【完結】悪役に転生したのにメインヒロインにガチ恋されている件

エース皇命

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第25話 異国からの挑戦者が現れる

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 広大な戦場フィールドで繰り広げられているのは、俺が今、最優先で観戦すべき熱い戦いバトル
 
 俺がずっと想い続けてきたセルシと、俺をずっと想い続けてきたシャロットのまさに因縁とも言える戦いだ。
 ていうか、この戦いは「俺」がふたりの間に存在しているということではなかろうか。

 セルシに関してはまだ・・俺のことを知らないにしても、彼女達は誰よりも俺と関係が深いキャラクター。

 罪な男だぜ、俺は。

『レッド……すまない、少しいいかい?』

 やっと目下の戦いに集中できたと思ったら、これだ。

 もしや、これは俺に課せられた運命なのでは!?
 物語の台本シナリオは、俺を主人公にしてしまったがために、メインヒロインとくっつけようとしている!? だからセルシが邪魔で仕方ない!?

 これが俺の妄想の中だけに留まってくれることを祈ろう。

「どうしたラメセス?」

 俺に後ろから声を掛けてきたのはエルフの剣聖だった。

 エルフの中では偉大な彼の再登場に、隣のエルフイザベラがビクッとする。

「少し面倒なことになってね」

「それで?」

「その……顔を貸して欲しいんだ」

「嫌だ」

 即答した。
 これ以上邪魔されてたまるか!

 もう誰が何と言っても、俺はこの席から動かない! 最優先事項は目下の白熱バトルにある。コンスタスが頭を撫でさせてくれるとしても、俺は絶対に動かない!

 今のうちに言っておこう。
 俺はやると決めたらやる男。決意したら頑固なまでに諦めない男なのだ!

 ラメセスにいつもの爽やかな余裕はなかった。

 本気で助けを求めているかのような表情だ。
 冷や汗のようなものが顔を流れているし、緑の瞳にも落ち着きがない。

「レッド、結構ヤバい雰囲気なんだが、いいの?」

 コンスタスもその様子は感じ取っているらしい。

 あの剣聖ラメセスを動揺させるようなことが起こっていたとしよう。
 とすれば、まだ学院を卒業したばかりの青二才な俺にはどうすることもできない。

 ラメセスにできないのなら、俺にできるはずもない。
 
 一件落着。

 よし、セルシを眺めよう。

「むー、レッド、頼むから聞いてやれって」

 コンスタスに懇願された。

 どうして昨日会った奴にそこまで優しくなれるのかわからない。
 きっとそれが、コンスタスの魅力なんだろう。言葉遣い以外・・・・・・は、最高に可愛い我らの小人君だ。

「コンスタス、きっと俺より君が頼りになると思う。だから、任せたぞ」

 俺はそんな親切コンスタスに丸投げした。

 イザベラは困ったように俺を見ている。
 軽蔑されたかな?

「実はさっき闘技場の外でレッドを捜してるという人に会ってね……」

 ラメセスの一言。

 この瞬間、俺は確信した。
 俺のために作られた新しいシナリオとやらは、俺を無理やりにでもこの戦いから遠ざけようとしている。

 罪な男だぜ、俺は。

「俺を捜してるって?」

 仕方ない。
 素直に従ってやることにするか。

 ラメセスが動揺している理由も気になるし。

「異国から来たヒューマンの男だったよ。初めて見る服装をしていた。彼は僕のことを剣聖だと知っていたらしくてね、決闘を挑んできたんだ」

「異国から来たヒューマン……」

 またこのパターンだ。
 
 俺にはわかる。今後の展開が。
 
「剣聖でもある貴方様が、その決闘をお受けしたのですか?」

 イザベラが眉をひそめた。
 
 剣聖はその名の通り神聖な存在だ。
 それに加えてラメセスは高潔なエルフ。

 そんな彼に対して、出会っていきなり決闘を申し込むのはかなり失礼な行いだ。なかなか勇気のある「異国からのヒューマン」だこと。

「喜んで受けたよ。それはもう最高だった」

 ここに来て、ラメセスは意気揚々と語り出した。

 なんというか、ちょっとズレてるんだよな、この人。
 強敵が現れると嬉しくて嬉しくて仕方がないっていうタイプの。

「この状態の僕を見ればわかると思うけど、負けたんだ!」

 そんな興奮して言わないでくれ。
 
「彼の武器は剣に似ていてね、でも少し刃の部分が違うんだ。気になって聞いてみたら、『カタナ』っていう武器らしいんだ」

「へーそうすか」

 刀は確かに、この地域では珍しい。
 ダスケンデールで刀を作れる鍛冶師なんていないだろう。とはいえ、自分が負けた話をそんな楽しそうにできる男なんて、そうそういない。

 逆に尊敬するくらいだ。

 大抵の男は自尊心プライドがあるせいで、自分が負けたなんて言えない。

 でも、ラメセスは負けることが人生の醍醐味だと思っているような感じだ。
 傲慢になるのはよくないし、むしろいいことなのかもしれないな。

 そのうち、負け剣聖、なんて言われるようになるとしても。

「肝を冷やしたよ。この2日のうちに2回も負けたわけだからね。人生最高の瞬間だ」

「どういう感覚してるんだ?」

「それで……その男はどうしてか君のことを知っているらしい。風の噂とかなのかな? とにかく、今から外に出て、彼と戦って欲しいんだ」

「はぁ」

 溜め息を漏らす。

「それ、後からでもいい?」

「彼としてはずっと待っているつもりなんだろうけど、ちょうど今、闘技場の真ん前で正座しながら君を待っていてね……いろんな人に迷惑が掛かりそうだから、ここはすぐ向かって欲しいんだ」

 両手を合わせ、目を細めながら頼むラメセス。

 頬にはついさっきできたものと思われる切り傷があった。
 新鮮な血が付着している。

『うわぉぉぉぉおおおおお!』

 いきなり大歓声が上がった。

 瞬発的に戦場フィールドに視線を送る。
 そこには結末があった。俺としては過程を楽しみたかったのに、あるのは結末のみ。

 そして──。

「流石はセルシさんですわ」

 イザベラの言葉の通り、勝利したのはセルシだった。

 相当な剣と剣のせめぎ合いだったんだろう。
 シャロットにもセルシにも、無数の切り傷があり、お互い満身創痍なのがわかった。ほぼ互角の戦いで、勝利の女神はセルシの方に微笑んだ、というわけだ。

 シャロットは遠目で見てもわかりやすくしょんぼりしている。

 後で慰めてやろう。
 なんだかんだ言って、彼女は俺の1番の親友だ。

「見逃してしまった……」

「もう終わったようだし、外に来てもらえないかな?」

 ラメセス……。

 少しは俺の気持ちも察して欲しかった。

 とはいえ微笑む彼を恨むことはできない。俺は外で待っているあいつ・・・を、全力でボコボコにしてやろうと決めた。



 ***



 外で待っている男。

 異国から来たヒューマン。

 その正体を俺は確信していた。
 物語ではまたまたアーサーの勇者パーティの仲間メンバーになる、忍者の文影フミカゲ

 明らかに日本人をイメージした、人気キャラクターのひとりである。





《次回26話 受付嬢の殺意に肝を冷やす》
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