上 下
10 / 68
最強の中二病編

その10 いざ決闘

しおりを挟む
 決闘は明日の放課後ということになった。

 どちらかが降参するか、戦闘不能になるか。
 相手を殺さない程度であれば、どんな痛い攻撃も可能らしい。

「決闘をするとなれば、〈決闘許可証〉が必要になる。この決闘を持ちかけたのは僕だ。僕が責任を持って師匠マスターに申請しておくよ」

 グレイソンには感心だ。

 責任感はあるし、誠意もある。
 視野が狭くなり、自分の実力に溺れているところが改善されれば、普通にいい奴だということだ。

「その誠意に感謝しよう」

「そうやって感謝ができる人なのに、どうして謝ることができないんだろうね」

 多少嫌味にも聞こえるが、問題ない。

 ほとんどは俺が悪いからだ。

 自分が「かっこよさそう」なことをするためだけに、彼を利用している。先に相手を罵倒したのも、挑発したのも俺だ。

 ベンチから離れてグレイソンに近づく。ゆっくりと歩き、他の四人の視線を絡め取った。

「俺は自分が間違っていると認めるつもりはない」

 正面のイケメンと美少女姉妹に、己の信念を突きつける。
 中庭に差し込む一筋の光が、俺の黄金色の瞳を幻想的に輝かせた。

「明日の放課後、〈闘技場ネオ〉で会おう。俺はひとりで待っている」

 相手に何も言わせないまま、俺は無表情で中庭を去った。



 ***



「君は先に帰っていてくれ。俺の心配はいい」

「オスカー……」

 遂にこの時がやってきた。

 決闘の日。

 当然ながら昨日の放課後は学園図書館と闘技場に赴き、図書委員の如月きさらぎエリザベス、剣術教師である桐生きりゅうとの時間を過ごしたわけだが、どんな決闘にするのかを考えることが楽しすぎて、ずっとそわそわしてしまっていた。

 寮に帰ってからも想像イメージを膨らませた決闘の台本シナリオは、俺の実力をほどよく発揮できるものになっている。

 準備は完璧だ。

「逃げたりとかはしないのね」

「決闘許可証にはマスター・桐生のサインがある。正当に戦えるというのなら、問題ない」

「ていうか、本気で勝てると思ってるの? 冗談じゃなかったの?」

 パッとしない俺に素朴な疑問をぶるけるセレナに、俺は答える。

「まさか。俺の実力が一ノ瀬いちのせに及ぶわけがない」

「じゃあ、どうやって……」

「それでも戦うんだ。自分の信念を貫くために。これでも俺は、、だということだ」

 セレナの不安や心配はよく伝わってきた。

 実力差がはっきりしている戦いに挑むなど馬鹿のすることだ。
 俺はそれをやろうとしている。彼女の美しい瞳にはそうとしか映っていない。だが、実際は立場が逆なのだ。

 俺が圧倒的強者であり、グレイソンが圧倒的弱者である。

「わかった。私はオスカーを信じるから。何を言っても決闘するつもりでしょ」

「そうだな」

 何の根拠もないはずなのに信じてくれたセレナ。それが面白くて、つい笑ってしまう。

 だが、彼女はそれを嬉し笑いだと勘違いしてくれた。

「頑張って」

 俺を送り出す時の最後の言葉。

 ただの、頑張って。

 それなのにも関わらず、いつもの彼女とは違うものを感じた。温かく、優しい感情・・
 セレナは俺をどう見ているんだろう。今はなぜか、彼女と誰よりも心で繋がっている気がする。



 ***



 放課後の〈闘技場ネオ〉に響く三人の足音。

 背を向けて仁王立ちしている俺のもとに、ひとりの男子生徒と、その取り巻きである二人の女子生徒が現れた。

 ブルー姉妹が来てくれたことを把握して、小さくガッツポーズする。
 見世物ショーには観客が必要だ。たとえふたりだけでも、観客ゼロよりは遥かに盛り上がる。

 グレイソンは武装していた。

 銀の戦闘服アーマーはスタイルのいい体にしっかりと馴染んでいて、腰には魔力の通りがいいミスリル製の剣が装備してある。

 対して俺は、武装もせずに制服のまま。

 何色にも染まれるという理由で白色になっている上着ブレザーに、同じく白を基調としたスラックス。
 胸には大勇者アーサーの聖剣、エクスカリバーのモザイク画が縫いつけてある。

「そんな丸腰の状態で、完全武装の僕に勝つつもりなのかい?」

 半分挑発的にグレイソンが聞いてきた。

 俺はここぞとばかりに斜め上を見つめ、一度瞬きをして話し始める。

「世界は俺に試練を課した。過酷で、少しでも気を緩めれば一瞬で殺されてしまう……そんな中、俺は武装の境地に辿り着いた」

「……」

「強ければ、武装などする必要がない」

「──ッ!」

「常に軽く、素早く、そして正確に……俺は妥協できないんだ」

 三人の反応はそれぞれだ。

 グレイソンは押し黙り、ブルー姉妹の短髪ショートボブの方は小さい体でぴょんぴょん跳ねながらグレイソンを・・・・・・崇め、長髪ロングの方は何かを危惧するように不穏な表情を見せている。

 結局、俺の言葉など関係ないのだ。

「そこの二人は上の観客席に上がっていてくれ。異次元の実力を見せてやろう」

 俺のことなど眼中にないブルー姉妹に声をかける。

 反応はなかったものの、素直に従ってくれた。
 
 実力の解放をするとなれば、膨大な力を直接戦場フィールドで受けることになる。同じ土俵にいては普通に死んでしまうレベルだ。

「もし俺が負ければ、クラスメイト全員の前で君に土下座しよう」

「そうか。それなら仮にも僕が負ければ、僕が君に対して謝ることと同時に、今後は君のことを神のように崇拝するよ。まあ、そんなことは起こり得ないと思っているから言っているわけだけどね」

 グレイソンが気の毒だ。

 そこまで言っても良かったのか。
 この決闘が終わる頃には、本気で後悔していることだろう。

 俺は彼から見えないように小さく笑った。

 相手グレイソンは相当鈍いようだ。

 ──大した実力がないと思っている奴が余裕な表情で勝利を確信している。

 その状況から考えれば、こいつには何かある、という結論に至ってもいいはず。

 だが、彼にはその発想がない。

 自分の実力に酔いすぎて、対戦相手の奇行に気づけないでいる。これは普通の戦闘においても、かなり深刻な過失になりかねない。
 自信を持ちすぎるということは、同時に周囲への警戒を薄くしてしまう危険性がある。

 俺はグレイソンという男からそれを学んだ。

西園寺さいおんじオスカー君、キミにハンデをやるよ。先制攻撃はキミに譲る。好きな時にかかってくるといい」

「そうか」

 冷静に返し、剣を抜く。

 ここからが肝心だ。
 この決闘における可能性は無限に広がっている。結局は俺の動き次第だ。

 一撃で終わらせようと思えば簡単に決着はつくだろう。だが……それはあまりに呆気なさすぎて、彼の自尊心に大きな傷をつけることになってしまい、今後ずっと敵対し続ける、とかいう面倒くさい・・・・・ことになる可能性がある。

 それなら、自分の洗練された剣技を軽く見せて、ギリギリで勝ちました、とでもいうような雰囲気を出して勝つか。

 いや……それだと圧倒的な力の差を感じない。

 勝利というのは圧倒的でなくてはならない。
 かろうじて、ギリギリで……余裕のない状態で勝ったところで、それは俺の求める「かっこよさそう」な戦いバトルではないのだ。

 いろいろ戦い方を考えるも、どう頑張っても一ノ瀬いちのせグレイソンという人間の高い自尊心を痛めつけることに変わりはない。

 ならば……あの・・戦い方でいくか。

 俺は桐生きりゅう顔負けの美しい構えを取った。これには思わず観客席にいるブルー姉妹も感嘆の声を漏らす。

 これが本当の剣術。

 これが剣術のあるべき姿。

 ハンデとやらに感謝して、俺は軽めの・・・先制攻撃を叩き込んだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

漫画の寝取り竿役に転生して真面目に生きようとしたのに、なぜかエッチな巨乳ヒロインがぐいぐい攻めてくるんだけど?

みずがめ
恋愛
目が覚めたら読んだことのあるエロ漫画の最低寝取り野郎になっていた。 なんでよりによってこんな悪役に転生してしまったんだ。最初はそう落ち込んだが、よく考えれば若いチートボディを手に入れて学生時代をやり直せる。 身体の持ち主が悪人なら意識を乗っ取ったことに心を痛める必要はない。俺がヒロインを寝取りさえしなければ、主人公は精神崩壊することなくハッピーエンドを迎えるだろう。 一時の快楽に身を委ねて他人の人生を狂わせるだなんて、そんな責任を負いたくはない。ここが現実である以上、NTRする気にはなれなかった。メインヒロインとは適切な距離を保っていこう。俺自身がお天道様の下で青春を送るために、そう固く決意した。 ……なのになぜ、俺はヒロインに誘惑されているんだ? ※他サイトでも掲載しています。 ※表紙や作中イラストは、AIイラストレーターのおしつじさん(https://twitter.com/your_shitsuji)に外注契約を通して作成していただきました。おしつじさんのAIイラストはすべて商用利用が認められたものを使用しており、また「小説活動に関する利用許諾」を許可していただいています。

