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第28話 一切の悔いなし

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 生徒会長はまったくもって理解できない。
 俺たちはふわふわしてお花が飛んでいるような会長しか見たことがなかったので、一切の緩みがない彼の新しい表情には慣れなかった。

 これで評価が公平になったのかはわからないが、なんとなく感じていた頼りなさと審査員に対する絶望感も薄くなったと思う。

「それでは、最初にジャック&リリーの組による演技の得点を発表いたします。それぞれの項目ごとに、イーグルアイ先生、私、最後にタイフーン先生のつけた点数となりますのでご理解を」

 サンダー会長が言った。
 その芯のある声には学園をまとめる生徒会長の風格がある。

 一人称もすっかり「おいら」から「私」になっていた。

「難しさ、7点、8点、7点で、合計22点」

 生徒たち、先生たちからどよめきが起こった。
 この点数が高いのか低いのかは、誰もよくわかってないだろう。

 なんとなく、だ。

 俺たちの叩き出した点数が基準になってくる。

 ブレイズは今にも炎を投げてきそうな視線を俺に向けていた。応援してくれているのか、最後の炎が気に食わなかったのか、代表に選ばれなかったらシバくという意味なのか。

「続いて、正確さ、9点、9点、6点で、合計24点」

 イーグルアイ先生と生徒会長からの評価は高い。
 だが、タイフーン先生……もしかして静止技のところでの減点か、これは!?

 なぜか、演技はもう終わったというのにリリーが手をつないできた。

 さらにわからない。
 今からまた踊ろうとでも言いたいのか?

「最後に、目新しさ、10点、10点、10点の30点満点で、最高評価を獲得しました」

 巻き起こる拍手と歓声。
 だが、俺の気持ちはいまいち盛り上がらなかった。

 なにせ、さっきの減点評価。
 さらにはリリーの謎の手つなぎ。

 そして……こう思っている自分もよくわからないが、サンダー会長、頼むから最初のあの軽くてふわふわした会長に戻ってくれ。このお堅い会長の言葉は、場の空気を盛り上げるどころか冷ましている。

「リードくん、そこまで気を張る必要はないよ。ここでは、存分にいつもの風を吹かせてくれ」

 タイフーン先生……。

 しかたない。
 あの自分勝手な減点は大目に見よう。

「え、いいんですかー! やったー! はいはい、じゃー行きますよー! ジャック&リリーペアは、なんと最終得点76ポイントで現在トップ! それもそのはずー。だってー、まだ最初の組だからねー!」

 ……。
 やっぱりさっきの気持ちは取り消そうか。

 イーグルアイ先生は呆れたようにサンダー会長を見ていた。

「でねでね、次はフロスト&ヴィーナスペアの得点発表! いぇい! 難しさ7、9、8で24点、正確さ8、7、9で24点、目新しさはー、なんとー、8点、8点、8点の、7が3つそろってー、24点! よってー、最終得点は72ポイントで、暫定2位! 惜しーい」

 どうなるかとも思ったが、暫定1位は守った。
 リリーがさらに強く手を握る。俺も強い気持ちで握り返した。

 他のペアのアクロバットダンスを見る余裕はなかったから、審査に何も言えない。
 だからこそ、ここは祈るしかない。

「ゲイル&ハローペアにいくよ! 難しさは9、9、9で27点の高得点! 正確さ8、8、7で23点! 最後の目新しさは──」

 ゲイルと俺の親友対決。

 アクロバットが得意なゲイルはこのオーディションに本気だった。
 なかなかゲイルが本気を出すのは見ることがない。夜遅くまで練習したと思っても、ゲイルはまだ練習をしていて、部屋に帰ってきていなかった。

 ゲイルは本気で頑張っているのを隠す。
 いつものようにユーモアの混じったジョークを言って、気楽に生きていることを演出している。

 だが、俺は彼が努力家なのを知っていた。
 そして、その努力は人には見せない、というこだわりも。

 最後の項目、目新しさで26点を獲得すれば俺たちに並ぶ。
 勝つには27点が必要だ。減点は3点しか許されない。

 もちろん代表を勝ち取りたい。

 だが……ゲイルたちの努力は、俺たちの努力を超していたんじゃないか?

「イーグルアイ先生の評価はー、なんと9点!」

 おっ、いい調子だ。
 
「そしておいらは8点!」

 27点までは、タイフーン先生が10点を出す必要がある。
 サンダー会長はエンターテインメントをわかっていた。なかなか最後の得点の発表をしようとしない。

 さあ来い、10点満点!

 気づけば俺はゲイルとハローちゃんのペアを応援していた。
 
「そしてー、このときが来た! ほんとーにおいらの口から言ってもいいんですかー? 言っちゃいますよー。タイフーン先生の評価はなななんと、10点満点! 優勝、そしてクラス代表はゲイル&ハローペアに決定!」

 やったー!

 大歓声の中に、俺の歓声も入っていた。

 悔いはない。

 俺はただ、親友の栄光を笑顔で見ることができて嬉しかった。
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