47 / 68
読書パーティー編
その47 セレナからの手紙
しおりを挟む
朝から一日中闘技場で剣を振るっていたせいか、上半身にばかり疲労が集中している。特に右腕はパンパンだ。ここ数ヶ月間、授業で実技と座学のバランスが調整されていたせいかもしれない。
入学前だったら何とも思わないような八時間程度の訓練。
この夏休みでまた体力を戻していく必要がある。
寮の自室に入り、空気を吸い込んだ。なぜかわからないが、これが俺の変な癖になっていた。
(匂いが違う)
そして気づく。
俺の部屋ではするはずのない、爽やかな柑橘系の果実の香り。
「セレナ……」
低めのイケボで囁く。
この部屋にセレナがいるわけではない。だが、雰囲気は大切だ。
窓から日の光を多く取り込めるように設置した勉強机の上に、丁寧に封がされた手紙が置いてあった。つまり、俺のいない間にセレナが部屋に侵入し、手紙を配置した、ということになる。
なかなかロマンティックな演出だ。
男子が女子の部屋、いや、女子寮に入ることは絶対的に禁止され、かなり厳密な監視があるくせに、その逆に関してはさほど厳しくない。これは男女差別ではなかろうか。
ちなみに、俺は部屋に鍵をかけない性格だ。盗まれたら困るような貴重品はないし、万が一盗まれるようなことがあったとしても、確実に犯人を捕まえられる自信がある。
この柑橘系の香りは、セレナが出入りした時に残ったものらしい。
彼女の部屋に侵入して、初めて抱き合った時のことを思い出す。セレナの体は驚くほどに柔らかく、同じ人間なのかと疑ってしまうほどだった。
(セレナからの手紙、か)
封を開ける前に、どんな内容なのか想像する。
昨日の終業式では、気持ちの整理がついていないだろうということで、無理に話をさせなかった。わざわざ手紙を書くということは、俺に会うことがプレッシャーになっている、ということなのかもしれない。
隣の席の同級生が魔王を倒せるほどの実力者だった。となれば、会うことに恐怖を覚えるのも当然か。
もう二度と関わらないでください――そう書いてある可能性もなくはない。
そんなことを想像しながら、心拍数が少しずつ上がっていっていることに気づいた。緊張したり不安になったりすることなどなかったのに……これは初めての経験だ。
覚悟を決める。
丁寧な封を丁寧に開け、中に入っている手紙を見つめた。セレナは達筆だ。
美しい文字で書かれていたのは、たった一文。
拍子抜けする形になったが、その一文の持つ影響力は魔王セトの放つ魔力よりも大きい。
明日、八月二日の夜、私の部屋で
簡潔だ。
情報が洗練されていて、美さえ感じる。最初に出てきた感想はそんなものだった。
女子の部屋に行くのはそう簡単ではないのに、気軽に書いているところもまたいい。それに、俺には前科がある。
瞬間移動ができる〈刹那転移〉では、自分が知っているところにしか行けない、という縛りがあった。
前回少しリスクを冒してでも彼女の部屋に侵入したことが功を奏したのかもしれない。
「明日の夜、セレナの部屋、か」
夜風と共に現れる西園寺オスカーの姿が想像できる。
かなり「かっこよさそう」だ。ぜひともやってみたい。
入学前だったら何とも思わないような八時間程度の訓練。
この夏休みでまた体力を戻していく必要がある。
寮の自室に入り、空気を吸い込んだ。なぜかわからないが、これが俺の変な癖になっていた。
(匂いが違う)
そして気づく。
俺の部屋ではするはずのない、爽やかな柑橘系の果実の香り。
「セレナ……」
低めのイケボで囁く。
この部屋にセレナがいるわけではない。だが、雰囲気は大切だ。
窓から日の光を多く取り込めるように設置した勉強机の上に、丁寧に封がされた手紙が置いてあった。つまり、俺のいない間にセレナが部屋に侵入し、手紙を配置した、ということになる。
なかなかロマンティックな演出だ。
男子が女子の部屋、いや、女子寮に入ることは絶対的に禁止され、かなり厳密な監視があるくせに、その逆に関してはさほど厳しくない。これは男女差別ではなかろうか。
ちなみに、俺は部屋に鍵をかけない性格だ。盗まれたら困るような貴重品はないし、万が一盗まれるようなことがあったとしても、確実に犯人を捕まえられる自信がある。
この柑橘系の香りは、セレナが出入りした時に残ったものらしい。
彼女の部屋に侵入して、初めて抱き合った時のことを思い出す。セレナの体は驚くほどに柔らかく、同じ人間なのかと疑ってしまうほどだった。
(セレナからの手紙、か)
封を開ける前に、どんな内容なのか想像する。
昨日の終業式では、気持ちの整理がついていないだろうということで、無理に話をさせなかった。わざわざ手紙を書くということは、俺に会うことがプレッシャーになっている、ということなのかもしれない。
隣の席の同級生が魔王を倒せるほどの実力者だった。となれば、会うことに恐怖を覚えるのも当然か。
もう二度と関わらないでください――そう書いてある可能性もなくはない。
そんなことを想像しながら、心拍数が少しずつ上がっていっていることに気づいた。緊張したり不安になったりすることなどなかったのに……これは初めての経験だ。
覚悟を決める。
丁寧な封を丁寧に開け、中に入っている手紙を見つめた。セレナは達筆だ。
美しい文字で書かれていたのは、たった一文。
拍子抜けする形になったが、その一文の持つ影響力は魔王セトの放つ魔力よりも大きい。
