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第1話 追放
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「君たちはユハ帝国に必要ない」
ここはユハ帝国。スペイゴール大陸最強とも言われる帝国だ。
そんな帝国を長年支えてきた守護者たち、『デイブレイク』は今、帝国議会の話し合いによって追放されようとしていた。
「待ってください」我らがリーダー、クリスが声を張り上げる。「僕たちは精一杯ユハ帝国に尽くしてきました。政府の命令には忠実に従ってきたはずです」
残りのメンバー四人も、そうだ、と言うように首を縦に振っている。
「話し合いで決まったことなのだ、クリス」議長が言う。「お前たちが消えてくれれば、今までお前たちに対して払っていた多額の給料を、帝国の発展にあてられる」
「帝国がここまで規模を拡大することができたのは、俺たちが防衛を強化してきたからだ。『デイブレイク』がこの帝国に富をもたらした」普段あまり口を開かないジャックも、我慢の限界だったらしい。
「議会にそんな口のたたき方をするとは……」議会を牛耳っている老人ら十名は、わざと大げさに言った。
「ジャックの言う通りです」クリスは老人らに負けじと反抗する。
議長はクリスを軽蔑するような目で見た。「エルフは黙ってろ! とんがり耳のいきりが!」
冷静な話し合い、公正な話し合いが求められる議会で、あってはならない光景だった。
「俺たちのリーダーになんてことを――」アキラが怒りの視線を送る。
しかしクリスに止められた。
「いいんだ、アキラ。帝国もここまでだってことだよ」
「えっ、それはつまり――」
「こんな帝国、滅びるがいいさ!」クリスは今までに使ったことのない言葉を吐き捨て、議会を出た。
普段のクリスは高潔で、美しく、どんなときでも上品な言葉遣いで対応する。そんなクリスのさっきのセリフは、メンバーも議会も、誰も聞いたことがないものだった。
ジャック、アキラもクリスに続いて議会を出る。
女性陣二人も、冷酷な表情で議会を一瞥した後、ゆっくりと議会のホールを去っていった。
「それにしても、ひどいやつらだ!」ホールのある大聖堂を出ると、アキラが吐き出すように言った。
「ほんと、信じられない」普段は陽気なランランも、今回ばかりは殺気立った表情を浮かべている。
「俺たちが今までどれだけ尽くしてきたと思ってるんだか」
「セドプの戦いなんて、あたしたちがいたから――」
「まあまあ」熱が入り始めたランランを、クリスがなだめる。
「ちょっと、クリスだって議会に相当言ってたじゃない!」ランランも黙ってはいない。
クリスは笑った。「まあ、僕だって議会にはずっと不満があったからね。でも、こうなってよかったと思うよ」
「俺たち、金もなければ、仕えるところもないぜ。まったく」アキラがうなる。「全然よくないって」
「アキラ、仕える必要はないんだよ。僕たちの戦闘能力はどのチームよりも抜きん出て高いわけだ。僕たちで国を作るってのはどうだい?」
「それは反対だな」ジャックが低い声で言う。「毎日疲れるだけだろ」
「俺はけっこう賛成だ。国を作るってことは、仕事があるってことだろ?」アキラが顔を輝かせる。
「勤勉ってのはいいねー」ジャックが皮肉っぽくつぶやいた。
「だよな?」アキラは皮肉に気づいていないらしい。
「建国のことより、まずは生きることを考えた方がよさそう」絶世の美女とも称される美貌の持ち主、シエナが小さくつぶやく。
デイブレイクのメンバーは、シエナによって急に現実に引き戻された。
「なるほど」アキラが唾を飲み込む。「的確な助言だな」
彼らの目の前には、巨大な牛がいた。
牛といっても、そんじょそこらの牛ではない。狂気の牛とも言われている、紫で体長十メートルもある牛だ。目は真っ赤に燃えている――文字通り、瞳の中で炎が踊っているのだ。鼻から出る息は高温で千度以上はあると言われている。
「狂気の牛か……」クリスの頬から汗がしたたり落ちる。「議長だな」
「間違いない」アキラもうなずく。
狂気の牛はユハ帝国の象徴とも言える牛で、さっきの議会の議長、サハエル六世が飼っている。皮膚はドルエグマという硬い金属なので、どんな武器も傷つけることはできない。また、議長にしか懐かないので出会ってしまったら逃げる以外に道はない。
「みんな、逃げろ!」クリスが大声で叫んだ。
「議会も相当怒ってるらしいな。あいつらも鼻から蒸気が出てるんじゃないか?」危機一髪の状況でも、アキラはユーモアのきいたジョークが好きらしい。
五人は決して牛と戦おうとはしなかった。
戦ったところで、倒せないことを知っているからだ。
「もうこれ以上走れない」
牛から逃げること一時間。彼らは帝国の手によって強化された人間(クリスにいたってはエルフ)であるため、高速のダッシュを長い時間維持することができる。
しかし、エルフのクリス以外のメンバーは、一時間が限界だったようだ。
