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第19話 小人とダークエルフの戦いに決着がつく

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 てっきりコンスタスは危機だとばかり思っていた。
 
 接近戦に持ち込まれ、正確な槍で次々と攻撃を無効化されて。
 それで平常心でいられるようなメンタルの強い男は、俺ぐらいしかいない。

 でも──。

「サイッコーだぁぁぁああああああ!」

 フィールドから叫び声が。

 どうしたことか。
 なんとコンスタスが歓喜の雄叫びを上げたのだった。

「あの人、何してるんですか?」

 シケたような表情で耳打ちしてくるシャロット。

 俺からしても、いや、どんな観客からしても、さっきのコンスタスの行動は意味不明で、不可解だ。追い詰められて頭がおかしくなったか!?

「喜んでるみたいだね」

「え?」

「戦いを楽しんでる。僕が見る限り、コンスタスは相当強い。もしかすると、僕だって負けてしまうかもしれない。そんな実力を持つ彼が、自分を追い詰めてくる好敵手ライバルに出会えたんだ」

 ラメセスは自分のことを語るかのように、流暢に話し出した。

 どこか羨ましそうに。
 早く戦いたい、とでも言うようにウズウズした様子で。

「君達にもわかるはずだよ。高いハードルに遭遇した時の高揚感が。地下迷宮ダンジョンだって、手応えのある相手モンスターを探しに行くわけだからね」

 こうして話している間にも、コンスタスは積極的に戦い続けている。

 驚いたのは、接近戦になっても怯んですらいないということだ。
 本人の中で苦手意識なんてものはないように感じる。
 あの慣れた動きは、何度も何度も練習を繰り返し、自分のものにした熟練者の動きだった。

 弱点をカバーする。

 それは難しい。
 どれだけ練習してもなかなか伸びない。だって弱点だもの。

 でも、努力すれば必ず積み重なる。どんなに小さなものでも、それを積み上げていくことで、大きな高い山になるんだ。
 この世界が膨大な時間をかけてできたように、努力の成果も時間をかけて現れる。

 『英雄物語ロード・オブ・ザ・ヒーロー』本編の中に、コンスタスの努力シーンはない。

 元から天才肌だということは描写されていた。
 とはいえ、ただ天才なだけではあそこまで強くはなれない。

 俺も努力してきたからわかるようになった。

 平和な日本という国に生を受け、それなりに勉強し、それなりに仕事し……そんな人生に後悔はない。

 でも、この異世界に来て、俺はその何倍も成長できたような気がする。
 それは必死に努力をしたからだ。
 
 他の誰もがやりたがらないような、過酷な訓練も、退屈だけど重要な授業も、スキマ時間に行う自主トレも。

 全て自分の強い意志で、新しい自分を見つけるために率先してやっていた。

 そしてその努力で、実力と友人が手に入った。
 友人の方はかなりの曲者くせもの揃いだけど。

「僕だって同じ気持ちだよ」

 ラメセスが言う。

「レッドは僕にない、また別の強さを持っていた。努力で積み上げてきた強さがぶつかり合う時、ああ、これが生きてるってことなんだ、って、そう感じたよ」

「ラメセス……」

「でも、金貨3枚を守るためにも、ここはコンスタスに負けてもらわないとね」

「台無しだよまったく……」

 せっかく感動的なシーンが来たかと思ったのに、それを見事にぶち壊してくるのがラメセスという男だ。

 わざとやってるのかな?
 いや、もしかして天然?

