもしれない。
「追放した杖士たちの情報が入ってきました」
「ほう?」
「彼らはこの前、ここから遥か南の方にある闘技場での戦いに参加したようです」
「それで?」
「彼らが三人して負けた相手がいたようでして――」
議長は思わずにやけた。「ほうほう。面白い。どんなやつだ?」
「ドラゴンキラーという剣士です」伝達係が答える。「あそこの闘技場ではかなり有名な戦士のようでして」
「面白そうではないか」今度は皇帝が言った。「今すぐにその剣士とやらを連れてこい!」
「しかし、どこにいるのかまったく――」
「いいから行ってこい!」議長がどなった。「なんとしてでもここに連れてこい。もしお前がそのまま逃げ出したりしたら……そのときはわかっているな?」
「おーい! ジャック! いるか!?」
アビス王国の牢獄では、クリスが一人でジャックを捜索していた。
「いるなら返事をくれ!」
牢屋には多くの魂が入っていたが、どれも生きているときのままの容姿のようだ。
それならジャックもすぐにわかるだろう。黒人で、黒い瞳の、体格のいい男だ。
クリスは牢獄を歩き続けた。
「ここ、すごい不気味」シエナが言った。
アキラたち三人も、どうにかアビス王国にくることができていた。
「ジャックはここによくきていたらしい」アキラがつぶやく。「ここに名前が刻んである」
ランランはぶるっと身震いした。「よくこんなところに通えたよね。あたしは絶対無理!」
「だろうな」
「なんだか怖い」シエナがわざとらしくそう言い、アキラの手を握る。「早くジャックを見つけて帰りましょう」
アキラは急に手を握られたことにドキッとした。しかし、これはただ怖いから手を繋いでいるだけだ、と自分に言い聞かせた。
「ジャックを見つけても、連れて帰るまでが一苦労だ」
「魔王に見つからないで帰らなくちゃいけないんでしょ?」ランランが聞いた。「あの本によれば、魔王はすっごく怖い人みたいだし、帰り道も一つしかないって」
「ジャックはここのスペシャリストだ」アキラが言った。「まずはジャックを見つけ、詳しいことを聞こう」
クリスは牢獄を出て、とうとう王国全土を捜索の対象としていた。
「ジャックは確かにたくさんのいい行いをしてきたな」小さくつぶやく。「牢獄に入れられるわけがないか」
アビス王国は広大な王国だ。
スペイゴール大陸より、遥かに大きい。そんな大陸を歩いて移動し、小さな青年を見つけるという任務は、不可能なことに思える。
王国をしばらく歩いていると、見慣れた三人組を見つけてしまった。
「アキラ!? ランランにシエナまで! どうしてここにいるんだ?」
「ジャック捜しに決まってんだろ」アキラが答える。「やっぱりクリスもここにいたか」
「瞑想でここまできたのか?」
「クリスの部屋にスペイゴールの書が落ちてたんだ。おかげでここまでこれたってわけ」
ランランはクリスに会えて嬉しそうだった。「よかった! もう会えないかと思ったよ」
「そんなことないさ」クリスが笑いながら言う。「僕はたとえ一人でもやり遂げていたよ」
「それはちょっとむかつくな」アキラが言った。「俺たちなんて、いらないのか?」
「そうよね」シエナがさらにアキラにくっつく。
アキラは柔らかいものがあたっていることに気がついたが、何も言わなかった。
「ごめん。ちょっとかっこつけただけだよ」クリスが微笑む。
ジャックはここがどこなのかわからなかった。
(俺、死んだのか)
ただそういう感覚だけははっきりしていて、まだ意識が覚醒していない。
(ここはアビス王国なのか?)
