13 / 24
13 新しい部活に強制入部!?
しおりを挟む
読書タイムが終わると、慌てる様子もなく堂々と松丸先生が遅刻してくる。
「こうやって遅刻するのには慣れてきました。でも、みなさんは絶対に『慣れ』に惑わされないように。慣れは同時に危険ですからね」
だから、あなたにだけは言われたくないんです。
「ここは笑っていいのよ。どうしたの? みんな怖い顔して」
担任の言動を軽蔑しているからだと思うが、流石の龍治も本当のことは言わない。
松丸先生は相変わらず朝だけの伊達メガネをかけていて、知的な雰囲気を醸し出していた。
でも最初の遅刻で全てが台無しだ。
入学してすぐの頃は、若いのにサバサバしていて有能なキャリアウーマンだと誤解していた。
「そんなみんなに、今日は特別なお知らせがあります」
松丸先生は満面の笑み。
誰も大した期待はしていない。
どうせ彼氏ができましたとか、最近ちょっといい感じの人がいるんですとか、そういう類のことだろうと察しているからだ。
「もしかして彼氏できたんですか~?」
壮一でも察せている。
「もう、そんなことじゃありません。私を何だと思ってるのかしら? 今までみんなに彼氏の話した?」
「前の彼氏とは夜の相性が良かったんですよね?」
「壮一君、なんで知ってるの?」
あなたが言ったからです。
松丸先生は大袈裟に驚いてみせたが、多分わざとだ。
そう願いたい。認知症であるとは思いたくない。
壮一がその質問に答えることはなかった。微妙に先生がスベった雰囲気になって、教室に10秒間の沈黙が訪れる。沈黙を破ったのはもちろん、松丸先生だ。
「この清明高校に新しい部活ができます!」
『えー!』
『なにそれー!』
『どんだけー!』
バリエーションの少ないクラスメイトたちの声が上がる。
新しい部活ができるという体験は、中学の時にもなかった。学校生活の中でも、かなり珍しいことではなかろうか。
なにせ、新部活発足にはいろいろと面倒な手続きがあるし、最低でも3人くらいは部員がいるし、そのために顧問の先生も必要だから。
とはいえ、帰宅部の俺には関係のない話だ。
俺にとって重要なことは早く家に帰ることであり、休日を謳歌することである。
「秋空君、そんな興味なさそうな顔しないでちょうだい」
普通にバレた。
だって仕方ない。本当に興味がないんだもの。
「あなたにも関係することなのよ。ちゃんと聞いてね」
「え、僕にも関係するんですか?」
「当たり前じゃない。むしろ、この学校の中で、あなたが1番関係すると言っても過言じゃないくらい」
「でも僕は帰宅部ですし──」
「そう、帰宅部!」
「へ?」
「新しい部活として、帰宅部が発足しました!」
1年1組の教室は混乱に包まれた。
なぜ帰宅部を部活動にする必要がある? 帰宅部は部活じゃない部だからこそ、人気があるのだ。
「アッキー、おれも帰宅部なのか?」
「俺に聞かれても知らん」
「アッキー、おれは帰宅部辞めて帰宅してもいいか?」
「ややこしい」
後ろの真一は気が気じゃない。
もし松丸先生の言ったことが嘘でなければ、現在部活無所属の生徒は全員帰宅部に入部する、なんていうことになるかもしれない。
俺にとってもそれは困るし、まだいまいち事情がわかってない。
この一大事に、俺と同じく部活無所属の日菜美は……ぐっすり眠っていた。
「もう申請が終わって、あとは部長のサインを待つだけよ。秋空君、こっちに来てちょうだい」
「え、何ですか?」
「いいから、こっちに来て」
「もしかして……」
――俺が部長、ということだろうか。
「部員はもう3人集まってるの。ちなみに、その中に秋空君もしっかり入ってるから。帰宅部のエース兼部長として、部を引っ張ってちょうだい」
衝撃の既成事実に、龍治が眉をひそめる。
ここで、帰宅部なんてふざけた部活認めてたまるか、というまともな主張が出されることを期待した。
「もし帰宅部が帰宅部と言われるのであれば、帰宅部に入っていない帰宅部はどうなるのでしょうか? ちなみに、秋空を帰宅部の部長にすることには賛成です。彼には誰よりも責任感があります」
「帰宅部に入ってない帰宅部って、龍治君や真一君のこと? 別にそれは無所属という形で構わないそうよ。ちなみに、帰宅部にはしっかりとした放課後の活動があるの」
龍治たちが無所属のままなら、俺も無所属ということで帰宅部を退部したい。
「どんな活動ですか~?」
卓球部の壮一にはまったく関係のないことかもしれないが、今回ばかりは聞いてくれて助かった。
「それは、ひ・み・つ。帰宅部に入ることで知ることができるの」
「気になるのでおれも帰宅部入っていいですか? 憧れてたんですよ~」
「だーめ。帰宅部は兼部禁止です」
帰宅部は兼部禁止。
だとすれば、卓球部の壮一は帰宅することすら許されないのか。
「今帰宅部への入部が決まっているのは、秋空君と秋空君のお姉さん、そして早坂さんよ」
ぎょっとして隣の席を見る。
他の生徒も同様だ。
でも日菜美はまったく起きずに、机に突っ伏して寝ている。名前を呼んだら起きるかな?
「日菜美」
「──ッ」
起きた。
普通のトーンで名前を呼んだだけで、ここまでの覚醒効果を導けるとは。
もしかしたら俺の声は特別な力を持っているのかもしれない。
「日菜美って帰宅部入ったの? ていうか、帰宅部作ったのって……」
「私と夏凛様。秋空くんを部長に推薦したのは私」
「……」
なぜそんなことをした?
そして姉さん……日菜美と仲良くなってくれたようで何よりだ。
「いいから秋空君、この書類にサインして。これは教師からの命令だから、絶対なの。なんだか興奮するでしょう?」
「パワハラとセクハラです」
「あら、いいじゃない。言っておくけど、顧問は私よ。安心して、毎日楽しい部活になるから」
「顧問松丸先生!? おれ、やっぱり帰宅部入ります!」
「駄目って言ったでしょ? 帰宅部は兼部禁止なのよ」
「じゃあ卓球部辞めて帰宅部入ります!」
「それなら……いいかも」
「ちょっと! 卓球部のエースをそんな部活に入れないでください!」
日本卓球界の未来のために、俺は声を張り上げた。
壮一をこんなくだらない部活に入れさせてたまるか。
「それじゃあ、秋空君がこの書類にサインしてくれたら、壮一君の未来を守ってあげる」
サインしなかったら壮一の未来をめちゃくちゃにするのか。
最低だな、それ。
「わかりました」
最近多くなってきた面倒な顔で、椅子から立ち上がる。
俺の犠牲によって日本卓球界の未来が少しでも明るくなるのなら、受け入れるしかない。
「あの、あたしも帰宅部、入ります!」
ここで新しい入部希望が現れた。
ついさっき、読書タイムの前に言葉を交わしたばかりの女子生徒だ。
「あたし、副部長やります!」
《次回14話 部活の方針が狂ってる》
「こうやって遅刻するのには慣れてきました。でも、みなさんは絶対に『慣れ』に惑わされないように。慣れは同時に危険ですからね」
だから、あなたにだけは言われたくないんです。
「ここは笑っていいのよ。どうしたの? みんな怖い顔して」
担任の言動を軽蔑しているからだと思うが、流石の龍治も本当のことは言わない。
松丸先生は相変わらず朝だけの伊達メガネをかけていて、知的な雰囲気を醸し出していた。
でも最初の遅刻で全てが台無しだ。
入学してすぐの頃は、若いのにサバサバしていて有能なキャリアウーマンだと誤解していた。
「そんなみんなに、今日は特別なお知らせがあります」
松丸先生は満面の笑み。
誰も大した期待はしていない。
どうせ彼氏ができましたとか、最近ちょっといい感じの人がいるんですとか、そういう類のことだろうと察しているからだ。
「もしかして彼氏できたんですか~?」
壮一でも察せている。
「もう、そんなことじゃありません。私を何だと思ってるのかしら? 今までみんなに彼氏の話した?」
「前の彼氏とは夜の相性が良かったんですよね?」
「壮一君、なんで知ってるの?」
あなたが言ったからです。
松丸先生は大袈裟に驚いてみせたが、多分わざとだ。
そう願いたい。認知症であるとは思いたくない。
壮一がその質問に答えることはなかった。微妙に先生がスベった雰囲気になって、教室に10秒間の沈黙が訪れる。沈黙を破ったのはもちろん、松丸先生だ。
「この清明高校に新しい部活ができます!」
『えー!』
『なにそれー!』
『どんだけー!』
