上 下
23 / 38

第20話 妖精の美女と会話する

しおりを挟む
 東側の待合室には、勝利して絶好調のコンスタスが帰ってきていた。

「お疲れコンスタス」

 手を差し出し、ハイタッチする。
 ただ、俺の方はかなり腰をかがめなくてはならなかった。

 頑張ってジャンプしてタッチする小人コンスタス、可愛すぎる。

 ああ、罪な男だ、コンスタスは。
 癒し系男子ショタといったところ。

「よぅーしっ! レッドも頑張ってくれよっ!」

 喜ぶ姿も可愛いのか。
 もうコンスタスは何をしても許されるな。

 小さいっていうのは最強の武器だ。俺の身長はヒューマンの男にしては低い方かもしれないけど、小人族コビットやさっきのシンエルフがいるようなこの世界では、高い方なのだ。

 悔しい。
 いっそのことシンエルフに生まれたかった。

 コンスタスの小さな手。
 かわよ。

「あのダークエルフはかなりの手練れだった。正直に言って、あれは結構運がよかったのさ。矢筒に手を伸ばした時、たまたま爆炎矢を握ったから」

「それも実力だと思っていいんじゃないか? 実力も運の内だし」

「そういう考え方もできなくもないが、やっぱりあの奇跡がなかったら負けていたと思うと、ギリギリの勝利ってところさ」

 手を頭の後ろで組み、口笛を吹きながら。
 笑顔で俺を見てくる。

 期待してるぞ、っていう感じの視線だ。

 そりゃあ、あんな名勝負見せられたら、誰だってやる気が出る。コンスタスに見せてやろう。レッドの実力とやらを。

「そういえばさ、オレの勝負で賭けとかした?」

「ギクッ」

「なんかあんたのとこ見たら、金貨のやり取りしてるみたいでさ」

 意外に鋭い奴だ。
 愛嬌のある姿をしておきながら……そういえば俺よりも年上だったな。可愛いと愛でている場合じゃない!

「実はカクカクシカジカで……」

 俺はラメセスとの賭けのことを正直に話した。
 コンスタスの勝利に俺が賭けたことと、ラメセスが敵の勝利に賭けたこと。特にそれを強調しておいた。

 俺は仲間を信じていたぞ、って感じで。
 まあ、それは真実なわけだけど。

「ムムムッ! あとでラメセスにはお説教しておく!」

 可愛い奇声を上げながら、勝者コンスタスは観客席に向かっていった。

 ラメセスよ、自業自得だぞ。

 それにしても、「お説教」って言い方が愛おしい。わざわざ「お」をつけるところとか。



 ***



 東側の門が開き、目の前に戦場フィールドが広がる。

 俺の目は遠くを見据えていた。
 反対側の門をくぐる、今回の対戦相手。

 ちなみに、俺はネタバレが好きじゃない。

 どんな小説でも映画でも、ネタバレされると一気に気分が下がる。というわけで、対戦相手の情報に関してはまったくのゼロだ。

 その方が盛り上がるし、より実践的だ。

 いきなり現れた敵に関して、さほど情報は持っていない。それが普通だから。

 戦う上で重要になってくるポイントとしては、相手の体格、武器の種類、戦い方。

 戦い方に関しては始まってみないとわからないけど、体格と武器は見ればすぐにわかる。
 そこから自分の勝利への方程式を立て始めればいい。
 
 そして、俺の反対側に立つ対戦相手。

 エルフの女だった。
 妖精エルフは美しい。他の種族を凌駕する美貌を兼ね備えている。

 ラメセスと同じく、彼女には神のような神聖さがあった。
 長い金髪に、同じく黄金色の瞳。

 お互いに前に出て、距離を縮める。
 
 彼女の武器は弓矢だった。
 一般的なエルフは弓矢を好む。剣聖であるラメセスが特別なだけだ。

 まだ勝ちを確信するのは早いかもしれない。傲慢なのかもしれない。
 でも、俺はこの勝負に自信があった。

 弓矢を使うエルフに関しては、ダスケンデール学院で何度も対策の訓練を重ねている。矢の払い方や、距離の詰め方、剣での対応の仕方。
 毎日繰り返してきたことを、今日この場所で発揮すればいい。

「こんにちは、レッド・モルドロスさん」

 エルフの女が口を開いた。妖麗な声だ。
 シャロットの穏やかな声とは違い、こっちはハキハキとしていて通った声。

 思っていたよりも友好的だ。

 いや、それだけ余裕があるということか。

「どうもレッドです」

「貴方が対戦相手だと知って驚きましたわ。ダスケンデール学院を首席で卒業した屈指の実力者。もうすでにあなたの名声は高く轟いておりますの」

「それはよかった」

わたくしはイザベラと申します。勇者パーティに所属しておりますの」

「へぇそうですか」

 俺は失礼だろうか?
 いや、これから戦う相手とこんな悠長に喋っていてもいいのか……その気持ちが大きい。

 一体これは何の時間ですか!?

 ご褒美?

「コンスタスが貴方のパーティーに入ったと聞きました。先ほどの戦いも見事なものでしたわ」

「コンスタスを知ってるのか?」

「ええ、よく存じております。一時期同じパーティの仲間でしたので」

「へぇ。あとでコンスタスに聞いてみようかな」

 俺がそう答えると、イザベラという女はクスッと笑った。

「何か?」

「いえ、面白いお方ですわね」

「え? 俺はまだ何も懇親のボケをかましてないんだけど」

「そういうところが面白いのです」

「はぁ」

「お互い手加減はなしです。よろしいですか?」

「知ってます」

 俺の語り口がツボに入ったのか知らないけど、彼女はずっと笑っている。

 なんかいいぞ。
 最近は頭のおかしな美人シャロットばかり見てきたから、この無垢でツボの浅い美人イザベラに興味が湧いてきた。

 それにしても、このエルフ、どこかで見たことがあるような気がする。
 物語に出てきたような、出てきていないような……。

「ていうか、そろそろ戦おうか。なんか観客からブーイングが起きそうだし」

「そうですわね。申し訳ございません」

「いえいえお気になさらず」

 俺の言葉に、またイザベラが笑った。
 女神の微笑みだなぁ。

 いいねぇ。

 と思っていたら、急にイザベラが攻撃の構えをする。
 切り替えが超早い系女子だった。

 俺も慌てて剣を抜き、構えを取る。

 イザベラはどこかで見たことあるような気がするんだけど、思い出せないから情報はない。一方、彼女はある程度俺の噂を知っているようだったので、なんらかの対策はしてくるはずだ。

 剣との交戦には慣れているだろう。

 コンスタスとシャープの戦いと同様に、弓矢であれば距離を取ることが重要だ。

 ただ、コンスタスの矢のように短くはないので、若干不利になるのか?

 武器でのアドバンテージは俺にある、ということなのかもしれない。

 コンスタスが何か叫んでいるような気がした。
 というか、本当に何か叫んでいる。

 でも、距離が距離なのでまったく聞き取れない。ただ応援しているわけではないと思うけど……いや、もしや賭けをしている!?
 彼は自分を信じてくれた俺に賭けているんだろう。きっと。多分。

 たとえ俺の対戦相手が元パーティ仲間メンバーだったとしても、現在の仲間には敵わないはず……だよな?

 この時の俺は呑気だった。

 コンスタスが必死で警告してくれていたことに、気づかなかったのだから。





《次回21話 仲間の元同僚に圧倒される》
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

痩せる為に不人気のゴブリン狩りを始めたら人生が変わりすぎた件~痩せたらお金もハーレムも色々手に入りました~

ぐうのすけ
ファンタジー
主人公(太田太志)は高校デビューと同時に体重130キロに到達した。 食事制限とハザマ(ダンジョン)ダイエットを勧めれるが、太志は食事制限を後回しにし、ハザマダイエットを開始する。 最初は甘えていた大志だったが、人とのかかわりによって徐々に考えや行動を変えていく。 それによりスキルや人間関係が変化していき、ヒロインとの関係も変わっていくのだった。 ※最初は成長メインで描かれますが、徐々にヒロインの展開が多めになっていく……予定です。 カクヨムで先行投稿中!

【完結】勇者パーティーの裏切り者

エース皇命
ファンタジー
「この勇者パーティーの中に裏切り者がいる」  Sランク勇者パーティーの新人オーウェン=ダルクは、この神託の予言が示す『裏切り者』が自分のことだと思っていた。    並々ならぬ目的を持ち、着実に実力をつけていくオーウェン。    しかし、勇者パーティーのリーダー、ウィル=ストライカーから裏切り者が別にいることを知らされる。  容疑者はオーウェンを除いて6人。  リーダーのウィルに、狼の獣人ロルフ、絶世の美女ヴィーナス、双子のアルとハル、そして犬の獣人クロエ。  一体誰が勇者パーティーの裏切り者なのか!?  そして、主人公オーウェンの抱える狂気に満ちた野望とは!?  エース皇命が贈る、異世界ファンタジーコメディー、開幕! ※小説家になろう、エブリスタでも投稿しています。 【勇者パーティーの裏切り者は、どうやら「俺」じゃないらしい】

伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります

竹桜
ファンタジー
 武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。  転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。  

異世界をスキルブックと共に生きていく

大森 万丈
ファンタジー
神様に頼まれてユニークスキル「スキルブック」と「神の幸運」を持ち異世界に転移したのだが転移した先は海辺だった。見渡しても海と森しかない。「最初からサバイバルなんて難易度高すぎだろ・・今着てる服以外何も持ってないし絶対幸運働いてないよこれ、これからどうしよう・・・」これは地球で平凡に暮らしていた佐藤 健吾が死後神様の依頼により異世界に転生し神より授かったユニークスキル「スキルブック」を駆使し、仲間を増やしながら気ままに異世界で暮らしていく話です。神様に貰った幸運は相変わらず仕事をしません。のんびり書いていきます。読んで頂けると幸いです。

称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~

しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」 病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?! 女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。 そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!? そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?! しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。 異世界転生の王道を行く最強無双劇!!! ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!! 小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

せっかく異世界に転生できたんだから、急いで生きる必要なんてないよね?ー明日も俺はスローなライフを謳歌したいー

ジミー凌我
ファンタジー
 日夜仕事に追われ続ける日常を毎日毎日繰り返していた。  仕事仕事の毎日、明日も明後日も仕事を積みたくないと生き急いでいた。  そんな俺はいつしか過労で倒れてしまった。  そのまま死んだ俺は、異世界に転生していた。  忙しすぎてうわさでしか聞いたことがないが、これが異世界転生というものなのだろう。  生き急いで死んでしまったんだ。俺はこの世界ではゆっくりと生きていきたいと思った。  ただ、この世界にはモンスターも魔王もいるみたい。 この世界で最初に出会ったクレハという女の子は、細かいことは気にしない自由奔放な可愛らしい子で、俺を助けてくれた。 冒険者としてゆったり生計を立てていこうと思ったら、以外と儲かる仕事だったからこれは楽な人生が始まると思った矢先。 なぜか2日目にして魔王軍の侵略に遭遇し…。

処理中です...