【完結】勇者学園の異端児は強者ムーブをかましたい

エース皇命

文字の大きさ
上 下
30 / 68
一学期期末テスト編

その30 敗者への救いの手

しおりを挟む
 生徒相談室に動揺が広がる。

 たった今、退学者が決定したのだ。
 約束は約束。負ければ退学――そう言って勝負を持ちかけたのは九条くじょうの方であり、そこにどんな言い訳も通用しない。

 九条は口を結び、無言を貫いた。

 まだ思考がまとまっていない様子で、言葉を発する準備すらできていない。
 実際に全てで満点を取り、勝利を確信していた彼にとって、敗北はあり得ないものだった。

 確実に俺を潰すために引き分けの存在を破棄したが、それが今回の勝敗・・を分けた。その一言さえなければ、勝敗はなく、引き分けドローだっただろうに。

「百点を取らないってそういうことだったのか! 八十九点――九十点からは表彰されるからね!」

 グレイソンが興奮した様子で俺の腕を掴む。

「それに、百点を取れなかったわけじゃなく、百点が取れるのにわざと八十九点になるように調整・・した! 配点が書いてあるわけでもなかったのに!」

 そう。
 俺は百点を取ることができた。

 日頃の学園図書館での勉強はこのためにある。スワンが見せている俺の解答用紙には、いくつかの正しい答えが濃い二本線で消されていた。
 俺は正しい答えを書いているのだ。正解となる解答を書いてから、自分で二本線を上から濃く引くことで、正式には丸がつかないようにしている。

 採点者は俺が正解をわかっているという事実を知りながらも、それが二本線で消してあることに対してバツをつけなくてはならない。

 ――実質百点。
 それに加え、配点を自分で計算した上、見事に的中させた。

 そう考えれば九条とも並ぶだけの成績となるが、勿論それだけではない。全てで満点の九条を負かしてまで、教師が俺の勝利を選んだ理由――。

『――ちなみに~、一年生の筆記テストって、三学年の中で一番難しいらしいんですよ~。特に三年生は実技が中心になるから、筆記はそんなに重要じゃないみたいで~す――』

 これは約一ヶ月前のホームルームでのスワンの言葉だ。

 三年生が満点を取ることと、一年生が満点を取ること。
 彼女の言葉から考えれば、一年生が満点を取ることの方が難しい。

 今回、俺は実質・・満点を取った。

 引き分けが通用しないのであれば、一年生の俺を勝ちとするしかない。

「九条、お前を失うことは〈3-B〉にとって大きな痛手だ……しかし、決まりは決まりだ。わかるか?」

 立花がその橙色の瞳を細める。
 口調は穏やかだ。だが、そこには確かな悔しさと、失望がある。相手を潰そうとするあまり、最悪の可能性を考慮できなかった。それは九条の犯した大きな失態。

「はい、師匠マスター……」

 九条が頭を押さえ、うずくまる。

 優しいグレイソンは視線をそらし、俺は崩れる九条を無表情で見つめていた。

師匠マスター、いいでしょうか?」

 瞳に生気を戻し、俺が口を開く。
 立花はちらっと二人の教師に目を配り、そして頷いた。

「九条ガブリエルはこの学園に残るべきです」

「――ッ!」

 この言葉に対して一番大きな反応を示したのは九条本人だった。

「貴様! 何を言っている!? 吾輩は負けたのだ! 貴様に自分の最大の得意領域で勝負を挑み、無様に負けたのだ! そんな吾輩を哀れんでいるつもりか!?」

 乱暴に掴みかかり、俺を揺さぶる。
 鬼塚が慌てて止めようとしたが、俺が鋭い目で牽制した。

「この世界は新たな勇者の誕生を望んでいる。より強く、より多く……九条ガブリエルという男がここで終わっていいはずがない。ただそう思っただけだ」

西園寺さいおんじ……どうして貴様は……」

「俺を理解することはできない。この広大で無限の可能性を秘めた世界の全容を把握できないことと同じように、俺は人類の永遠の謎であり続ける」

 この言葉には、教師陣も惹きつけられた。

 適当主義のスワンでさえも目をぐっと見開いている。今回の試験を通して、俺の底知れない実力と、底知れない謎が新たにわかった。

 ――満点を取れたはずなのに、あえて目立たないために八十九点を取る男。

 そこには何か理由があるのか。
 実力を隠す必要があるのか。

 はっきりと言おう。そんなものはない。ただ、「かっこよさそう」だから。強いて言うなら、そんなところだろうか。

「学園としても、彼を失うのは避けたいことでしょう。戦いというものは、最終的に勝者が全てを決められます。私はこの勝負に勝った。ならば、九条ガブリエルの退学を取り消すことも可能です」

