上 下
50 / 56

第50話 闇堕ちスキル(ブレイズside)

しおりを挟む
 準決勝。

 ジャックは先に決勝進出を決めやがった。
 準決勝からは観客席で試合を全員が観覧する。

 ゲイルのアホが負けた相手、ハロー。

 あいつを翻弄するほどの実力者でも、ジャックには勝てない。
 あたりめ―だ。
 オレのライバルがオレ以外のやつに負けてどーする? オレも決勝進出決めて、あいつと戦いてぇ。

 相手は光系のスキルを持つルミナス・グローリー。
 オレがエリートクラスの中で1番気に食わない――フロストなんかよりもずっと気に食わないやつだ。

 控え室にもなっている暗い廊下で、やつと会った。

 ジャックとハローの準決勝も終わり、客席が大歓声に包まれてやがったとき、グローリーからオレに話しかけてきた。

「ブレイズ」

「あ?」

 急に馴れ馴れしく名前で呼ぶんじゃねぇ。
 しかも、あいつの声は陰気で聞こえづらい。

 オレとの対戦を怖気づいてんのか?

「君はジャックが転生者であることを知っているね?」

「だったらなんだよ? てかなんでおめぇが知ってんだ?」

「やっぱり。君たちはすっかり仲がいいみたいだ」

 不気味に微笑んでるのがもっと気に食わねぇ。
 今すぐ殴ってやりたい。
 炎を呼び出し、ちりじりになるまで焼き焦がしたい。

「僕はある信頼できるお方からジャックの情報をもらってね。君は決勝戦でジャックと戦いたい、なんて思っているかもしれないけど、それは僕がやらなくてはならないんだ。ジャックを決勝で痛めつけ、あの方に息の根を止めてもらう」

「できるもんならやってみろ。オレが阻止してやる。おめぇを準決勝で完膚なきまでに叩き潰すことでな!」

 グローリーのクソは、オレのことを鼻で笑って戦場に出ていった。


 ***


「先ほどのバラエティ豊富な準決勝で、見事ジャックくんの勝利が決まった! いよいよこの準決勝で、ジャックくんとの対戦者、優勝への挑戦者が決まる! この風、もっともっと吹いてくれ!」

 グローリーは最初から、ずっと微笑んでやがる。

 対戦開始の合図が出ても、1ミリも動こうとしねぇ。
 オレが熱い炎でもぶっかけてやれば、やつも目を覚まして応戦してくるか?

 それか、これは罠か?

 わざと油断させて、近づいたオレをやるつもりか。
 やっぱりグローリーは嫌いだ。

「おい! おめぇジャックのこともオレのこともナメてんのか知らねぇが、あとで後悔させてやるからな!」

 準々決勝でも出さなかった、最強クラスの炎を放つ。

 ジャックには超されていた、はるかに大きかった炎。
 今ではオレの炎は誰にも負けるわけがない! 

 この最強の炎を見ろ!

 どんなものでも焼き焦がす太陽だ。

「ファイヤーブースト!」

 グローリーには攻撃をかわせるだけのスキルがねぇ。

 こいつが勝ち上がってることくらいなんとなく考えてた。
 準備期間で調べてきたクラスの連中のスキル。

 グローリーは光を放って相手の視界を奪ったり、光線を浴びせて攻撃する程度のスキルしか持ってねぇ。オレの強化したスキルの前では、ひざまずくことしかできねぇんだ。

「残念だな、ブレイズ」

 こいつ……。

 まだオレの炎を浴びてやがる。
 炎の中から、落ち着いて声を返しただと!?

 そんなはず──。

「結局は君も、ただのひとつのスキルに頼りっぱなし。ジャックのように様々なスキルを使いこなすことはできないわけだ」

 攻撃をやめた。

 最大威力の炎で包んだというのに、やつは傷ひとつ受けてない。
 笑顔でオレを見ていた。

 こいつ……一体……。

「そこで僕は気づいたんだ。スキルを増やしてしまうことが、ジャックに勝つための1番の戦略だ、とね。それなら、わざわざ努力をしたりせず、ちょいとスキルを使って──」

「おめぇ今なんて言った? おい? 今なんて言った!?」

 態度が気に食わねぇ。

 すました顔が気に食わねぇ。

 放った言葉が気に食わねぇ。

「努力をしないだと? 誰だって努力してここまで戦ってきたんだろうが! おめぇみたいなクズ、オレが──」

「君にできるのかい? 本気の炎を僕に防がれた、『無能の』君が」

 !!!

 無能……。

 オレはずっと、ジャックにその言葉を浴びせてた。
 実力を持っておきながら、熱い心が見えないやつのこと。

 オレはそれが無能だと思ってる。

 やるなら本気で、自分の力全部出し切れ。
 オレがここまでやってきたのは、この言葉をモットーに生きてきたからだ。

「おめぇは努力が何かわかってない」

「急に何を言い出すかと思えば……新しいスキル『闇落ち』を手に入れた僕にとって、君はただの遊び相手に過ぎない。努力なんてしても報われないから、こうしてスキルをあの方にいただいた。君も欲しいかい? 素直に負けを認めて、これから僕の下僕として忠誠を誓うのなら、あの方に頼んであげなくもない」

「そんなもんいらねぇ。おめぇに何があったのかは知らねぇけどよ、本気で物事にたぎってたら、いつの間にか報われんだよ、あ? そんなクズに、オレが負けるわけが──」

 グローリーが手を上げた。

 オレの体に黒いもやみたいな汚いものが集まってきて、オレを包む。
 払おうとしても、余計にもやが濃くなるだけだ。

 くっそ。

 オレは絶対に負けるわけにはいかねぇんだ。
 あいつに──ジャックに勝つんだ。

「それは拷問だよ。君が泣き叫ぶほど苦しまないと、僕が解除したいと思ってもできない。地獄の苦しみを、味わうことになるからね。それでも、努力がどうとか、本気がどうとか言い続けるつもりかい?」

 やつの顔は完全なサイコパスだった。

 苦しくても、オレは自分の言ったことを取り消そうなんて思わねぇ。
 本気で叶えたいと思う熱い心が、野望を実現させる。

「せいぜい苦しみな。そして君は、友人のジャックの命が奪われていく瞬間を、苦しみながら見ていることしかできないわけだ」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】帝国から追放された最強のチーム、リミッター外して無双する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】  スペイゴール大陸最強の帝国、ユハ帝国。  帝国に仕え、最強の戦力を誇っていたチーム、『デイブレイク』は、突然議会から追放を言い渡される。  しかし帝国は気づいていなかった。彼らの力が帝国を拡大し、恐るべき戦力を誇示していたことに。  自由になった『デイブレイク』のメンバー、エルフのクリス、バランス型のアキラ、強大な魔力を宿すジャック、杖さばきの達人ランラン、絶世の美女シエナは、今まで抑えていた実力を完全開放し、ゼロからユハ帝国を超える国を建国していく。   ※この世界では、杖と魔法を使って戦闘を行います。しかし、あの稲妻型の傷を持つメガネの少年のように戦うわけではありません。どうやって戦うのかは、本文を読んでのお楽しみです。杖で戦う戦士のことを、本文では杖士(ブレイカー)と描写しています。 ※舞台の雰囲気は中世ヨーロッパ〜近世ヨーロッパに近いです。 〜『デイブレイク』のメンバー紹介〜 ・クリス(男・エルフ・570歳)   チームのリーダー。もともとはエルフの貴族の家系だったため、上品で高潔。白く透明感のある肌に、整った顔立ちである。エルフ特有のとがった耳も特徴的。メンバーからも信頼されているが…… ・アキラ(男・人間・29歳)  杖術、身体能力、頭脳、魔力など、あらゆる面のバランスが取れたチームの主力。独特なユーモアのセンスがあり、ムードメーカーでもある。唯一の弱点が…… ・ジャック(男・人間・34歳)  怪物級の魔力を持つ杖士。その魔力が強大すぎるがゆえに、普段はその魔力を抑え込んでいるため、感情をあまり出さない。チームで唯一の黒人で、ドレッドヘアが特徴的。戦闘で右腕を失って以来義手を装着しているが…… ・ランラン(女・人間・25歳)  優れた杖の腕前を持ち、チームを支える杖士。陽気でチャレンジャーな一面もあり、可愛さも武器である。性格の共通点から、アキラと親しく、親友である。しかし実は…… ・シエナ(女・人間・28歳)  絶世の美女。とはいっても杖士としての実力も高く、アキラと同じくバランス型である。誰もが羨む美貌をもっているが、本人はあまり自信がないらしく、相手の反応を確認しながら静かに話す。あるメンバーのことが……

~クラス召喚~ 経験豊富な俺は1人で歩みます

無味無臭
ファンタジー
久しぶりに異世界転生を体験した。だけど周りはビギナーばかり。これでは俺が巻き込まれて死んでしまう。自称プロフェッショナルな俺はそれがイヤで他の奴と離れて生活を送る事にした。天使には魔王を討伐しろ言われたけど、それは面倒なので止めておきます。私はゆっくりのんびり異世界生活を送りたいのです。たまには自分の好きな人生をお願いします。

異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~

夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。 しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。 とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。 エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。 スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。 *小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み

クラスごと異世界に召喚されたんだけど別ルートで転移した俺は気の合う女子たちととある目的のために冒険者生活 勇者が困っていようが助けてやらない

枕崎 削節
ファンタジー
安西タクミ18歳、事情があって他の生徒よりも2年遅れで某高校の1学年に学期の途中で編入することになった。ところが編入初日に一歩教室に足を踏み入れた途端に部屋全体が白い光に包まれる。 「おい、このクソ神! 日本に戻ってきて2週間しか経ってないのにまた召喚かよ! いくらんでも人使いが荒すぎるぞ!」 とまあ文句を言ってみたものの、彼は否応なく異世界に飛ばされる。だがその途中でタクミだけが見慣れた神様のいる場所に途中下車して今回の召喚の目的を知る。実は過去2回の異世界召喚はあくまでもタクミを鍛えるための修行の一環であって、実は3度目の今回こそが本来彼が果たすべき使命だった。 単なる召喚と思いきや、その裏には宇宙規模の侵略が潜んでおり、タクミは地球の未来を守るために3度目の異世界行きを余儀なくされる。 自己紹介もしないうちに召喚された彼と行動を共にしてくれるクラスメートはいるのだろうか? そして本当に地球の運命なんて大そうなモノが彼の肩に懸かっているという重圧を撥ね退けて使命を果たせるのか? 剣と魔法が何よりも物を言う世界で地球と銀河の運命を賭けた一大叙事詩がここからスタートする。

アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~

うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」  これしかないと思った!   自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。  奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。  得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。  直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。  このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。  そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。  アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。  助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

異世界に召喚されたが勇者ではなかったために放り出された夫婦は拾った赤ちゃんを守り育てる。そして3人の孤児を弟子にする。

お小遣い月3万
ファンタジー
 異世界に召喚された夫婦。だけど2人は勇者の資質を持っていなかった。ステータス画面を出現させることはできなかったのだ。ステータス画面が出現できない2人はレベルが上がらなかった。  夫の淳は初級魔法は使えるけど、それ以上の魔法は使えなかった。  妻の美子は魔法すら使えなかった。だけど、のちにユニークスキルを持っていることがわかる。彼女が作った料理を食べるとHPが回復するというユニークスキルである。  勇者になれなかった夫婦は城から放り出され、見知らぬ土地である異世界で暮らし始めた。  ある日、妻は川に洗濯に、夫はゴブリンの討伐に森に出かけた。  夫は竹のような植物が光っているのを見つける。光の正体を確認するために植物を切ると、そこに現れたのは赤ちゃんだった。  夫婦は赤ちゃんを育てることになった。赤ちゃんは女の子だった。  その子を大切に育てる。  女の子が5歳の時に、彼女がステータス画面を発現させることができるのに気づいてしまう。  2人は王様に子どもが奪われないようにステータス画面が発現することを隠した。  だけど子どもはどんどんと強くなって行く。    大切な我が子が魔王討伐に向かうまでの物語。世界で一番大切なモノを守るために夫婦は奮闘する。世界で一番愛しているモノの幸せのために夫婦は奮闘する。

異世界転生したので森の中で静かに暮らしたい

ボナペティ鈴木
ファンタジー
異世界に転生することになったが勇者や賢者、チート能力なんて必要ない。 強靭な肉体さえあれば生きていくことができるはず。 ただただ森の中で静かに暮らしていきたい。

処理中です...