上 下
7 / 29
第1巻 犬耳美少女の誘拐

断章1

しおりを挟む
「また会ったね、アレクシア」

 オーウェン達一行が地下迷宮ダンジョンに到着した頃、ある酒場にひとりのシンエルフが現れた。

 最近もその勢いを加速させている勇者パーティー、【聖剣エクスカリバー】のリーダー、ウィルだ。

 さっぱりとした明るい金髪に、太陽のような紅の瞳。
 エルフといえばの尖った耳も健在だ。

 ウィルの種族はシンエルフ。

 普通のエルフと異なるのは、その小さな体格と、高い身体能力。その代わり寿命は300年ほどと、さほど長くはない。
 135CMセーチメルトルの小さな体には、次元の違う戦闘技術や知性、パワーが詰まっている。

「わたくしを呼び出すとは、どういう風の吹き回しでしょう?」

 おしとやかな温かい声で、ウィルと同じハイエルフの女が聞いた。

「少し確認したいことがあってね」

「それは……先日の告白の件でしょうか?」

「いいや、神託の予言について話したい」

 ハイエルフの女がうつむく。
 
 彼女の名前はアレクシアといった。
 高潔なシンエルフの元貴族で、実家を飛び出し、ひとりでアレクサンドリアまで辿り着いた。
 長い金髪はポニーテールにしている。

「それで、なんでしょう? わたくしとしては、つい先日フラれた殿方と話すことが、辛くてしかたないのです。責任を取っていただかないと」

 前にも言ったはずだよ、とウィルが話し出す。

「僕には魔王討伐という目的がある。それを達成するまで、恋愛はできない」

「そうですか」

 それからすぐ、アレクシアが酒を注文した。

 隣に座るシンエルフの男は、曇りのないまっすぐな目で、魔王討伐という目標を見据えている。
 逆に言うと、それしか見えていなかった。ウィルの中で、魔王に対する執着が大きく、異性との恋愛に関してまったく感心を示さない。

 アレクシアはムッとした。
 表情に出すわけでもない。心の底からウィルを軽蔑すると同時に、目標に向かって一途に突き進むウィルを尊敬し、応援していた。

「あなたのパーティーの仲間は、十分に信頼に足る人物だとお思いですか?」

「僕は彼らを信じてるよ」

 アレクシアの意味深な質問に、迷うことなく応えるウィル。

 【聖剣エクスカリバー】のリーダーとしての仲間への信頼が見て取れた。
 
「感動的ですね」

 皮肉っぽく呟くアレクシア。
 その幼い童顔で、冷酷な表情を見事に作り出している。

「キミは神託の予言に詳しいんだったよね。それなら昨日僕達が受けた神託のお告げも知っていたりするのかい?」

「ええ、存じ上げております。その確信があったからこそ、わたくしをここにお呼び出しになったのでしょう?」

「確信とまではいかないかな。予言のことで頼れる友人は少ないからね」

 ウィルはアレクシアの様子を伺いながら、慎重に話している。
 
「あなたの勇者パーティーの中に、裏切り者がいる、ということでしたね」

 アレクシアは決め手を打った。
 彼女は知っていたのだ。昨日神託が告げた、パーティーの命運を左右する予言の内容を。

「そう、その予言のことだよ」

「もしあなたが『この予言の示す事実は本当なのか』と聞けば、わたくしは迷わずそうと応えるでしょう」

「つまり、僕のパーティーには裏切り者が確実に存在する、そういうことだね?」

「賢いあなたなら、そんなことをいちいち聞かずとも理解できていたのではありませんか?」

 鋭い目でウィルを見つめる小さきハイエルフの女。

 妖精のように軽く微笑みながら、この状況を楽しんでいる。
 アレクシアはウィルのことが好きだった。
 ウィルを愛している、どころか彼に深く心酔していたのだ。ウィルという輝かしいシンエルフの希望が、どれだけ彼女を励ましてきたか。

 アレクシアはウィルの全ての表情が見たかった。
 普段の余裕と自信に満ちた表情だけでなく、悩んだり困ったりして、変に歪めているような表情も見たかった。

 そんなウィルの顔を想像しただけで、興奮してよだれが止まらなくなる。
 心がとろけ、体の感度が上がり、頭のなかがウィルでいっぱいになるあの感覚。

(……ああ、ウィル様……わたくしはどんな姿のあなたでも愛し続けます……)

 今のアレクシアは、ウィルの困っている表情が見たくて仕方なかった。

「確かに神託の予言は絶対なのかもしれないね。それでも、僕はその予言になんとしてでも抗いたい。大切な仲間と勇者パーティーを守りたい、そう思ってる」

「素敵ですね」

「キミは神託に詳しいだけじゃない、違うかい? キミ自身も神アポロンからの祝福を受け、生きる予言者として存在している」

 ウィルが酒を一杯飲み終わった。
 随分と早い時間の酒にはなったが、目の前に酒が用意されるとついつい飲みたくなってしまう。

 それに、この酒場【月光ムーンライト】は昨日の打ち上げでもお世話になった行きつけの店だ。
 ウィルとしては、できるものなら売上に貢献したいと思っていた。

「ひとつ聞いてもよろしいでしょうか?」

 どこか楽しそうなアレクシアの質問に、ウィルが慎重に頷く。

「ウィル様は、裏切り者が誰であるとお考えですか?」

 かなり踏み切った質問だ。

 しかし、話の流れからして当然の流れでもある。
 裏切り者がいる、ということが事実だとなった以上、今度はそれが、誰なのか、ということにスポットライトが当たるのだ。






「僕は前から裏切り者の正体に気づいていたよ」

 ウィルの瞳の輝きが、ほんの一瞬だけ消え失せた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~

喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。 おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。 ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。 落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。 機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。 覚悟を決めてボスに挑む無二。 通販能力でからくも勝利する。 そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。 アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。 霧のモンスターには掃除機が大活躍。 異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。 カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。

スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する

カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、 23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。 急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。 完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。 そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。 最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。 すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。 どうやら本当にレベルアップしている模様。 「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」 最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。 他サイトにも掲載しています。

社畜の俺の部屋にダンジョンの入り口が現れた!? ダンジョン配信で稼ぐのでブラック企業は辞めさせていただきます

さかいおさむ
ファンタジー
ダンジョンが出現し【冒険者】という職業が出来た日本。 冒険者は探索だけではなく、【配信者】としてダンジョンでの冒険を配信するようになる。 底辺サラリーマンのアキラもダンジョン配信者の大ファンだ。 そんなある日、彼の部屋にダンジョンの入り口が現れた。  部屋にダンジョンの入り口が出来るという奇跡のおかげで、アキラも配信者になる。 ダンジョン配信オタクの美人がプロデューサーになり、アキラのダンジョン配信は人気が出てくる。 『アキラちゃんねる』は配信収益で一攫千金を狙う!

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!

椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。 しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。 身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。 そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

処理中です...