無限のスキルゲッター! 毎月レアスキルと大量経験値を貰っている僕は、異次元の強さで無双する

まるずし
ファンタジー
 小説『無限のスキルゲッター!』第5巻が発売されました! 書籍版はこれで完結となります。  書籍版ではいろいろと変更した部分がありますので、気になる方は『書籍未収録①~⑥』をご確認いただければ幸いです。  そしてこのweb版ですが、更新が滞ってしまって大変申し訳ありません。  まだまだラストまで長いので、せめて今後どうなっていくのかという流れだけ、ダイジェストで書きました。  興味のある方は、目次下部にある『8章以降のストーリーダイジェスト』をご覧くださいませ。  書籍では、中西達哉先生に素晴らしいイラストをたくさん描いていただきました。  特に、5巻最後の挿絵は本当に素晴らしいので、是非多くの方に見ていただきたいイラストです。  自分では大満足の完結巻となりましたので、どうかよろしくお願いいたしますm(_ _)m  ほか、コミカライズ版『無限のスキルゲッター!』も発売中ですので、こちらもどうぞよろしくお願いいたします。 【あらすじ】  最強世代と言われる同級生たちが、『勇者』の称号や経験値10倍などの超強力なスキルを授かる中、ハズレスキルどころか最悪の人生終了スキルを授かった主人公ユーリ。  しかし、そのスキルで女神を助けたことにより、人生は大逆転。  神様を上手く騙して、黙っていても毎月大量の経験値が貰えるようになった上、さらにランダムで超レアスキルのオマケ付き。  驚異の早さで成長するユーリは、あっという間に最強クラスに成り上がります。  ちょっと変な幼馴染みや、超絶美少女王女様、押しの強い女勇者たちにも好意を寄せられ、順風満帆な人生楽勝モードに。  ところがそんな矢先、いきなり罠に嵌められてしまい、ユーリは国外へ逃亡。  そのまま全世界のお尋ね者になっちゃったけど、圧倒的最強になったユーリは、もはや大人しくなんかしてられない。  こうなったら世界を救うため、あえて悪者になってやる?  伝説の魔竜も古代文明の守護神も不死生命体も敵じゃない。  あまりにも強すぎて魔王と呼ばれちゃった主人公が、その力で世界を救います。

【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】  最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。  戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。  目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。  ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!  彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中

転生をしたら異世界だったので、のんびりスローライフで過ごしたい。

みみっく
ファンタジー
どうやら事故で死んでしまって、転生をしたらしい……仕事を頑張り、人間関係も上手くやっていたのにあっけなく死んでしまうなら……だったら、のんびりスローライフで過ごしたい! だけど現状は、幼馴染に巻き込まれて冒険者になる流れになってしまっている……

序盤でボコられるクズ悪役貴族に転生した俺、死にたくなくて強くなったら主人公にキレられました。 え? お前も転生者だったの? そんなの知らんし

水間ノボル🐳
ファンタジー
↑「お気に入りに追加」を押してくださいっ!↑ ★2024/2/25〜3/3 男性向けホットランキング1位! ★2024/2/25 ファンタジージャンル1位!(24hポイント) 「主人公が俺を殺そうとしてくるがもう遅い。なぜか最強キャラにされていた~」 『醜い豚』  『最低のゴミクズ』 『無能の恥晒し』  18禁ゲーム「ドミナント・タクティクス」のクズ悪役貴族、アルフォンス・フォン・ヴァリエに転生した俺。  優れた魔術師の血統でありながら、アルフォンスは豚のようにデブっており、性格は傲慢かつ怠惰。しかも女の子を痛ぶるのが性癖のゴミクズ。  魔術の鍛錬はまったくしてないから、戦闘でもクソ雑魚であった。    ゲーム序盤で主人公にボコられて、悪事を暴かれて断罪される、ざまぁ対象であった。  プレイヤーをスカッとさせるためだけの存在。  そんな破滅の運命を回避するため、俺はレベルを上げまくって強くなる。  ついでに痩せて、女の子にも優しくなったら……なぜか主人公がキレ始めて。 「主人公は俺なのに……」 「うん。キミが主人公だ」 「お前のせいで原作が壊れた。絶対に許さない。お前を殺す」 「理不尽すぎません?」  原作原理主義の主人公が、俺を殺そうとしてきたのだが。 ※ カクヨム様にて、異世界ファンタジージャンル表紙入り。5000スター、10000フォロワーを達成!

月が導く異世界道中extra

あずみ 圭
ファンタジー
 月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。  真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。  彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。  これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。  こちらは月が導く異世界道中番外編になります。

【全話挿絵】発情✕転生 〜何あれ……誘ってるのかしら?〜

墨笑
ファンタジー
『エロ×ギャグ×バトル+雑学』をテーマにした異世界ファンタジー小説です。 主人公はごく普通(?)の『むっつりすけべ』な女の子。 異世界転生に伴って召喚士としての才能を強化されたまでは良かったのですが、なぜか発情体質まで付与されていて……? 召喚士として様々な依頼をこなしながら、無駄にドキドキムラムラハァハァしてしまう日々を描きます。 明るく、楽しく読んでいただけることを目指して書きました。

処理中です...