 ここで思い出される図書館での会話。
 俺は勝者にルール変更の権限を求めた。勝者にできないことなどない。

『この戦いに勝った者に、ルールを変えられる権限を与えてもらいたい』

『――この状況で言うのもあれだが、俺は君が気に入った。君の退学はなしにしてやってもいい』

 鬼塚が顎に手を当て、しばらく黙り込む。

 いつもうるさい鬼塚が黙るということは、前向きに検討してくれているということだろう。

 グレイソンは俺の寛容さ・・・に感心したようにキラキラとした目を向けてくる。実際のところ、これは俺が寛容だからではなく、純粋にもったいないと思ったからだ――彼は俺VS生徒会の戦いを盛り上げるのに必要な存在である。

「僕からもお願いします」

 その後グレイソンも、俺の発言に加勢するように深く頭を下げた。

 結果として、九条と少し前まで敵対していたはずの二人の生徒が、彼の救いを教師三人にお願いする形に。俺が言うのもあれだが、グレイソンは本当に変わっている。この状況で彼が頭を下げる必要などないのだ。

 鬼塚が溜め息をつき、九条を見る。

「あとはお前の意志次第だ。この学園を去ってもいいのか!?」

「私は……」

 今の九条には自尊心など欠片も残ってない。
 自分が最も得意とする座学で勝負を挑み、負けた・・・のだ。結果は出した。努力の成果は全て出し尽くした。
 それなのに、負けた。

 その敗北は彼にとって、コツコツと積み上げてきた自信を粉々に打ち砕く、爆弾の原料となる。

 最後に爆弾を完成させるのは、彼自身だ。
 もしここで、彼がもう一度立ち上がれるのなら――。

 ――道は開ける。

「……たいです……この学園に、残り、たいです……」

 二本足で立てるだけの力は残っていたようだ。

「私を、この学園に残らせてください!」

 鬼塚も立花も、そして俺もグレイソンも。
 その言葉に満足し、頷きを返す。

「九条」

 場が静まったことをいいことに、俺が口を開く。

「今回の勝負、相手が〈座学の帝王〉である君だったからこそ、盛り上がった。俺はこの戦いを一生忘れない。もし君がまだ俺を認めていなくとも、俺は常に高みを目指し続ける。覚悟しておけ」

 言いたいことはまとめて言う。
 それが完了した俺は、次のステップである「退場」に移行した。観客は教師三人と、九条。

 盛り上げ係として役割を全うしてくれたグレイソンは、俺と共に退場だ。

「この学園に危機が迫っている」

 根拠などないが、何かを悟ったかのように表情を曇らせ、目を細めながら言う。

「まさか、魔王セトが覚醒したのか……?」

 まさに百点満点の反応をしてくれる鬼塚。
 スキンヘッドの頭が反射する光が、俺の差し迫った表情を照らし出した。

「遊びに興じている場合ではなくなった……九条ガブリエル、忘れるな。たとえお前がここで立ち止まろうと、俺は走り続ける」

 静寂に包まれる生徒相談室。

 この空間から、一瞬にして色が抜け落ち、真っ黒な世界が彼らを包む。
 〈視界無効ゼロ・ブラインド〉だ。
 
 状況が飲み込めるようになった頃には、西園寺オスカーと一ノ瀬いちのせグレイソンはこの場にいなかった。










《罪深き修行編の予告》
 謎に包まれている西園寺オスカーの原点オリジン

 なぜ彼は、そんなに強いのか。
 なぜ彼は、本来ひとつしか所有できないはずの神能スキルを、複数持っているのか。

 そこには、「かっこよさそう」なことを愛し、追い求める彼の過酷な修行が関係していた。
 力を求める彼のもとに現れた、〈とある神〉とは一体!? オスカーの背負う、壮絶な過去とは!?



 お気に入り登録、エールよろしくお願いします!!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

元四天王は貧乏令嬢の使用人 ~冤罪で国から追放された魔王軍四天王。貧乏貴族の令嬢に拾われ、使用人として働きます~

大豆茶
ファンタジー
『魔族』と『人間族』の国で二分された世界。 魔族を統べる王である魔王直属の配下である『魔王軍四天王』の一人である主人公アースは、ある事情から配下を持たずに活動しいていた。 しかし、そんなアースを疎ましく思った他の四天王から、魔王の死を切っ掛けに罪を被せられ殺されかけてしまう。 満身創痍のアースを救ったのは、人間族である辺境の地の貧乏貴族令嬢エレミア・リーフェルニアだった。 魔族領に戻っても命を狙われるだけ。 そう判断したアースは、身分を隠しリーフェルニア家で使用人として働くことに。 日々を過ごす中、アースの活躍と共にリーフェルニア領は目まぐるしい発展を遂げていくこととなる。

最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした

服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜 大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。  目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!  そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。  まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!  魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

処理中です...