「追ってきてはいないみたいだ」クリスはほっとした表情で言った。
一行がたどり着いたのはスペイゴール大陸の南にある、自然豊かな草原地帯だった。
「これはラッキー。食料なんてすぐに手に入りそうだ」アキラは地面に倒れ込んでいる。
「まだ油断はできないわ」シエナがつぶやく。
彼女は絶世の美女でありながら、少し自信が欠けている。何か発言をするときには、いつも控えめだ。
「いや、ユハ帝国の領土からは相当離れた。もう追手がくる心配はない」クリスは微笑んだ。「議会は僕たちを追放できて、さぞ喜んでいることでしょうな」
「クリスって、たまに怖いときあるよな」アキラがぼそっとつぶやいた。
「それも今日だけさ」
五人は輪になるようなフォーメーションで地面に座った。
「さて、僕たちは長年仕えてきたユハ帝国から追放されたわけだ」クリスが楽しそうに話を切り出した。「杖士にとっては厳しい状況かもしれない。杖士は本来国に仕えるものだ」
「ていうか、国に仕えないと杖士って言えないわ」ランランが言う。「称号みたいなものでしょ」
「確かにそうかもしれない。だけど、逆に考えてほしい。僕たちには杖士として訓練されたことで得た力がある。誰かに仕える必要はない。僕たちの時代を作るんだよ。さっきも言ったけど、新しい国を作って、ユハ帝国を打ち破るんだ」
「それは杖士のやり方ではないだろう」ジャックが反対する。「また別の国に行って、そこの政府に仕える。そしてあのユハ帝国を滅ぼす。これでいいんじゃないか?」
「いや、伝統や掟に縛られていても、新しいものは生まれない。僕は五百七十年も生きてきて、多くのことを学んだ。歴史は作るものなんだ。誰かからの指図を受けて動くだけでは何も変わらない。僕たちの力は最強だ。みんな、僕を信じてくれないか?」
四人の中で、最初に反応したのはランランだった。
「リーダーがそう言うなら、やってみたい」
その次にアキラも動く。「五百七十歳のおじいちゃんに言われたら、確かに説得力があるな」
「私も」シエナも流れに続いた。
ジャックは義手をゆっくりと動かし、じっくりと考え込んでいる。
彼は五年前に戦いで右腕を失った。それ以来、例の金属、ドルエグマで作られた性能のいい義手を装着している。
「わかった。ひとまず、俺はみんなについていく」
「よし、その意気だ!」クリスはそのハンサムな顔で、光り輝く空を見つめる。「いよいよ僕たちの時代が始まるぞ!」
★ ★ ★
~作者のコメント~
まずはエピソード1を読んでくださり、ありがとうございます。
世界観やキャラクターも細部まで作り込んでいるので、今後のストーリーで出せていけたら嬉しいです。
まだ1話ですが、続きが気になる方は、私のモチベーションにもなるので、ぜひお気に入り登録よろしくお願いいたします!!
ここはユハ帝国。スペイゴール大陸最強とも言われる帝国だ。
そんな帝国を長年支えてきた守護者たち、『デイブレイク』は今、帝国議会の話し合いによって追放されようとしていた。
「待ってください」我らがリーダー、クリスが声を張り上げる。「僕たちは精一杯ユハ帝国に尽くしてきました。政府の命令には忠実に従ってきたはずです」
残りのメンバー四人も、そうだ、と言うように首を縦に振っている。
「話し合いで決まったことなのだ、クリス」議長が言う。「お前たちが消えてくれれば、今までお前たちに対して払っていた多額の給料を、帝国の発展にあてられる」
「帝国がここまで規模を拡大することができたのは、俺たちが防衛を強化してきたからだ。『デイブレイク』がこの帝国に富をもたらした」普段あまり口を開かないジャックも、我慢の限界だったらしい。
「議会にそんな口のたたき方をするとは……」議会を牛耳っている老人ら十名は、わざと大げさに言った。
「ジャックの言う通りです」クリスは老人らに負けじと反抗する。
議長はクリスを軽蔑するような目で見た。「エルフは黙ってろ! とんがり耳のいきりが!」
冷静な話し合い、公正な話し合いが求められる議会で、あってはならない光景だった。
「俺たちのリーダーになんてことを――」アキラが怒りの視線を送る。
しかしクリスに止められた。
「いいんだ、アキラ。帝国もここまでだってことだよ」
「えっ、それはつまり――」
「こんな帝国、滅びるがいいさ!」クリスは今までに使ったことのない言葉を吐き捨て、議会を出た。
普段のクリスは高潔で、美しく、どんなときでも上品な言葉遣いで対応する。そんなクリスのさっきのセリフは、メンバーも議会も、誰も聞いたことがないものだった。
ジャック、アキラもクリスに続いて議会を出る。
女性陣二人も、冷酷な表情で議会を一瞥した後、ゆっくりと議会のホールを去っていった。
「それにしても、ひどいやつらだ!」ホールのある大聖堂を出ると、アキラが吐き出すように言った。
「ほんと、信じられない」普段は陽気なランランも、今回ばかりは殺気立った表情を浮かべている。
「俺たちが今までどれだけ尽くしてきたと思ってるんだか」
「セドプの戦いなんて、あたしたちがいたから――」
「まあまあ」熱が入り始めたランランを、クリスがなだめる。
「ちょっと、クリスだって議会に相当言ってたじゃない!」ランランも黙ってはいない。
クリスは笑った。「まあ、僕だって議会にはずっと不満があったからね。でも、こうなってよかったと思うよ」
「俺たち、金もなければ、仕えるところもないぜ。まったく」アキラがうなる。「全然よくないって」
「アキラ、仕える必要はないんだよ。僕たちの戦闘能力はどのチームよりも抜きん出て高いわけだ。僕たちで国を作るってのはどうだい?」
「それは反対だな」ジャックが低い声で言う。「毎日疲れるだけだろ」
「俺はけっこう賛成だ。国を作るってことは、仕事があるってことだろ?」アキラが顔を輝かせる。
「勤勉ってのはいいねー」ジャックが皮肉っぽくつぶやいた。
「だよな?」アキラは皮肉に気づいていないらしい。
「建国のことより、まずは生きることを考えた方がよさそう」絶世の美女とも称される美貌の持ち主、シエナが小さくつぶやく。
デイブレイクのメンバーは、シエナによって急に現実に引き戻された。
「なるほど」アキラが唾を飲み込む。「的確な助言だな」
彼らの目の前には、巨大な牛がいた。
牛といっても、そんじょそこらの牛ではない。狂気の牛とも言われている、紫で体長十メートルもある牛だ。目は真っ赤に燃えている――文字通り、瞳の中で炎が踊っているのだ。鼻から出る息は高温で千度以上はあると言われている。
「狂気の牛か……」クリスの頬から汗がしたたり落ちる。「議長だな」
「間違いない」アキラもうなずく。
狂気の牛はユハ帝国の象徴とも言える牛で、さっきの議会の議長、サハエル六世が飼っている。皮膚はドルエグマという硬い金属なので、どんな武器も傷つけることはできない。また、議長にしか懐かないので出会ってしまったら逃げる以外に道はない。
「みんな、逃げろ!」クリスが大声で叫んだ。
「議会も相当怒ってるらしいな。あいつらも鼻から蒸気が出てるんじゃないか?」危機一髪の状況でも、アキラはユーモアのきいたジョークが好きらしい。
五人は決して牛と戦おうとはしなかった。
戦ったところで、倒せないことを知っているからだ。
「もうこれ以上走れない」
牛から逃げること一時間。彼らは帝国の手によって強化された人間(クリスにいたってはエルフ)であるため、高速のダッシュを長い時間維持することができる。
しかし、エルフのクリス以外のメンバーは、一時間が限界だったようだ。
「追ってきてはいないみたいだ」クリスはほっとした表情で言った。
一行がたどり着いたのはスペイゴール大陸の南にある、自然豊かな草原地帯だった。
「これはラッキー。食料なんてすぐに手に入りそうだ」アキラは地面に倒れ込んでいる。
「まだ油断はできないわ」シエナがつぶやく。
彼女は絶世の美女でありながら、少し自信が欠けている。何か発言をするときには、いつも控えめだ。
「いや、ユハ帝国の領土からは相当離れた。もう追手がくる心配はない」クリスは微笑んだ。「議会は僕たちを追放できて、さぞ喜んでいることでしょうな」
「クリスって、たまに怖いときあるよな」アキラがぼそっとつぶやいた。
「それも今日だけさ」
五人は輪になるようなフォーメーションで地面に座った。
「さて、僕たちは長年仕えてきたユハ帝国から追放されたわけだ」クリスが楽しそうに話を切り出した。「杖士にとっては厳しい状況かもしれない。杖士は本来国に仕えるものだ」
「ていうか、国に仕えないと杖士って言えないわ」ランランが言う。「称号みたいなものでしょ」
「確かにそうかもしれない。だけど、逆に考えてほしい。僕たちには杖士として訓練されたことで得た力がある。誰かに仕える必要はない。僕たちの時代を作るんだよ。さっきも言ったけど、新しい国を作って、ユハ帝国を打ち破るんだ」
「それは杖士のやり方ではないだろう」ジャックが反対する。「また別の国に行って、そこの政府に仕える。そしてあのユハ帝国を滅ぼす。これでいいんじゃないか?」
「いや、伝統や掟に縛られていても、新しいものは生まれない。僕は五百七十年も生きてきて、多くのことを学んだ。歴史は作るものなんだ。誰かからの指図を受けて動くだけでは何も変わらない。僕たちの力は最強だ。みんな、僕を信じてくれないか?」
四人の中で、最初に反応したのはランランだった。
「リーダーがそう言うなら、やってみたい」
その次にアキラも動く。「五百七十歳のおじいちゃんに言われたら、確かに説得力があるな」
「私も」シエナも流れに続いた。
ジャックは義手をゆっくりと動かし、じっくりと考え込んでいる。
彼は五年前に戦いで右腕を失った。それ以来、例の金属、ドルエグマで作られた性能のいい義手を装着している。
「わかった。ひとまず、俺はみんなについていく」
「よし、その意気だ!」クリスはそのハンサムな顔で、光り輝く空を見つめる。「いよいよ僕たちの時代が始まるぞ!」
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