4 / 29
第1巻 犬耳美少女の誘拐
04
しおりを挟む
アルを大浴場に運ぶ途中、想定外の事態に見舞われた。
「ぐで~ん」
俺の背中で、アルのやつが呑気に寝落ちしていたのだ。
何度か顔面を叩いて起こそうと試みたが、結局無駄だった。
アルは一度眠るとなかなか起きない。
どこかで野宿しているような時でも、周囲への警戒を一切することなくぐーすか寝ている印象だ。
「まだ風呂にも入ってないだろ……」
呆れて溜め息をつく。
せっかくアルと楽しいお喋りができると思ったのに、残念だ。
最後に強烈な一撃を腹にお見舞いしたが、唸られるだけでやっぱり目を覚ますことはなかった。いっそのこと夢の中で地獄の苦痛を味わっていてほしい。
死んだように動かないアルを運んでいる時、廊下でヴィーナスとすれ違った。
「あら、オウェーンね」
色気たっぷりのセクシーな声で、思わず俺の足も止まってしまう。
ヴィーナスはアレクサンドリアで1番の美女と言われていて、その整い過ぎた容姿に惹かれない者なんていない。
滑らかな長い金髪には若干赤みがかかっていて、この世のあらゆる光を反射する輝く黄金の瞳は、天に輝く太陽を連想させる。
この勇者パーティーにこの女がいるせいで、他の女性メンバーの容姿が引き立たない。
実際、クロエとハルもかなり美人で可愛い顔立ちをしているが、この女神の美しさはそれを忘れさせる力を持っていた。
「アルを運んでいます」
特に話題もない。
だからとりあえず現状報告をしておく。
俺はこの3ヶ月間、この絶世の美女とあまり話す機会がなかった。
ヴィーナスはだいたい庭園で静かに過ごしている。
ウィルとロルフでさえ、彼女がひとりで庭園にいる時にはなるべく話しかけないようにしているらしい。
「面倒見がいいのね、オーウェンは」
「いや、今回はハルに頼まれただけですから」
古参の3人と話す時は毎度こんな感じだが、ついついかしこまった口調になってしまった。
ヴィーナスの場合は特に緊張する。人間を超えるような存在と話すのに緊張しているというせいだろう。
「私も手伝おうかしら」
お嬢様のように優しく微笑み、俺に近寄る絶世の美女。
接近すればするほど、果実の甘い香りとエロい色気が俺を襲う。
「どうかしたの?」
「いえ、なんでも」
ヴィーナスの思いやりに満ちた手伝いを断れるはずもなかった。
アルを抱えるのは俺の役割として、ヴィーナスにはアルの部屋までついてきてもらう。
両手が塞がっている俺の代わりに部屋の扉を開け、ランプを灯して部屋を明るくしてくれた。
「ありがとうございます」
赤ん坊のようにスヤスヤ眠るアルは、少し可愛い。
光沢のある銀髪は男にしては少し長くて、耳に半分かかるくらい。
顔立ちはハルと同様に中性的で、肌も綺麗だ。
この無防備な状態だけ見れば、女の子に見えないこともない。勿論、俺はアルに変な気を起こすつもりなんてないが。
とはいえ可愛いのは事実だ。
「もう3ヶ月も一緒に暮らしている仲間なんだから、気を遣ったりしなくていいのよ。私達の立場は対等だわ」
「はい……」
そうなんですが、あなたがあまりに美しくて、対等に接することなんてできないんですよ、とは言えない。
「今日はいつもより忙しかったから、オーウェンも疲れているでしょう?」
「いや、俺はそんなに。ウィルが誰よりも疲れてると思います。リーダーとして、今日はまとめ仕事が多かったみたいですから」
「そうね。今日は少し重荷だったかしら。あの神託のお告げには驚いたわ」
ヴィーナスが遂に裏切り者の話題を出す。
俺としては、冷静にごく普通の質問を繰り出しておくのが正解か。
「俺も驚きました。ヴィーナスさんはあのお告げ、信じますか?」
すると、ヴィーナスは頬を膨らませ、ふてくされたような表情になった。
「ヴィーナス。そう呼んでちょうだい。ウィルのことは『ウィル』って呼んでるじゃない」
そういう表情も仕草も、いちいち美しい。
そしてそこに可愛さも含んでいる。
「わかりました」
「……」
「ヴィーナス」
俺がそう呼ぶのを待っていたらしい。
ますます愛しく思えてきた。
「それで、お告げを信じるか信じないかって話だけど、私は絶対信じないわ。この7人の中に裏切り者がいるだなんて、考えたくないもの」
「ですよね」
「オーウェンは信じるの?」
「神託のお告げなんて、どうにでもなりますからね。変えられない、なんて決まっているわけでもないと思うんです」
「あら、感動的ね。私、そういうの好きよ」
「え?」
急に、好きよ、なんて言われて顔が熱くなった。
いかんいかん。
こんなことで照れてどうする? やっぱりヴィーナスはかなり手強い敵になりそうだ。
「そしたら私は大浴場にでも行こうかしら。貴方も一緒にどう?」
畳み掛けるようにして、俺をからかってくるヴィーナス。
「やめておきます」
俺は苦笑いして断った。
「神託のお告げ、貴方の言う通り、変えられるといいわね」
そう言って、ヴィーナスはアルの部屋から出ていった。
黄金の瞳が反射する光の量が、いつもより少しだけ少ない気がした。
ふと思う。
ヴィーナスは俺が裏切り者であることに気づいている?
まさか。
そんなはずないだろう。
そう言い聞かせるも、さっきの言葉には何か含みがあるようで落ち着かなかった。
「ぐで~ん」
俺の背中で、アルのやつが呑気に寝落ちしていたのだ。
