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読書パーティー編

その47 セレナからの手紙

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 朝から一日中闘技場で剣を振るっていたせいか、上半身にばかり疲労が集中している。特に右腕はパンパンだ。ここ数ヶ月間、授業で実技と座学のバランスが調整されていたせいかもしれない。

 入学前だったら何とも思わないような八時間程度の訓練。

 この夏休みでまた体力を戻していく必要がある。

 寮の自室に入り、空気を吸い込んだ。なぜかわからないが、これが俺の変な癖になっていた。

(匂いが違う)

 そして気づく。
 俺の部屋ではするはずのない、爽やかな柑橘系の果実の香り。

「セレナ……」

 低めのイケボで囁く。

 この部屋にセレナがいるわけではない。だが、雰囲気は大切だ。

 窓から日の光を多く取り込めるように設置した勉強机の上に、丁寧に封がされた手紙が置いてあった。つまり、俺のいない間にセレナが部屋に侵入し、手紙を配置した、ということになる。
 なかなかロマンティックな演出だ。

 男子が女子の部屋、いや、女子寮に入ることは絶対的に禁止され、かなり厳密な監視があるくせに、その逆に関してはさほど厳しくない。これは男女差別ではなかろうか。

 ちなみに、俺は部屋に鍵をかけない性格タイプだ。盗まれたら困るような貴重品はないし、万が一盗まれるようなことがあったとしても、確実に犯人を捕まえられる自信がある。

 この柑橘系の香りは、セレナが出入りした時に残ったものらしい。
 彼女の部屋に侵入して、初めて抱き合った時のことを思い出す。セレナの体は驚くほどに柔らかく、同じ人間なのかと疑ってしまうほどだった。

(セレナからの手紙、か)

 封を開ける前に、どんな内容なのか想像する。

 昨日の終業式では、気持ちの整理がついていないだろうということで、無理に話をさせなかった。わざわざ手紙を書くということは、俺に会うことがプレッシャーになっている、ということなのかもしれない。

 隣の席の同級生が魔王を倒せるほどの実力者だった。となれば、会うことに恐怖を覚えるのも当然か。

 もう二度と関わらないでください――そう書いてある可能性もなくはない。

 そんなことを想像しながら、心拍数が少しずつ上がっていっていることに気づいた。緊張したり不安になったりすることなどなかったのに……これは初めての経験だ。

 覚悟を決める。
 丁寧な封を丁寧に開け、中に入っている手紙を見つめた。セレナは達筆だ。

 美しい文字で書かれていたのは、たった一文。

 拍子抜けする形になったが、その一文の持つ影響力は魔王セトの放つ魔力よりも大きい。



 明日、八月二日の夜、私の部屋で



 簡潔だ。
 情報が洗練されていて、美さえ感じる。最初に出てきた感想はそんなものだった。

 女子の部屋に行くのはそう簡単ではないのに、気軽に書いているところもまたいい。それに、俺には前科がある。

 瞬間移動ができる〈刹那転移ゼロ・テレポート〉では、自分が知っているところにしか行けない、という縛りルールがあった。
 前回少しリスクを冒してでも彼女の部屋に侵入したことが功を奏したのかもしれない。

明日あす、セレナの部屋、か」

 夜風と共に現れる西園寺さいおんじオスカーの姿が想像できる。

 かなり「かっこよさそう」だ。ぜひともやってみたい。
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