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断章2 孤独の美少女

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 朝、シャロットを目を覚ました。

 昨夜のことはまったく記憶にない。
 予想が正しければ、愛するレッドは隣で寝ているはずなのだが……。

(いませんっ!)

 慌ててシャロットは記憶を呼び起こす。

(レッドくんにいきなり抱きつかれて……それでその後……)

 顔が真っ青になった。
 人生で1番と言っていいほどに楽しみにしていた。それだけに、昨夜の失敗は大きい。

 レッドとこの時機タイミングで既成事実を作っておけば、今後の結婚に自然な流れで繋がるからだ。

 彼女はレッドが努力家で誠実であることを知っていた。
 だからこそ、既成事実ができてしまえば、彼はその責任を取ろうと考えるはずだ、と。

(肝心なレッドくんはどこへ?)

 周囲を見渡すも、どうやら彼はこの部屋にはいないようだった。

 ならば、外に出ている。
 もう朝食でも食べているのかもしれない。

(昨日は失敗でも、また今日成功させればいいだけのことです)

 再び意気込み、シャロットは部屋を出た。



 ***



 シャロットがこうまでしてレッドに執着する理由は学院時代にあった。

 彼女は貴族の娘で身分が高く、それでいて美貌を持っていたため、女子生徒からは恨まれ、男子生徒からは下心丸出しの視線を受けていた。

 何人か女子の友人がいたが、自分が素を出していられるような相手などいなかった。

(それに、男の子はみんな変なことばかり考えていますし……)

 幼いながらも、そう考えるようになったシャロット。
 男子が皆変なことばかり考えている、というのは彼女の偏見に過ぎないが、事実、彼女はそういう・・・・視線ばかり浴び続けてきたのだから仕方ない。

 それ故に、彼女は次第に学院内で孤立し、ひとりで過ごすようになった。

 昼休みや放課後は図書館に赴き、ひとりで読書をする。
 昼食も当然ながらボッチだ。

 寂しいとは思わなかったが、誰かと一緒に食べる他の生徒達を見て、なんとも言えないような気持ちになったりもした。

 そんな時、彼女の心を救った、ひとりの学生がいた。

「今日も図書館でお勉強ですか、レッドくん」

 そう声を掛ける。
 
 ずっと彼を見ていた。
 図書館に誰よりも早く来て、必死に勉強している姿を。

 レッドとクラスは違うものの、たまに授業で一緒になる時には、いつも真剣に、先生の話を食い入るように聞いていた。

 彼も自分シャロットと同じく、ひとりだった。
 しかし、シャロットが孤独であったのに対し、レッドは孤高であった。

 友人など作らず、目の前のことに集中している。どんな瞬間も一生懸命で、応援したくなった。そして実際、その努力が成果を上げ、他の生徒よりも遥かにできるのだ。

 シャロットは彼のことをとことん調べた。
 
 こっそり後をつけ、放課後に何をしているのか、寮の部屋はどこか、名前は何というのか、周囲の評判はどうか。

 彼は昼休みは丸々図書館で過ごし、放課後は1時間ほど図書館で勉強した後、闘技場に自主練をしに行っている。
 練習が終わると、すぐに武器の手入れを行い、闘技場の掃除まで徹底してやっていた。

 シャロットは次第に、彼に憧れるようになった。

 しかし、それも次第に大きくなっていき、気づけば初めての恋心への変貌を遂げていたのだ。
 授業の時も寝る時も、食事の時も、1日中レッドのことを考えていた。

 そして、遂に声を掛けるまでに至ったのだ。
 その道のりは長かった。
 何度も声を掛けようと意気込み、緊張しすぎて失敗。

 変な顔になっていて、彼に嫌われないか。緊張の汗で気持ち悪いと思われないか。いきなり名前で呼びかけてキモい奴だと認定されないか。

「え、あ、どうも」

 レッドの反応は当然のものだった。

 突然話し掛けられたことに加え、名前まで知られていたのだから。
 彼はシャロットの名前を知らないというのに。

 話し掛ける、という最初の瞬間は戸惑ったものの、一度声を掛けてみれば完全に吹っ切れた。これも彼女の性格なのかもしれない。

 最初さえ乗り越えれば、後は驚くほどすぐに適応できるのだ。

 そうして、シャロットはとうとう憧憬レッドと関わりを持つことができた。
 どれも積極的だったのはシャロットだったものの、一緒に勉強したり、自主練したり、寮の部屋でお茶したり……もうそれは親友という関係にまで発展したのだ。

(もう、我慢できません……そろそろこの想いきもちを伝えないと)

 そして──。

「レッドくん……大好きです! 私と付き合ってくださいっ!」

 この勇気を振り絞った告白の結果は、ご存知の通りである。





《次回15話 闘技大会に出ることになる》
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