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18 いよいよ登場の爽やか系イケメン
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木曜日は複雑な曜日だ。
もうすぐ週末という雰囲気を醸し出しながら、まだ金曜日があるという途方もない絶望を思い起こさせる。
これほどまでに複雑な日はない。
数学が2時間連続であるという時間割も、その過酷さを物語っているような気がしていた。
「それで、今日はどういう風の吹き回しだ?」
「もうすぐ考査の時期だから、好敵手に対策状況を確認しにきた」
「好敵手て」
龍治は基本的に朝は静かだ。
誰とも話すことなく、熱心に机に向かっている。
まだ1年生なのにそこまで勉強する必要があるのか、と思うこともあるが、目指しているところはハーバードなので頑張ってとしか言えない。
隣の席だった時も、朝は不愛想で挨拶すら返してくれなかった。
そんな龍治が、今日はわざわざ俺の席まで来て話しかけてきたのだ。
どういう風の吹き回しだ、というセリフを使いたくなるに決まってる。
「最近調子はどうだ?」
相変わらず、会話は下手だな。
「おかげさまで、いろいろと巻き込まれてるよ」
「そうか。災難だったな」
「言っとくけど、龍治も結構なことやってくれたからな」
松丸先生に余計なことを言った龍治。
今では、それが元凶だったんじゃないかと思ってる。
龍治が俺の振られた情報を言わなければ、松丸先生に絡まれることもなかったし、その流れで帰宅部が発足することもなかったかもしれない。
「アッキー、あれ」
存在感を消していた真一がここで登場する。
真一は陰キャオタクという枠組みだが、クラスのみんなからは結構面白い奴だと認められている。
陰キャは疎まれるという認識はもう古い。
21世紀は陰キャの時代だ。
陽キャたちも陰キャの凄さに気づいてきて、徐々に地位が向上していっている。その筆頭に真一がいることを忘れてはならない。
「──ッ」
真一が指差したのは教室の出入り口。
そこに、チョコミントくらい爽やかな美少年が立っている。
整った顔立ちに、流れるようなさらさらの髪。
真ん中分けにして下ろしている前髪は目の上半分を隠していて、どこかクールな雰囲気を感じさせる。
制服の着こなしも格別で、ただのスラックスがモデルの衣装に思えた。俺たちが着るのとまったく同じものなのに。
そして、距離感で俺の感覚がおかしくなっていなければ、小柄な体格だ。周囲にたかる女子との比較からして、160センチとちょっとくらいか。
だからこそ、彼には美少年という言葉がふさわしい。
「あのイケメンは……」
「死神でも見たような顔だ。ちなみに、死神は英語で”the Grim Reaper”という」
呆然とする俺を見て、龍治が豆知識付きで言ってきた。
発音はアメリカ訛りである。
イギリス訛り信仰者の俺としてはいろいろと物申したいところがあるが、今はそれどころじゃない。
──千冬の彼氏。
いや、千冬と親しげに歩いていた美少年。それがあのイケメンだ。
「同じ学校、同じ学年だったか……」
爽やかイケメンは今この瞬間も女子にキャーキャー言われている。
「へぇ、あの子可愛いな~」
「いつの間にここに?」
気づいたら隣にいた壮一。
別に変な意味はない。
「あの子って誰だ?」
すかさず真一が聞いた。
「いやいや、あの子に決まってるでしょ。何言ってんの?」
「ついに男にも色目を使うようになったか」
「真一、それは多くの誤解を招く発言になる。今の時代、同性愛は普通に認められてもいいことだ。LGBTQは──」
「バーベキューの話とかどうでもいいって。ていうか、あの子って女の子じゃないの?」
バーベキューはBBQだろ。
「確かに中性的な見た目で身長も低い方だが、あの女子からの反応と制服がスラックスである点から考えても男だろう」
壮一は爽やか系イケメンのことを女子だと思ったらしかった。
でも、龍治が言うように、男である確率の方が高い。
スラックスは女子も履くことができる校則だが、実際に履いている女子生徒はほとんど見たことがなかった。
「確認してこよっか?」
世界でトップクラスにデリカシーのない男、滝沢壮一がとんでもないことを言い始めた。
「それは失礼だろ」
「そう? だってどっちかわかんない見た目してるあの子が悪いじゃん」
理不尽な言い分。
「とにかく、絶対そんなこと聞くなよ」
「はーい。でさ、もしあの子が女の子だったら狙っていい?」
なんで俺に聞くのか。
「ご自由にどうぞ」
「やったね!」
あのイケメンが可哀想だ。
壮一からそういう目で見られているなんて、本人は知る由もない。
***
千冬が教室まで上がってきた時、そこには親友の白水紫雨がいた。
昨日LIМEである相談をしたため、6組の教室から最も遠い1組にまで足を運んでくれたのだった。
「遅くてごめん。でも紫雨と話すためにいつもより5分早めに来たの」
「あんまり来ないから教室に帰ろうかと思ったよ。それで……」
爽やかな笑みを浮かべた紫雨が、気まずそうに教室の中を眺める。
場所を変えたい、という意味だ。
ここでは注目を集めすぎてしまう。
特に女子生徒からの人気が爆発していた。かっこいいとか、イケメンだとか、美形だとか、鼻筋が綺麗だとか……整った中性的な容姿への言及が多い。
誰にも話を聞かれないであろう階段の踊り場に移動し、会話を再開する。
「みんなボクのこと、男子生徒だと思ってるみたいだね」
紫雨はほんのりと顔を赤らめながら、この状況を面白がるように微笑んだ。
《次回19話 放課後の呼び出しはこりごりだ》
もうすぐ週末という雰囲気を醸し出しながら、まだ金曜日があるという途方もない絶望を思い起こさせる。
これほどまでに複雑な日はない。
数学が2時間連続であるという時間割も、その過酷さを物語っているような気がしていた。
「それで、今日はどういう風の吹き回しだ?」
「もうすぐ考査の時期だから、好敵手に対策状況を確認しにきた」
「好敵手て」
龍治は基本的に朝は静かだ。
誰とも話すことなく、熱心に机に向かっている。
まだ1年生なのにそこまで勉強する必要があるのか、と思うこともあるが、目指しているところはハーバードなので頑張ってとしか言えない。
隣の席だった時も、朝は不愛想で挨拶すら返してくれなかった。
そんな龍治が、今日はわざわざ俺の席まで来て話しかけてきたのだ。
どういう風の吹き回しだ、というセリフを使いたくなるに決まってる。
「最近調子はどうだ?」
相変わらず、会話は下手だな。
「おかげさまで、いろいろと巻き込まれてるよ」
「そうか。災難だったな」
「言っとくけど、龍治も結構なことやってくれたからな」
松丸先生に余計なことを言った龍治。
今では、それが元凶だったんじゃないかと思ってる。
龍治が俺の振られた情報を言わなければ、松丸先生に絡まれることもなかったし、その流れで帰宅部が発足することもなかったかもしれない。
「アッキー、あれ」
存在感を消していた真一がここで登場する。
真一は陰キャオタクという枠組みだが、クラスのみんなからは結構面白い奴だと認められている。
陰キャは疎まれるという認識はもう古い。
21世紀は陰キャの時代だ。
陽キャたちも陰キャの凄さに気づいてきて、徐々に地位が向上していっている。その筆頭に真一がいることを忘れてはならない。
「──ッ」
真一が指差したのは教室の出入り口。
そこに、チョコミントくらい爽やかな美少年が立っている。
整った顔立ちに、流れるようなさらさらの髪。
真ん中分けにして下ろしている前髪は目の上半分を隠していて、どこかクールな雰囲気を感じさせる。
制服の着こなしも格別で、ただのスラックスがモデルの衣装に思えた。俺たちが着るのとまったく同じものなのに。
そして、距離感で俺の感覚がおかしくなっていなければ、小柄な体格だ。周囲にたかる女子との比較からして、160センチとちょっとくらいか。
だからこそ、彼には美少年という言葉がふさわしい。
「あのイケメンは……」
「死神でも見たような顔だ。ちなみに、死神は英語で”the Grim Reaper”という」
呆然とする俺を見て、龍治が豆知識付きで言ってきた。
発音はアメリカ訛りである。
イギリス訛り信仰者の俺としてはいろいろと物申したいところがあるが、今はそれどころじゃない。
──千冬の彼氏。
いや、千冬と親しげに歩いていた美少年。それがあのイケメンだ。
「同じ学校、同じ学年だったか……」
爽やかイケメンは今この瞬間も女子にキャーキャー言われている。
「へぇ、あの子可愛いな~」
「いつの間にここに?」
気づいたら隣にいた壮一。
別に変な意味はない。
「あの子って誰だ?」
すかさず真一が聞いた。
「いやいや、あの子に決まってるでしょ。何言ってんの?」
「ついに男にも色目を使うようになったか」
「真一、それは多くの誤解を招く発言になる。今の時代、同性愛は普通に認められてもいいことだ。LGBTQは──」
「バーベキューの話とかどうでもいいって。ていうか、あの子って女の子じゃないの?」
バーベキューはBBQだろ。
「確かに中性的な見た目で身長も低い方だが、あの女子からの反応と制服がスラックスである点から考えても男だろう」
壮一は爽やか系イケメンのことを女子だと思ったらしかった。
でも、龍治が言うように、男である確率の方が高い。
スラックスは女子も履くことができる校則だが、実際に履いている女子生徒はほとんど見たことがなかった。
「確認してこよっか?」
世界でトップクラスにデリカシーのない男、滝沢壮一がとんでもないことを言い始めた。
「それは失礼だろ」
「そう? だってどっちかわかんない見た目してるあの子が悪いじゃん」
理不尽な言い分。
「とにかく、絶対そんなこと聞くなよ」
「はーい。でさ、もしあの子が女の子だったら狙っていい?」
なんで俺に聞くのか。
「ご自由にどうぞ」
「やったね!」
あのイケメンが可哀想だ。
壮一からそういう目で見られているなんて、本人は知る由もない。
***
千冬が教室まで上がってきた時、そこには親友の白水紫雨がいた。
昨日LIМEである相談をしたため、6組の教室から最も遠い1組にまで足を運んでくれたのだった。
「遅くてごめん。でも紫雨と話すためにいつもより5分早めに来たの」
「あんまり来ないから教室に帰ろうかと思ったよ。それで……」
爽やかな笑みを浮かべた紫雨が、気まずそうに教室の中を眺める。
場所を変えたい、という意味だ。
ここでは注目を集めすぎてしまう。
特に女子生徒からの人気が爆発していた。かっこいいとか、イケメンだとか、美形だとか、鼻筋が綺麗だとか……整った中性的な容姿への言及が多い。
誰にも話を聞かれないであろう階段の踊り場に移動し、会話を再開する。
「みんなボクのこと、男子生徒だと思ってるみたいだね」
紫雨はほんのりと顔を赤らめながら、この状況を面白がるように微笑んだ。
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