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21 元カノのデート現場を目撃する
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松丸先生が頼んだのは抹茶とバニラだった。
いつの間にか奇抜な組み合わせに期待していた自分に驚く。
バニラは安定しているし、抹茶は定番の人気アイスだ。
注文から戻ってきた松丸先生は、一切迷うことなく俺の隣に座った。これで、正面に姉さん、隣に松丸先生という恐ろしい光景の出来上がりだ。
いいところに目を向ければ、二人ともみてくれはいい。
みてくれ以外は……どちらも独特だ。
「秋空君、カップの中で寂しそうにしてるイチゴアイス、私が食べてもいいかしら?」
「断ります」
「間接キスになっちゃう、とか思ってるの? やだ、可愛い」
申し訳ないが、1ミリもそんなことは思ってない。
ただアイスを貪られたくなかったからだ。
それに、松丸先生が頼んだダブルアイスはどっちもレギュラーサイズ。食べ過ぎだと思う。
「秋くん、アイス食べられないならお姉ちゃんが食べてあげるね」
「ゆっくり食べてるだけだから」
そう、俺は食事にこだわるタイプの人間だ。
一口一口、味を噛み締める。
ほんの少しだけ口の中に入れ、じっくり咀嚼し、舌全体を使って料理を味わう。
佐世保の美食家といえば、山吹秋空。少なくとも、俺を知る者はそう認識しているだろう。
「そうだよね。お姉ちゃんとはもう直接キスしちゃってるもんね。間接キスなんて、刺激が足りないから遠慮してるんだよね」
「あら、近親相姦?」
アイスを前にしてそんなこと言うな。
「時間の問題です」
「それは教師として聞き逃せない話ね」
姉さんは馬鹿だ。
一応、ここにいるのは俺の担任の先生なのだから。
でも、松丸先生は姉さんが冗談で言っていると思っているらしい。本気と捉えている様子はなく、面白そうに笑っているだけだ。
まだ姉さんが何者なのかわかっていないらしい。
そのうち俺は姉さんに襲われる。
だから早めに対策をしておく必要がありそうだ。寝室に姉さんに対しての結界魔法を発動させるとか。問題は俺が魔法を使えないことくらい。
うん、問題ない。
30歳まで我慢すれば、そのうち魔法使いになれるだろう。
松丸先生もアイスを食べ終わり、ようやく解放される時が来た。
それにしてもなかなかの食べっぷりだ。
いきなり食べたら脳がキーンってなるのに、ものの30秒ほどで全て食べ尽くした。
「アイス好きなんですね」
「秋空君と同じくらい好きよ」
「まだまだ全然ですね。私は秋くんが世界で1番大好きです」
そんなことで張り合うな。
「面白いこと言うじゃない。それじゃあ私、アイスが世界で1番好きよ」
「だったら秋くんと同率ですよね? 私の勝ちです」
「愛に勝ち負けなんてないの。あなた彼氏できたことないでしょう? どう見ても処女ね」
「もうすぐ秋くんと卒業するのでお構いなく!」
卒業しません。
俺を巻き込まないでください。
「私が正しいやり方教えてあ・げ・る」
「そろそろ帰りますね。今日はありがとうございました。さよなら」
カップをしっかりゴミ箱に入れると、俺はアイス屋から逃走する。
ちなみに、アイスはコーンよりカップ派だ。
でも最近は環境のことを考えて、コーンに派閥交代するか迷っている。俺の選択で地球が救われたら嬉しい。
姉さんは先生に捕まったのか、最愛の弟を追ってこなかった。
佐世保あるあるにはなるが、五番街は中高生定番の遊び場なので休日に行けば必ず知り合いと会う。
今日の松丸先生との一件もそうだが、この前はジャージ姿で中学時代の友達に会ってしまった。
結構可愛い女子なので少し恥ずかしかったのを覚えている。
そして、基本的にここはデートスポットになる。
千冬との最後のデートもここだったし、最初のデートも2回目のデートもここだった。
つまり、全てのデートは五番街だった。
厳密に言えば五番街を含んでいたということになるが、そんな細かい話は今はどうでもいい。
『千冬は今日も可愛いね』
『そう? ありがと』
必ず誰かと遭遇してしまう五番街。
今日はもう松丸先生に会っているというのに、元カノのお出ましだ。
例の爽やか系イケメンと仲良さそうに歩いている。付き合っている頃、たまたま目撃してしまったあの光景に限りなく近い。
ただ、前回とは大きく違う点がひとつある。
