【完結】俺を振った元カノがしつこく絡んでくる。

エース皇命

文字の大きさ
上 下
4 / 27

04 美少女とぶつかるバスの中

しおりを挟む
 平日の朝は5時起き。
 これは俺の中でのルールだ。

 この時間には姉さんもぐっすり寝ているし、あまり物音を立てなければ1日の中で最も静かで、平和な時間である。

「って、いつの間に隣で……」

 昨日は俺の恋愛事情でショックを受けたせいか、姉さんは俺のベッドに上がり込み、アナコンダ並みの力で俺を拘束していた。

 寝顔は美しい。
 でも、その美貌に似合わない強さが俺を縛る。

 どうにかしてこの拘束を解かねば……。

「──ん。むにゃむにゃむにゃ──」

 焦った。
 起きたかと思った。

 5時起きはルーティン化しているので、目覚ましをかける必要はない。すっかり目は冴えている。
 姉さんはただ寝言をいっただけで、まだ夢の中だった。

「──ちょっと、秋くん、エッチなんだからぁ──」

 夢の中で俺はナニをしてるんだろう。

「──ああ、もう仕方ないなぁ。秋くんだけだからね──」

 このブラコンエロ姉にはがっかりだ。

 なんとか南米に生息するヘビからの脱出に成功し、リビングに向かうことができた。
 そのまま洗面所に向かうと、顔を洗い、肌の保湿をし、パジャマを脱ぐ。

 こういった朝の活動をサボるわけにはいかない。
 自分の中で決めたルーティンは守る。それが俺の中で最も大切な、この世界の秩序だ。

 シャワーを浴びる。
 6月の朝は少し寒いが、冷水シャワーはそれこそ地獄だ。でも冬にも同じことをしているので、俺は一切動じることはない。

「あとは連絡の確認か」

 スマホの電源は夕方の7時には落とすようにしている。

 こうして昨晩の連絡を確認するのは、朝のほんの数分だけだ。

「千冬から……126件のLIМEライム……」

 冷水シャワーを浴びたばかりからか、それとも本能からなのか、ぶるっと身震いする。

 付き合っていた時は、しっかり内容に目を通して3件ほどのメッセージで返信していたけど……もう元カノだし、そんな律儀に返信する理由はない。

「未読スルーでいこう」

 俺がスマホをめったに触らないことは有名な話だし、未読スルーなら納得してくれるはずだ。

 なんだか上機嫌で、朝のプロテイン摂取&読書タイム。

 夜は勉強をしているので、こうしてゆっくり読書を楽しめるのは、朝の時間だけだ。ちなみに、朝は動物性たんぱく質を摂取することで、筋肉の分解を防いでいる。

 今読んでいるのは、昨日買ったラノベ、『勇者学園の異端児は強者ムーブをかましたい』の4巻だ。

 電子書籍で先に読んでいたものを、こうして紙書籍でも買った。面白いという体験をさせてくれた作者にはできるだけ還元する、というのが俺の読書のこだわりだ。

「はぁ、そろそろ平穏な時間も終わりそうだ」

 俺がそう呟いた理由は単純。

 姉さんが起きた。



 俺が通う清明せいめい高校までは、バスで5分くらい。
 歩いていくこともできるが、荷物もそこそこ多いのでバスを利用している。

 家のすぐ近くにはバスセンターがあるし、降りるのは清明高校前のバス停なので困ることはない。

「今日秋くんの教室に乗り込んでもいいかな?」

「いや、それはやめて」

 と言っても、姉さんはどうせ昼休みには顔を見にやってくる。

 毎日断ってるんだけど。

「それはそうと、もし今後、秋くんに彼女ができそうになったら、お姉ちゃんにまず言ってね」

「わかった」

「ほんとに? 昨日お母さんとお父さんに聞いたら、ふたりは秋くんに彼女がいた・・こと知ってたんだよ?」

 実は姉さんにだけ教えてなかった。
 理由は言わなくてもわかるだろう。

 ごたごたしているうちに、バスが来た。

 通学&通勤で、溢れそうなほどに人が詰まっている。
 もう少し本数を増やしてくれたら、とか思っていたら、なんと最近本数が減った。運転手の高齢化&減少が原因らしい。

 佐世保という街も、なかなかに大きな問題を抱えている。

「もう、秋くんったら、くっつき過ぎだよ」

「バスがぎゅうぎゅうだから仕方なく、だから」

「言い訳しなくても、お姉ちゃん、ちゃーんとわかってるから。秋くんがお姉ちゃんのことだーい好きだってこと」

 ちゃんとわかってないな。

「ていうか、もうそろそろ考査テストなんだし、姉さんも勉強したら?」

「秋くんと一緒にいるだけで勉強になるから、心配しなくていいよ」

 俺といるだけで勉強になる。
 うん、わけがわからん。

 何か言い返そうとしたら、バスが大きく揺れた。ずっと国道を走っていたバスが、高校への曲がり道に差しかかったということだろう。

「──ッ」

「あっ──すみません」

 急カーブの弾みで、後ろの乗客にぶつかってしまう。
 咄嗟に謝る俺だが──。

「──早坂はやさかさん?」

山吹やまぶきくん……」

 俺がぶつかってしまったのは、現在隣の席に座る同じクラスの美少女、早坂日菜美ひなみ

 千冬ちふゆにも姉さんにもない、クールビューティーな魅力を持っていて、とんでもないプロポーション。
 胸は推定Eカップで、ウエストが細く、脚は長い。ストレートロングの長い髪は後ろでポニーテールにしてある。

 ──アニメに出てくるような美少女。

 オタクはそう彼女を評するだろう。

 そして、なんというか……いろいろと無防備だ。授業ではほとんど寝ているし、逆に起きている休み時間ではひとりで漫画を読んでいる。こんな美少女が堂々と漫画を読むことで、俺のクラスでは漫画ブームが巻き起こったほどだ。
 主に男子の間で。

「おはよう」

「お、おはよう」

 さらっとした微笑みで挨拶される俺。

 倒れそうになったが、なんとか思いとどまり、挨拶を返すに至った。

 俺と早坂さんは席が隣。
 ゆえに、休み時間にちょこっと話したり、授業での話し合いでコミュニケーションを取ったりしている。

 なぜか早坂さん、話し合いになった時だけはしっかり覚醒してるんだよな。

 もうすぐテストだね、とか当たり障りのない会話を展開しようか迷っていると、早坂さんが俺からすっと目を逸らした。

 どこか寂しそうに、どこか嫌そうに。

 あれ、俺嫌われてる?

 嫌いなやつにあんな爽やかな挨拶をするだろうか。
 よくわからんが、気にするだけ無駄だ。今日の俺はなぜだか気分がいい。肩の関節がよく動く。そんな感じだ。

「秋くん、大丈夫?」

「うん大丈夫」

「何かあったらお姉ちゃんが守ってあげるからね。あ、でも、今では秋くんの方が強いから、いざとなったらお姉ちゃんの騎士になってくれるもんね」

 ああ、これか。
 この姉のせいか。

 このやりとりを後ろで早坂さんに聞かれていると思うと、なんだか死にたくなってきた。





《次回5話 大声で振られたとか叫ばないで》
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

幼馴染が家出したので、僕と同居生活することになったのだが。

四乃森ゆいな
青春
とある事情で一人暮らしをしている僕──和泉湊はある日、幼馴染でクラスメイト、更には『女神様』と崇められている美少女、真城美桜を拾うことに……? どうやら何か事情があるらしく、頑なに喋ろうとしない美桜。普段は無愛想で、人との距離感が異常に遠い彼女だが、何故か僕にだけは世話焼きになり……挙句には、 「私と同棲してください!」 「要求が増えてますよ!」 意味のわからない同棲宣言をされてしまう。 とりあえず同居するという形で、居候することになった美桜は、家事から僕の宿題を見たりと、高校生らしい生活をしていくこととなる。 中学生の頃から疎遠気味だったために、空いていた互いの時間が徐々に埋まっていき、お互いに知らない自分を曝け出していく中──女神様は何でもない『日常』を、僕の隣で歩んでいく。 無愛想だけど僕にだけ本性をみせる女神様 × ワケあり陰キャぼっちの幼馴染が送る、半同棲な同居生活ラブコメ。

昔義妹だった女の子が通い妻になって矯正してくる件

マサタカ
青春
 俺には昔、義妹がいた。仲が良くて、目に入れても痛くないくらいのかわいい女の子だった。 あれから数年経って大学生になった俺は友人・先輩と楽しく過ごし、それなりに充実した日々を送ってる。   そんなある日、偶然元義妹と再会してしまう。 「久しぶりですね、兄さん」 義妹は見た目や性格、何より俺への態度。全てが変わってしまっていた。そして、俺の生活が爛れてるって言って押しかけて来るようになってしまい・・・・・・。  ただでさえ再会したことと変わってしまったこと、そして過去にあったことで接し方に困っているのに成長した元義妹にドギマギさせられてるのに。 「矯正します」 「それがなにか関係あります? 今のあなたと」  冷たい視線は俺の過去を思い出させて、罪悪感を募らせていく。それでも、義妹とまた会えて嬉しくて。    今の俺たちの関係って義兄弟? それとも元家族? 赤の他人? ノベルアッププラスでも公開。

転校して来た美少女が前幼なじみだった件。

ながしょー
青春
 ある日のHR。担任の呼び声とともに教室に入ってきた子は、とてつもない美少女だった。この世とはかけ離れた美貌に、男子はおろか、女子すらも言葉を詰まらせ、何も声が出てこない模様。モデルでもやっていたのか?そんなことを思いながら、彼女の自己紹介などを聞いていると、担任の先生がふと、俺の方を……いや、隣の席を指差す。今朝から気になってはいたが、彼女のための席だったということに今知ったのだが……男子たちの目線が異様に悪意の籠ったものに感じるが気のせいか?とにもかくにも隣の席が学校一の美少女ということになったわけで……。  このときの俺はまだ気づいていなかった。この子を軸として俺の身の回りが修羅場と化すことに。

可愛すぎるクラスメイトがやたら俺の部屋を訪れる件 ~事故から助けたボクっ娘が存在感空気な俺に熱い視線を送ってきている~

蒼田
青春
 人よりも十倍以上存在感が薄い高校一年生、宇治原簾 (うじはられん)は、ある日買い物へ行く。  目的のプリンを買った夜の帰り道、簾はクラスメイトの人気者、重原愛莉 (えはらあいり)を見つける。  しかしいつも教室でみる活発な表情はなくどんよりとしていた。只事ではないと目線で追っていると彼女が信号に差し掛かり、トラックに引かれそうな所を簾が助ける。  事故から助けることで始まる活発少女との関係。  愛莉が簾の家にあがり看病したり、勉強したり、時には二人でデートに行ったりと。  愛莉は簾の事が好きで、廉も愛莉のことを気にし始める。  故障で陸上が出来なくなった愛莉は目標新たにし、簾はそんな彼女を補佐し自分の目標を見つけるお話。 *本作はフィクションです。実在する人物・団体・組織名等とは関係ございません。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。

たかなしポン太
青春
   僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。  助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。  でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。 「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」 「ちょっと、確認しなくていいですから!」 「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」 「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」    天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。  異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー! ※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。 ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

手が届かないはずの高嶺の花が幼馴染の俺にだけベタベタしてきて、あと少しで我慢も限界かもしれない

みずがめ
恋愛
 宮坂葵は可愛くて気立てが良くて社長令嬢で……あと俺の幼馴染だ。  葵は学内でも屈指の人気を誇る女子。けれど彼女に告白をする男子は数える程度しかいなかった。  なぜか? 彼女が高嶺の花すぎたからである。  その美貌と肩書に誰もが気後れしてしまう。葵に告白する数少ない勇者も、ことごとく散っていった。  そんな誰もが憧れる美少女は、今日も俺と二人きりで無防備な姿をさらしていた。  幼馴染だからって、とっくに体つきは大人へと成長しているのだ。彼女がいつまでも子供気分で困っているのは俺ばかりだった。いつかはわからせなければならないだろう。  ……本当にわからせられるのは俺の方だということを、この時点ではまだわかっちゃいなかったのだ。

処理中です...