バリエーションの少ないクラスメイトたちの声が上がる。
新しい部活ができるという体験は、中学の時にもなかった。学校生活の中でも、かなり珍しいことではなかろうか。
なにせ、新部活発足にはいろいろと面倒な手続きがあるし、最低でも3人くらいは部員がいるし、そのために顧問の先生も必要だから。
とはいえ、帰宅部の俺には関係のない話だ。
俺にとって重要なことは早く家に帰ることであり、休日を謳歌することである。
「秋空君、そんな興味なさそうな顔しないでちょうだい」
普通にバレた。
だって仕方ない。本当に興味がないんだもの。
「あなたにも関係することなのよ。ちゃんと聞いてね」
「え、僕にも関係するんですか?」
「当たり前じゃない。むしろ、この学校の中で、あなたが1番関係すると言っても過言じゃないくらい」
「でも僕は帰宅部ですし──」
「そう、帰宅部!」
「へ?」
「新しい部活として、帰宅部が発足しました!」
1年1組の教室は混乱に包まれた。
なぜ帰宅部を部活動にする必要がある? 帰宅部は部活じゃない部だからこそ、人気があるのだ。
「アッキー、おれも帰宅部なのか?」
「俺に聞かれても知らん」
「アッキー、おれは帰宅部辞めて帰宅してもいいか?」
「ややこしい」
後ろの真一は気が気じゃない。
もし松丸先生の言ったことが嘘でなければ、現在部活無所属の生徒は全員帰宅部に入部する、なんていうことになるかもしれない。
俺にとってもそれは困るし、まだいまいち事情がわかってない。
この一大事に、俺と同じく部活無所属の日菜美は……ぐっすり眠っていた。
「もう申請が終わって、あとは部長のサインを待つだけよ。秋空君、こっちに来てちょうだい」
「え、何ですか?」
「いいから、こっちに来て」
「もしかして……」
――俺が部長、ということだろうか。
「部員はもう3人集まってるの。ちなみに、その中に秋空君もしっかり入ってるから。帰宅部のエース兼部長として、部を引っ張ってちょうだい」
衝撃の既成事実に、龍治が眉をひそめる。
ここで、帰宅部なんてふざけた部活認めてたまるか、というまともな主張が出されることを期待した。
「もし帰宅部が帰宅部と言われるのであれば、帰宅部に入っていない帰宅部はどうなるのでしょうか? ちなみに、秋空を帰宅部の部長にすることには賛成です。彼には誰よりも責任感があります」
「帰宅部に入ってない帰宅部って、龍治君や真一君のこと? 別にそれは無所属という形で構わないそうよ。ちなみに、帰宅部にはしっかりとした放課後の活動があるの」
龍治たちが無所属のままなら、俺も無所属ということで帰宅部を退部したい。
「どんな活動ですか~?」
卓球部の壮一にはまったく関係のないことかもしれないが、今回ばかりは聞いてくれて助かった。
「それは、ひ・み・つ。帰宅部に入ることで知ることができるの」
「気になるのでおれも帰宅部入っていいですか? 憧れてたんですよ~」
「だーめ。帰宅部は兼部禁止です」
帰宅部は兼部禁止。
だとすれば、卓球部の壮一は帰宅することすら許されないのか。
「今帰宅部への入部が決まっているのは、秋空君と秋空君のお姉さん、そして早坂さんよ」
ぎょっとして隣の席を見る。
他の生徒も同様だ。
でも日菜美はまったく起きずに、机に突っ伏して寝ている。名前を呼んだら起きるかな?
「日菜美」
「──ッ」
起きた。
普通のトーンで名前を呼んだだけで、ここまでの覚醒効果を導けるとは。
もしかしたら俺の声は特別な力を持っているのかもしれない。
「日菜美って帰宅部入ったの? ていうか、帰宅部作ったのって……」
「私と夏凛様。秋空くんを部長に推薦したのは私」
「……」
なぜそんなことをした?
そして姉さん……日菜美と仲良くなってくれたようで何よりだ。
「いいから秋空君、この書類にサインして。これは教師からの命令だから、絶対なの。なんだか興奮するでしょう?」
「パワハラとセクハラです」
「あら、いいじゃない。言っておくけど、顧問は私よ。安心して、毎日楽しい部活になるから」
「顧問松丸先生!? おれ、やっぱり帰宅部入ります!」
「駄目って言ったでしょ? 帰宅部は兼部禁止なのよ」
「じゃあ卓球部辞めて帰宅部入ります!」
「それなら……いいかも」
「ちょっと! 卓球部のエースをそんな部活に入れないでください!」
日本卓球界の未来のために、俺は声を張り上げた。
壮一をこんなくだらない部活に入れさせてたまるか。
「それじゃあ、秋空君がこの書類にサインしてくれたら、壮一君の未来を守ってあげる」
サインしなかったら壮一の未来をめちゃくちゃにするのか。
最低だな、それ。
「わかりました」
最近多くなってきた面倒な顔で、椅子から立ち上がる。
俺の犠牲によって日本卓球界の未来が少しでも明るくなるのなら、受け入れるしかない。
「あの、あたしも帰宅部、入ります!」
ここで新しい入部希望が現れた。
ついさっき、読書タイムの前に言葉を交わしたばかりの女子生徒だ。
「あたし、副部長やります!」
《次回14話 部活の方針が狂ってる》
0
お気に入りに追加
21
あなたにおすすめの小説
可愛すぎるクラスメイトがやたら俺の部屋を訪れる件 ~事故から助けたボクっ娘が存在感空気な俺に熱い視線を送ってきている~
蒼田
青春
人よりも十倍以上存在感が薄い高校一年生、宇治原簾 (うじはられん)は、ある日買い物へ行く。
目的のプリンを買った夜の帰り道、簾はクラスメイトの人気者、重原愛莉 (えはらあいり)を見つける。
しかしいつも教室でみる活発な表情はなくどんよりとしていた。只事ではないと目線で追っていると彼女が信号に差し掛かり、トラックに引かれそうな所を簾が助ける。
事故から助けることで始まる活発少女との関係。
愛莉が簾の家にあがり看病したり、勉強したり、時には二人でデートに行ったりと。
愛莉は簾の事が好きで、廉も愛莉のことを気にし始める。
故障で陸上が出来なくなった愛莉は目標新たにし、簾はそんな彼女を補佐し自分の目標を見つけるお話。
*本作はフィクションです。実在する人物・団体・組織名等とは関係ございません。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。
スタジオ.T
青春
幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。
そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。
ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。
「女の子って自転車に乗るときアソコがサドルに当たらないの?」って訊いたら、キレた幼馴染がそのまま俺の手の平にまんこ押し付けてきた話
ベクトル空間
青春
美少女JKである幼馴染の比奈乃(ひなの)は一人暮らしの俺のために、たまに料理を作りに来てくれる。
そんな比奈乃に俺はふと疑問に思ったことを訊いてみた。
「女の子って自転車に乗るときアソコがサドルに当たらないの?」
すると比奈乃はむっとした表情で突然、制服のスカートをたくし上げ、パンツを丸出しに。
そのまま比奈乃は戸惑う俺の右手をつかむと、彼女の股のあたりにそれを持っていった。
「こんな感じだけど、それがどうかしたの?」
そう言いながら、比奈乃は俺の右手にまんこをぐりぐりと押し付けてきて――。
その誘惑に我慢できなくなった俺が、比奈乃に襲いかかると、「本当はね、あんたのことがずっと好きだったんだよ……あんっ」と喘ぎながら彼女は告白してきたのであった。
愛を確かめ合ったこの日を境に、俺と比奈乃のセックス三昧なイチャラブ生活が始まる――。
※サブタイトルに♥がついているのは本番あり回です。
※四話でヒロインがデレます!
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる