【完結】勇者学園の異端児は強者ムーブをかましたい

エース皇命

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罪深き修行編

その32 破滅の森

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「強くなりたい」

 十二歳の夏、俺は家を旅立った。

 そこに大きな理由はない。
 家庭環境が厳しかったわけでもなく、貧しかったわけでも、魔王に襲われた屈辱から強さを求めているわけでもない。

 ただ、「かっこよさそう」だから。

 男に生まれた宿命だろうか。
 俺は僅かな食料と一本の錆びた剣を背負い、十二年間世話になった実家を旅立った。

 両親は大反対。

 それも当然だ。大切に育ててきた息子がいきなり家を出るのだから。何の前触れもなく、俺は強引に家出・・したのだった。



 ***



『少年よ、なんじは何を求めてこの地に来た?』

 三日歩き続け、俺が辿り着いたのは〈破滅の森〉。
 
 スペイゴール大陸の最西端に位置する、やたらと不気味な森だ。
 家族旅行でこの森の前を通って、いつかはひとりで訪れたいと思っていた場所でもある。

 誰も足を踏み入れようとしない〈破滅の森〉に、十二歳ながら単身で乗り込んだ少年、西園寺さいおんじオスカー。

 その肩書きを、俺は手にした。

 名称に「破滅」とあるだけに、森の中は不気味そのものだ。古くからの伝承では、ダークエルフが縄張りを張っている、などという興味深いものもあった。昼なのにも関わらず、高くそびえる漆黒の木々が、日の光を遮断する。

 精神的な支えはどこにもなく、この森で自ら命を絶つ者は多い。

 そんな〈破滅の森〉で、俺は野宿していた。
 楽しそうに口笛を吹きながら、何か恐ろしいことが起こるのを待ちわびているように。もしかしたら、この瞬間にもダークエルフが俺の命を狙っているのかもしれない。

 だが、俺は気にしなかった。

 こんな様子の少年を、警戒しない者はいないだろうから。
 人間など足を踏み入れない領域でひとり、余裕の表情で野宿している。そんな少年を誰が襲おうか。いや、むしろ恐れて近づかないに決まっている。

 そして、俺は〈とある神〉に出会った。

「俺に何か用か?」

 干し肉を頬張る俺の前に、いきなり現れた怪しげな存在・・

 明らかに人間ではない。
 体長は三Мメルトルほどあるだろうか。長いローブに身を包み、フードをかぶっているので顔が見えない。声は中性的で、男なのか女なのか。

 俺はその存在に対して一切の恐怖を見せなかった。

 声をかけられても、何事もなかったかのように干し肉を食べ続ける。

「この絶望に満ちた森に、人間が姿を見せたのは実に五百年ぶりだ。それでいて、まだ平常心を保っているとは」

「名前も知らない奴と話すつもりはない」

 ここで、干し肉がなくなった。
 ようやく俺の視線が奴に向く。

われは……〈とある神〉、そう名乗っておこう」

「とある神、だって?」

「汝が知る必要はない。それより、汝の名が重要だ」

 奴の顔は確認できないが、ほんの少しだけ笑っているように思えた。
 
 この状況に少しも動揺することのない少年に、興味を持っている証だ。
 まさしく俺はこれがやりたかった。家を出て、この危険スリルを味わいたかった。

「俺はオスカー」

 声変わり途中の十二歳にできる最大限の低音で、台詞セリフを紡ぐ。

「オスカー……そうか、汝が予言の少年か」

「予言? 何の話だ?」

「汝が気にすることではない。しかし、我は確信した。オスカー、力を求める者よ。最強の力が欲しいか?」

 木々がざわめき、何かの誕生を恐れた。

 薄暗い森林に吹き荒れる邪悪な風。
 俺を破滅へ導こうと、悪魔の囁きを繰り返す。

 もし俺が頷けば、この世界の秩序は崩壊してしまう。全てを穿つ、最強の存在が誕生してしまう。

 〈破滅の森〉はそれを恐れているのか?

「俺は力が欲しい。たとえどんなものを犠牲にしても、他の追随を許さない圧倒的な力を、手に入れたい」

 闇の森が大きく揺れた。

 木々の激しい動きにより、太陽の光が隙間から差し込む。カラスが鳴いていた。不吉な悪夢の前兆だ。俺はその中心にいる。正体不明の〈とある神〉の言葉に耳を貸し、自ら過酷な運命を定めたのだ。

 未だ正体を見せない〈とある神〉は、満足したように一度、頭を縦に振った。

「最強への旅は容易ではない。この世界には、規格外とも言える強さを持つ勇者がごまんといる。何十年もの年月をかけて、ようやくたどり着ける高みだ。それでも汝は強さを求めるか?」

 再確認。

 まだ後戻りすることもできる。悪魔と契約を結ぶようなものだ。常人ならここで立ち止まって考え、首を横に振ることだろう。

 幸い、俺はこの時点で、常人の域を超えていた。

「たとえどんな過酷が待っていようと、俺は強さを求め続ける」

 その言葉に、〈とある神あくま〉がわらう。

「地獄へようこそ、予言の子、西園寺・・・オスカー」
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