上 下
67 / 68
オスカーの帰郷編

その67 大地の雄叫び

しおりを挟む
 タナトスとかいう魔神デビゴッドが実力者であることはわかった。
 なら、やることはひとつしかない。

 ――戦いバトル

 これに尽きる。

「お前は俺の神能スキルを封じているらしいな」

 剣をぶつけ合いながら、セレナ達を放って戦いながら移動していく。

 俺のスピードとタナトスのスピードはほぼ互角だ。
 盛り上がってきた。
 それに、会話は戦いの最中でも楽しむことができる。聞きたいことは今まとめて聞けばいいだけの話だ。

「貴殿の神能スキルの噂は腐るほど聞いているわけだ。複数の神能スキルを使いこなす少年――魔王セトもその能力に頼って倒したのだろう?」

「確かに、そうとも言える」

 タナトスの剣は柄から剣先まで黒く、金属特有の光沢を放っていなかった。逆に光を吸収している。
 闇が光を吸い込んでいる様子を表現したかのようだ。

「警告しておくが、私の実力は魔王セトを超える。魔王になる野心がないだけだ。どうして野心がないのか知りたい、だと?」

 そんなことは一言も発していない。
 話したいのなら素直にそう言ってくれればいいのに。

「ああ、いいとも、教えてやろう。私は誰かが絶望・・しているさまを見ることを愛している。その絶望が大きければ大きいほど、私の心は満たされる」

「お前に心なんてものがあるのか?」

「興味深い質問だ。魔神に心はあるのか――あるに決まってる。争い事を嫌い、平和を愛する魔神もいるほどだ」

「だが、お前は違うようだ」

「ああ、しかし幸福感情を心と捉えるのなら、私のこの絶望への執着も、心があってこそ、ということになる」

 俺の腹からはまだ出血が続いていた。
 内臓を貫通したわけだから当然だ。一般的に言うところの致命傷……俺にはこんな傷、かすり傷でしかない。

 血液なんぞいくらでも作れる・・・・・・・・

神能スキルの発動を防ぐのが、お前の力か?」

 神能スキルを発動するのはさほど労力を使わない。
 基本は神の信仰によって得られた贈り物、という認識なので、楽に行使できるのだ。

 だが、この戦いで神能スキルを使おうとすると、体が重くなり、使えないことを全身が警告していた。

「聞くところによれば、貴殿の力の大半は神能スキルから来るものだ。私の魔能スキル――経験を積み、一定の魔力量を保持した者にしか覚醒しないものだが――その力で貴殿の神能スキルを無効化してしまえば、負けるはずがない」

「そういうことか」

 俺達の剣技にさほど差はなかった。
 魔神デビゴッドはその名の通り、神のようなもの。だから当然寿命は長い、というか、ほぼ不死の存在だ。俺よりも遥かに長い時間、研鑽を積んでいる。

 確かに、俺は複数の神能スキルを使うことが可能だ。
 それが自分の実力を大きく支えていることに異論はない。

「ひとつ聞いてもいいか?」

 軽く笑みをこぼす俺。
 明らかに俺が追い込まれた状況――少なくとも、タナトスはそう考えている。

(俺の絶望が見たい、か)

 西園寺さいおんじオスカーの絶望。
 俺自身がこの世界の希望なのだから、絶望するはずがない。タナトスにはそれがよくわかっていないらしい。

「この世界に希望が絶えず存在し続けている理由は何だと思う?」

「希望が存在し続けている理由、だと?」

 空から光が差し込む。
 眩いほどの光――それはタナトスが求める絶望とは正反対のものだ。奴の白い肌がその光を反射し、俺の剣がまたその光を反射して輝く。

「西園寺オスカーを侮ってもらっては困る。お前を倒すための条件は整った」

 黄金ゴールドの瞳。

 そこから連想されるものは太陽。どんな者にも平等に光を与える、絶対的な存在。俺という存在が太陽の光だとすれば、タナトスは影の中に潜む危険な闇。

 最終的にその闇を打ち消すのは、太陽の役割だ、と。
 俺は証明する。

 何度も放たれるタナトスの斬撃を、華麗にかわし、リズム良く弾く。この剣技で音楽が奏でられそうだ。

「そろそろ終わらせるか」

「なに?」

「そのままの意味だ。お前との戯れも、流石に飽きてきた」

 タナトスの邪悪な緋色の瞳に動揺が見えた。
 彼にとって、俺はまだ未知の存在。警戒していないはずがない。

「面白いことを教えてやろう」

 剣を弾いた後、後ろに飛びのいて距離を取る。
 大地が何かを感じ取り、舞台を準備するかのように轟音を上げた。

「――何だ? 神能スキルは封じているはず……」

 獲物タナトスは相変わらず静かな声で、余裕のある口調だ。だが、右頬が微妙に引きつっている。

「俺の最後の神能スキルは、究極の必殺技。条件が整いさえすれば、お前の小細工も、ただの塵と化す。太陽に抗う術はない」

 光が俺の剣に集約されていく。
 魔王セト戦の時にも見せた、あの・・必殺技が、炸裂する。

「――ゼロ――」

 大地が雄叫びを上げる。

「――オスカー」

 一本の槍のようにまとまった光は、考える隙も与えずにタナトスへと突進した。

 逃がさない。
 絶対不可避の攻撃。逃がさない、というより、逃がせない・・・・・

『私を、本気にさせたようだ、西園寺オスカー』

 頭の中で、魔神タナトスの冷酷な声が反響する。これが奴の、最期のメッセージなのか。

 剣の輝きが落ち着き、大地に平穏が訪れる。
 辺りは静まり返っていた。小鳥のさえずりも聞こえない。あるのは静寂と、そして――。

「オスカー!」「西園寺しゃいおんじオシュカー!」

 俺の勝利に歓喜する女子おなご二人が、俺を呼ぶ声だけだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

漫画の寝取り竿役に転生して真面目に生きようとしたのに、なぜかエッチな巨乳ヒロインがぐいぐい攻めてくるんだけど?

みずがめ
恋愛
目が覚めたら読んだことのあるエロ漫画の最低寝取り野郎になっていた。 なんでよりによってこんな悪役に転生してしまったんだ。最初はそう落ち込んだが、よく考えれば若いチートボディを手に入れて学生時代をやり直せる。 身体の持ち主が悪人なら意識を乗っ取ったことに心を痛める必要はない。俺がヒロインを寝取りさえしなければ、主人公は精神崩壊することなくハッピーエンドを迎えるだろう。 一時の快楽に身を委ねて他人の人生を狂わせるだなんて、そんな責任を負いたくはない。ここが現実である以上、NTRする気にはなれなかった。メインヒロインとは適切な距離を保っていこう。俺自身がお天道様の下で青春を送るために、そう固く決意した。 ……なのになぜ、俺はヒロインに誘惑されているんだ? ※他サイトでも掲載しています。 ※表紙や作中イラストは、AIイラストレーターのおしつじさん(https://twitter.com/your_shitsuji)に外注契約を通して作成していただきました。おしつじさんのAIイラストはすべて商用利用が認められたものを使用しており、また「小説活動に関する利用許諾」を許可していただいています。

無限のスキルゲッター! 毎月レアスキルと大量経験値を貰っている僕は、異次元の強さで無双する

まるずし
ファンタジー
 小説『無限のスキルゲッター!』第5巻が発売されました! 書籍版はこれで完結となります。  書籍版ではいろいろと変更した部分がありますので、気になる方は『書籍未収録①~⑥』をご確認いただければ幸いです。  そしてこのweb版ですが、更新が滞ってしまって大変申し訳ありません。  まだまだラストまで長いので、せめて今後どうなっていくのかという流れだけ、ダイジェストで書きました。  興味のある方は、目次下部にある『8章以降のストーリーダイジェスト』をご覧くださいませ。  書籍では、中西達哉先生に素晴らしいイラストをたくさん描いていただきました。  特に、5巻最後の挿絵は本当に素晴らしいので、是非多くの方に見ていただきたいイラストです。  自分では大満足の完結巻となりましたので、どうかよろしくお願いいたしますm(_ _)m  ほか、コミカライズ版『無限のスキルゲッター!』も発売中ですので、こちらもどうぞよろしくお願いいたします。 【あらすじ】  最強世代と言われる同級生たちが、『勇者』の称号や経験値10倍などの超強力なスキルを授かる中、ハズレスキルどころか最悪の人生終了スキルを授かった主人公ユーリ。  しかし、そのスキルで女神を助けたことにより、人生は大逆転。  神様を上手く騙して、黙っていても毎月大量の経験値が貰えるようになった上、さらにランダムで超レアスキルのオマケ付き。  驚異の早さで成長するユーリは、あっという間に最強クラスに成り上がります。  ちょっと変な幼馴染みや、超絶美少女王女様、押しの強い女勇者たちにも好意を寄せられ、順風満帆な人生楽勝モードに。  ところがそんな矢先、いきなり罠に嵌められてしまい、ユーリは国外へ逃亡。  そのまま全世界のお尋ね者になっちゃったけど、圧倒的最強になったユーリは、もはや大人しくなんかしてられない。  こうなったら世界を救うため、あえて悪者になってやる?  伝説の魔竜も古代文明の守護神も不死生命体も敵じゃない。  あまりにも強すぎて魔王と呼ばれちゃった主人公が、その力で世界を救います。