何度か顔面を叩いて起こそうと試みたが、結局無駄だった。
アルは一度眠るとなかなか起きない。
どこかで野宿しているような時でも、周囲への警戒を一切することなくぐーすか寝ている印象だ。
「まだ風呂にも入ってないだろ……」
呆れて溜め息をつく。
せっかくアルと楽しいお喋りができると思ったのに、残念だ。
最後に強烈な一撃を腹にお見舞いしたが、唸られるだけでやっぱり目を覚ますことはなかった。いっそのこと夢の中で地獄の苦痛を味わっていてほしい。
死んだように動かないアルを運んでいる時、廊下でヴィーナスとすれ違った。
「あら、オウェーンね」
色気たっぷりのセクシーな声で、思わず俺の足も止まってしまう。
ヴィーナスはアレクサンドリアで1番の美女と言われていて、その整い過ぎた容姿に惹かれない者なんていない。
滑らかな長い金髪には若干赤みがかかっていて、この世のあらゆる光を反射する輝く黄金の瞳は、天に輝く太陽を連想させる。
この勇者パーティーにこの女がいるせいで、他の女性メンバーの容姿が引き立たない。
実際、クロエとハルもかなり美人で可愛い顔立ちをしているが、この女神の美しさはそれを忘れさせる力を持っていた。
「アルを運んでいます」
特に話題もない。
だからとりあえず現状報告をしておく。
俺はこの3ヶ月間、この絶世の美女とあまり話す機会がなかった。
ヴィーナスはだいたい庭園で静かに過ごしている。
ウィルとロルフでさえ、彼女がひとりで庭園にいる時にはなるべく話しかけないようにしているらしい。
「面倒見がいいのね、オーウェンは」
「いや、今回はハルに頼まれただけですから」
古参の3人と話す時は毎度こんな感じだが、ついついかしこまった口調になってしまった。
ヴィーナスの場合は特に緊張する。人間を超えるような存在と話すのに緊張しているというせいだろう。
「私も手伝おうかしら」
お嬢様のように優しく微笑み、俺に近寄る絶世の美女。
接近すればするほど、果実の甘い香りとエロい色気が俺を襲う。
「どうかしたの?」
「いえ、なんでも」
ヴィーナスの思いやりに満ちた手伝いを断れるはずもなかった。
アルを抱えるのは俺の役割として、ヴィーナスにはアルの部屋までついてきてもらう。
両手が塞がっている俺の代わりに部屋の扉を開け、ランプを灯して部屋を明るくしてくれた。
「ありがとうございます」
赤ん坊のようにスヤスヤ眠るアルは、少し可愛い。
光沢のある銀髪は男にしては少し長くて、耳に半分かかるくらい。
顔立ちはハルと同様に中性的で、肌も綺麗だ。
この無防備な状態だけ見れば、女の子に見えないこともない。勿論、俺はアルに変な気を起こすつもりなんてないが。
とはいえ可愛いのは事実だ。
「もう3ヶ月も一緒に暮らしている仲間なんだから、気を遣ったりしなくていいのよ。私達の立場は対等だわ」
「はい……」
そうなんですが、あなたがあまりに美しくて、対等に接することなんてできないんですよ、とは言えない。
「今日はいつもより忙しかったから、オーウェンも疲れているでしょう?」
「いや、俺はそんなに。ウィルが誰よりも疲れてると思います。リーダーとして、今日はまとめ仕事が多かったみたいですから」
「そうね。今日は少し重荷だったかしら。あの神託のお告げには驚いたわ」
ヴィーナスが遂に裏切り者の話題を出す。
俺としては、冷静にごく普通の質問を繰り出しておくのが正解か。
「俺も驚きました。ヴィーナスさんはあのお告げ、信じますか?」
すると、ヴィーナスは頬を膨らませ、ふてくされたような表情になった。
「ヴィーナス。そう呼んでちょうだい。ウィルのことは『ウィル』って呼んでるじゃない」
そういう表情も仕草も、いちいち美しい。
そしてそこに可愛さも含んでいる。
「わかりました」
「……」
「ヴィーナス」
俺がそう呼ぶのを待っていたらしい。
ますます愛しく思えてきた。
「それで、お告げを信じるか信じないかって話だけど、私は絶対信じないわ。この7人の中に裏切り者がいるだなんて、考えたくないもの」
「ですよね」
「オーウェンは信じるの?」
「神託のお告げなんて、どうにでもなりますからね。変えられない、なんて決まっているわけでもないと思うんです」
「あら、感動的ね。私、そういうの好きよ」
「え?」
急に、好きよ、なんて言われて顔が熱くなった。
いかんいかん。
こんなことで照れてどうする? やっぱりヴィーナスはかなり手強い敵になりそうだ。
「そしたら私は大浴場にでも行こうかしら。貴方も一緒にどう?」
畳み掛けるようにして、俺をからかってくるヴィーナス。
「やめておきます」
俺は苦笑いして断った。
「神託のお告げ、貴方の言う通り、変えられるといいわね」
そう言って、ヴィーナスはアルの部屋から出ていった。
黄金の瞳が反射する光の量が、いつもより少しだけ少ない気がした。
ふと思う。
ヴィーナスは俺が裏切り者であることに気づいている?
まさか。
そんなはずないだろう。
そう言い聞かせるも、さっきの言葉には何か含みがあるようで落ち着かなかった。
1
お気に入りに追加
61
あなたにおすすめの小説
勇者、追放される ~仲間がクズばかりだったので、魔王とお茶してのんびり過ごす。戻ってこいと言われても断固拒否。~
秋鷺 照
ファンタジー
強すぎて勇者になってしまったレッグは、パーティーを追放され、一人で魔王城へ行く。美味しいと噂の、魔族領の茶を飲むために!(ちゃんと人類も守る)
【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。
木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。
しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。
そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。
【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】
異世界で穴掘ってます!
KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語
巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。
スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する
カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、
23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。
急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。
完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。
そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。
最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。
すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。
どうやら本当にレベルアップしている模様。
「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」
最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。
他サイトにも掲載しています。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる
農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」
そんな言葉から始まった異世界召喚。
呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!?
そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう!
このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。
勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定
私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。
ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。
他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。
なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。
レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~
喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。
おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。
ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。
落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。
機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。
覚悟を決めてボスに挑む無二。
通販能力でからくも勝利する。
そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。
アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。
霧のモンスターには掃除機が大活躍。
異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。
カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる