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第1巻 犬耳美少女の誘拐
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ランクがA1に上がったことの実感はすぐに湧いた。
本拠地の中庭で、双子と訓練をしている時だった。
「えっ! オーウェンくん頼むよ~、お互い軽く練習って言ったじゃないか~」
俺はよく双子と訓練をする。
それはこのふたりが暇を持て余していそう、というのもあるが、純粋に拳と足で戦うふたりの戦闘スタイルがモンスターとの戦闘で生きてくると考えたからだ。
対人戦の訓練は基本ロルフに相手してもらっている。
それに双子は性格もモンスターなので、絶好の練習相手として利用していた。
「軽く練習のつもりだったけど」
お互いに動きを確認し合う準備運動のつもりだった。
アルの攻撃に合わせて、体をかわし剣を構える。
アルのスピードは自分以上だとわかっているので、ちょうどいいハードルになっている。
だが先ほど、俺が軽く剣の腹でアルを殴ると、アルが後方に5Mほど飛んでいった。
それを見ていたハルが腹を抱えて激しく笑う。
「ウケるんだけど! 目見開いて、吹っ飛んで……」
どうやら無様な弟くんを侮辱しているらしい。
アルには申し訳ないことをした。
「ぷぇ~。吐血してるじゃん、吐血! マジか! お~い、オーウェンく~ん……」
半泣き状態で訴えるアル。
笑い事ではないのかもしれない。
俺達は少し吐血したくらいで騒ぐほど弱くはないが、不意打ちでの負傷は想像以上にダメージが大きいと聞く。
ハルはまだ笑い続けていて、落ち着く気配もない。
確かに俺はいつもの軽い感じで殴った。
アルとは何度も向かい合い、訓練を共にしてきたはずだ。
今更力加減を間違うのか……
そして気づいた。
俺のパワーが格段に上がっている、ということに。
剣を握る拳に以前のような迷いはない。
そこには自信が見え始めていた。この強者揃いの勇者パーティーで、「戦闘能力」に関する自信は失われつつあったが、ほんの少しだけ古参に追いつけたような気がする。
スピードはまだまだだ。
アルと比較して、というのもあるかもしれない。だが、それぞれの生き物に個性があるように、能力にも個性がある。
俺は純粋なパワーが他のアビリティより抜けているようだった。
「とりあえずクロエを呼んでくる」
参った参った、という不思議な顔で血を吐くアルを気にしながら、走ってクロエの居場所を探す。
大広間の魔時計は朝の8時を示していた。
この時間ならきっと自分の部屋にでもいることだろう。
クロエはあまりメンバーとの交流に積極的じゃないタイプだから。
***
コン、コン、コン。
クロエの部屋の、厚い木製の扉を叩く。
扉の装飾は華やかで、派手な赤い薔薇の絵が施されていた。
『はい』
扉の反対側から聞こえる、か細くて女々しい声。
「俺だ、オーウェンだ。ちょっと力を貸して欲しくて」
『え!? オ、オーウェンさん! ちょ、ちょっとお時間を!』
焦ったような慌てたような高い声が、扉越しに伝わる。
わざわざ時間が欲しいと言ったのは、まだ寝起きだから、とかなのかもしれない。女子はいろいろと準備に時間がかかるとも聞くし……ここで無理やり焦らせるのもよくないか。
それから約10分。
魔時計の針の音がカチカチなるのを無の感情で聞きながら、クロエを待った。
「お待たせしました……」
恥ずかしそうな表情で扉を開けたのは、綺麗に着飾った獣人の美少女。
クロエの紫の髪によく似合う純白のワンピースに身を包み、肩にはおしゃれなカバンを掛けている。
街に出掛けに行くのか、とでも言いたくなるような格好だった。
だが、ここで疑問が生まれる。
誰と、行くのか。
そんな綺麗な格好をしてまで、一緒に街に行きたい相手は誰か。
「どうしたの?」
とりあえず聞く。
「だ、だってオーウェンさんが……デ、デートに行こうって……」
いつ俺がそんなことを言ったのか。
思い当たる節もないし、今後女性をデートに誘うなんている至難の業が俺にできるとは思えない。
ましてやクロエのような美少女とデートなど、背伸びしてもできっこない。
「そんなことは一言も――」
「あゎゎゎ……あたし、また妄想を……」
「え?」
「な、なんでもないです!」
今度はやけに元気だな。
少し安心した。クロエも大きな声を出せるじゃないか。声を張れるじゃないか。
「実はアルが怪我をしてて、一応クロエに治癒を頼みたい」
「そうですか……」
クロエがしゅんとする。
変な勘違いをしてしまったことに落ち込んでいるのかもしれない。
「そうだ、せっかくだし、アルの治癒が終わったら、一緒に中心街にでも行かないか?」
「え!? あたしが、オーウェンさんと!?」
「その、無理ならいいけど、その『オーウェンさん』っていうのは堅苦しいな。同い年だし、呼び捨てで構わない」
「で、でも……」
「やっぱり無理なら――」
「が、頑張ります! オーウェン……くん」
オーウェン呼びを頑張ったものの、結局「くん」がついてしまったクロエ。
その悔しそうな表情が面白くて、ついクスッと笑ってしまった。
笑われたことに気づき、クロエが悲しそうな瞳で俺を見る。
「いや、別にくん付けでもいいと思う。それじゃあ、まず中庭に行くか」
「は、はい!」
クロエはまた笑顔を取り戻した。
全て計画通りだ。
パーティー内で友達ができず、上手くコミュニケーションが取れていなさそうだったクロエ。
そこに話しやすい新人が現れることで、彼女の不安が少し和らげられ、俺に心を許していく。
クロエが『俺の女』になる日も、そう遠くないだろう。
本拠地の中庭で、双子と訓練をしている時だった。
「えっ! オーウェンくん頼むよ~、お互い軽く練習って言ったじゃないか~」
俺はよく双子と訓練をする。
それはこのふたりが暇を持て余していそう、というのもあるが、純粋に拳と足で戦うふたりの戦闘スタイルがモンスターとの戦闘で生きてくると考えたからだ。
対人戦の訓練は基本ロルフに相手してもらっている。
それに双子は性格もモンスターなので、絶好の練習相手として利用していた。
「軽く練習のつもりだったけど」
お互いに動きを確認し合う準備運動のつもりだった。
アルの攻撃に合わせて、体をかわし剣を構える。
アルのスピードは自分以上だとわかっているので、ちょうどいいハードルになっている。
だが先ほど、俺が軽く剣の腹でアルを殴ると、アルが後方に5Mほど飛んでいった。
それを見ていたハルが腹を抱えて激しく笑う。
「ウケるんだけど! 目見開いて、吹っ飛んで……」
どうやら無様な弟くんを侮辱しているらしい。
アルには申し訳ないことをした。
「ぷぇ~。吐血してるじゃん、吐血! マジか! お~い、オーウェンく~ん……」
半泣き状態で訴えるアル。
笑い事ではないのかもしれない。
俺達は少し吐血したくらいで騒ぐほど弱くはないが、不意打ちでの負傷は想像以上にダメージが大きいと聞く。
ハルはまだ笑い続けていて、落ち着く気配もない。
確かに俺はいつもの軽い感じで殴った。
アルとは何度も向かい合い、訓練を共にしてきたはずだ。
今更力加減を間違うのか……
そして気づいた。
俺のパワーが格段に上がっている、ということに。
剣を握る拳に以前のような迷いはない。
そこには自信が見え始めていた。この強者揃いの勇者パーティーで、「戦闘能力」に関する自信は失われつつあったが、ほんの少しだけ古参に追いつけたような気がする。
スピードはまだまだだ。
アルと比較して、というのもあるかもしれない。だが、それぞれの生き物に個性があるように、能力にも個性がある。
俺は純粋なパワーが他のアビリティより抜けているようだった。
「とりあえずクロエを呼んでくる」
参った参った、という不思議な顔で血を吐くアルを気にしながら、走ってクロエの居場所を探す。
大広間の魔時計は朝の8時を示していた。
この時間ならきっと自分の部屋にでもいることだろう。
クロエはあまりメンバーとの交流に積極的じゃないタイプだから。
***
コン、コン、コン。
クロエの部屋の、厚い木製の扉を叩く。
扉の装飾は華やかで、派手な赤い薔薇の絵が施されていた。
『はい』
扉の反対側から聞こえる、か細くて女々しい声。
「俺だ、オーウェンだ。ちょっと力を貸して欲しくて」
『え!? オ、オーウェンさん! ちょ、ちょっとお時間を!』
焦ったような慌てたような高い声が、扉越しに伝わる。
わざわざ時間が欲しいと言ったのは、まだ寝起きだから、とかなのかもしれない。女子はいろいろと準備に時間がかかるとも聞くし……ここで無理やり焦らせるのもよくないか。
それから約10分。
魔時計の針の音がカチカチなるのを無の感情で聞きながら、クロエを待った。
「お待たせしました……」
恥ずかしそうな表情で扉を開けたのは、綺麗に着飾った獣人の美少女。
クロエの紫の髪によく似合う純白のワンピースに身を包み、肩にはおしゃれなカバンを掛けている。
街に出掛けに行くのか、とでも言いたくなるような格好だった。
だが、ここで疑問が生まれる。
誰と、行くのか。
そんな綺麗な格好をしてまで、一緒に街に行きたい相手は誰か。
「どうしたの?」
とりあえず聞く。
「だ、だってオーウェンさんが……デ、デートに行こうって……」
いつ俺がそんなことを言ったのか。
思い当たる節もないし、今後女性をデートに誘うなんている至難の業が俺にできるとは思えない。
ましてやクロエのような美少女とデートなど、背伸びしてもできっこない。
「そんなことは一言も――」
「あゎゎゎ……あたし、また妄想を……」
「え?」
「な、なんでもないです!」
今度はやけに元気だな。
少し安心した。クロエも大きな声を出せるじゃないか。声を張れるじゃないか。
「実はアルが怪我をしてて、一応クロエに治癒を頼みたい」
「そうですか……」
クロエがしゅんとする。
変な勘違いをしてしまったことに落ち込んでいるのかもしれない。
「そうだ、せっかくだし、アルの治癒が終わったら、一緒に中心街にでも行かないか?」
「え!? あたしが、オーウェンさんと!?」
「その、無理ならいいけど、その『オーウェンさん』っていうのは堅苦しいな。同い年だし、呼び捨てで構わない」
「で、でも……」
「やっぱり無理なら――」
「が、頑張ります! オーウェン……くん」
オーウェン呼びを頑張ったものの、結局「くん」がついてしまったクロエ。
その悔しそうな表情が面白くて、ついクスッと笑ってしまった。
笑われたことに気づき、クロエが悲しそうな瞳で俺を見る。
「いや、別にくん付けでもいいと思う。それじゃあ、まず中庭に行くか」
「は、はい!」
クロエはまた笑顔を取り戻した。
全て計画通りだ。
パーティー内で友達ができず、上手くコミュニケーションが取れていなさそうだったクロエ。
そこに話しやすい新人が現れることで、彼女の不安が少し和らげられ、俺に心を許していく。
クロエが『俺の女』になる日も、そう遠くないだろう。
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