はっとして周囲を見渡す。
周囲には燃え盛る炎に、闇のエネルギーに、まさしくアビス王国だと確信できた。
(ここは俺の庭みたいなところだ。牢獄に入れられるよりはましだな)
ジャックは自分の命を犠牲にしてまで他人の命を救った。さらにその他人というのも、その日に会ったばかりの人間だ。
(腕を失う苦しみがわかるから、あいつを助けたのかもしれないな)ジャックはふと思った。
ジャックに助けられたロジャーは腕を怪我していた。ジャックが助けなければ、腕を失う、もっと悪ければ命まで失うところだったのだ。
その行いが評価されたのかもしれない。また、ジャックは魔王の友人だ。それも理由のひとつにはあるだろう。とにかくジャックは感謝しておいた。
(アビス王国ライフを楽しむか)
ただひとつ気がかりだったのは、残された四人の存在だ。
(俺のせいで解散とか、仲間割れとかしてないといいが。ランランは頑固だし、アキラは機嫌が悪くなると最悪。クリスは正義感からか自分を責め過ぎることがある。シエナは三人をどうにか落ち着かせようとして気疲れするかもしれない)
ジャックは笑った。かなり久しぶりの笑みだ。
(こうやって考えると俺、チームのことよく考えてたんだな)
別れも告げないまま死んでしまったのが悔やまれる。
そのとき、聞こえるはずのない声が聞こえた。
「おーい! ジャック!」「ジャック!」「やった! ジャックだ!」「よかった」
声のする方を振り向くと、いつもの四人がこっちに走ってきていた。
「まさか……そんなはずは……」
アキラが飛びついてきた。「かっこつけやがって! この野郎!」
「おいおい」そうは言いながらも、なんだか嬉しい。「みんなも死んだのか?」
「そんなわけないだろ」クリスが微笑んだ。「瞑想だよ、瞑想」
「どこで習った? ここにくるには特殊な訓練を――」
「スペイゴールの書」ランランが答える。「やっと役に立ってくれたよ」
「なるほど」ジャックは感心した。「あの瞑想を、本の文字を読んだだけでマスターするとは――流石デイブレイクのメンバーだ」
「だろ?」アキラが言う。
「あの書を解読したのは私でしょ」シエナが言った。
「そうだっけ?」
「とにかく、アジトに帰ろう!」とクリス。「いや、まずは生者の世界に」
「だな」アキラがうなずいた。
「でも、魔王に気づかれないようにジャックを連れ出さないと」ランランが言った。「死者を生き返らせるには、生者が死者の体を触れながら『光の道』を通って帰るしかないみたい」
「それも、魔王に気づかれずにな」アキラが補足した。
「アキラ、ジャックの手を取ってくれ」クリスが言った。
「オッケー」
「ねえ」
シエナはなぜか嫉妬していた。別にジャックは男だからいいのかもしれないが、今アキラの手を独占しているのは自分だ、と。
「やっぱり僕が」クリスはお察しがいい。
「ありがと」シエナは小さく言った。
「え、別に俺が――」
「行こ」シエナが言う。
「あーーああ。わかった」
「それじゃあ、魔王に気づかれないように気をつけて歩こう」クリスが言う。
「それならたぶん大丈夫だろう」ジャックはあごをかいた。「魔王と俺は友人だ。魔王は俺に気づいたとしても、見逃してくれるはず」
「羨ましいな! 俺も魔王と友達になってもいいか?」
「だめだ」とクリス。「というか、それは今度にしてくれ」
「冗談だ。魔王と友達になった自分が想像できない」
「早く行きましょう」シエナが急かした。少しずつ発言の自信が出てきているようだ。
そうして、デイブレイクのメンバーは、また五人となった。
★ ★ ★
~作者のコメント~
どうでしたか?
シエナがどんどん積極的になってきていることはともかく、ジャックの感情が読み取れる、感動的な回だったんじゃないかと思っています。
まあ、自己満足なのかもしれませんが。
ユハ帝国の状況もわかりましたし、ドラゴンキラーの再登場にも期待ですね。基本的に一回登場したキャラクターは後で登場させたいと思っています。
ここまでなかなかヒヤヒヤハラハラな展開が続いたので、次の回はゆったりとしたほのぼのな回にしたいと思います。お楽しみに!!
「議長! 次々と防衛ラインが突破されているではないか!」ウスマン皇帝がどなる。「もう我慢の限界だ!」
サハエル議長は怒る皇帝にびくつきながらも、どうにか言い訳を考えた。「皇帝閣下、我々はですね、敵国の様子を見ておりまして――」
「ふざけたことを言うな! あの『デイブレイク』という杖士たちを追放したのが間違いだったのだ!」
「まさか! そんなことはございません」議長は必死に否定して認めようとはしない。「デイブレイクやらデストロイヤーやら、杖士どもにはもううんざりですよ。一流の剣士たちを雇いますので――」
「このスペイゴール大陸で最も戦闘能力に長けている戦士は、杖士しかいない!」
「しかし皇帝閣下――」
議長はもう何も言えない。
確かにこの大陸では明らかに杖士の戦闘能力が抜きん出ているのである。彼らは戦闘のスペシャリストだ。
議長もデイブレイクが無能ではなかったことに気づき始めていた。
「議長!」
ここで伝達係が戻ってきた。
「なんだ?」議長は少し安心した。皇帝とこのまま二人きりだと殺されていたかもしれない。
「追放した杖士たちの情報が入ってきました」
「ほう?」
「彼らはこの前、ここから遥か南の方にある闘技場での戦いに参加したようです」
「それで?」
「彼らが三人して負けた相手がいたようでして――」
議長は思わずにやけた。「ほうほう。面白い。どんなやつだ?」
「ドラゴンキラーという剣士です」伝達係が答える。「あそこの闘技場ではかなり有名な戦士のようでして」
「面白そうではないか」今度は皇帝が言った。「今すぐにその剣士とやらを連れてこい!」
「しかし、どこにいるのかまったく――」
「いいから行ってこい!」議長がどなった。「なんとしてでもここに連れてこい。もしお前がそのまま逃げ出したりしたら……そのときはわかっているな?」
「おーい! ジャック! いるか!?」
アビス王国の牢獄では、クリスが一人でジャックを捜索していた。
「いるなら返事をくれ!」
牢屋には多くの魂が入っていたが、どれも生きているときのままの容姿のようだ。
それならジャックもすぐにわかるだろう。黒人で、黒い瞳の、体格のいい男だ。
クリスは牢獄を歩き続けた。
「ここ、すごい不気味」シエナが言った。
アキラたち三人も、どうにかアビス王国にくることができていた。
「ジャックはここによくきていたらしい」アキラがつぶやく。「ここに名前が刻んである」
ランランはぶるっと身震いした。「よくこんなところに通えたよね。あたしは絶対無理!」
「だろうな」
「なんだか怖い」シエナがわざとらしくそう言い、アキラの手を握る。「早くジャックを見つけて帰りましょう」
アキラは急に手を握られたことにドキッとした。しかし、これはただ怖いから手を繋いでいるだけだ、と自分に言い聞かせた。
「ジャックを見つけても、連れて帰るまでが一苦労だ」
「魔王に見つからないで帰らなくちゃいけないんでしょ?」ランランが聞いた。「あの本によれば、魔王はすっごく怖い人みたいだし、帰り道も一つしかないって」
「ジャックはここのスペシャリストだ」アキラが言った。「まずはジャックを見つけ、詳しいことを聞こう」
クリスは牢獄を出て、とうとう王国全土を捜索の対象としていた。
「ジャックは確かにたくさんのいい行いをしてきたな」小さくつぶやく。「牢獄に入れられるわけがないか」
アビス王国は広大な王国だ。
スペイゴール大陸より、遥かに大きい。そんな大陸を歩いて移動し、小さな青年を見つけるという任務は、不可能なことに思える。
王国をしばらく歩いていると、見慣れた三人組を見つけてしまった。
「アキラ!? ランランにシエナまで! どうしてここにいるんだ?」
「ジャック捜しに決まってんだろ」アキラが答える。「やっぱりクリスもここにいたか」
「瞑想でここまできたのか?」
「クリスの部屋にスペイゴールの書が落ちてたんだ。おかげでここまでこれたってわけ」
ランランはクリスに会えて嬉しそうだった。「よかった! もう会えないかと思ったよ」
「そんなことないさ」クリスが笑いながら言う。「僕はたとえ一人でもやり遂げていたよ」
「それはちょっとむかつくな」アキラが言った。「俺たちなんて、いらないのか?」
「そうよね」シエナがさらにアキラにくっつく。
アキラは柔らかいものがあたっていることに気がついたが、何も言わなかった。
「ごめん。ちょっとかっこつけただけだよ」クリスが微笑む。
ジャックはここがどこなのかわからなかった。
(俺、死んだのか)
ただそういう感覚だけははっきりしていて、まだ意識が覚醒していない。
(ここはアビス王国なのか?)
はっとして周囲を見渡す。
周囲には燃え盛る炎に、闇のエネルギーに、まさしくアビス王国だと確信できた。
(ここは俺の庭みたいなところだ。牢獄に入れられるよりはましだな)
ジャックは自分の命を犠牲にしてまで他人の命を救った。さらにその他人というのも、その日に会ったばかりの人間だ。
(腕を失う苦しみがわかるから、あいつを助けたのかもしれないな)ジャックはふと思った。
ジャックに助けられたロジャーは腕を怪我していた。ジャックが助けなければ、腕を失う、もっと悪ければ命まで失うところだったのだ。
その行いが評価されたのかもしれない。また、ジャックは魔王の友人だ。それも理由のひとつにはあるだろう。とにかくジャックは感謝しておいた。
(アビス王国ライフを楽しむか)
ただひとつ気がかりだったのは、残された四人の存在だ。
(俺のせいで解散とか、仲間割れとかしてないといいが。ランランは頑固だし、アキラは機嫌が悪くなると最悪。クリスは正義感からか自分を責め過ぎることがある。シエナは三人をどうにか落ち着かせようとして気疲れするかもしれない)
ジャックは笑った。かなり久しぶりの笑みだ。
(こうやって考えると俺、チームのことよく考えてたんだな)
別れも告げないまま死んでしまったのが悔やまれる。
そのとき、聞こえるはずのない声が聞こえた。
「おーい! ジャック!」「ジャック!」「やった! ジャックだ!」「よかった」
声のする方を振り向くと、いつもの四人がこっちに走ってきていた。
「まさか……そんなはずは……」
アキラが飛びついてきた。「かっこつけやがって! この野郎!」
「おいおい」そうは言いながらも、なんだか嬉しい。「みんなも死んだのか?」
「そんなわけないだろ」クリスが微笑んだ。「瞑想だよ、瞑想」
「どこで習った? ここにくるには特殊な訓練を――」
「スペイゴールの書」ランランが答える。「やっと役に立ってくれたよ」
「なるほど」ジャックは感心した。「あの瞑想を、本の文字を読んだだけでマスターするとは――流石デイブレイクのメンバーだ」
「だろ?」アキラが言う。
「あの書を解読したのは私でしょ」シエナが言った。
「そうだっけ?」
「とにかく、アジトに帰ろう!」とクリス。「いや、まずは生者の世界に」
「だな」アキラがうなずいた。
「でも、魔王に気づかれないようにジャックを連れ出さないと」ランランが言った。「死者を生き返らせるには、生者が死者の体を触れながら『光の道』を通って帰るしかないみたい」
「それも、魔王に気づかれずにな」アキラが補足した。
「アキラ、ジャックの手を取ってくれ」クリスが言った。
「オッケー」
「ねえ」
シエナはなぜか嫉妬していた。別にジャックは男だからいいのかもしれないが、今アキラの手を独占しているのは自分だ、と。
「やっぱり僕が」クリスはお察しがいい。
「ありがと」シエナは小さく言った。
「え、別に俺が――」
「行こ」シエナが言う。
「あーーああ。わかった」
「それじゃあ、魔王に気づかれないように気をつけて歩こう」クリスが言う。
「それならたぶん大丈夫だろう」ジャックはあごをかいた。「魔王と俺は友人だ。魔王は俺に気づいたとしても、見逃してくれるはず」
「羨ましいな! 俺も魔王と友達になってもいいか?」
「だめだ」とクリス。「というか、それは今度にしてくれ」
「冗談だ。魔王と友達になった自分が想像できない」
「早く行きましょう」シエナが急かした。少しずつ発言の自信が出てきているようだ。
そうして、デイブレイクのメンバーは、また五人となった。
★ ★ ★
~作者のコメント~
どうでしたか?
シエナがどんどん積極的になってきていることはともかく、ジャックの感情が読み取れる、感動的な回だったんじゃないかと思っています。
まあ、自己満足なのかもしれませんが。
ユハ帝国の状況もわかりましたし、ドラゴンキラーの再登場にも期待ですね。基本的に一回登場したキャラクターは後で登場させたいと思っています。
ここまでなかなかヒヤヒヤハラハラな展開が続いたので、次の回はゆったりとしたほのぼのな回にしたいと思います。お楽しみに!!
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