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第27話 いいところで没収試合になる

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 ギルドの決闘場。
 そこが俺と文影フミカゲとの手合わせの場だった。

「そしたら、任せたよ、レッド」

 対戦相手フミカゲと向かい合う俺に対し、押しつけるように言葉を投げ捨てて退散するラメセス。

「待てぇぇぇええええ!」

 声が裏返るまで叫び、呼び止める。

「最後まで責任取って審判くらいしてくれ」

 そもそも、この面倒事を持ってきたのはラメセスだ。
 だとしたら、審判するなり、盛り上げ担当の観客を演じるなり、この決闘に貢献して欲しい。観客もいない寂しい決闘なんて、したくないんだ、こっちは。

 するとラメセスは、両手を合わせて「ごめん」のポーズを取った。

 そんな格好ポーズしたからって、許されると思うなよ!

「すまない、レッド。もうすぐ僕には初戦があるんだ」

 ガーン。

 そうだった。

 ラメセスはまだ初戦待ちの状態。
 順番から考えても、そろそろといったところだろう。

 悔しい。

 ままままさかっ、このタイミングを見計らって連れてきたんじゃないだろうな!? 罪な男だぜ、ラメセスというエルフは。



 ***



 ラメセスが決闘場を去り、新キャラとふたりきりになった。

 本来なら「真面目」で「頼りになる」キャラのはずなのに、まさかのキャラ崩壊男として登場した奴である。
 ガッカリだよ、これには。

 さっきは危うく受付嬢アリシアに殺されるところだったじゃないか。

「あの剣聖エルフ、流石の腕前だったぜ」

 渋めの声で文影が言う。
 この姿からは、先ほどの彼の醜態はわからない。

「あんな感じでもダスケンデールだと上位なんだとよ」

 皮肉っぽく呟く。

 そう、あんな感じでも、ラメセスは実力者なのだ。
 作中トップクラス。
 まあ、今後もっと強くなることを含め、作中トップクラスなんだけど。

 そして俺は、そんな剣聖と渡り合った。

 多分。

 地下迷宮ダンジョンで戦った時、彼が手加減していなかったのであれば、俺も現時点でそこそこの強さを誇っていると言っていい。

 でも、まだ懸念があった。

 自分の戦いに個性がない。そして、切り札がない。

 確実にラメセスの方が剣術は上だし、経験も豊富。
 純粋な身体能力も、長年の修練によって鍛えられたエルフにヒューマンが敵うはずもない。

 魔法に関してはどうか。

 俺は炎系の魔術を少しだけ使えるように学院で学んだけど、必殺技と断言できるほどの威力もなければ、魔力もしょぼい。

 ダスケンデール学院でも主に戦闘における基礎的なことを習得した。

 何度も繰り返し、今では模範的な剣術は披露できる。
 実際俺の剣技は美しく、無駄がないとまで称賛されていた。

 でも、まだ発展した技はなく、あるのは平たい土台だけ。

 ラメセスやイザベラといった経験者と戦って、学院時代では味わえない感触を味わうことができた。実力不足というより、経験不足。戦闘フォームを確立することの重要性。

 まだまだ伸びしろがある。

「オッケー、早速やるぞ」

 オッケー、って何だよ。

「ぶっ飛ばしてやる」

 文影は速かった。

 まず初動。

 俺が準備しきる前に、いきなり飛び出す。
 剣の構えもまだろくにできていないというのに。

 戦場となっているギルドの決闘場は狭い。
 ついさっきまで闘技場で戦っていたのなら尚更だ。

 小学校の教室ぐらいの広さ。

 思い切り剣を振ることはできる。でも、距離を取るのは難しい。
 後ろに下がったとしても、絶対に相手の射程に入ってしまう。

 弓矢で戦うコンスタスやイザベラのような人達は、絶対にここを使えないだろう。

「流石の反応でござる」

 文影も感心する俺の回避。

 いつものように後ろに下がらず、体を斜めにそらすことで斬撃をかわした。

 その瞬間に、剣を構え直す。

「ラメセスとはどれくらいで決着ついたんだ?」

 お互いに向かい合い、攻撃の隙を見計らう。

 その間、俺は呼吸を整えるのと同時に、質問をして時間を稼いだ。

「だいたい1分とかだったか。拙者は長期戦が嫌いだからな」

 バチーンっていうのがよくわからないけど、とにかく速攻だな。

 そのことに関しては、俺もわかっていた。
 文影フミカゲの個性、というか戦闘スタイルは速攻型。

 初動で自分のペースを掴み、逆に相手のペースを乱す。
 その動揺を見て、すかさず次の攻撃へ。それを繰り返し、攻撃を畳み掛ける。

 忍者のように軽々とした身のこなしで、どんな体勢からでも速い攻撃ができる。

 速さでいえば、ラメセスを優に上回ってしまうのだ。

 じゃあ逆に弱点は何か。

 ズバリ。

 体力。

 早く決着をつけることを意識して戦闘しているので、その一撃一撃に全力を込める。だからこそ、少し時間がたてば体力がなくなっていき、相手に持っていかれる。

 この勝負における俺の勝ち筋は、耐久戦に持ち込むこと──それしかない。

 今度は俺の左腹が狙われる。

 と思ったら、体を反転させて足に狙いを変えてきた。

 なんとか見切った俺は、すかさず飛び上がって対処する。

 そのまま相手の上を越え、背後に着地。
 無防備な背中、いただきます。

 なんて甘い結果にはならない。

 体重を前に乗せて空中に飛び上がり、側方宙返りバタフライを決める忍者。

 その反動で俺の方に向きを変え、大きく足を踏み込んでくる。

 すぐ目の前には刀。

 ふと、先端恐怖症じゃなくてよかったと思った。

「──ッ」

 剣で受け止める。
 間一髪の動作に声が漏れた。

 ていうか、このまま耐久戦に持ち込むなんて無理じゃね? ラメセスですら倒されたんだ。そもそも体力にさほど自信があるわけでもない俺が、このまま耐え凌ぐことができるのか?

 でも、同時に思う。

 俺は文影の戦い方を知っていた。
 速攻型だと戦う前からわかっていた。

 対してラメセスは全てが初見。忍者の速攻型は、初見殺しとも言われるほどに、初見にとっては都合が悪い。

 いきなりすぎて対策できないからだ。

 文影は俺がさっきの攻撃に対応できたのが意外だったのか、驚くような、どこか嬉しいような、そんな不思議な表情を見せた。

「アメージングヒューマンだな、おめぇ」

 また意味不明なことを呟いているということは、彼には余裕があるんだろう。

 耐久戦に持ち込むことがさらに難しく思えてきた。

 汗が頬を伝う感触。
 闘技大会トーナメントと変わらない、あの緊張感。

 勝つか負けるか。

 決して勝てない相手じゃない。
 スッペク的にも、経験値的にも、相当不利だけど、上手く立ち回れば勝つことは可能だ。

 剣を握る手に力を込め、全身にアドレナリンを投下する。

 ここからだ。

 ここからが勝負だ。

 相手フミカゲの切れ長の目が、俺の黄金色の目を捉えた。

 また攻撃が来るのか──。

「レッドぉぉぉぉぉおおお!」

 全てを台無しにしたのはあの男だった。

 俺をこの決闘場に連れてきた男。
 元凶ともいえるエルフ。

「もうすぐ君の出番だ! 2回戦が始まるよ! こんなところで決闘なんてしてないで、早く闘技大会トーナメントに行ったらどうだい!?」

 文影ですらポカンとした。

 自分勝手なエルフの言動に。

 本気で言っている様子ではなかった。
 からかっているのか?
 
 だから余計に頭にきた。

「こ、の、クソエルフがぁぁぁぁあああああ!!」

 怒りに任せて剣を振るも、流石は剣聖──いとも簡単に剣で防ぐ。いつの間に剣を抜いたんだ!?

 そのせいで余計に腹が立ちました。
 とりあえず、今はどうにかしてラメセスをボコボコにしてやりたい。





《次回28話 準決勝への進出を目指す》
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