──二人が手を繋いでいるということ。
それも、恋人繋ぎだ。
指と指を絡める、高度なテクニックを要する手の繋ぎ方。
これはもう、千冬と爽やか君が付き合っていることの絶対的な根拠ではなかろうか。これで確信が得られた、というわけだ。
二人は手を繋ぎながら横並びでエスカレーターに乗っている。
俺は気づかれないように二人の姿が見えなくなってからその後を追った。エスカレーターに乗って上の階に行けば、そこはちょっとしたゲームセンター。
イチャイチャクレーンゲームをしている姿を目に焼き付けよう。
同じ帰宅部の仲間として、元カレとして、千冬の新しい恋を見届けるのも悪くない。
自分でもコソコソしていることが自覚できるが、仕方なかった。
後方のプリクラ機に隠れ、様子をうかがう。
爽やか君がちらちらと後ろを気にしているみたいだが、俺には気づいてなさそうだ。
千冬の格好は俺とのデートの時よりもスポーティーな感じで、通気性のよさそうな白シャツに黒のショートパンツと、初めて見る組み合わせ。
それに対して爽やか君はスラッとした足首までの長さのジーンズに、『僕は人間です』とプリントアウトされた半袖の黒Tシャツだ。
袖から出た細い腕は、日焼けを一切感じさせない。
透明感があって、女の子の肌みたいだ。美少年は肌の手入れもしっかりしているんだろう。
『紫雨、今日も女子高生から逆ナンされてたね』
『まったく、モテすぎて困るよ』
名前はシグレか。
イケメンって感じだな。
爽やか君ことシグレ君は、ユーメロディーのキャラクターのぬいぐるみが取れるクレーンゲーム機の前で財布を出し始めた。
千冬にプレゼントするつもりなのか。
それにしても、千冬がユーメロ好きだとは知らなかった。
『困ったなぁ。小銭がないから両替してくるよ。ちょっと待ってて』
中性的な爽やかボイスで、千冬に笑顔を向けるシグレ君。
離れたところから見ていても、その眩しさにクラっとしそうだ。
「キミ、千冬の元カレくんだよね? ここで何してるのかな?」
──あれ?
シグレ君は両替機に行ったものだと思い、油断していた時だった。
不意に後ろから、爽やかな声がかけられる。
「いや、俺は別に……」
千冬の今カレに対し、何を言うのが正しいのか。
珍しく焦りから汗を流す俺であった。
《次回22話 ボーイズラブは望んでない》
いつの間にか奇抜な組み合わせに期待していた自分に驚く。
バニラは安定しているし、抹茶は定番の人気アイスだ。
注文から戻ってきた松丸先生は、一切迷うことなく俺の隣に座った。これで、正面に姉さん、隣に松丸先生という恐ろしい光景の出来上がりだ。
いいところに目を向ければ、二人ともみてくれはいい。
みてくれ以外は……どちらも独特だ。
「秋空君、カップの中で寂しそうにしてるイチゴアイス、私が食べてもいいかしら?」
「断ります」
「間接キスになっちゃう、とか思ってるの? やだ、可愛い」
申し訳ないが、1ミリもそんなことは思ってない。
ただアイスを貪られたくなかったからだ。
それに、松丸先生が頼んだダブルアイスはどっちもレギュラーサイズ。食べ過ぎだと思う。
「秋くん、アイス食べられないならお姉ちゃんが食べてあげるね」
「ゆっくり食べてるだけだから」
そう、俺は食事にこだわるタイプの人間だ。
一口一口、味を噛み締める。
ほんの少しだけ口の中に入れ、じっくり咀嚼し、舌全体を使って料理を味わう。
佐世保の美食家といえば、山吹秋空。少なくとも、俺を知る者はそう認識しているだろう。
「そうだよね。お姉ちゃんとはもう直接キスしちゃってるもんね。間接キスなんて、刺激が足りないから遠慮してるんだよね」
「あら、近親相姦?」
アイスを前にしてそんなこと言うな。
「時間の問題です」
「それは教師として聞き逃せない話ね」
姉さんは馬鹿だ。
一応、ここにいるのは俺の担任の先生なのだから。
でも、松丸先生は姉さんが冗談で言っていると思っているらしい。本気と捉えている様子はなく、面白そうに笑っているだけだ。
まだ姉さんが何者なのかわかっていないらしい。
そのうち俺は姉さんに襲われる。
だから早めに対策をしておく必要がありそうだ。寝室に姉さんに対しての結界魔法を発動させるとか。問題は俺が魔法を使えないことくらい。
うん、問題ない。
30歳まで我慢すれば、そのうち魔法使いになれるだろう。
松丸先生もアイスを食べ終わり、ようやく解放される時が来た。
それにしてもなかなかの食べっぷりだ。