 これがもし天然であれば、ラメセスの人気はさらに高まるだろう。天然のラメセス様素敵~、って言う女子高生がたくさんいそう。偏見だけど。

「でも、この状況だと、もうコンスタスの勝ちは決まったようなものだね」

「!」

 フィールドで繰り広げられるハイレベルな戦い。

 その決着をつけたのは1本の矢。

 コンスタスは闇の魔術の影響で一時的に視界を奪われていた。
 煙矢を放った仕返しともいえるのかもしれない。

 黒い霧に包まれ、闘技場全体の雰囲気も暗くなる。
 闇の魔術はこれだから嫌いだ。術が使われると気分がだだ下がりする。メンタルが鋼の俺じゃなかったら、きっと人生がいきなり辛くなって即うつ病になるレベルだ。

「レッドくんは私のこと、女性として意識してくれていないんでしょうか……」

 その証拠に、いつもポジティブで狂っているシャロットがしょぼんとしている。
 
 瞳は潤っていて、もう今にも泣き出してしまいそうだ。
 頼むからこのタイミングで泣き出すのはやめてくれ。

 俺はフィールドの大勝負に集中しているんだっ!

「ずっと胸を当て続けているのに、レッドくん、何の動揺もしてくれません……シクシク……」

「動揺してるよ!」

「そうですか?」

「胸はドキドキしっぱなしだ」

 嘘だけど。

 本当に驚くことに、まったくドキドキしなくなった。
 シャロットは完全に友達認定してしまっているので、体もそれに適応してしまったのか? それとも、ただシャロットがヤバい系女子だとわかって、体が萎縮してしまった?

 とりあえず今は彼女に黙っていて欲しい。
 その代わり、あとでたくさん構ってあげることにしよう。

「好きですレッドくん。付き合ってください」

「そういうのは後にしてくれ!」

「ていうことは、後でオッケーしてくれるってことですか?」

「そうは言ってない!」

 俺はシャロットを黙らせるために、口でドキドキと呟き続けた。
 傍から見たら俺も単なるアホでしかない。

 でも、これが抜群の効果を発揮するのだ。

「ドキドキしてくれてるみたいでよかったです」

 一件落着。

 よし、コンスタスの勝利を見届けよう。

 暗闇の中、彼はとっさに矢を放った。
 今まで放っていた矢は確実にシャープに当たる軌道だったのに、今回は違う。

 どこを狙ってんだ、っていう感じの、完全な不発。

 多分、コンスタスの人生で初めてだろう。的を完全に外すのは。

 闇の魔術の霧に邪魔されていた、というのは仕方ないことだと思うけど。

「いや、もしかして──」

 俺は思わず客席から身を乗り出した。
 コンスタスが的を外す?

 あり得ない。

 あの矢は必中だ。

「──爆炎矢」

 黒い霧の中からひとりの小人族コビットが飛び出す。
 それはもう高く跳躍した。

 霧の射程から逃れ、空中で2回転して優雅に着地する。体操選手並みの美しさだった。

 対戦相手のシャープはまさかの大爆発に大慌て。
 自分の得意な戦況に持ち込んで、すっかり油断していたに違いない。その油断が勝敗を分けた。

 爆炎矢は自分も被爆するかもしれないというリスクを伴うので、物語でコンスタスが使うことは数回しかなかった。
 
 今回はフィールドに自分の仲間がいなかった、ということが大きな理由だろう。仲間を巻き込むことなく、爆発させられる。自分はその高い身体能力ですぐに反応すればいいだけの話だ。

 それはもう、観客からは称賛の嵐!

 これでコンスタスの評判もバク上がりといったところだな。

 俺はほっと一息ついて、静かに金貨3枚を回収した。
 賭けは約束だからな。
 しっかりもらっておかないと。

 そして、深く呼吸をし、フィールドを見下ろす。

 次は俺の出番だ。

 コンスタスに負けてられない。

 この闘技場イベントは、俺が今後ダスケンデールで生きていく上で重要な役割を持っているだろう。
 自分の立ち位置、実力がわかる。

 そして勝てば、実力者としての評判が得られる。

「レッド、頑張りたまえよ」

 敵に賭けて負けた男が、なんだか偉そうに言ってきた。

「はいはい、勝ってくるよ」

 俺は胸を当ててきていたシャロットを振り払い、戦場へと下りていった。





《次回20話 妖精の美女と会話する》
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