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第20話 妖精の美女と会話する

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 東側の待合室には、勝利して絶好調のコンスタスが帰ってきていた。

「お疲れコンスタス」

 手を差し出し、ハイタッチする。
 ただ、俺の方はかなり腰をかがめなくてはならなかった。

 頑張ってジャンプしてタッチする小人コンスタス、可愛すぎる。

 ああ、罪な男だ、コンスタスは。
 癒し系男子ショタといったところ。

「よぅーしっ! レッドも頑張ってくれよっ!」

 喜ぶ姿も可愛いのか。
 もうコンスタスは何をしても許されるな。

 小さいっていうのは最強の武器だ。俺の身長はヒューマンの男にしては低い方かもしれないけど、小人族コビットやさっきのシンエルフがいるようなこの世界では、高い方なのだ。

 悔しい。
 いっそのことシンエルフに生まれたかった。

 コンスタスの小さな手。
 かわよ。

「あのダークエルフはかなりの手練れだった。正直に言って、あれは結構運がよかったのさ。矢筒に手を伸ばした時、たまたま爆炎矢を握ったから」

「それも実力だと思っていいんじゃないか? 実力も運の内だし」

「そういう考え方もできなくもないが、やっぱりあの奇跡がなかったら負けていたと思うと、ギリギリの勝利ってところさ」

 手を頭の後ろで組み、口笛を吹きながら。
 笑顔で俺を見てくる。

 期待してるぞ、っていう感じの視線だ。

 そりゃあ、あんな名勝負見せられたら、誰だってやる気が出る。コンスタスに見せてやろう。レッドの実力とやらを。

「そういえばさ、オレの勝負で賭けとかした?」

「ギクッ」

「なんかあんたのとこ見たら、金貨のやり取りしてるみたいでさ」

 意外に鋭い奴だ。
 愛嬌のある姿をしておきながら……そういえば俺よりも年上だったな。可愛いと愛でている場合じゃない!

「実はカクカクシカジカで……」

 俺はラメセスとの賭けのことを正直に話した。
 コンスタスの勝利に俺が賭けたことと、ラメセスが敵の勝利に賭けたこと。特にそれを強調しておいた。

 俺は仲間を信じていたぞ、って感じで。
 まあ、それは真実なわけだけど。

「ムムムッ! あとでラメセスにはお説教しておく!」

 可愛い奇声を上げながら、勝者コンスタスは観客席に向かっていった。

 ラメセスよ、自業自得だぞ。

 それにしても、「お説教」って言い方が愛おしい。わざわざ「お」をつけるところとか。



 ***



 東側の門が開き、目の前に戦場フィールドが広がる。

 俺の目は遠くを見据えていた。
 反対側の門をくぐる、今回の対戦相手。

 ちなみに、俺はネタバレが好きじゃない。

 どんな小説でも映画でも、ネタバレされると一気に気分が下がる。というわけで、対戦相手の情報に関してはまったくのゼロだ。

 その方が盛り上がるし、より実践的だ。

 いきなり現れた敵に関して、さほど情報は持っていない。それが普通だから。

 戦う上で重要になってくるポイントとしては、相手の体格、武器の種類、戦い方。

 戦い方に関しては始まってみないとわからないけど、体格と武器は見ればすぐにわかる。
 そこから自分の勝利への方程式を立て始めればいい。
 
 そして、俺の反対側に立つ対戦相手。

 エルフの女だった。
 妖精エルフは美しい。他の種族を凌駕する美貌を兼ね備えている。

 ラメセスと同じく、彼女には神のような神聖さがあった。
 長い金髪に、同じく黄金色の瞳。

 お互いに前に出て、距離を縮める。
 
 彼女の武器は弓矢だった。
 一般的なエルフは弓矢を好む。剣聖であるラメセスが特別なだけだ。

 まだ勝ちを確信するのは早いかもしれない。傲慢なのかもしれない。
 でも、俺はこの勝負に自信があった。

 弓矢を使うエルフに関しては、ダスケンデール学院で何度も対策の訓練を重ねている。矢の払い方や、距離の詰め方、剣での対応の仕方。
 毎日繰り返してきたことを、今日この場所で発揮すればいい。

「こんにちは、レッド・モルドロスさん」

 エルフの女が口を開いた。妖麗な声だ。
 シャロットの穏やかな声とは違い、こっちはハキハキとしていて通った声。

 思っていたよりも友好的だ。

 いや、それだけ余裕があるということか。

「どうもレッドです」

「貴方が対戦相手だと知って驚きましたわ。ダスケンデール学院を首席で卒業した屈指の実力者。もうすでにあなたの名声は高く轟いておりますの」

「それはよかった」

わたくしはイザベラと申します。勇者パーティに所属しておりますの」

「へぇそうですか」

 俺は失礼だろうか?
 いや、これから戦う相手とこんな悠長に喋っていてもいいのか……その気持ちが大きい。

 一体これは何の時間ですか!?

 ご褒美?

「コンスタスが貴方のパーティーに入ったと聞きました。先ほどの戦いも見事なものでしたわ」

「コンスタスを知ってるのか?」

「ええ、よく存じております。一時期同じパーティの仲間でしたので」

「へぇ。あとでコンスタスに聞いてみようかな」

 俺がそう答えると、イザベラという女はクスッと笑った。

「何か?」

「いえ、面白いお方ですわね」

「え? 俺はまだ何も懇親のボケをかましてないんだけど」

「そういうところが面白いのです」

「はぁ」

「お互い手加減はなしです。よろしいですか?」

「知ってます」

 俺の語り口がツボに入ったのか知らないけど、彼女はずっと笑っている。

 なんかいいぞ。
 最近は頭のおかしな美人シャロットばかり見てきたから、この無垢でツボの浅い美人イザベラに興味が湧いてきた。

 それにしても、このエルフ、どこかで見たことがあるような気がする。
 物語に出てきたような、出てきていないような……。

「ていうか、そろそろ戦おうか。なんか観客からブーイングが起きそうだし」

「そうですわね。申し訳ございません」

「いえいえお気になさらず」

 俺の言葉に、またイザベラが笑った。
 女神の微笑みだなぁ。

 いいねぇ。

 と思っていたら、急にイザベラが攻撃の構えをする。
 切り替えが超早い系女子だった。

 俺も慌てて剣を抜き、構えを取る。

 イザベラはどこかで見たことあるような気がするんだけど、思い出せないから情報はない。一方、彼女はある程度俺の噂を知っているようだったので、なんらかの対策はしてくるはずだ。

 剣との交戦には慣れているだろう。

 コンスタスとシャープの戦いと同様に、弓矢であれば距離を取ることが重要だ。

 ただ、コンスタスの矢のように短くはないので、若干不利になるのか?

 武器でのアドバンテージは俺にある、ということなのかもしれない。

 コンスタスが何か叫んでいるような気がした。
 というか、本当に何か叫んでいる。

 でも、距離が距離なのでまったく聞き取れない。ただ応援しているわけではないと思うけど……いや、もしや賭けをしている!?
 彼は自分を信じてくれた俺に賭けているんだろう。きっと。多分。

 たとえ俺の対戦相手が元パーティ仲間メンバーだったとしても、現在の仲間には敵わないはず……だよな?

 この時の俺は呑気だった。

 コンスタスが必死で警告してくれていたことに、気づかなかったのだから。





《次回21話 仲間の元同僚に圧倒される》
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