上 下
16 / 68
一学期期末テスト編

その16 少し変わった通学風景

しおりを挟む
 今日は天気がいい。

 雲ひとつない青空に、照りつける日差し。
 日焼けが少し心配だが、膨大な魔力を薄く全身に張り巡らせている俺に、紫外線は届かない。

 通学に必要なものは特にない。
 教科書類は全て教室の鍵付き棚ロッカーに入れているし、勇者になるのに欠かせない道具である剣は、寝る時以外は常時携行している。

 だが、ほとんどの生徒は剣すらも武器庫にしまっているため、手ぶらだ。
 いきなり魔王が空から襲撃してきたらどうする? やっぱり護身用の剣は必要不可欠だ。

「ねえ、これってどういう状況?」

 いつものように俺の右隣を歩くのは、長い金髪の美少女セレナ。

 昨日までとは違う通学の光景に、思考が追いついていないようだった。

「あたち、オスカーしゃまの分のお弁当つくってきたのです!」

「それ、わたしがほとんど作りました」

「むぅ。あたちがぜーんぶつくったのです!」

「嘘言わないで。クルリンはサンドイッチのパンにバター塗っただけよね」

「ムキー!」

 俺の左側には青髪碧眼の美少女がふたり。

 姿勢が良く、大人っぽい長髪ロングがミクリン。
 とても小柄で、今ぷりぷり怒っている短髪ショートボブがクルリンだ。

 この双子姉妹とはたまたま・・・・寮を出る時に鉢合わせし、今こうして一緒に歩いているというわけである。クラスも同じだし、特に支障はない。

 さらに言えば、二人は俺の実力を知る数少ない生徒だ。
 彼女達は俺の求める「かっこよさそう」な学園生活に必要不可欠なスパイス。演出を盛り上げてくれるに違いない。

 そして――。

「オスカー、今日の〈剣術〉の授業では僕と組まないかい? これなら、放課後以外でも……いや、とにかくキミとまた戦ってみたいんだよ」

 昨日決闘をした相手である、一ノ瀬いちのせグレイソンが俺のすぐ後ろを歩いていた。

「ちょっと、説明しなさいよ。昨日の決闘、もしかしてあんたが勝ったの?」

 まだ昨日のことは何も言及していない。
 セレナが困惑するのも当然だ。だが、問題はどう話を合わせるか。

 ここは三人の臨機応変な演技力が試される。

「何を言っているんだ? 俺がグレイソンに勝てるわけがないだろう」

「それじゃあ、どうしてこんな──」

「試合に負けて勝負に勝った──それだけだ」

 俺はまだじわじわと昇っている朝日を見つめながら、しんみりと呟いた。

 ちらっとグレイソンに視線を送り、上手く合わせろ、と難題を押しつける。彼が期待に応えてくれる役者であれば、俺の彼に対しての評価はさらに上がるだろう。

 グレイソンは俺にだけ見えるように親指を立て、任せてくれ、と言わんばかりのイケメン笑顔スマイルを返してきた。

「純粋な実力でいえば、僕の方に軍配があった。でも、オスカーの剣は美しかったんだ。どんなに倒されても、彼は華麗な剣技で僕に何度も挑んできた。その姿に、僕は心打たれたんだよ」

 なかなかの役者グレイソンは最後に瞳を静かに閉じ、心打たれたあの瞬間・・・・を思い出すかのように深い表情を作った。

 流石は期待を裏切らない男だ。
 演技においても俺を驚かせてくれるとは。

 今度はクルリンとミクリンにも同じ視線を送る。

「そうなのです! オスカーしゃまの剣はきれいだったのです!」

「感慨深い試合でした」

 どこか慌てていいるようで評価できないが、話を合わせてくれたことには感謝だ。

 だが、俺の狙いは完全にセレナを騙すことではない。
 あえて少し疑いの余地を残すのだ。

 彼女はもう、俺に何かある・・・・ことに気づいている。

 勝てるはずもない決闘に自信満々で挑み、その翌日には敵対者を友人にしてしまっていた。元々は敵対していた三人が、嫌いだったはずの相手をやけに素直に称賛している。

 セレナは今、半信半疑の状態だ。

 俺や三人の言う通りなのかもしれないと思いながらも、心のどこかではこんなの都合が良すぎると否定している。

 彼女の怪訝な表情を見て、俺はそう確信した。
 パッとしない・・・・・・友人であるはずの俺が、もしかしたら……。彼女の中でうごめく西園寺オスカーという生徒の正体。

 想像するだけで最高だ。

「言いたいことはなんとなくわかったけど……」

 セレナがちらっと双子姉妹に目を向けた。

 それに対し、急に目を真ん丸にしたクルリンが激しく反応する。

「セレナっちもあたちといっしょなのです! 見たらわかる乙女の目! セレナっち、オスカーしゃまのことだいしゅきなのです!」

「ちょっ、えっ、待って──」

「むぅ。うそはだめなのです!」

 クルリンはなぜか勝ち誇ったような表情をしていた。

 ――セレナが俺のことを好き・・

 当然のこと・・・・・だ。
 俺が知らないわけがない。

 それなのに、セレナは俺にバレないように誤魔化そうと頑張っている。

 その努力を認め、「乙女ヒロインからのあからさまな好意に気づかない鈍感な奴」のふりを続ける・・・ことにしよう。

「クルリン、何を言っている? セレナが俺のことを好きなわけがないだろう」

「むぅ。ほんとーなのです。あたちにはわかるもん! むー」

「面白い冗談を。だろ、セレナ?」

「そ、そうよ。わ、私がオスカーのこと好きなわけないでしょ」

 顔を真っ赤に染めながら、俺と目を合わせずにセレナが言った。

 わかりやすい。

 別に「かっこよさそう」ではないものの、なんだか「面白さそう」なので、今回も黙ったまま見逃すことにした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】  最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。  戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。  目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。  ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!  彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

勇者に闇討ちされ婚約者を寝取られた俺がざまあするまで。

飴色玉葱
ファンタジー
王都にて結成された魔王討伐隊はその任を全うした。 隊を率いたのは勇者として名を挙げたキサラギ、英雄として誉れ高いジークバルト、さらにその二人を支えるようにその婚約者や凄腕の魔法使いが名を連ねた。 だがあろうことに勇者キサラギはジークバルトを闇討ちし行方知れずとなってしまう。 そして、恐るものがいなくなった勇者はその本性を現す……。

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

悠々自適な転生冒険者ライフ ~実力がバレると面倒だから周りのみんなにはナイショです~

こばやん2号
ファンタジー
とある大学に通う22歳の大学生である日比野秋雨は、通学途中にある工事現場の事故に巻き込まれてあっけなく死んでしまう。 それを不憫に思った女神が、異世界で生き返る権利と異世界転生定番のチート能力を与えてくれた。 かつて生きていた世界で趣味で読んでいた小説の知識から、自分の実力がバレてしまうと面倒事に巻き込まれると思った彼は、自身の実力を隠したまま自由気ままな冒険者をすることにした。 果たして彼の二度目の人生はうまくいくのか? そして彼は自分の実力を隠したまま平和な異世界生活をおくれるのか!? ※この作品はアルファポリス、小説家になろうの両サイトで同時配信しております。

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

処理中です...