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第21話 仲間の元同僚に圧倒される

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 イザベラが後ろに飛躍し、俺から距離を取った。
 
 流石はエルフという軽い身のこなし。
 弓の構えはぶれていないし、矢先も俺をしっかり捉えている。

 俺は横にずれて射程から逃げることにした。狙いが定まらないように不規則に動きながら、相手との距離を詰めていく。

「流石です」

 イザベラはそう言うものの、表情には余裕がある。

 そもそも喋りながら戦えている時点で、相当な実力者であることがわかった。
 コンスタスの元同僚だということは、彼女は勇者パーティの者だろう。

 勇者パーティに関しては、前に言及した通り、安定していて平和だ。

 もし魔王なんかが出たらそれこそ命懸けにはなるかもしれないけど、他の魔族に関しては確実に倒せるように組織されて討伐隊が組まれる。
 給料も定期的に安定した額が払われるので、貧しくなることはまずないのだ。

 それに対して冒険者は過酷だ。

 地下迷宮ダンジョンの攻略を主な仕事とし、その成果で報酬が決まる。

 モンスター達を倒して手に入れた魔石を換金したり、運がいいと見つけられる財宝を手にしたり……そうして生きていくための資金を手に入れる。

 下の階層に行けば行くほど得られる対価は大きくなるけど、それだけ難しくなっていくので、リスクを伴うわけだ。
 
 まさに実力主義の現場。

 冒険と刺激を求める者にとっては最高の職業と言える。
 そのせいか、今では冒険者の方が勇者達よりも実力があると思われるのが一般的だそうだ。

 確かコンスタスは、勇者パーティはやる気がなかった、とか言っていたっけ。

 こうして闘技場での闘技大会トーナメントに出場するくらいだから、それなりにやる気はありそうだけど……賞金目当てなのかもしれないな。

 イザベラの矢が放たれる。

 すかさず避けるも、俺の頬をかすめて浅い切り傷を作った。

 学院時代に何度も痛い目には遭っている。
 今更ヒーヒー言うつもりもない。

 続けざまに放たれる矢を、卒業記念にもらった剣で払い除けていく。

「冒険者は厄介ですのね」

「それはどうも!」

 イザベラは軽やかに俺の頭上を飛び越えた。
 前に回転しながら、空中で華麗に弓を引く。

 凄い技だ。

 俺の反応があと少し遅れていれば、グサッと頭のてっぺんに突き刺さっていた。
 地面を転がって攻撃をかわす。

「魔法は使わないのでしょうか? 貴方様あなたさまの魔術、大変興味がございますわ」

「そうでございますか。じゃあお言葉に甘えて!」

 魔術師という職を選ばない限り、人間はひとつの属性しか魔術が使えない。
 それは生まれながらに決まっている、とかいうベタな設定ではなく、学院などの教育施設で、自分で適性を決めるところから始まる。

 俺は炎属性が好きだった。
 だって、名前はレッドだし、赤髪レッドヘアだし。

 それでいて炎系の魔術が使えなかったら、なんかキャラ違くね、ってなりそうだし。知らんけど。

 属性は6つあって、炎、水、風、土、光、そして闇。

 回復魔法ヒールに関しては特別で、その属性プラス、先天的な特性で使えるものだった。

「素敵な爆撃魔法、感動致しましたわ」

 イザベラが微笑む。
 俺と同じ金色の瞳の奥には、勝利の輝きがあった。

『やめろぉぉぉぉおおおお!』

 コンスタスの叫び声が闘技場に響いた。
 本当に叫んでいたとは。

 その言葉虚しく、気づいたら俺は炎に包まれ戦場フィールドの端に吹き飛ばされていた。壁に激突し、その衝撃で勢いよく吐血する。赤い血が、口から噴水のように散った。

「──ブハッ!」

 何が起こった!?

 俺の放った炎が服に燃え移り、俺の体を焼く。
 慌てて手で消火した。

「大迫力だったなぁ」

 呑気に呟く。

 それにしても、久しぶりの刺激だった。

 痛い痛い。
 火傷したところはすぐに治るだろうけど、背中の骨折を完治させるのには数日くらいかかるだろう。

 壁により掛かりながら倒れる俺のもとに、金髪金眼の神々しいエルフの美女が近づいてきた。

 勝ち誇った笑みを浮かべながら、ゆっくりと歩いている。
 モデルがランウェイを歩く時みたいに綺麗だった。無料でランウェイショーが見れたわけだし、今日はもう大満足ってところだな。

「さっきのは君の魔法?」

「はい、わたくし自慢の風魔法でございますわ」

 ──風魔法。

 俺の操る炎系の魔術とは相性が悪い。
 というか、風の方が有利だ。それなりの風力を持っていれば、炎をかき消すことができる。

 魔術を使うには魔力と集中力が必要だ。
 だから武器を使って戦うような戦士は好んで魔術を使わない。たとえ使えるとしても、本当にピンチの時に、武器での攻撃を捨てて使う。

 魔力を消費するということは、生命力を削っていることに等しい。

 一度魔術を使うだけで、相当な体力までをも奪ってしまう。

 意外と使い勝手がいいように誤解されがちな魔術も、この世界ではギリギリなのだ。
 
 俺は甘かった。
 やすやすと挑発に乗って魔術を放ったわけだけど、そのせいで相手イザベラのいいように戦況を傾けたわけだ。

 罪な男だぜ、俺は。

「でも、俺はまだ負けちゃいない」

「ええ、わたくしも、その程度でやられるようなお方ではないと存じ上げておりますので」

 剣を杖代わりにして、俺は立ち上がった。
 血はところどころ流れている。でも、死んでないなら、まだ全然戦える。

 言ったはずだ。

 俺は鋼のメンタル保有者であると!

「さっきの風魔法、結構な魔力を消費したんじゃないの?」

 俺がそう聞くと、イザベラがフフッと笑った。
 肩は震えていて、足もガクガクだ。

 図星だった。

「どうしてそこまでして、風魔術を使った? 俺がこれで倒れないことがわかっているなら、自爆覚悟の攻撃はしない方がよかったんじゃないのか?」

「仰る通りです、レッド・モルドロスさん。ですが、わたくしは見て欲しかったのです。あれから本気で強くなるために、必死になっているということを」

 そう言って、観客席の方を見上げるイザベラ。

 その視線の先には、小人族コビットの青年がいた。
 コンスタスは身を乗り出し、目を大きく見開いてこっちを見ている。

「やられた」

 俺は呟いた。

 このままイザベラが倒れれば、俺の勝ちは決定する。
 でも、心の勝負では、彼女に負けた気がしていた。

 このセリフ、いつか言ってみたいと思っていたから、ここで言わせてくれたイザベラに感謝だ。

 イザベラが俺に手を差し出してきた。
 繊細な白い手だ。

 俺もしっかりとその手を握り返す。

「コンスタスをよろしくお願い致します……」

「勿論」

「それと……わたくしのパーティの首領リーダーは……わたくしよりも遥かに強くなっていますので……」

 それだけ言って、イザベラは力なく地面に倒れた。

 その瞬間、俺の勝利と、2回戦進出が決定した。
 観客はタフな俺だけでなく、全力で戦ったイザベラにも、最大の敬意を示した。





《次回22話 シャロットの壮絶なエルフ事情を知る》
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