いきなり食べたら脳がキーンってなるのに、ものの30秒ほどで全て食べ尽くした。
「アイス好きなんですね」
「秋空君と同じくらい好きよ」
「まだまだ全然ですね。私は秋くんが世界で1番大好きです」
そんなことで張り合うな。
「面白いこと言うじゃない。それじゃあ私、アイスが世界で1番好きよ」
「だったら秋くんと同率ですよね? 私の勝ちです」
「愛に勝ち負けなんてないの。あなた彼氏できたことないでしょう? どう見ても処女ね」
「もうすぐ秋くんと卒業するのでお構いなく!」
卒業しません。
俺を巻き込まないでください。
「私が正しいやり方教えてあ・げ・る」
「そろそろ帰りますね。今日はありがとうございました。さよなら」
カップをしっかりゴミ箱に入れると、俺はアイス屋から逃走する。
ちなみに、アイスはコーンよりカップ派だ。
でも最近は環境のことを考えて、コーンに派閥交代するか迷っている。俺の選択で地球が救われたら嬉しい。
姉さんは先生に捕まったのか、最愛の弟を追ってこなかった。
佐世保あるあるにはなるが、五番街は中高生定番の遊び場なので休日に行けば必ず知り合いと会う。
今日の松丸先生との一件もそうだが、この前はジャージ姿で中学時代の友達に会ってしまった。
結構可愛い女子なので少し恥ずかしかったのを覚えている。
そして、基本的にここはデートスポットになる。
千冬との最後のデートもここだったし、最初のデートも2回目のデートもここだった。
つまり、全てのデートは五番街だった。
厳密に言えば五番街を含んでいたということになるが、そんな細かい話は今はどうでもいい。
『千冬は今日も可愛いね』
『そう? ありがと』
必ず誰かと遭遇してしまう五番街。
今日はもう松丸先生に会っているというのに、元カノのお出ましだ。
例の爽やか系イケメンと仲良さそうに歩いている。付き合っている頃、たまたま目撃してしまったあの光景に限りなく近い。
ただ、前回とは大きく違う点がひとつある。
──二人が手を繋いでいるということ。
それも、恋人繋ぎだ。
指と指を絡める、高度なテクニックを要する手の繋ぎ方。
これはもう、千冬と爽やか君が付き合っていることの絶対的な根拠ではなかろうか。これで確信が得られた、というわけだ。
二人は手を繋ぎながら横並びでエスカレーターに乗っている。
俺は気づかれないように二人の姿が見えなくなってからその後を追った。エスカレーターに乗って上の階に行けば、そこはちょっとしたゲームセンター。
イチャイチャクレーンゲームをしている姿を目に焼き付けよう。
同じ帰宅部の仲間として、元カレとして、千冬の新しい恋を見届けるのも悪くない。
自分でもコソコソしていることが自覚できるが、仕方なかった。
後方のプリクラ機に隠れ、様子をうかがう。
爽やか君がちらちらと後ろを気にしているみたいだが、俺には気づいてなさそうだ。
千冬の格好は俺とのデートの時よりもスポーティーな感じで、通気性のよさそうな白シャツに黒のショートパンツと、初めて見る組み合わせ。
それに対して爽やか君はスラッとした足首までの長さのジーンズに、『僕は人間です』とプリントアウトされた半袖の黒Tシャツだ。
袖から出た細い腕は、日焼けを一切感じさせない。
透明感があって、女の子の肌みたいだ。美少年は肌の手入れもしっかりしているんだろう。
『紫雨、今日も女子高生から逆ナンされてたね』
『まったく、モテすぎて困るよ』
名前はシグレか。
イケメンって感じだな。
爽やか君ことシグレ君は、ユーメロディーのキャラクターのぬいぐるみが取れるクレーンゲーム機の前で財布を出し始めた。
千冬にプレゼントするつもりなのか。
それにしても、千冬がユーメロ好きだとは知らなかった。
『困ったなぁ。小銭がないから両替してくるよ。ちょっと待ってて』
中性的な爽やかボイスで、千冬に笑顔を向けるシグレ君。
離れたところから見ていても、その眩しさにクラっとしそうだ。
「キミ、千冬の元カレくんだよね? ここで何してるのかな?」
──あれ?
シグレ君は両替機に行ったものだと思い、油断していた時だった。
不意に後ろから、爽やかな声がかけられる。
「いや、俺は別に……」
千冬の今カレに対し、何を言うのが正しいのか。
珍しく焦りから汗を流す俺であった。
《次回22話 ボーイズラブは望んでない》
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