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第7話 エルフの街
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クリスは精神を落ち着かせるために、一度大きな深呼吸をした。「よし、大丈夫だ」
彼が訪れているのは、アジトから北西に百キロ以上離れたところにある、エルフの街だ。故郷でもあり、家族だって街に住んでいる。
「おぉ、クリス・バロン・テイラー=ブラウンだ!」
クリスが街を歩くと、一流セレブでもあるかのように歓迎された。
「クリス様! サインをお願いします!」小さなエルフの少年が言う。「この街に戻ってこられるなんて!」
「ああ、わかった」クリスは慣れた様子で羊皮紙にサインした。
「すごい!」
エルフの街はそれなりに規模が大きく、スペイゴール大陸の十分の一を占めている。武器の店や飲食店が立ち並び、常ににぎわっていた。
クリスはそこら中にある店には興味を示さずに、ずかずかと街の中心にある城へ向かっていた。
「クリス・バロン・テイラー=ブラウン」城の門番が言った。
「その名はとっくの昔に捨てた」クリスは厳しい表情だ。「僕はただのクリスだ」
「だいたい百年ぶりですか?」
「ああ」クリスがうなずいた。
門が開き、白いマントをたなびかせなら城に入る。
階段を上がると、一人のエルフの姿が見えた。背は高く、すらっとした体型だ。長い金髪で、目は青く輝いている。ヒゲは丁寧にそってあるが、男らしい雰囲気はそのままだ。
「クリス、よくきた」
「父上」クリスが緊張で顔が固まっていた。
クリスの父親で、街で最も高い位に属しているエルフ、アトラス・リンゼイ・テイラー=ブラウンは息子を見た。「相変わらず、エルフの常識に反抗的なやつだ。その短い髪はなんだ? もっと伸ばせ」
「僕はこの髪型が気に入っています」クリスが答えた。「チームのメンバーも短髪の方がよいと――」
「まだデイブレイクとかいうくだらないチームに属しているのか?」
「最高のチームです」はっきりと目を見て言った。「僕は――」
「まあいい」アトラスが呆れた様子で言う。「今日はなぜここにきた? 百年ぶりに家族と会いたい、なんて思ったのか?」
「妹に会いにきただけです」
「エリザベスか? エリザベスは残念ながらここにはいない。イピリア神殿だ」
「あそこになんの用で?」
「お前には関係のないことだ」アトラスが冷たく言い放つ。「ところで、風の知らせだ。お前たちのチームはユハ帝国から追放されたそうではないか」
「はい、その通りです」
「だから言ったのだ、あんなチームには入るな――」
「僕はあのチームに誇りを持っています。それに、ユハ帝国はそのうち滅びるでしょう」
アトラスは笑った。「それに関しては私も同意見だ。あの帝国はどうやらデストロイヤーという新しいチームを雇ったようだが、無能だったらしい」
「そうですか」クリスは考えた。
これ以上話しても時間の無駄だ。
彼の目的は妹に会うことだった。スペイゴールの書に記してあったある鍵を、妹が握っているのではないかと考えたのだ。しかし、城で待っていたのは、昔から変わらない父だった。
「そろそろ帰ります」クリスが切り出す。「仲間も待っているので」
そう言って後ろを振り向き、父に背を向けた。
「待て、クリス」アトラスが呼び止めた。
クリスが足を止め、父親を見る。
「私はお前が貴族としてこの街に残ることを望んでいた。しかしお前は去った――杖士として。私としては、いまだに受け入れられない。デイブレイクを恨み、お前を――」
「わかってます」クリスは強気の口調だが、実は呼び止められたことが嬉しかった。
「これだけはわかっていて欲しいが……私も、亡きお前の母も……息子のお前を愛している」
クリスは後ろを向いたままうなずいた。そして振り返ることなく城を出た。
一方その頃、アジトにいる四人のメンバーは夕食を楽しんでいた。
「アキラ、そこの塩を取ってほしい」シエナが言う。
「オッケー」
今日の夕食はなかなか豪華だ。アキラが狩りに行ってきたおかげで、大量の肉と野菜が手に入った。それをシチューにしてみんなで食べている。
