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第33話 決勝戦の決勝戦をする

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 ラメセスに命の危機が迫っている中、俺はかっこよく手すりを飛び越え、5メートルくらい下の戦場フィールドに着地した。

 これには観客も大盛り上がり。

 勿論困惑している人達もいるけど、予想外の乱入者に、面白くなってきたぜっ、と興奮を表す。

 誰よりも声を上げているのは、シャロットとイザベラ、そして言い出しっぺのコンスタス。

『レッドくん! 私と結婚するために……そんな大胆なことまで!』

『レッドさん! 今夜は寝かせませんわ!』

『レッド! 危険だからやっぱり戻ってこーい!』

 ツッコミたいところは多々あるけど、今は仲間ラメセスを救うことが優先だ。

 とはいえ、完全に殺戮モードに入ってしまった狂気のセブルス・ゴードンを、準決勝で彼に敗退した俺が阻止することはできるのか。

 普通に考えれば、無理だ。
 とはいえ、コンスタスの言った通り、彼の魔力の限界は近いはず。

 準決勝の時に比べれば、魔術の威力も落ちているということになる。

 もう既に『暗黒世界』を2回使用。
 せめてあと1、2回使えるか使えないか。

 そう仮定する。

「待て!」

 地面に巡らされたマグマが、俺の動きを制限する。

 自由に歩けない。
 少しも当たらないよう、慎重にかわしていく。

『また貴様か』

 俺の声に気づき、振り返るセブルス。

 よし!

 とりあえず彼の注意を俺に向けることはできた。でも、問題は……彼の殺意も俺に向いてしまった、ということ。

 セブルスの俺を見つめる目は、諦めの悪い弱者を始末しようとする、悪役の中の悪役の目だ。

 容赦なく殺されるだろう。

 さようなら、人生。

 さようなら、異世界。

闘技大会トーナメントは本当の殺し合いじゃないんだぞ! いい加減やめろ!」

「弱者がほざくな。所詮誰も止めることなどできない」

「それはどうかな!」

 とは言ったけど、特に勝てる自信はないです。

 俺は剣を抜き、セブルスと向かい合った。
 彼も完全に俺に狙いを定めたのか、殺す気満々といった感じで、闇に溺れた瞳を見せてくる。

 緊張感が漂う場内。

 さっきまで盛り上がっていた観客も静まり返った。空気が読める観客らしい。

「来い」

 セブルスが頷く。

 俺を粉々に叩き潰すビジョンができた、ということだろう。
 もし俺が観客席でこの状況を目の当たりにしていたら、俺に対して激しく同情してしまうはずだ。だって、勝ち目なんてほぼないもん。

 マグマが消えた。

 魔力の消費も関係しているのかもしれない。
 ずっと高質力の魔術を維持するのは、彼にとってもかなりの魔力消費に繋がったはずだ。

 いっそのことどんどん魔力を使ってください。

 紅い地獄がなくなり、前までの戦場フィールドに戻る。
 これには安心した。
 あの地獄マグマの中で戦うのは、身体的にも精神的にも疲れ切ってしまう。

 ここからは準決勝の復讐リベンジができる、ということだ。

 セブルスに実力で劣っていたとしても、現段階での体力及び魔力量では、俺の方が有利。
 もうこの時点で全身を酷使している彼にとっては、苦しい戦いになるだろう。

 そう予測していた。

 観客が見守る中、純粋に握った剣でセブルスに挑む。

 彼は魔力の都合なのか、骸骨兵を呼び出すことはしなかった。
 目を細めながら、強化された脚力で俺から距離を取ろうとする。

 でも、その点で言えば、俺のほうが熟練されていた。

 相手セブルスを上回る速度で近づき、斬撃を放つ。剣聖ラメセスと比べれば見劣りするかもしれないけど、威力は十分あるはずだ。

 セブルスは舌打ちをして、杖を握る手に力を込めた。

「使わせる気か」

 流石にこの状況で『暗黒世界』を使ってくることはない。

 俺も一度経験しているので、この万全の体勢であれば、なんとか回避する余裕があった。

 セブルスが使ったのは錯乱魔術。
 闇の霧を放ち、方向感覚を失わせる。

 俺としては、どうにかして接近戦に持ち込みたい。セブルスも接近戦になれば圧倒的に自分が不利だとわかっている。

 だからこうして、錯乱魔術で接近を阻止したわけだ。

 でも、そうしていると魔力も少しずつ消費されていく。

 上手く時間を稼ぐことが、この状況では確実な手。

 どう位置から攻撃が飛んできたとしても、正確に対応する。目をつぶり、自分の磨かれた聴覚、嗅覚、そして第六感なるものに意識を集中させた。

「ここだっ!」

『おおぉぉぉおお!』

 歓声が巻き起こる。

 俺はセブルスの攻撃に対してピンポイントに反応してみせた。
 剣で魔術を吸収し、攻撃を受けないように回避する。

 攻撃の失敗に動揺したのか、例のウザい霧が消え、セブルスの姿をはっきりと捉えられるようになった。

『レッド!』

 後ろでラメセスの声がした。

 意識を取り戻したみたいだ。
 このまま加勢してくれるとありがたい。とはいえ、彼のズタボロの状態を見れば、それが無理であるとわかる。

 観客から手拍子とレッドコールが聞こえてきた。

 ほぼ全員、俺を応援してくれているらしい。きっと俺がイケメンだからだろう。罪な男だぜ。

「アーサー……嘘をつきやがって……」

 小さな声でセブルスが呟く。
 俺はその声を聞き逃さなかった。

「嘘ってなんのことだ!?」

「この場で確実にそこの剣聖エルフを殺せると言われた。それで、この茶番はなんだ?」

「アーサーが、ラメセスを殺せ、と?」

「貴様がそれを台無しにした。貴様だけは殺す。行儀よく死ね」

「殺されたら困るんだけど」

「いいから死ね」

「いや、勝手に死ぬことはないって」

「死ねっ!」

 セブルスの瞳が光る。
 俺のウザさのせいで、我慢の限界が来たらしい。

『レッド! 気をつけろ!』

 ラメセスの必死な叫び声がした。
 きっとあれ・・を警戒しているんだろう。

 まあ、俺はもうとっくに対策済みだけど。

 全ての感覚が奪われる。
 最初に敗北した時、俺はすっかり動揺して負けた。でも、『暗黒世界』はいわゆる初見殺しだ。

 五感が奪われるこの技。

 でも、俺の第六感までは奪われていない。さっきの霧の時と同様、自分に向けられる殺意に正確に反応すればいいだけのこと。

 何かに気づいた俺は、剣を素早く後ろに振った。

 ちょうど自分の背後。
 敵から狙われやすい背中。

「──ッ!」

 視界がはっきりする。

 聴覚も戻り、会場全体が静まり返っているのがわかった。

 立っているのは俺。

 そしてその目の前には。

 剣に腹を斬られ、血を流すセブルスの姿。
 そのまま力を失い、地面に倒れた。まだ大量の血が流れている。

 この瞬間、観客のボルテージが限界マックスに達した。

『うぉぉぉおおおおお!』

『すげぇぇええええええ!』

『レッド! レッド! レッド!……』

 そしてその声援の中には。

『レッドくん、結婚が決まりましたね!』

『レッドさん、シャロットこんなヤンデレはやめておきましょう!』

 よくわからないものも。

 そしていきなり。

『ナイスー! おめぇもやるじゃねぇか! で、最終的に拙者せっしゃが1番強いってことだよな?』

 キャラ崩壊男の声が。

 いろんな種類の歓声を聞いたけど、全員が称賛してくれているらしかった。
 中にはラメセスの活躍を奪いやがって、とかいうラメセスファンからの怒号も聞こえたけど、それは無視しよう。

 これを以て、波乱の闘技大会トーナメントは幕を閉じた。



 ***



 準決勝で敗退した男が、リベンジを果たした。

 簡単に言えばそういうことになるけど、公式としてはそう都合よくはいかせてくれない。

 結果的に誰が優勝者なのか、と聞かれると、その答えは延々にわからない。
 レッド・モルドロスを優勝者とするのもおかしいし、かといって対戦相手を殺そうとしたセブルス・ゴードンを優勝者にするわけにもいかない。

 一応、相手を殺してはいけない、という闘技大会のルールに背く行為だ。ルール違反は失格。スポーツと同じ。

 それじゃあ、ラメセスが優勝者になるのがましか。

 それもそれで、セブルスに負けているから微妙なのだ。

 で、結局どうなったのか。
 ギルド公式はどういう結論を導き出したのか。

『今回の闘技大会トーナメントは波乱の展開となりました。事態の収集をギルドがつけられませんでしたことをお詫び申し上げます。しかしながら、今回の優勝者につきましては、なし・・ということでまとまりましたので、ご報告させていただきます』

 大ブーイング。

 レッドでいいだろ、と言ってくれる人が半分で、残り半分はラメセスを支持。
 ごく少数は、やっぱり決勝の勝者はセブルスだ、と主張していた。

 波乱の展開を巻き起こした張本人である俺はというと──。

「優勝だけはやめてくれ」

 そう言っておいた。

 表向きには準決勝で負けたやつがいきなり優勝はおかしいとか、実力的にまだまだだとか言っておいたけど、本心としては優勝すればシャロットがうるさいからである。

 そんなこんなで、今回の闘技大会トーナメントは終わり。

 コンスタスもぴょんぴょん跳ねて喜んでいたことだし、いいじゃないか。

 自分の中では結構納得しながら、俺は負傷したラメセスが休んでいる救護室に向かった。





《次回34話 メインヒロインにガチ恋されるのもいいのかもしれない》
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