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第30話 この世界に幻滅する

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 俺は結構ポジティブなヒューマンだと思う。

 最初は困惑が勝っていた準決勝敗退も、時間がたてば簡単に受け入れられるようになってきた。実力の差を考えれば妥当だということもあるし、そもそも準決勝で敗退しよう、くらいの覚悟でやっていたのだから。

 シャロットからすればこの上なく残念なことに違いないけど。

「やっぱり強いな」

 倒れる俺を置いて遠ざかっていくセブルス。

 漆黒のローブをはためかせながらの退場。
 絶対意識してるだろ。

 悪役のセブルスは、中二病でした。

 ポジティブだとはいえ、悔しいものは悔しい。

 次戦う時にはもっと強くなって、リベンジを果たそうじゃないか。俺は強く握った拳と共に、そう決意した。



 ***



「てか、あいつやべえなー」

「なんでお前がいるんだよ……」

 ヘトヘトの状態で戦場フィールドを後にした俺。

 門をくぐり抜けて控室に戻ると、そこには壁にもたれ掛かっている文影フミカゲの姿があった。
 さっきの試合を楽しんで観戦してくれていたらしい。

拙者せっしゃも出たかったぜ。そしたら一発であいつの股間潰してた」

「攻撃のセコさはひとまず、文影フミカゲならセブルスに勝てたって言うのか?」

「何言ってんだ? 戦ってみねぇとわかるかよ、そんなの」

 俺の質問に、細い目をして答える。

 そんな責められる筋合いはないんだけど。

 しばらく沈黙した後、彼は俺に背を向けてこう告げた。

「決勝戦に進んだのはおめぇに勝ったセブルスと、拙者に負けたラメセス。もしラメセスがセブルスに勝ったのなら、拙者は間接的にセブルスちゃんよりもおめぇよりも強いってことになるんだぜ」



 ***



 観客席に上がると、疲れた表情の仲間達が俺を迎え入れてくれた。

「本当はレッドに勝って欲しかったんだが、駄目だったかぁ」

 コンスタスが小さな手を合わせてパチパチした後、儲かった金貨を眺めながら言う。

 これには失望だ。

「レッドくん、結婚しましょう」

「丁重にお断りします」

 決勝で勝ってないというのに、結婚を申し込んでくるシャロット。

 話が違う。

 ラメセスはもう観客席にはいなかった。
 既に控室にいるんだろう。一応状況を整理しておくと、ラメセスは難なく勝ち上がって決勝に進出、コンスタスは準決勝手前で主人公アーサーの仲間であるエロナ・スフィロンに敗れた。

 コンスタスの戦いに関しては、本当に悔しい。

 エロナは淫魔サキュバスの固有能力でもある魅了を使い、コンスタスの理性をぶち壊した。簡単に言うと、エロい誘惑で観客及びコンスタスを混乱させ、その隙に攻撃を仕掛けてノックアウトさせたのだ。

 可哀想なコンスタス。

 そういうことも実力のうちなのかもしれないけど、やっぱりちゃんとした戦闘バトルで白黒付けたかった、という気持ちもあるのかもしれない。
 それからしばらく、コンスタスは何も喋ってくれないほどにガックリしていた。

 ちなみに、彼の機嫌を取り戻したのは、俺が負けたことによって得られた金貨。

 ラメセスとだけでなく、イザベラ、シャロットとも賭けをしていたらしい。
 ふたりは俺が勝つ方にたっぷり賭けたそうだ。

 そればかりは、信じてくれた仲間を裏切ったようで申し訳ない気持ちになった。

「気にしないでください。その代わり、結婚はしてもらいますね」

「レッドさんを応援できたことが何よりですわ」

 今更だけど、俺、なんでこんな美女ふたりに好かれてるんだ?

 罪な男すぎるだろ。

 頭のおかしい清楚系と、心が澄んでいる清楚系。
 ふたりが俺の両腕をホールドしている。これが俗に言うハーレムというやつなのかもしれない。

 そこに──。

『イザベラ、そんなところにいたのか。勝手に抜けられると困る。捜したぞ』

 凛とした強い女性の声が。

 黒髪の短髪ショートに中性的な顔立ち。
 光を反射して変わる明るい瞳。今は太陽の光を映し出し、鮮やかな金色だ。

 シャロットやイザベラも申し分ないほどに魅力的な女性だ。

 でも、セルシの魅力は女性としてだけでなく、ひとりの人間として、放つオーラが猛々しく、それでいて尊い。

「セルシさん、すみません。実は、このレッドさんとお友達になりましたの」

「レッドさん……レッド・モルドロスか?」

「はい! とても面白くて魅力のある殿方ですわ」

 セルシの視線が俺に向けられる。

 誤解を解くため、慌てて絡められた双方の腕を振り払った。
 俺はセルシ一筋。
 女遊びが酷いなどという変な印象を持たれても困る。

 俺は一途な男なのだ!

「そうか。ワタシもレッド・モルドロスの戦いには高い実力を感じた。ワタシが4回戦で敗退していなければ、準決勝で戦うはずだったわけだが……」

 彼女セルシの視線が右にズレる。

「そこにいるのは……コンスタスか!? どうだ? 英雄にはなれたか?」

 爽やかな笑顔を見せ、コンスタスに問うセルシ。

 俺にもいっぱい質問してくれ!
 もっと俺を見ていてくれ!

「へへっ、まだまださ。実はつい最近レッドの冒険者パーティーに入ってさ、この仲間達メンバーとなら、魔王討伐も夢じゃないって思ってるんだ!」

 誇らしげに語るコンスタスが可愛い。

 セルシの注意がそれたことには嫉妬したけど、仕方ない。
 可愛いコンスタスのことなら何でも許そうじゃないか。罪な男だぜ、コンスタスも。

「それはワタシ達も負けていられないな」

「だろだろ?」

 久しぶりに再会を果たしたふたりの会話。

 邪魔はしたくない。
 したくないけどっ──俺はセルシと話したいっ!

「あの、よかったら一緒に決勝戦見ていきませんか?」

 緊張したー。

 ヤバい。

 これがドキドキなのか。
 心臓の鼓動がどんどん速くなっていく。

「レッドくん! 決勝戦は私とふたりきりで見るって約束しましたよね?」

「いつしたんだよその約束」

「1秒前です」

「ちょっと記憶にないな」

 俺はシャロットを殴りたくなる気持ちを堪えた。

「レッドさん、わたくしも賛成ですわ。せっかくの縁ですし、これからもわたくし達が仲を深めて、いつか恋人になるために、パーティー同士の絆を大切にしていきましょう」

 俺はイザベラの口を無理やり塞ごうとしたくなる気持ちを堪えた。

「そうか。なるほど……しかし、レッド・モルドロス、イザベラには気をつけた方がいい。彼女は気に入った男となれば誰でも──」

「セルシさん!?」

 セルシの警告を、必死に阻止しようとするイザベラ。

 ショックだ……。

 この世界は残酷だなぁ、と改めて思う。
 清楚で男気のない潔癖な美女エルフのはずだった。それは勝手な俺の期待が悪いわけだけど、なんか……残酷だ……。

「ほら、レッドくん、言ったじゃないですか。イザベラこの女はビッチなんですよ!」

「うわぁぁぁあああああ!」

 頼む!

 頼むからっ!

 セルシは──セルシだけは、俺の中の「理想のセルシ」でいてくれ!!





《次回31話 本命の厳しさに落ち込む》
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