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24 強化合宿に意味はあるのか

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 木曜日の次に憂鬱なのが、月曜日だ。
 土日にゆっくり休日を謳歌した後、青春など微塵もない学校が始まる。

 朝から日菜美ひなみは上機嫌だった。

 鼻歌を披露しながら『エンパイア』を読んでいる。
 昨日買った最新刊。
 きっと昨日のうちに読み切っているだろうから、2周目だろうか。

「それ2周目?」

「6周目だよ」

 いきなり想像を超えてきた。

 短期間に何度も読んで、飽きたりしないのか。俺はだいたい3周目以降は一定期間を開けてから読むようにしている。

秋空あきらくんはもう読んだ?」

「一応昨日のうちに」

 それから俺と日菜美は、最新刊の内容についての意見交換をする。
 特にラストシーンは衝撃だった。

 話が盛り上がってきたところで、ふと後ろの席に視線をやる。

 オタク日本代表の席だ。
 もしここに真一しんいちがいれば、さらに盛り上がったことだろう。

南波なんばくんはどうしたの?」

「熱が出たらしい」

「でも、昨日南波くんもアニマイト来てたんだよね?」

「普段日曜は家にこもるから、無理に外出したことで体の免疫システムに異常をきたしたってさ」

 馬鹿みたいな話だが、本当だ。

 日曜日に外出耐性はないらしい。

 なんで俺が知っているのかというと、昨日の夜に連絡があったからだ。とはいえ、俺は基本スマホを見ないので、知ったのは今日の朝だったけど。

 お大事に、と無難な返信をしておいた。

「ねえ、何の話してるの?」

 真一お疲れムードに包まれている俺たちに、聞き馴染みのある声がかけられる。

 千冬ちふゆだ。

 土曜日、今カレのシグレ君とデートしている現場を見てしまったことを思い出す。シグレ君は凄くいい匂いがしたし、体も柔らかくて女子みたいだった。

 やっぱりイケメンは違うな。

「千冬には理解できないであろう話だよ」

「あたしにも理解くらいできるから」

長谷部はせべさん、『エンパイア』知ってるの?」

 日菜美が椅子から身を乗り出し、興味深そうに千冬に聞く。

 俺たちは一応同じ部活だ。
 仲良くやっていきたい。

「な、名前くらいは」

「好きなキャラは、何?」

「えーっと……聖徳太子?」

 何も知らないじゃないか。
 別に見栄を張る必要なんてないのに。

「聖徳太子は出てこないよ」

「漫画って難しいんだね」

 あなたが読んでないだけです。

 それにしても──。

「なんでわかりもしない話に入ってこようとするの?」

「だって……同じ部活だし」

 そっか。
 同じ部活だからか。

「それに……伝えておかなきゃいけないことがあるの」

 何それ。

「帰宅部の部員が増えるってこと」

「は?」

「だから、帰宅部に入りたいって人がいるの」

 俺と日菜美は顔を見合わせた。
 絶対姉さんは許可しなさそうだけど……部長は俺だし、問題ないか。

「それで、帰宅部に入りたい人っていうのは……」

 なんとなく予測できた。

白水しろみず紫雨しぐれっていうんだけど……」



 ***



 土曜日。
 秋空が紫雨に絡まれてすぐ。

「ごめんごめん、両替機探してたら時間がかかっちゃった」

「そうだとしても長くない?」

「そんなことないよ。ボクが方向音痴だってこと知ってるでしょ?」

 ミントの香りがしそうなくらい爽やかな笑みを浮かべ、紫雨が言う。

 それを見ていた周囲の女子高生集団が黄色い声を上げた。
 男装をしている紫雨は、すっかりイケメン男子高生である。

 500円玉を機械に入れ、クレーンゲームが始まった。ユーメロディーのぬいぐるみが手に入れられるゲームだ。

 当然これは、千冬にプレゼントするためではなく、純粋に自分が欲しいから。紫雨はユーメロディーに目がない。狙いはクロコちゃんだ。

「ボクの技術をもってすれば、3回で獲れる」

「絶対無理」

「いいや、今日こそ行ける気がするんだ。さっき素敵な出会い・・・もあったしね」

「素敵な出会い?」

 円らな瞳で首を傾げる千冬。

「よし決めた! もし3回以内にクロコちゃんが獲れたら、ボクは帰宅部に入部するよ」

「え?」

「ずっと迷ってたんだ。千冬がいるし、それに……秋空くんが部長だし、ね」



 ***



 朝のホームルームが終わると、なんだか嬉しそうな様子で松丸まつまる先生がタックルしてきた。

 大人な胸が俺の腹に激突する。

「何ですか?」

「もっとドキドキしてちょうだい。こんな美人な教師が抱き着いてきたのよ?」

「セクハラで訴えますよ」

「いいじゃない。秋空君と私の仲なんだから」

 俺はただ毎回ウザ絡みされているだけだ。

「それで、本題は何ですか?」

「今週末、金曜の放課後から日曜の昼まで強化合宿をします。部員にも伝えておいてちょうだい」

「強化合宿?」

「もう宿は予約してるから変更はできないの。それと、新入部員とも仲を深めておいてね」

「なんでそれを──」

「今日の朝、手続きが終わったのよ。あなたのお姉さんもきっと喜ぶでしょう」

 松丸先生は俺の姉さんがわかってない。

 でもまあ、シグレ君は千冬の彼氏だし、別に問題はないのかもしれない。それよりも強化合宿だ。

 帰宅部の強化合宿。

 そんなわけのわからないことをするのは、世界でもこの清明せいめい高校が初めてだろう。
 誇らしい限りだ。





《次回25話 イケメンと同じ部屋はいけないのか》
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