序盤でボコられるクズ悪役貴族に転生した俺、死にたくなくて強くなったら主人公にキレられました。 え? お前も転生者だったの? そんなの知らんし

水間ノボル🐳
ファンタジー
↑「お気に入りに追加」を押してくださいっ!↑ ★2024/2/25〜3/3 男性向けホットランキング1位! ★2024/2/25 ファンタジージャンル1位!(24hポイント) 「主人公が俺を殺そうとしてくるがもう遅い。なぜか最強キャラにされていた~」 『醜い豚』  『最低のゴミクズ』 『無能の恥晒し』  18禁ゲーム「ドミナント・タクティクス」のクズ悪役貴族、アルフォンス・フォン・ヴァリエに転生した俺。  優れた魔術師の血統でありながら、アルフォンスは豚のようにデブっており、性格は傲慢かつ怠惰。しかも女の子を痛ぶるのが性癖のゴミクズ。  魔術の鍛錬はまったくしてないから、戦闘でもクソ雑魚であった。    ゲーム序盤で主人公にボコられて、悪事を暴かれて断罪される、ざまぁ対象であった。  プレイヤーをスカッとさせるためだけの存在。  そんな破滅の運命を回避するため、俺はレベルを上げまくって強くなる。  ついでに痩せて、女の子にも優しくなったら……なぜか主人公がキレ始めて。 「主人公は俺なのに……」 「うん。キミが主人公だ」 「お前のせいで原作が壊れた。絶対に許さない。お前を殺す」 「理不尽すぎません?」  原作原理主義の主人公が、俺を殺そうとしてきたのだが。 ※ カクヨム様にて、異世界ファンタジージャンル表紙入り。5000スター、10000フォロワーを達成!

【全話挿絵】発情✕転生 〜何あれ……誘ってるのかしら?〜

墨笑
ファンタジー
『エロ×ギャグ×バトル+雑学』をテーマにした異世界ファンタジー小説です。 主人公はごく普通(?)の『むっつりすけべ』な女の子。 異世界転生に伴って召喚士としての才能を強化されたまでは良かったのですが、なぜか発情体質まで付与されていて……? 召喚士として様々な依頼をこなしながら、無駄にドキドキムラムラハァハァしてしまう日々を描きます。 明るく、楽しく読んでいただけることを目指して書きました。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

いずれ殺される悪役モブに転生した俺、死ぬのが嫌で努力したら規格外の強さを手に入れたので、下克上してラスボスを葬ってやります!

果 一
ファンタジー
二人の勇者を主人公に、ブルガス王国のアリクレース公国の大戦を描いた超大作ノベルゲーム『国家大戦・クライシス』。ブラック企業に勤務する久我哲也は、日々の疲労が溜まっている中、そのゲームをやり込んだことにより過労死してしまう。 次に目が覚めたとき、彼はゲーム世界のカイム=ローウェンという名の少年に生まれ変わっていた。ところが、彼が生まれ変わったのは、勇者でもラスボスでもなく、本編に名前すら登場しない悪役サイドのモブキャラだった! しかも、本編で配下達はラスボスに利用されたあげく、見限られて殺されるという運命で……? 「ちくしょう! 死んでたまるか!」 カイムは、殺されないために努力することを決める。 そんな努力の甲斐あってか、カイムは規格外の魔力と実力を手にすることとなり、さらには原作知識で次々と殺される運命だった者達を助け出して、一大勢力の頭へと駆け上る! これは、死ぬ運命だった悪役モブが、最凶へと成り上がる物語だ。    本作は小説家になろう、カクヨムでも公開しています 他サイトでのタイトルは、『いずれ殺される悪役モブに転生した俺、死ぬのが嫌で努力したら規格外の強さを手に入れたので、下克上してラスボスを葬ってやります!~チート魔法で無双してたら、一大勢力を築き上げてしまったんだが~』となります

【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】  最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。  戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。  目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。  ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!  彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中

処理中です...