「クリスの分も残しておかないと」アキラが言った。「もうそろそろ帰ってくるんじゃないか?」
「もう二日もいないぞ」ジャックがぼやいた。「アキラのリーダーとしての素質もないし、こっちは退屈だ」
「おい!」
「ねえ、クリスってこのチームに入る前はどんな感じだったの?」ランランがアキラに聞いた。「クリスとの付き合いが古いのはアキラでしょ」
アキラはチームに入る前からクリスと行動をともにしていた。それからクリスの提案でデイブレイクというチームを作ることになったのだ。
「付き合いが古いとは言っても、チームができる三年くらい前から一緒だった、ってだけだ」アキラが答える。「エルフは不死だろ? ていうか、クリスは五七十歳だし。エルフの街から一人で逃げてきたってことしか知らない」
「逃げてきた?」ランランは興味津々だ。「どうして?」
「詳しくは知らない。無理やり聞くつもりはなかった。だが、クリスはもともとエルフの貴族の家系らしいんだ。それなのに杖士になることを選んだ」
「名誉なことじゃん」
「それはよくわからない。エルフは掟や法律に厳しいからな。貴族の家系が杖士になったケースは、クリスが最初で最後かもしれない」
「早く帰ってきてほしいなー」とランラン。「エルフの街ってどんな感じなのか知りたいし」
「行ったことないのか?」ジャックが驚いた様子で聞く。
「うん」
「あそこは最高の場所だ。人生損してるぞ」
ユハ帝国では『デストロイヤー』の五人が境界線で戦いを繰り広げていた。
「ロジャー! 大丈夫か?」
チームの中でもエース級の戦闘能力を誇るメンバー、ロジャーはダークウルフに噛みつかれて重症を負っていた。
「しっかりしろ!」リーダーのポールが駆けつける。「死ぬな!」
簡単な回復呪文では到底癒やすことのできない傷だ。
「エリス、なんとかできるか?」ポールが回復魔術が得意なメンバー、エリスに聞く。
「これはひどい」エリスは傷のあまりの深さに、思わず顔をそらした。「わたしでも無理よ」
「議長に報告した方がいいのかもしれないな」ポールがつぶやく。
「それは最悪だ」頭脳派メンバーのニックが首を振る。「あの議長ははっきりいって、バカの極みだ」
「それは言えてるわね」エリスもうなずく。
「じゃあ、どうするって?」ポールは半泣き状態だ。
「この傷を治すには相当な魔力と技術が必要」エリスが言った。「このスペイゴールで一番の魔力を持っている人じゃないと治せない」
「ジャック……」ニックがつぶやいた。「『デイブレイク』のジャックさんなら治せるはずだ」
「確かに、試してみる価値はありそうね」エリスは乗り気だ。「今すぐ『デイブレイク』のところに行くわよ」
ポールは迷っていた。「でも、持ち場を離れるわけにはいかないし……」
「こんな帝国、守る必要はないわ」エリスが吐き捨てる。「さあ、ロジャーを抱えて! 最強のチームのところへ行くのよ」
「彼らが今どこにいるか、わかってるのか?」
「大丈夫、わたしについてきて!」
そうして、デストロイヤーはユハ帝国から離れていった。
「みんな、帰ったぞ!」
アジトの扉が開き、爽やかな声が入ってきた。
「クリス!」ランランがすぐに玄関まで飛んでいった。「みんな退屈してたんだよ!」
「そうなのか?」クリスが微笑む。「アキラがリードしてくれているものと思ってたけど――」
「全然だめだめちゃんだよ、アキラは」ランランが首を横に振る。「一回訓練に行ったくらい?」
「俺は完璧なリーダーだったぞ」アキラが言う。「まあ、正直リーダーはあんまり好きじゃない。みんなうるさいから、まとめるのも一苦労ってやつよ。特にランランが大変だ」
「ちょっと! どの口が言って――」
「とにかく、真のリーダーが帰ってきてくれてよかった」アキラが簡潔にまとめた。
クリスはこのチームで本当によかったと思った。いつかはエルフの掟と向き合わなければいけないときがくるかもしれないが……。
★ ★ ★
~作者のコメント~
クリスが久しぶりに登場しましたね。まあ、彼もいろんな過去を抱えた人物のようです。
デストロイヤーというチームも、今後絡んでくるんでしょうか。
皆様のおかげで小説が楽しく書けていることに感謝しかないです。
次の回もお楽しみに!!
彼が訪れているのは、アジトから北西に百キロ以上離れたところにある、エルフの街だ。故郷でもあり、家族だって街に住んでいる。
「おぉ、クリス・バロン・テイラー=ブラウンだ!」
クリスが街を歩くと、一流セレブでもあるかのように歓迎された。
「クリス様! サインをお願いします!」小さなエルフの少年が言う。「この街に戻ってこられるなんて!」
「ああ、わかった」クリスは慣れた様子で羊皮紙にサインした。
「すごい!」
エルフの街はそれなりに規模が大きく、スペイゴール大陸の十分の一を占めている。武器の店や飲食店が立ち並び、常ににぎわっていた。
クリスはそこら中にある店には興味を示さずに、ずかずかと街の中心にある城へ向かっていた。
「クリス・バロン・テイラー=ブラウン」城の門番が言った。
「その名はとっくの昔に捨てた」クリスは厳しい表情だ。「僕はただのクリスだ」
「だいたい百年ぶりですか?」
「ああ」クリスがうなずいた。
門が開き、白いマントをたなびかせなら城に入る。
階段を上がると、一人のエルフの姿が見えた。背は高く、すらっとした体型だ。長い金髪で、目は青く輝いている。ヒゲは丁寧にそってあるが、男らしい雰囲気はそのままだ。
「クリス、よくきた」
「父上」クリスが緊張で顔が固まっていた。
クリスの父親で、街で最も高い位に属しているエルフ、アトラス・リンゼイ・テイラー=ブラウンは息子を見た。「相変わらず、エルフの常識に反抗的なやつだ。その短い髪はなんだ? もっと伸ばせ」
「僕はこの髪型が気に入っています」クリスが答えた。「チームのメンバーも短髪の方がよいと――」
「まだデイブレイクとかいうくだらないチームに属しているのか?」
「最高のチームです」はっきりと目を見て言った。「僕は――」
「まあいい」アトラスが呆れた様子で言う。「今日はなぜここにきた? 百年ぶりに家族と会いたい、なんて思ったのか?」
「妹に会いにきただけです」
「エリザベスか? エリザベスは残念ながらここにはいない。イピリア神殿だ」
「あそこになんの用で?」
「お前には関係のないことだ」アトラスが冷たく言い放つ。「ところで、風の知らせだ。お前たちのチームはユハ帝国から追放されたそうではないか」
「はい、その通りです」
「だから言ったのだ、あんなチームには入るな――」
「僕はあのチームに誇りを持っています。それに、ユハ帝国はそのうち滅びるでしょう」
アトラスは笑った。「それに関しては私も同意見だ。あの帝国はどうやらデストロイヤーという新しいチームを雇ったようだが、無能だったらしい」
「そうですか」クリスは考えた。
これ以上話しても時間の無駄だ。
彼の目的は妹に会うことだった。スペイゴールの書に記してあったある鍵を、妹が握っているのではないかと考えたのだ。しかし、城で待っていたのは、昔から変わらない父だった。
「そろそろ帰ります」クリスが切り出す。「仲間も待っているので」
そう言って後ろを振り向き、父に背を向けた。
「待て、クリス」アトラスが呼び止めた。
クリスが足を止め、父親を見る。
「私はお前が貴族としてこの街に残ることを望んでいた。しかしお前は去った――杖士として。私としては、いまだに受け入れられない。デイブレイクを恨み、お前を――」
「わかってます」クリスは強気の口調だが、実は呼び止められたことが嬉しかった。
「これだけはわかっていて欲しいが……私も、亡きお前の母も……息子のお前を愛している」
クリスは後ろを向いたままうなずいた。そして振り返ることなく城を出た。
一方その頃、アジトにいる四人のメンバーは夕食を楽しんでいた。
「アキラ、そこの塩を取ってほしい」シエナが言う。
「オッケー」
今日の夕食はなかなか豪華だ。アキラが狩りに行ってきたおかげで、大量の肉と野菜が手に入った。それをシチューにしてみんなで食べている。
「クリスの分も残しておかないと」アキラが言った。「もうそろそろ帰ってくるんじゃないか?」
「もう二日もいないぞ」ジャックがぼやいた。「アキラのリーダーとしての素質もないし、こっちは退屈だ」
「おい!」
「ねえ、クリスってこのチームに入る前はどんな感じだったの?」ランランがアキラに聞いた。「クリスとの付き合いが古いのはアキラでしょ」
アキラはチームに入る前からクリスと行動をともにしていた。それからクリスの提案でデイブレイクというチームを作ることになったのだ。
「付き合いが古いとは言っても、チームができる三年くらい前から一緒だった、ってだけだ」アキラが答える。「エルフは不死だろ? ていうか、クリスは五七十歳だし。エルフの街から一人で逃げてきたってことしか知らない」
「逃げてきた?」ランランは興味津々だ。「どうして?」
「詳しくは知らない。無理やり聞くつもりはなかった。だが、クリスはもともとエルフの貴族の家系らしいんだ。それなのに杖士になることを選んだ」
「名誉なことじゃん」
「それはよくわからない。エルフは掟や法律に厳しいからな。貴族の家系が杖士になったケースは、クリスが最初で最後かもしれない」
「早く帰ってきてほしいなー」とランラン。「エルフの街ってどんな感じなのか知りたいし」
「行ったことないのか?」ジャックが驚いた様子で聞く。
「うん」
「あそこは最高の場所だ。人生損してるぞ」
ユハ帝国では『デストロイヤー』の五人が境界線で戦いを繰り広げていた。
「ロジャー! 大丈夫か?」
チームの中でもエース級の戦闘能力を誇るメンバー、ロジャーはダークウルフに噛みつかれて重症を負っていた。
「しっかりしろ!」リーダーのポールが駆けつける。「死ぬな!」
簡単な回復呪文では到底癒やすことのできない傷だ。
「エリス、なんとかできるか?」ポールが回復魔術が得意なメンバー、エリスに聞く。
「これはひどい」エリスは傷のあまりの深さに、思わず顔をそらした。「わたしでも無理よ」
「議長に報告した方がいいのかもしれないな」ポールがつぶやく。
「それは最悪だ」頭脳派メンバーのニックが首を振る。「あの議長ははっきりいって、バカの極みだ」
「それは言えてるわね」エリスもうなずく。
「じゃあ、どうするって?」ポールは半泣き状態だ。
「この傷を治すには相当な魔力と技術が必要」エリスが言った。「このスペイゴールで一番の魔力を持っている人じゃないと治せない」
「ジャック……」ニックがつぶやいた。「『デイブレイク』のジャックさんなら治せるはずだ」
「確かに、試してみる価値はありそうね」エリスは乗り気だ。「今すぐ『デイブレイク』のところに行くわよ」
ポールは迷っていた。「でも、持ち場を離れるわけにはいかないし……」
「こんな帝国、守る必要はないわ」エリスが吐き捨てる。「さあ、ロジャーを抱えて! 最強のチームのところへ行くのよ」
「彼らが今どこにいるか、わかってるのか?」
「大丈夫、わたしについてきて!」
そうして、デストロイヤーはユハ帝国から離れていった。
「みんな、帰ったぞ!」
アジトの扉が開き、爽やかな声が入ってきた。
「クリス!」ランランがすぐに玄関まで飛んでいった。「みんな退屈してたんだよ!」
「そうなのか?」クリスが微笑む。「アキラがリードしてくれているものと思ってたけど――」
「全然だめだめちゃんだよ、アキラは」ランランが首を横に振る。「一回訓練に行ったくらい?」
「俺は完璧なリーダーだったぞ」アキラが言う。「まあ、正直リーダーはあんまり好きじゃない。みんなうるさいから、まとめるのも一苦労ってやつよ。特にランランが大変だ」
「ちょっと! どの口が言って――」
「とにかく、真のリーダーが帰ってきてくれてよかった」アキラが簡潔にまとめた。
クリスはこのチームで本当によかったと思った。いつかはエルフの掟と向き合わなければいけないときがくるかもしれないが……。
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