17 / 25
17 スマホ10分以上使ったら死ぬ設定です
しおりを挟む
俺の脳内ではアクション映画さながらのBGMが流れていた。
適当に買ったチョコを生徒鞄にぶち込み、トイレに行くと言って駅の外に出る。
駅の中にあるトイレは綺麗だが、外にあるトイレは野蛮だ。
野生の人間が使ったかのように荒れている。
「トイレっていうのは嘘だしな」
前の使用者の大便が流されていないままの便器を眺めて、ぼそっと呟く。
「あとは家に帰るだけだ」
幸い、30秒ほど走れば家に着く距離だ。
唯一難しいのが横断歩道。
基本的に横断歩道は黄色信号になったら渡ってはいけない。
小学生も知っているようなことだが、大人になっても黄色信号で渡ろうとする輩がいる。自転車で横断するなどもってのほか。
つまり、横断歩道を渡る際のタイミングは完璧でなくてはいけない。
1秒でも歩き出すタイミングがずれてしまえば、世界の大混乱を巻き起こす。世界平和のためにも、横断歩道は気合を入れて渡ろう。
「秋くん、まだ? もしかしてトイレットペーパーなかった? お姉ちゃんが持っていくから、入るよー」
「ちゃ、ちゃんとトイレットペーパーあるから大丈夫!」
姉さんが男子トイレの外から声を投げてきた。
──待ち伏せだ。
俺の逃げ場はないに等しい。
予想していなかったこともなかったが、面倒なことになった。これは当初の脱走計画を変更するしかない。
俺は今個室に入っている。
少し不衛生な気がするので便座に腰かけているわけじゃない。
生徒鞄からスマホを取り出し、姉さんにメッセージを送る。
〈ごめん、ちょっとお腹痛い〉
〈今日は先に帰るから、姉さんは二人と五番街にでも行ってて〉
0.1秒で既読が付いた。
〈大丈夫? やっぱりお姉ちゃんが一緒に個室入ってあげるね〉
〈それはだめ〉
〈普通に犯罪だから〉
〈でも秋くんが苦しいなら、お姉ちゃんも一緒に苦しむよ〉
〈お願いだ姉さん〉
〈部長として、副部長の姉さんには日菜美と千冬を頼みたい〉
この調子でLIМEし続けてたら腱鞘炎確定だ。
普段スマホをほぼ使わないので手首の筋肉が悲鳴を上げている。
俺にはスマホを1日に10分以上触ると死ぬ設定があるのだ。急いでスマホの使用を終わらせないと。
命に関わる問題だったので、キークリックの正確性が上がった。
〈秋くん……〉
〈お姉ちゃんのこと、そこまで信頼してくれてるんだね(泣)〉
〈誰よりも信頼してるよ〉
〈お姉ちゃん、張り切っちゃうね〉
〈先輩として後輩の面倒は見ておくから、お姉ちゃんが帰ってくるの待っててね〉
〈すぐ帰ってくるから〉
〈絶対〉
〈帰って〉
〈くる〉
〈から〉
結構チョロいのはいいが、この狂気を感じる返信はやめてほしい。
それにしてもクリックが速いな。
俺がひとつの文を打ち終わるまでに、姉さんはその3倍くらいの文を打ち込んでいる。
予測入力を駆使しながらやるから早いのかな。
知らんけど。
〈秋空〉
〈あたしもチョコ買ったから〉
今度は別の奴からメッセージが来た。
〈そっか〉
〈それはよかったね〉
〈なんか冷たくない?〉
〈ちょっと体調悪くて〉
嘘だけど。
〈それはお姉さんから聞いた〉
〈あたしの義姉さんから〉
〈それじゃあ、今日俺家に帰るから〉
〈また明日〉
〈やっぱり冷たいよね〉
〈それって、あたしが元カノだから?〉
いろいろとしつこい。
早く姉さんたちとどっか行ってくれ。
もうすぐ10分が経過してしまいそうだったので、姉さんと千冬には返信をせず、スマホの電源をオフにして鞄に封印する。
これでこの世界のあらゆる「鬱陶しさ」から解放された。
恐る恐る男子トイレの外を見渡す。
姉さんたちはもういないようだ。
先輩風を吹かせようとしている姉さんに率いられ、五番街にでも行ったことを望む。
こうして、俺の帰宅部としての最初の活動を終わりを迎えるのだった。
「秋くんっ!」
ささっと帰宅して、4分間はひとりだった。
母さんも父さんもまだ仕事で帰ってきていない。
現在時刻は18時。
本来なら姉さんが夕食を作っているが、今日は俺が作ろう。そう思って、お湯を沸かすための水を汲んでいたら──。
「お腹大丈夫? お姉ちゃんがキスしてあげるから、秋くんはベッドでおとなしくしようね」
とんでもない勢いでキッチンに美少女が乱入。
俺のお腹に抱きついてくる衝撃に耐えられず、水の入った片手鍋をひっくり返してしまった。
大量の水が姉さんにかかる。
体の至るところから水滴をぽたぽたと垂らす姉さん。
「エロっ」
思わず口から出てしまった。
制服は水浸しで、その内側に秘めた下着というものが見えようとしている。夏服だから生地が薄いのだ。
姉さんの下着は何度も見たことがあるが、こういったシチュエーションは初めてだった。
とはいえ、相手は姉さん。
邪な感情を抱くことはない。
「秋くん、今、エロいって言った?」
「いや、エモいって言った」
「違うよね。ちゃんと『ロ』って発音してたよね」
「俺をこんなに心配してくれる姉さんがエモいなぁと思って」
「もう秋くんったら、シスコンなんだから」
吐息の混ざった声で姉さんが囁く。
背筋がゾクッとした。
「いいんだよ、お姉ちゃんに興奮してくれても」
気づけば姉さんは俺に覆いかぶさっている。
南米のウルバンバ渓谷──つまり姉さんの胸の谷間が俺の視線のすぐそこだ。ショートの髪が重力で垂れ、俺の顔をくすぐった。
「びしょ濡れだから着替えてきたら?」
こんな時、俺は現実的なことを言って、この危険な状況を酔いから覚ます。
「いっぱい濡れちゃったね、秋くん」
「だから着替えようか」
「お姉ちゃんをこんなに濡らしておいて、罪な男だね」
そんな罪な男は夕食を作らなくてはならない。
「下着も濡れちゃったから、シャワー浴びてこようかな」
「いいんじゃない。体調よくなったから俺が夕食作っとくよ」
「秋くんも少し濡れてるよ? シャワー、一緒に──」
「このままだと風邪引くから、早く脱いだ方が……」
なーんか失言したような気がする。
「うん、脱ぐね。今ここで」
姉さんはそう言って、ゆっくりと濡れた制服を脱ぎ始めた。
《次回18話 いよいよ登場の爽やか系イケメン》
適当に買ったチョコを生徒鞄にぶち込み、トイレに行くと言って駅の外に出る。
駅の中にあるトイレは綺麗だが、外にあるトイレは野蛮だ。
野生の人間が使ったかのように荒れている。
「トイレっていうのは嘘だしな」
前の使用者の大便が流されていないままの便器を眺めて、ぼそっと呟く。
「あとは家に帰るだけだ」
幸い、30秒ほど走れば家に着く距離だ。
唯一難しいのが横断歩道。
基本的に横断歩道は黄色信号になったら渡ってはいけない。
小学生も知っているようなことだが、大人になっても黄色信号で渡ろうとする輩がいる。自転車で横断するなどもってのほか。
つまり、横断歩道を渡る際のタイミングは完璧でなくてはいけない。
1秒でも歩き出すタイミングがずれてしまえば、世界の大混乱を巻き起こす。世界平和のためにも、横断歩道は気合を入れて渡ろう。
「秋くん、まだ? もしかしてトイレットペーパーなかった? お姉ちゃんが持っていくから、入るよー」
「ちゃ、ちゃんとトイレットペーパーあるから大丈夫!」
姉さんが男子トイレの外から声を投げてきた。
──待ち伏せだ。
俺の逃げ場はないに等しい。
予想していなかったこともなかったが、面倒なことになった。これは当初の脱走計画を変更するしかない。
俺は今個室に入っている。
少し不衛生な気がするので便座に腰かけているわけじゃない。
生徒鞄からスマホを取り出し、姉さんにメッセージを送る。
〈ごめん、ちょっとお腹痛い〉
〈今日は先に帰るから、姉さんは二人と五番街にでも行ってて〉
0.1秒で既読が付いた。
〈大丈夫? やっぱりお姉ちゃんが一緒に個室入ってあげるね〉
〈それはだめ〉
〈普通に犯罪だから〉
〈でも秋くんが苦しいなら、お姉ちゃんも一緒に苦しむよ〉
〈お願いだ姉さん〉
〈部長として、副部長の姉さんには日菜美と千冬を頼みたい〉
この調子でLIМEし続けてたら腱鞘炎確定だ。
普段スマホをほぼ使わないので手首の筋肉が悲鳴を上げている。
俺にはスマホを1日に10分以上触ると死ぬ設定があるのだ。急いでスマホの使用を終わらせないと。
命に関わる問題だったので、キークリックの正確性が上がった。
〈秋くん……〉
〈お姉ちゃんのこと、そこまで信頼してくれてるんだね(泣)〉
〈誰よりも信頼してるよ〉
〈お姉ちゃん、張り切っちゃうね〉
〈先輩として後輩の面倒は見ておくから、お姉ちゃんが帰ってくるの待っててね〉
〈すぐ帰ってくるから〉
〈絶対〉
〈帰って〉
〈くる〉
〈から〉
結構チョロいのはいいが、この狂気を感じる返信はやめてほしい。
それにしてもクリックが速いな。
俺がひとつの文を打ち終わるまでに、姉さんはその3倍くらいの文を打ち込んでいる。
予測入力を駆使しながらやるから早いのかな。
知らんけど。
〈秋空〉
〈あたしもチョコ買ったから〉
今度は別の奴からメッセージが来た。
〈そっか〉
〈それはよかったね〉
〈なんか冷たくない?〉
〈ちょっと体調悪くて〉
嘘だけど。
〈それはお姉さんから聞いた〉
〈あたしの義姉さんから〉
〈それじゃあ、今日俺家に帰るから〉
〈また明日〉
〈やっぱり冷たいよね〉
〈それって、あたしが元カノだから?〉
いろいろとしつこい。
早く姉さんたちとどっか行ってくれ。
もうすぐ10分が経過してしまいそうだったので、姉さんと千冬には返信をせず、スマホの電源をオフにして鞄に封印する。
これでこの世界のあらゆる「鬱陶しさ」から解放された。
恐る恐る男子トイレの外を見渡す。
姉さんたちはもういないようだ。
先輩風を吹かせようとしている姉さんに率いられ、五番街にでも行ったことを望む。
こうして、俺の帰宅部としての最初の活動を終わりを迎えるのだった。
「秋くんっ!」
ささっと帰宅して、4分間はひとりだった。
母さんも父さんもまだ仕事で帰ってきていない。
現在時刻は18時。
本来なら姉さんが夕食を作っているが、今日は俺が作ろう。そう思って、お湯を沸かすための水を汲んでいたら──。
「お腹大丈夫? お姉ちゃんがキスしてあげるから、秋くんはベッドでおとなしくしようね」
とんでもない勢いでキッチンに美少女が乱入。
俺のお腹に抱きついてくる衝撃に耐えられず、水の入った片手鍋をひっくり返してしまった。
大量の水が姉さんにかかる。
体の至るところから水滴をぽたぽたと垂らす姉さん。
「エロっ」
思わず口から出てしまった。
制服は水浸しで、その内側に秘めた下着というものが見えようとしている。夏服だから生地が薄いのだ。
姉さんの下着は何度も見たことがあるが、こういったシチュエーションは初めてだった。
とはいえ、相手は姉さん。
邪な感情を抱くことはない。
「秋くん、今、エロいって言った?」
「いや、エモいって言った」
「違うよね。ちゃんと『ロ』って発音してたよね」
「俺をこんなに心配してくれる姉さんがエモいなぁと思って」
「もう秋くんったら、シスコンなんだから」
吐息の混ざった声で姉さんが囁く。
背筋がゾクッとした。
「いいんだよ、お姉ちゃんに興奮してくれても」
気づけば姉さんは俺に覆いかぶさっている。
南米のウルバンバ渓谷──つまり姉さんの胸の谷間が俺の視線のすぐそこだ。ショートの髪が重力で垂れ、俺の顔をくすぐった。
「びしょ濡れだから着替えてきたら?」
こんな時、俺は現実的なことを言って、この危険な状況を酔いから覚ます。
「いっぱい濡れちゃったね、秋くん」
「だから着替えようか」
「お姉ちゃんをこんなに濡らしておいて、罪な男だね」
そんな罪な男は夕食を作らなくてはならない。
「下着も濡れちゃったから、シャワー浴びてこようかな」
「いいんじゃない。体調よくなったから俺が夕食作っとくよ」
「秋くんも少し濡れてるよ? シャワー、一緒に──」
「このままだと風邪引くから、早く脱いだ方が……」
なーんか失言したような気がする。
「うん、脱ぐね。今ここで」
姉さんはそう言って、ゆっくりと濡れた制服を脱ぎ始めた。
《次回18話 いよいよ登場の爽やか系イケメン》
0
お気に入りに追加
21
あなたにおすすめの小説
可愛すぎるクラスメイトがやたら俺の部屋を訪れる件 ~事故から助けたボクっ娘が存在感空気な俺に熱い視線を送ってきている~
蒼田
青春
人よりも十倍以上存在感が薄い高校一年生、宇治原簾 (うじはられん)は、ある日買い物へ行く。
目的のプリンを買った夜の帰り道、簾はクラスメイトの人気者、重原愛莉 (えはらあいり)を見つける。
しかしいつも教室でみる活発な表情はなくどんよりとしていた。只事ではないと目線で追っていると彼女が信号に差し掛かり、トラックに引かれそうな所を簾が助ける。
事故から助けることで始まる活発少女との関係。
愛莉が簾の家にあがり看病したり、勉強したり、時には二人でデートに行ったりと。
愛莉は簾の事が好きで、廉も愛莉のことを気にし始める。
故障で陸上が出来なくなった愛莉は目標新たにし、簾はそんな彼女を補佐し自分の目標を見つけるお話。
*本作はフィクションです。実在する人物・団体・組織名等とは関係ございません。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。
スタジオ.T
青春
幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。
そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。
ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。
「女の子って自転車に乗るときアソコがサドルに当たらないの?」って訊いたら、キレた幼馴染がそのまま俺の手の平にまんこ押し付けてきた話
ベクトル空間
青春
美少女JKである幼馴染の比奈乃(ひなの)は一人暮らしの俺のために、たまに料理を作りに来てくれる。
そんな比奈乃に俺はふと疑問に思ったことを訊いてみた。
「女の子って自転車に乗るときアソコがサドルに当たらないの?」
すると比奈乃はむっとした表情で突然、制服のスカートをたくし上げ、パンツを丸出しに。
そのまま比奈乃は戸惑う俺の右手をつかむと、彼女の股のあたりにそれを持っていった。
「こんな感じだけど、それがどうかしたの?」
そう言いながら、比奈乃は俺の右手にまんこをぐりぐりと押し付けてきて――。
その誘惑に我慢できなくなった俺が、比奈乃に襲いかかると、「本当はね、あんたのことがずっと好きだったんだよ……あんっ」と喘ぎながら彼女は告白してきたのであった。
愛を確かめ合ったこの日を境に、俺と比奈乃のセックス三昧なイチャラブ生活が始まる――。
※サブタイトルに♥がついているのは本番あり回です。
※四話でヒロインがデレます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる