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オスカーの帰郷編

その64 将軍シュテルベン☆

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 セレナはマヤと戯れていた。
 庭のブランコで、小さな二歳の女の子と、成熟した美女になりかけている華麗な少女が、微笑ましい交流をしている。

 オスカーは自分がマヤに嫌われていることを自覚しているため、父親の農作業の手伝いに行っていた。

「可愛いでちゅねー、マヤちゃん」

「ねーね」

「よちよちー」

 破顔してマヤの頭を撫でるセレナ。
 それに応えるように、マヤも屈託のない笑顔を作る。まるで本当の姉妹のようだった。年が十四歳も離れているため、母と娘、のようにも見えるのかもしれない。

(母と娘……ってことは、私の夫は、オスカー!)

 オスカーと結婚した将来の自分を思い浮かべ、頬が緩む。
 だが、すぐに我に返り、首を振った。

(まだそれは早いか)

 セレナはオスカーに告白をした。
 だが、その返事は結局わからなかった。オスカーが何を考えているのかを理解することは、誰にもできない。

 ブランコに腰掛け、穏やかな揺れを生み出しているマヤの背中を、後ろから優しく押す。

 だが――。

(あちゃー、マヤちゃん)

 一秒前まで満面の笑みを見せていたマヤが、急に泣き始めた。
 声を張り上げ、全力で泣き叫ぶ。何かが、つい一秒前とは変わってしまったかのように。

 セレナはブランコの勢いを止め、マヤを抱え上げた。上下に揺らし、背中をさする。それでも一向に泣き止まない。

 その時、マヤが無理やり体をねじり、セレナの抱擁から逃れた。

 ――感覚。

 ――何かが。

 ――何かが後ろから狙っている。

 ――何を狙っているのか。

 それは一瞬の出来事だった。
 マヤにはわかっていた。そして、セレナは気づくのが遅れてしまった。
 
 左頬すれすれに飛んできた一本の矢。セレナに当たり損ねた漆黒の矢は、ブランコの柱に命中し、黒いもや・・と共に消滅した。

(わざと狙いを外した……?)

 即座に振り返る。

『その娘を渡してもらいますぞ』

 セレナの背後に構えていたのは、ダークエルフが……五人。

「その娘って……マヤちゃんのこと?」

 初めて目にした闇の妖精ダークエルフに動揺しつつも、セレナは冷静さを保って聞き返した。
 今ここで、恐怖に押し潰されるわけにはいかない。

西園寺さいおんじオスカーの妹だと聞きました。それにしても、お前は誰ですか? タナトス様からの話に、同年代の女の話はなかったような――」

「オスカーを、知ってるの?」

「ええ、当然ですとも。タナトス様からその者の始末を命じられました」

 セレナが眉を細める。

(オスカーの始末? なんで? 魔王を倒したりしたから?)

 思い当たることといえば、それくらいしかない。それとも……。

(神殺しが、関係してるの?)

 頭の中で考えが浮かんでは消えていく。

 セレナに話しかけているのは五人のダークエルフの真ん中センターにいる男だ。顔立ちは皆エルフのように麗しいが、黒い髪に黒い瞳――エルフは金髪などの明るい髪色が特徴だが、ダークエルフは必ず黒髪に黒目である。

「お前がその娘をおとなしく差し出せば、お前自身に・・・危害は加えません。我が種族ダークエルフは必ず約束を守ります」

「マヤちゃんに何するつもり? 絶対に渡さないから!」

「勿論殺すつもりですぞ、西園寺オスカーの目の前で。あの者が絶望する様子を、タナトス様に見ていただきながら」

「殺す……? あんた、本気でオスカーに勝てると思ってるわけ?」

 魔王を倒してしまうほどの実力者、西園寺オスカー。
 セレナはオスカーの実力が、目の前のダークエルフを上回っていると確信していた。

「ええ、今の我々はタナトス様より力を授かっています。いくら魔王殺しの西園寺オスカーも、我々が束になってかかれば――」

「あんた、馬鹿ね。オスカーがやられるわけない!」

「お前、思っていたよりうるさいですぞ」

 自分より下等な種族に罵倒されたダークエルフの男、シュテルベン。
 この程度で憤慨するほど愚かではない。ただ、少々の苛立ちを見せてセレナに問いかける。

「もう一度聞きましょう。お前、誰です?」

「私はセレナ。オスカーの将来の嫁になる女よ!」

 ダークエルフの怒りに火をつけるだけだとわかっていながらも、セレナは堂々と言い放った。
 これぐらいのことができなければ、オスカーの隣には立てない。

「将来の嫁……つまりは、現段階で、西園寺オスカーの婚約者……」

 シュテルベンが思わぬ笑みを浮かべた。
 光を狩り尽くしてしまうかのような、じめじめとした笑みだ。彼の頭の中には、盟主タナトスを喜ばせている自分の姿が鮮明に浮かんでいる。

「な、何? 何か文句でもあるわけ?」

「いいえ……計画変更です。お前もその娘も、両方殺すことにしましょうぞ」
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