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オスカーの帰郷編

その61 新しい家族

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 重厚な木材でできた、硬い扉をコンコンと叩く。

 この音が、俺の心臓の鼓動と連動リンクしていた。

 五年ぶりの我が家ホーム
 こじんまりとした木造建築で、周囲には同じような家が何軒か並んでいる。田舎の中の田舎という感じだが、農園も近くにあって、食べ物に困ることはさほどない。

 建物自体はまったく変わっていなかった。
 変わったところといえば、庭に手作りのブランコがあるところくらいだろうか。

「なんか緊張してきたんだけど」

 隣に立っているセレナが呟く。
 彼女が緊張する必要はない。確かに俺も緊張しているんだろうが、彼女の方がぎこちないように思えた。

 ギギギッと扉が軋み、ゆっくりと開けられる。

 永遠の時を体験しているかのようだった。すっかり老けた両親が現れたらどうしよう? そんな余計な心配が頭をよぎる。

「どちら様で――ッ!」

 五年ぶりに見たかあさんはあまり変わっていなかった。
 今は三十九歳。
 俺と同じ黄金色の瞳は俺よりずっと大きく、長い茶色ブラウンの髪は後ろでひとつに束ねてある。俺の目の色は母親譲り、髪の色は父親譲りだった。

 大きく変わっていたこと――それは腕に女の子を抱えていることだ。
 女の子といっても、だいたい二歳か三歳くらい。縦に抱っこしている。

「オスカー……」

 その直後、乾いた音が世界に響いた。

 ――痛い。
 どうやら俺は頬をビンタされたらしい。

 これくらい大したことないはずだが、どうしてか、針で刺されたような鋭い痛みを感じた。

 とはいえ、俺の頬を殴った馬鹿いがらしは拳を血塗れにしてしまっている。心配になって母さんの手のひらを見るも、怪我している様子はなかった。

 母さんが女の子を地面に下ろし、両腕を広げる。

「五年……たったね」

 それは優しい抱擁だった。
 この五年間抱えてきたものが、少しだけ軽くなったような気がした。抱えられている女の子が不思議そうな表情で俺を見上げている。

「このはマヤ。あなたの妹よ」

「俺の……妹?」「オスカーの……妹?」

 俺とセレナの声が重なる。ここでようやく、母が息子の隣にいる絶世の美少女の存在に気づいた。

「その子は……もしかして……」

二階堂にかいどうセレナです。こんにちは」

 さらさらの金髪を揺らし、ぎこちなく挨拶するセレナ。

「オスカーも……成長したのね……こんな可愛い彼女ガールフレンドだってできて……」

 ここ最近、誤解が多いのは気のせいだろうか。

「いえ、まだ・・付き合ってるわけじゃありません」

 セレナが、まだ、の部分を強調して言った。
 いずれは俺と付き合うつもりらしい。

「お互い、話すことがいっぱいあるみたいね」

「そういえば、父さんは?」

「もうすぐ帰ってくるはずよ」

 今も同じことをしているかはわからないが、少なくとも以前は農業をしていた。
 新鮮な野菜を持って帰ってきて、家族三人で夕食を取る。そんな生活だった。いや、今はもう、四人家族――それか、俺を抜いての三人家族、といったところ。

 妹であるマヤは、しばらく俺のことを見つめていたかと思うと、ぷいっと顔を背けて家の中に入っていった。

 それを追いかけるようにして、俺達も中に入る。

「やっぱり忘れられてなかったでしょ?」

 セレナがどこか自慢げに話しかけてくる。
 そりゃあ、よほどのことがない限り、強さを求めて家出した息子のことは忘れないと思うが。

「記憶というのは不思議なものだ」

 指摘はせずに軽薄に答える。
 まだ表情を緩めることなく、我が家の中核リビングへと歩みを進めていくのだった。
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