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一学期期末テスト編

その29 筆記バトルの行方

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 七月八日。
 
 筆記試験の翌日に行われた実技試験では、宣言通り平均以上の結果を出し、筆記の採点を待つだけになった。
 そのさらに翌日である今日、いよいよ九条くじょうとの決着がつく。

 試験結果は昼休みを挟んで午後から教室で発表されることになっているが、俺と九条は特別に昼休みに教師三人を交えて結果を聞くことになっていた。
 単純な点数の高さではなく、相対的な筆記の実力で競うからだ。そこには公平な教師の介入がなくてはならない。

 お互いに勝利を確信している。
 それが今回のポイントだ。自信と自信の衝突。どちらの自信がより強く、しなやかなのか。九条と中庭で対面した時、彼の根拠ある・・・・物言いがその自信の大きさを物語っていた。

 何かで結果を出すためには、他を突き放す驚異的な努力が必要不可欠だ。

 努力というのは単に時間をかければいいというわけではない。
 努力量と同じくらいに重要になるのが、努力の質。

 高い質を維持しながら、長い時間努力する。

 そして、ライバルの存在。

 高い目標。

 競い合う好敵手ライバルがいることで油断を防ぎ、目標があることでモチベーションを保つ。この条件が揃うことにより、努力は完成するのだ。

『試験後の感触はどうだい? 勝てる自信は?』

 試験初日の夜、グレイソンがわざわざ俺の部屋まで尋ねに来ていた。
 
 水玉の可愛らしい寝巻パジャマ姿が気になったが、それは見なかったことにしよう。

「俺がこの学園を退学になることはない。今はそれだけ伝えておこう。もしまだ心配だったら、明後日の昼、生徒相談室に来るといい。そこで決着をつける」

「……わかった。オスカーのことを信じているからこそ、僕もその場にいさせてもらうよ」

 そういう会話があって、昼休み、生徒相談室には三人の生徒の影があった。

 俺と九条、そしてグレイソン。
 九条は最初グレイソンを見て面倒くさそうな顔をしていたが、友人と最後の別れをするがいい、と言って感じ悪くわらってきた。

 当然ながら、俺はその程度の煽りに反応するほど幼稚ではない。

 九条が審査員として呼び集めた教師は三人。
 彼の担任である立花たちばなリックと、俺の担任である白鳥しらとりスワン、そして〈生存学サバイバル〉の担当で生徒指導の鬼塚おにずかイーサン。

 こうして見ても、確かに公平であると認めることができる。

 お互いのクラスの担任に、学園全体の生徒指導を司る、贔屓をしない鬼塚。
 立花は俺と関わりのない教師だが、どの生徒にも平等に厳しいという噂は聞いている。スワンは……適当主義なので俺を贔屓したりすることもないだろう。

「ついさっき採点が終わったばかりだ! お前達のプライドをかけた戦いなのか何なのかは知らんが、ここまでしてやっていることに感謝しろ!!」

「「はい、師匠マスター!」」

 鬼塚の凄い圧に、背筋を伸ばす俺と九条。

「点数を発表する前に、何か言いたいことはあるか!? 後からの言い訳はなしだ!」

「マスター・鬼塚、よろしいでしょうか?」

 ここで、九条が手を挙げる。

 まさか本当に発言されるとは思っていなかったのか、鬼塚が両目を細めて渋い顔をする。だが、受け入れないわけにはいかない。

「どうした?」

「今回、引き分けはなしでお願いしたいのです。確実にどちらかが勝利し、どちらかが敗れる――それこそが勝負ですから」

「――ッ。そうか……本当に・・・、それでいいのだな!?」

「はい、覚悟はあります」

「いいだろう! 西園寺さいおんじ、言いたいことはないか!?」

 ここに来て引き分けを潰された。
 九条も抜かりがない。確実に俺を殺しにきている。

 俺は一言も発さず、静かに頷いた。

「これ以上何か言うのは許さん! では、まず、試験の点数を発表する!」

 鬼塚がそう言うと、右側で待機していた立花が紙を手に取り、読み上げ始めた。

「九条ガブリエル、〈神能スキル学〉百点、〈勇者史〉百点、〈神話学〉百点、〈ゼルトル語〉百点、〈魔王学〉百点――五科目合計五百点満点」

 立花の声は落ち着いていて、聞き取りやすい。
 九条がまた全て満点という偉業を成したわけだが、立花の静かな点数の音読は、逆にその偉業に対する興奮を冷ました。

 グレイソンが青ざめる。

 対戦相手くじょうはどうだと言わんばかりに眉を吊り上げ、俺を見てきた。
 素直に凄いことだと思ったので、両手を合わせ軽く拍手を送る。嫌味のつもりはない。

 立花に続き、今度はスワンが俺の点数を読み上げ始めた。

「西園寺――えーっと、オスカー、〈神能スキル学〉八十九点、〈勇者史〉八十九点、〈神話学〉八十九点、〈ゼルトル語〉八十九点、〈魔王学〉八十九点――五科目合計四百四十五点」

「西園寺……貴様は……」

 明らかになった俺の点数。

 九条の全て満点に対し、俺は全て八十九点。普通に考えれば、俺の負けである。〈神能スキル学〉の点数を聞いた時には安堵した表情を浮かべていた九条だが、八十九点が並べられていくうちに、顔色が少しずつ青に変わっていった。

「オスカー、キミはまさか……」

 同じく青ざめていたグレイソンも、何かに気づいたらしい。

 少し顔色が元に戻る。

「点数は以上だ! この点数だけで言えば、明らかに九条、お前が優勢だ! しかし、だな」

「――ッ」

「西園寺の解答用紙を見ろ。ここに全ての答えがある」

 鬼塚の声はいつもより優しかった。
 
 スワンが俺の解答用紙を取り出し、模範解答と共に俺達三人に見せる。

 九条が瞠目し、グレイソンが肩の力を抜く。
 そして俺は微笑んだ。
 鬼塚が言ったように、そこには全ての答えがある。ここにいる生徒三人及び教師三人を納得させる、無慈悲な一撃。

「三人で話し合った結果、今回の勝負、引き分けにするつもりだったんだが……九条、覚悟はできていると言ったな……西園寺の勝利だ!」

 鬼塚の決定打が、九条を打ち砕いた。
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