上 下
18 / 38

第16話 まさかの主人公に遭遇する

しおりを挟む
「僕も遂に、闘技大会トーナメントに出られる……!」

 しみじみとした感動。
 ラメセスはまさにそれを感じていた。

 なんだか嬉しそうだったので、「勝手に俺を巻き込むなよ」なんてことは言えない雰囲気だ。

「なんかさ、他の連中も結構手強いって話だったけど、それはどうするのさ?」

 コンスタスは呑気に欠伸あくびをして余裕そうだ。
 彼も彼で、大会に参加することを楽しみにしている。

 この闘技場での戦いにおいて、弓矢使いアーチャーは比較的不利である。
 それなりにフィールドは広さがあるけど、剣使いが距離を縮めようと思えば、高速移動してすぐに矢を回避できる。

 離れた位置から狙おうと思っても、相手がその距離を詰めてくれば元も子もない。

 何か勝算があるのか、それとも普通に「試合に出ること」を楽しむタイプの人間なのか。
 ある程度コンスタスを知る者として、多分後者の方だと思った。

「レッドくん、もし私が今回の闘技大会トーナメントで準々決勝まで進んだら、結婚してください」

「いや随分と弱気みたいだけど。せめてそれは優勝だろ」

「レッドくんは私と結婚したくないんですか?」

 シャロットがうるうるした青い瞳で見つめてくる。
 
 あー面倒くさい。
 
「結婚したくない」

 なるべく冷たくならないように言い放った。
 
「悲しいです……シクシク……」

「嘘泣きだろ」

「もう、レッドくんったら。エッチですね」

 何がしたいのかわからない。
 それが、メインヒロインである彼女シャロットの言動。

「嘘泣きを指摘することのどこにエロさがあるのやら」

「全てですよ。レッドくんという存在自体がエロいので、何を言ってもレッドくんはエロいんです」

「はいはいそうすか」

「その適当に流した感じの言葉も、凄く色っぽくて素敵です」

 彼女の感性はどうかしてると、改めて思った。



 ***



 ダスケンデール闘技場はこの街ダスケンデールで最大の闘技場だ。
 
 東京ドーム何個分とかよく説明に使うけど、そもそも東京ドームがどれくらいの大きさなのか知らないので、表現のしようがない。

 とはいえ、多分そんじょそこらのドーム以上はあるだろう。
 客席には街中の人々が座り、テレビもなければゲームもない、娯楽の少ないこの世界での数少ないエンターテインメントを楽しむ準備をしている。

「エントリー申請は終わりましたか?」

 そっけない態度で、シャロットがラメセスに聞いた。

「勿論。このパーティーの全員分、申請しておいたよ」

 グーサインを出し、軽く頷くラメセス。
 活気が溢れている。
 ハンサムな顔立ちに欠かせない白い歯が、太陽の光を反射して輝いた。

『ラメセス様だ』

『見ろ。今年は剣聖も出るらしいぞ』

『俺達に勝ち目なんてないじゃねーかよ』

『おいおい、あのセブルス・ゴードンも来てるらしいぜ』

『やべぇな。おれはセブルスそっちに賭けるわ』

 エルフの剣聖を見るなり、周囲の一般市民がヒソヒソ話し出す。
 
 こういう光景はギルドの時とさほど変わらない。
 ただ、気になったのは──。

 ──セブルス・ゴードン。

 この名前には聞き覚えがある。

 しっかり『英雄物語ロード・オブ・ザ・ヒーロー』で登場する主要人物メインキャラクターだからだ。
 その役柄は悪役。

 というのも、彼は悪役レッド・モルドロスのワルなパーティーに所属する嫌な奴第2号だった。

 でも、ここでおかしな矛盾みたいなものが生じる。

 奴の所属するパーティーの責任者リーダー、レッド・モルドロスは俺だ。
 でもこの場合、悪役であるレッドは彼のリーダーではない。

 じゃあ、どんなパーティーに入ってるんだ?

 少し気になる。
 あとでこっそり確認してみよう。少しはいい奴になってるといいけど。

「トーナメント表によると、この中ではコンスタスが最初に出番があるみたいだ」

 ラメセスが口を開いた。

「よぅーし! やってやるぞ!」

 小さな拳を握り締め、気合を入れる小人コンスタス
 
 矢筒に入っている様々な種類の矢を最終確認した後、すぐに下の待合室みたいなところに向かった。
 
 もう別の戦士の戦いは始まっている。
 俺達が出場するのは、勿論武器を使った1対1のトーナメント戦だ。

 勝てば次の対戦相手と戦うことができる。

 そして負ければ、その時点で終了だ。

 俺はシードという、いいのか悪いのかよくわからないものに当たってしまった。
 多分それなりに実力はある方だと自負しているので、初戦敗退はないだろう。でも油断はできない。

 初戦がラメセスに敵うほどの実力者だったら、苦戦は間違いなしだ。

「レッドくん、結婚の約束、忘れないでくださいね」

 そう言って、シャロットが俺の腕に抱きついてきた。
 残念。
 もう慣れた。

 すっかり無の境地に達している。賢者になったような気分だ。

 今の俺なら、この闘技大会トーナメントで優勝できるかもしれない。

「レッドくん、もしあなたが優勝しても、私と結婚してくださいね」

 決めた。

 絶対に優勝しないように頑張ろう。

 目指すは準優勝。
 そしてできれば、ラメセスには優勝して欲しい。

『貴様がレッド・モルドロスか?』

 待合室のコンスタスを除いた俺達3人の席に、4人のパーティと思われる男女が近づいてきた。

 その中のひとりが、俺を死んだ魚のような暗い目で見つめ、そう聞いた。
 
 超不気味。
 そういうのはやめて欲しい。せめて笑顔で話し掛けてきて欲しかった。

「君はもしかして──」

 ラメセスが何か言いかける。

「貴様はエルフの剣聖。噂は聞いている。その姿だけ見れば、さほど強くもなさそうだ」

 その男は長身で、痩せ細っていた。
 長いローブを纏っていることから、魔術師だと思われる。種族は多分ヒューマン。正直アンデットだと言ってやりたいぐらいに醜い顔ではあるけど。

 細い糸目は紫色で、どこからどう見ても闇の魔法使いでーすって感じだ。

「セブルス、やめろ」

 エルフの剣聖に向かって偉そうにしているローブの男を、隣の男が止める。

 ボサボサの黒髪に、緑色エメラルドグリーンの瞳。
 背丈はヒューマンの男にしては小柄で、だいたい160と数センチくらいってところだろう。

 愛嬌のある顔立ちをしているけれど、外見だけ見ると、そこまでかっこいいとは思わない。

 でも、彼には魅力があった。
 どこまでも勇敢で、優しく、まっすぐという魅力が……あったはずだ……。

「俺様の連れが生意気で悪い」

 彼はそう言うと、セブルスと呼ばれた男の腹を力強く殴った。

「──ッ!」

 あまりの痛さに呻くセブルス。
 気づけば吐血しいていた。

 俺達3人は黙って見ていることしかできなかった。俺はショックが大きすぎて、何も言えない状態に陥っている。

 吐血を見たから、という理由ではない。
 
 殴った「俺様」の男の正体を知っているからだ。
 そして、俺の中でのそいつは、今目の前にいるような輝きを失った青年ではない。どんな苦境に立たされても、諦めずに走り続けるような青年だ。

 主人公ヒーローが、どうしてこんな姿に……。

 アーサーが連れている3人のことも知っていた。
 それはそう、物語ではレッド・モルドロスのパーティー仲間メンバーだったからだ。

 実力派黒魔術師のセブルス・ゴードン。

 ヒューマンひと殺しのダークエルフ、シャープ・アロケル。

 堕落の淫魔サキュバス、エロナ・スフィロン。

 この3人は極悪非道の人間だ。
 問題行動ばかり起こす、まさに黒の生物達。この中で見れば、物語でのレッドが凄くまともな悪役に見える。それくらいヤバいパーティだったのだ。

「おい、レッド・モルドロス。お前がもし順調に勝ち進めば、準決勝でこのセブルスと当たる。覚悟しとけよ」

 はぁ。

 表には出さないよう、変な問題を起こさないよう、心の中で溜め息を漏らす。
 大好きだったアーサー君は、グレてしまいました。

 どうすればいいのでしょうか?

 ゴミを見るような目で俺を睨んだ後、アーサー達は態度悪めでどこかに消えた。
 
 ポップコーンでも買いに行ったことを願おう。

「さっきの人とは知り合いですか?」

 シャロットが沈黙を破る。

「覚えてないのか? 学院で俺達と同級生だった、アーサー・バトウィックだ」

 俺は声が裏返りそうになるのをこらえながら、静かにそう答えた。





《次回17話 シンエルフの戦いを観戦する》
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

NTRエロゲの世界に転移した俺、ヒロインの好感度は限界突破。レベルアップ出来ない俺はスキルを取得して無双する。~お前らNTRを狙いすぎだろ~

ぐうのすけ
ファンタジー
高校生で18才の【黒野 速人】はクラス転移で異世界に召喚される。 城に召喚され、ステータス確認で他の者はレア固有スキルを持つ中、速人の固有スキルは呪い扱いされ城を追い出された。 速人は気づく。 この世界、俺がやっていたエロゲ、プリンセストラップダンジョン学園・NTRと同じ世界だ! この世界の攻略法を俺は知っている! そして自分のステータスを見て気づく。 そうか、俺の固有スキルは大器晩成型の強スキルだ! こうして速人は徐々に頭角を現し、ハーレムと大きな地位を築いていく。 一方速人を追放したクラスメートの勇者源氏朝陽はゲームの仕様を知らず、徐々に成長が止まり、落ちぶれていく。 そしてクラス1の美人【姫野 姫】にも逃げられ更に追い込まれる。 順調に強くなっていく中速人は気づく。 俺達が転移した事でゲームの歴史が変わっていく。 更にゲームオーバーを回避するためにヒロインを助けた事でヒロインの好感度が限界突破していく。 強くなり、ヒロインを救いつつ成り上がっていくお話。 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』 カクヨムとアルファポリス同時掲載。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

ゲーム序盤で死ぬモブ炎使いに転生したので、主人公に先回りしてイベントをクリアしたらヒロインが俺について来た

ぐうのすけ
ファンタジー
カクヨムで日間・週間・月間総合1位獲得!ありがとうございます。 社畜として働き、いつものように寝て起きると、俺はゲーム『ブレイブクエストファンタジー』とよく似た世界のモブ『ゲット』に転生していた。俺は物語序盤で盗賊に襲われて死ぬ運命だ。しかも主人公のダストは俺を手下のようにこき使う。 「主人公にこき使われるのはもうごめんだ!死ぬのもごめんだ!俺がゲームのストーリーを覆してやる!」 幼いころから努力を続けていると、ゲームヒロインが俺に好意を寄せている? いや、気のせいだ。俺はしょせんモブ! 今は死亡フラグを解決する!そして次のステップに進む! 一方、同じく転生したダストは主人公キャラを利用して成り上がろうとするが、ダンジョンのお宝はすでに無く、仲間にするはずの美人キャラには見限られ、努力を嫌ったことでどんどん衰退していく。

深刻な女神パワー不足によりチートスキルを貰えず転移した俺だが、そのおかげで敵からマークされなかった

ぐうのすけ
ファンタジー
日本の社会人として暮らす|大倉潤《おおくらじゅん》は女神に英雄【ジュン】として18才に若返り異世界に召喚される。 ジュンがチートスキルを持たず、他の転移者はチートスキルを保持している為、転移してすぐにジュンはパーティーを追放された。 ジュンは最弱ジョブの投資家でロクなスキルが無いと絶望するが【経験値投資】スキルは規格外の力を持っていた。 この力でレベルを上げつつ助けたみんなに感謝され、更に超絶美少女が俺の眷属になっていく。 一方俺を追放した勇者パーティーは横暴な態度で味方に嫌われ、素行の悪さから幸運値が下がり、敵にマークされる事で衰退していく。 女神から英雄の役目は世界を救う事で、どんな手を使っても構わないし人格は問わないと聞くが、ジュンは気づく。 あのゆるふわ女神の世界管理に問題があるんじゃね? あの女神の完璧な美貌と笑顔に騙されていたが、あいつの性格はゆるふわJKだ! あいつの管理を変えないと世界が滅びる! ゲームのように普通の動きをしたら駄目だ! ジュンは世界を救う為【深刻な女神力不足】の改善を進める。 念のためR15にしてます。 カクヨムにも先行投稿中

痩せる為に不人気のゴブリン狩りを始めたら人生が変わりすぎた件~痩せたらお金もハーレムも色々手に入りました~

ぐうのすけ
ファンタジー
主人公(太田太志)は高校デビューと同時に体重130キロに到達した。 食事制限とハザマ(ダンジョン)ダイエットを勧めれるが、太志は食事制限を後回しにし、ハザマダイエットを開始する。 最初は甘えていた大志だったが、人とのかかわりによって徐々に考えや行動を変えていく。 それによりスキルや人間関係が変化していき、ヒロインとの関係も変わっていくのだった。 ※最初は成長メインで描かれますが、徐々にヒロインの展開が多めになっていく……予定です。 カクヨムで先行投稿中!

伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります

竹桜
ファンタジー
 武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。  転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。  

貧乏男爵家の四男に転生したが、奴隷として売られてしまった

竹桜
ファンタジー
 林業に従事していた主人公は倒木に押し潰されて死んでしまった。  死んだ筈の主人公は異世界に転生したのだ。  貧乏男爵四男に。  転生したのは良いが、奴隷商に売れてしまう。  そんな主人公は何気ない斧を持ち、異世界を生き抜く。

伯爵家の次男に転生しましたが、10歳で当主になってしまいました

竹桜
ファンタジー
 自動運転の試験車両に轢かれて、死んでしまった主人公は異世界のランガン伯爵家の次男に転生した。  転生後の生活は順調そのものだった。  だが、プライドだけ高い兄が愚かな行為をしてしまった。  その結果、主人公の両親は当主の座を追われ、主人公が10歳で当主になってしまった。  これは10歳で当主になってしまった者の物語だ。

処理中です...