明日、八月二日の夜、私の部屋で
簡潔だ。
情報が洗練されていて、美さえ感じる。最初に出てきた感想はそんなものだった。
女子の部屋に行くのはそう簡単ではないのに、気軽に書いているところもまたいい。それに、俺には前科がある。
瞬間移動ができる〈刹那転移〉では、自分が知っているところにしか行けない、という縛りがあった。
前回少しリスクを冒してでも彼女の部屋に侵入したことが功を奏したのかもしれない。
「明日の夜、セレナの部屋、か」
夜風と共に現れる西園寺オスカーの姿が想像できる。
かなり「かっこよさそう」だ。ぜひともやってみたい。
43
お気に入りに追加
577
あなたにおすすめの小説
【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する
エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】
最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。
戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。
目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。
ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!
彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!!
※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中
転生受験生の教科書チート生活 ~その知識、学校で習いましたよ?~
hisa
ファンタジー
受験生の少年が、大学受験前にいきなり異世界に転生してしまった。
自称天使に与えられたチートは、社会に出たら役に立たないことで定評のある、学校の教科書。
戦争で下級貴族に成り上がった脳筋親父の英才教育をくぐり抜けて、少年は知識チートで生きていけるのか?
教科書の力で、目指せ異世界成り上がり!!
※なろうとカクヨムにそれぞれ別のスピンオフがあるのでそちらもよろしく!
※第5章に突入しました。
※小説家になろう96万PV突破!
※カクヨム68万PV突破!
※令和4年10月2日タイトルを『転生した受験生の異世界成り上がり 〜生まれは脳筋な下級貴族家ですが、教科書の知識だけで成り上がってやります〜』から変更しました
転生をしたら異世界だったので、のんびりスローライフで過ごしたい。
みみっく
ファンタジー
どうやら事故で死んでしまって、転生をしたらしい……仕事を頑張り、人間関係も上手くやっていたのにあっけなく死んでしまうなら……だったら、のんびりスローライフで過ごしたい!
だけど現状は、幼馴染に巻き込まれて冒険者になる流れになってしまっている……
分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活
SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。
クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。
これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。
~クラス召喚~ 経験豊富な俺は1人で歩みます
無味無臭
ファンタジー
久しぶりに異世界転生を体験した。だけど周りはビギナーばかり。これでは俺が巻き込まれて死んでしまう。自称プロフェッショナルな俺はそれがイヤで他の奴と離れて生活を送る事にした。天使には魔王を討伐しろ言われたけど、それは面倒なので止めておきます。私はゆっくりのんびり異世界生活を送りたいのです。たまには自分の好きな人生をお願いします。
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する
雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。
その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。
代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。
それを見た柊茜は
「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」
【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。
追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん…....
主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します
はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~
緋色優希
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる