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第54話 本当の決勝戦

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「俺様に勝とうなどと思うな。指1本であんたらをねじ伏せることだってできる。哀れな学園長みたくな」

 ここで状況を整理しよう。

 状況は最悪。
 
 実力者で頼れる先生2名は倒れ戦意喪失。
 一方は拷問に耐え、もう一方はショックと絶望で体が動かなくなっている。

 で、ブラック・シックネスという闇のスキルを持つラスボスは目の前。

 イーグルアイ先生に強烈な恨みを持っていて、ついでに俺も殺そうと考えている。
 
 なんとか復活したブレイズと立ち向かおうとしている俺。
 そのせいで少しずつ、俺の命は削られていく。

 そして、最悪なことに、シックネスは学園長がどうとか言っていた。

「学園長をどうした?」

 ここに学園長がいれば、相当な戦力になったはず。
 俺でも戦いたくない相手だ。

 そんな最高の実力者は不在。

 先生たちや生徒会による説明は一切なかった。

「別にあのジジイを殺そうなんて思ってない。ただ、イーグルアイを殺すことの最大の壁は、先に潰しておくべきなのはわかるだろう?」

「拷問か……」

「どんな実力者でも、俺の拷問から逃れることはできない。この際、気分がいいので教えてやろう。俺様が拷問で封じ込めることができる最大人数は2人まで。もう拷問を使えない」

「なんで教えるんだ?」

 シックネスは面白そうに首をかしげた。

「あんたらを絶望させるためだ、ストロング、そしてバーニング。最大の武器である拷問を使わなくして、俺様に負けた、殺された──ある意味、伝説を作ろうとしているわけだ」

「オレたちをナメてやがるのか、こいつ。ジャック、やっぱオレはこいつを殺す」

「ブレイズ……」

 殺すことは、イーグルアイ先生がしたことと同じだ。

 認めることはできなかった。

「やるぞ!」

 ブレイズが先にかかっていった。
 あまりに無謀すぎる。
 これだとさっきみたいに飛ばされて終わるだけだ。

 つまらなそうにため息をつき、シックネスが片手を振った。

 見えない闇の攻撃がブレイズに命中し、壁の方まで──。

「少し前のオレとはレベルがちげー!」

 炎を出してその勢いと熱でバランスを取り、空中で体勢を変える。
 わずか0,1秒くらいの出来事だった。

 全身を青い炎で包み、シックネスの醜い顔面につかみかかる。

 すごい反射神経だ。

「ほう」

 シックネスはそれでもわかっていた。
 ブレイズの腹に生々しいパンチをお見舞いし、地面に叩きつける。

 俺も黙ってみているわけじゃなかった。

 その間にやつの左を取り、同じように炎で攻める。
 闇には炎がいいことは知っていた。暗い洞窟を歩くとき、役に立つのは炎がくべられたたいまつだ。

「残念だ」

 首をつかまれ、呼吸ができなくなる。

「ストロングは窒息じゃない。もっと最高の殺し方があるはず──」

「こっち見てろよ!」

 ブレイズの特大ブースト直撃。
 俺のことなんてお構いなしか。

 炎への耐性があってよかった。

「闇は炎に勝る。そんなことを繰り返していても無駄なことだ」

 シックネスからの積極的な攻撃はない。

 それなのに、俺たちは圧倒されていた。
 
 悔しい。

 それより命の危機を感じてすぐ逃げろ。
 そう思われるかもしれない。だが、ブレイズの熱によって上げられた俺の負けず嫌いの炎は収まらない。悔しくて悔しくてしかたがなかった。

 きっとブレイズも、同じことを思っているだろう。

 どうすれば勝てる? 弱点なんてないようなこの闇の帝王に。

 心強い味方は目の前で倒れている。

 そのとき──。

 !!!

 視界が一気に真っ白になって、何も見えなくなった。
 前にも体験したことがある。

 光だ。

 この光はルミナスが……。

「やれ!」

 俺にやられたボロボロの状態で、あの最大威力の光を出したのか?
 
 ルミナスが作ってくれた最後のチャンスだった。

 彼のこっちを見る目は、どこか寂しげで、何かを求めていた。
 あんなに憎かったやつなのに、今はなぜか、同情までしそうになっている。苦しげに訴えるその目には、希望の光が見えた気がした。

「ぼーっとしてんじゃねぇ!」

 ブレイズの声が響く。

 この一瞬。
 ほんの一瞬だが、俺たち3人──俺、ブレイズ、そしてルミナスの考えは同じだった。このラスボスを、協力して倒す。

「ぶっ放せ!」

 ブレイズが特大炎でシックネスを包み、さらに視界を奪う。

 闇から救ってくれるのは、炎じゃない。
 希望の光だ。

 ふたりが紡いだバトン、俺が最後に落としてどうする? 

 最後は炎でも氷でもない。
 俺が放った最後の攻撃はずっと使うことができなかった、スキル『光』だった。

「シャイニングブレイク!」

 光り輝く最初で最後のシャイニングブレイクは、この世界にかかっていた闇を浄化し、ほんの少しだけ明るく照らした。
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