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オスカーの帰郷編

その60 馬車に揺られて

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 八月十三日。
 いよいよ解放日がやってきた。

 多くの生徒が実家に帰省したり、友人と王都ゼルトル・シティに遊びに行ったりする。

 グレイソンは実家に帰省。一ノ瀬いちのせ家はとんでもない金持ち貴族なので、きっと素晴らしい家なんだろう。

 クルリンとミクリンの双子姉妹も、同じく帰省だ。
 姉のミクリンいわく、クルリンが真っ先に母に抱き締められるだろう、とのことだ。小動物のような可愛さを持つクルリンは、母親から溺愛されていて、姉のミクリンは厳しめに育てられたのだとか。

 その育て方の違いが、この双子の性格の大きな違いを生んだのかもしれない。グレイソンのこともそうだが、同じ兄弟や姉妹で扱われ方に違いや格差が出るのは仕方ない。だが、なんだか虚しいようにも思える。

「オスカーの実家って、ここからどれくらいかかるの?」

「さほど遠くはない。もうすぐ着く」

 この解放日、どう過ごすのかは俺の意志次第だった。

 一切学園の敷地内から出ず、人の少ない静かな〈闘技場ネオ〉で訓練を続けるのも悪くない。
 だが、久しぶりに親の顔が見たくなった。家族のことを話すグレイソン達と関わっていると、両親への罪悪感が湧き上がってきたからだ。

 というわけで、今はセレナと馬車タクシーに乗って、俺の実家に向かっている。

 どうしてセレナなのか。
 それは、彼女にも複雑な事情があるらしく、実家に帰りずらいから。
 せっかくなので彼女についてきてもらった。そういう感じだ。

 馬車に揺られ、二時間。

 〈破滅の森〉は大陸の最西端にあるため、実家への帰省の途中で通ることはない。だが、不意にあそこでの過酷な日々が思い出された。
 実家に近づいていくたびに、幼い自分に戻っていっているような、変な気分だった。

「両親は俺のことを覚えていないのかもしれない」

 ボソッと呟く。
 まだ五年前のことなので流石にそれはないと思うが、演出・・は大事だ。自然と纏う悲壮感も、俺の不思議なオーラを醸し出す上で不可欠な要素。その工程を怠るわけにはいかない。

「それはないでしょ。今もオスカーの帰りを待ってるかもしれないし」

「そうだといいな……」

 そう答える俺の声は、限りなく低く、弱々しかった。



 馬車には俺とセレナの二人しかいない。
 向かい合って席に座り、たまに外の景色を眺めたりしている。

 ありがたいことに、馬車の料金はゼルトル勇者学園が負担してくれていた。普段自由に外出ができない分、こういう時には丁寧に待遇してくれる。

 セレナとは少し会話を交わしたかと思うと、また水を打ったように静かになった。
 その繰り返しだ。話題がないわけでもない。ただ、二人ともこの沈黙が嫌いではなかった。

 そしてまた自然な流れで会話が始まる。

「そういえばさ、オスカーの誕生日、明後日あさってだったよね」

「ああ、そんな日もあったな」

「ずっと祝ってもらってないでしょ?」

「神殺しで忙しかったからな。誕生日どころではなかった」

 ――神殺し。
 セレナの前ではもう普通にこの話題を出すことができる。彼女は重罪を犯した俺のことを受け入れてくれた。まだ、グレイソンや双子姉妹には話していないことだ。

 彼らも俺のことを受け入れてくれるだろうか。

 また学園に戻ったら、この事実を打ち明けるべきなんだろうか。

「今年は、私が祝ってあげるから」

 セレナが微笑む。

「そうか。それは楽しみだ」

 俺もその微笑みに応えた。
 馬車は少しずつ、俺の故郷ホームに近づいていく。
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